それはそうと再び三部構成に変更。
山場だからか文章量が多くなる多くなる。ついでに言えばかなりの難産でもある。
※ユーノくんとクロノくんの強化案が確定しました。
作品冒頭の旧話は別所に移動予定。
闇の書の……否、“夜天の書”の
表に出ている人格は、いわば『第二の人格』と言うべき存在。
暗い現実から目を背け、それでも尚、己の罪から逃れられないでいる本来の人格が無意識に生み出した『裏の人格』と、夜天の書内部に存在する改悪箇所の過負荷と反発により生まれたバグ構成体『ナハトヴァール』とが合わさった人格。嬉しくもない『最悪の奇跡』と言えるだろう。
しかし、そのバグ混じりな第二の人格さえも守護騎士たちの消失により、感情に作用した魔力がオーバーロードを引き起こし、ただでさえ意固地で頑固に開き直った状態から『完全な暴走状態』となり――人を襲う。
禍々しく紅い双眸を輝かせ、暴走態が雄叫びを上げる。存在しうる限りの負の感情を吐き出すかのような雄叫び……いや、これはもはや絶叫と言うべきなのかもしれない。
そんな暴走態の声に、三人の中でも人一倍心に機敏であるなのはが泣きそうなほどに顔を歪ませるが、気を引き締めなおす。悲しむよりも、今は彼女を止めるべきだから。
「■■■■■■――ッッ!!」
「ッ! ――チィッ!」
壊し、
どす黒い“負”の感情が激情と悲愴を巻き込み、途方もないプレッシャーとなって聖刃に襲い掛かる。
体全体を回し、遠心力と勢い、重力を利用した暴走態の回し蹴りを聖刃は左腕を前に出して
防壁を殴り抜いたその体勢そのままに、左腕の槍射砲がパイルバンカーのように稼働する。勢いよく突き出た槍射砲の槍から放たれた直射砲撃を咄嗟にアーククラレント・セイバーで防ぐ。
聖刃一人に集中したその隙を狙い、なのはとフェイトが砲撃を加えようとする。がしかし、暴走態はチェーンバインドを聖刃に巻き付け、フェイトとなのはを巻き込むように振り回し、まとめて巻き付けて縛り上げて魔力砲撃を放った。
【ラウンドシールド・エクステンド】
【プロテクション・パワード】
【【【パンツァーヒンダネス】】】
桜色の魔法陣障壁、金色の防壁、橙金色の多面体防壁がなのはたちを覆う。
デバイス達が、自分たちが現状マスターを守れる方法を、自立的に取ったのだ。
三人はデバイス達のおかげで濁流のような魔力の奔流を何とか防ぐが、自分たちに巻き付くバインドが明滅し始めていることに気付いた。
暴走態を除くここにいる全員の脳裏に直感が、背筋に悪寒が走る。
――これはマズイものだと。そうして真っ先に行動に移したのは、三人の中でも魔法戦闘には一日の長があるフェイトだった。
「――ジャケット、パージッ!!」
三人に巻き付くチェーンバインドにフェイトのジャケットパージの魔力圧が加わり、チェーンバインドが弾け飛ぶ。それと同時に、チェーンバインドに仕込まれていたバインドに遅効性爆破を付加するエンチャント魔法『バインドバースト』が炸裂。
間一髪のところでフェイトのバリアジャケットが最軽量形態、『ソニックフォーム』で数珠繋ぎに三人は手を繋いで脱出した。
「わりぃ、助かった」
「……間一髪だった。もっと気を引き締めないと」
「――だね。魔法の種類、体のリーチ。その他諸々をひっくるめても、かなり強敵」
だから。そう、だから……
なのはの目の意志は黙するどころか、さらに煌々と燃え上っている。そしてそれは、隣にいるフェイトや聖刃にも言える事だ。
諦めることを考える人間など、ここにはいない。いるはずもない。
――大事な人が、そこにいるから。
三人は再びデバイスを構える。
「
なのはは更に調整されたガンナーモードに換装し、バスターカノンモードのレイジングハード・エクセリオンを。
「
聖刃はアーククラレント・セイバーとアーククラウディウス・セイバーを自立行動設定にして両脇に配置、アークナイト・セイバーを正眼に。
「
フェイトはカートリッジシステムユニットであるリボルバーマガジンを出し、排莢させてスピードローダーで新しいカートリッジを装填してクレッセントフォームのバルディッシュ・アサルトを構えた。
「■■■■■■――ッッ!!」
叫ぶ!
仰け反るほどに轟く声を上げる管理人格暴走態の体から、荒れ狂う様な魔力が溢れ出す。
嵐、濁流、音無き咆哮!
「「「――おおおおオオおおおオおおおッッ!!」」」
対し大声を上げて突撃する三人。
暴走態との第二の戦いが始まった。
<>
誰かと遊ぼうと思ったが全員が用事があるそうです。おのれ薄情者。
暇潰しに図書館か商店街に顔を出そうか考えていると、父さんが久々に二人で出かけようと提案してきた。普段は無口で無愛想無頓着な父だが、なんというか感情が行動に出るのだ。
例えば夕食とかで好物が出ると誰よりも速く自分の場所に座ってたり、家族で出かけるときは誰よりも速く出かける準備をしている。物心ついた時にはそれが普通だったが、それが顕著になる時と言うのはなんとなくわかる。
それは今回も例外ではなく、意外休日出勤の多い両親の中でも父さんと僕の“二人だけ”というのはかなり久し振りだ。かれこれ『二年』になるかもしれない。互いよく我慢したものである。
「ひなた……学校は、どんな感じだ」
「思春期に対して接し方が分からない父親!? ……いや、まぁ……楽しくやってるよ。みんな良いヤツだし」
――事実だ。
――自分で自分を輝かせる“何か”を持ってる。
――そんなヤツら。
父がひなたにも、そうじゃないのかと訊ねてくる。
ただ、わからないと答えた。
ひなたは自慢ではないが、自己分析は大の苦手だ。仮にわかっているとすれば、根っこは臆病で、『彼女』がいないと自身は立ってもいられない。
弱くて、情けない。そんな自分が最も恐れること。
――未知が、怖い。
わからない明日が怖い。知らない人が怖い。この先に、何があるか……なんて。
無論、ワクワクする時だってある。知らなかった何かが理解できたときとか、解けそうになかった問題が解けた時とか。
しかしそれは……隣にいつも――
「少し、休むか」
「――え?」
気付けば、公園の前で立ち止まっていた。
入口の鉄製ポールに映る自分の顔が、やけにひどく……疲れてるように感じた。
「ん……」
「ありがと」
ベンチで休んでいると、父から缶ジュースを渡される。
どっかりと隣に座る父の姿が、大きく感じる。
事実巨漢ではある父。それでも、普段よりも大きく見えて――
「お前の
父の突然の問い掛けに、思考が一瞬止まる。
当然すぎる『答え』を出そうとして、言葉が止まった。
『ひ■ー! はよう行かんと置いてくでー!』
『■■たくん! 早くー!』
『■野ー。さっさと来いよー』
とても大事な、誰か達の声。
『ヒ■タ、皆が待ってるよ』
『■の■達が待ってるよ!』
誰かの、多くの誰かの声。
『いつまで寝てんのよバカチンッ!』
『早く起きて。ひ■■君』
『さっさと来なさいよ』
『あんまし遅いと置いてっちまうぜ』
必死に思い出そうとして、それでも大好きな『誰か』たちが見えなくて。
思い出せなくて、わかったことがある。
――とても、とても大切なことを忘れていることに。
<>
アーククラレント・セイバーを振りかぶり暴走態とぶつかり合う。
暴走態は腰だめにしていた左拳を右拳と入れ替えて突き出し、聖刃のアーククラレントを弾き返すと同時に槍射砲が放たれ、聖刃は回避も防御も間に合わず、体を撃たれ吹き飛ばされる。
――しかし、聖刃のその顔は苦痛ではなく……何かを確信した笑みだった。
「はぁぁああああッ!」
吹き飛ばされた聖刃の体の影から出てきたのは黄金の閃光……クレッセントフォームのバルディッシュを構えた突撃だ。
暴走態はその場で体を回し、回し蹴りで迎撃するもぶつかり合う直前でフェイトは身体を引かせ、体を独楽のように回転させて斬り付ける。
斬撃の竜巻を槍射砲の盾部分を両腕を交差し支える暴走態のその後ろ、肉眼では見えないその遠く。使える数少ない結界魔法の一つである魔法陣の床……『フローターフィールド』がその上。バスターカノンモードのレイジングハートを片足立ちで構えるなのはの姿があった。
「
【了解。ロード・カートリッジ……オプショニングストライク、バースト】
なのはが言っているのはデバイスの所持者が、直接デバイスに行動ルーチンとオプションを組み込む『
しかしなのはが使うこの方法は、遮蔽物のない場所などで活動する狙撃魔導師兼用の“アウトレンジ”タイプで、デバイスに口頭入力する他、作戦参謀などに現行動内容を伝える手段としても有効であり、単独行動型の射撃系魔導師は重宝している方法だ。
その条件は、空の上でも活用できる。――夜空なら、尚の事。
――ディバインバスター・ストライクバースト
――パワードサンダー
背後から膨大な魔力に振り向こうとする暴走態にフェイトはバルディッシュをクレッセントフォームからブローヴァフォームに変更。ブローヴァフォームの刃部分に黄金の魔力刃を出して暴走態へと叩き込む。
暴走態はフェイトが突撃してくる方、なのはが撃った砲撃の方へと腕を突き出して障壁を展開する。
……暴走してるはずなのに、
未だに暴走態の瞳には理性の光は無く、言葉らしい言葉もない。
しかし、人間として当て嵌めるなら『体が覚えている』、プログラムらしく言うなら『インプットされた魔法を使い、敵に対して最適な行動を演算している』と言えばいいのだろう。
長年に渡り『闇の書』とされた『夜天の書』に蓄積された数多の魔法、各主の経験までも記録されたその知識量は
数多の魔法を巧みに扱い、古今東西の戦術を施行し、膨大な魔力から放たれる魔法に、最適な行動をとるデバイスとしての特性。――高レベル魔導師レベルのなのは、フェイト、聖刃の三人で拮抗してるのが不思議なくらいの強さだ。
「――らァッッ!!」
両手で障壁を展開する暴走態の下から、クラウディウスを振り上げながら急上昇してくる聖刃に暴走態はそのままの状態で血のように赤い短剣型の誘導弾『ブラッティダガー』を三人に放つ。
なのはは連射砲撃をキャンセル。
「ぐぅ……ッ!」
『(――フェイトちゃん!)』
「(だい、じょうぶッ!)」
我慢できる。痛みも、傷も……悔しいけど、色々と。
それよりも――少しだけムカついた。
暴走態の腕から伸ばされる錆色のチェーンバインドをバルディッシュを回して切り払う。
切り払った魔法残滓を振り払うようにバルディッシュは変形する。
……私の速さを生かす姿。
三日月よりも三日月に。速く、鋭く……動くだけで切り裂く『閃光の刃』そのもの。
バルディッシュのAI内部に変形構想の図面がいくつか残されていた、そのうちの一つ。
【ブレードフォーム――Get set】
持ち手であった鉄色の柄を逆さにカートリッジユニットのカバーが伸び、ブローヴァフォームの実体刃が縮小して柄先の先の尖った部分に移動。全体的に『黒い鞘』となり、デバイスコアとカートリッジユニット合わせて鍔になり、鞘とデバイス本体に切れ目が入り、分かたれる。
中から現れたのはブローヴァや追加されたクレッセント同様メタルブラックの
この国特有の武器。引いて『斬る』、『斬る為の武器』……『彼女』の知る筈のない、日本固有の武装。
――刀。
「――シッ」
次元の海に漂う『時の庭園』には、時々漂流物が次元の裂け目から現れ、家事の中心であるリニスが回収していた。その中には娯楽目的の物も少なからず在り、情操教育の一環としてフェイトに見せていたこともある。
フェイトは所謂天才である。
実体刃を芯に片刃の魔力刃を展開し、鋭い一歩を踏み出す。速さに重きを置くフェイトが最も力を入れているのは瞬発力――つまりは“足”だ。その
【ソニックドライヴ】
――まさに一刀一足。
暴走態から迎撃で撃たれる
術式にひなたのレオブロウから流用したフェイクシルエットの一部演算を利用して、移動時の擬似的な残像を生み出すソニックフォーム用の加速術式を併用しながら暴走態へと肉薄する。
【フラッシュムーブ】
暴走態へ迫るフェイトの姿が一瞬掻き消える。暴走態は魔力の反応を――追えなかった。感知できる魔力が複数に増えた……周囲を取り囲む十数の
腕で薙ぎ払い、振り切ったその直上……腰から腕にかけてを限界まで引き、上半身を使った回転の力を暴走態へと叩き込もうとするフェイトの姿。
だからなのはの援護射撃に惑わされ、その隙を突かれた。
フェイトの出自はどうあれ、
だが一撃を込めた
――目の前には、“闇の書”が開いていて……
「――フェイトちゃんッ!」
「テスタロッサァッッ!!」
友人達の悲痛な声を聴きながら、フェイト・テスタロッサは
<>
唸るような咆哮が聖刃の口から飛び出る。
あの光景は知っていた。そうなる可能性が高いことも。もしかしたらと言う希望的観測と、そうじゃなければと言う物足りなさもあって……しかし、実際はどうだったか。
――怒りに他ならない。どうあがいても、あの光景は友人が『消えた』ことにしかならない。“闇の書”の吸収など。
無意識のうちに漏れ出るこの声は吸収した暴走態への憤怒か、そうなることを許してしまった己への怒りの後悔か。……若しくは、『原作』などと言う幻想を未練がましく持っていたことに対する悲憤かもしれない。
「騎刃想剣流、十三式『
水平方向の薙ぎ払いから勢いをつけた斬り上げ、持ち手を変えて斬り戻し、二刀に増やし両切り払い、さらに加速させ、斬撃、斬撃、斬る、斬り払い、薙ぎ払って、突いて、撫で斬り、打ち、蹴り、退き斬り、迫り斬り、斬る、斬る、斬る斬る斬る斬る斬るッ!
――それでも尚、防がれた。……が、足を止めることはできた。
「私とレイジングハート、皆が紡いでくれた『切り札その三』……!」
その姿は、新生したセイクリッドモードとも、タンクディフェンダーを携えたガンナーモードとも違っていた。
原案を考えたひなたからは『あくまで緊急用。使わないことが最良』とまで言わせた諸刃の剣。策があるとだけ言われた聖刃さえも、今のなのはの姿には目を見開いている。
【フラッシュムーブ、パワーブースト】
一足限定の加速魔法と初歩的な強化魔法が『レイジングハート』から発せられる。しかし、杖らしき姿は無い。
夜の闇から浮き上がるように現れる白い影に、暴走態は『反射的に』
【ロードカートリッジ】
砕かれる。割れる防壁の中、暴走態は見た。
袖口を覆う青いハードシェルはスライドして肘寄りの腕に、代わりに『金色のメタルナックル』がなのはの両手に装備されている。大型のロングスカートはひなたや暴走態のようなウエストマントになり、内側には青いハードシェルタイプのグリーヴ付きの白いロングパンツ。規則正しく閉じられていたショートジャケットは開けられ、全体的にひなたのバリアジャケットに似通った形だ。髪は邪魔にならないようにシグナムのような後頭部上側のポニーテールとなっている。
右側二の腕に取り付けられた『CVK-792A』カートリッジユニットから二発排莢され、魔力弾付きの拳……ディバインシューター・アクティブシフト
【シューターバースト――オプショニング・バリアブレイク】
シューターが防壁に触れた瞬間、レイジングハートの合図と共に爆発。一瞬にして消し飛んだ防壁を再び構築しようとして……暴走態の頬になのはの鋼鉄の拳が突き刺さる。
……マジかよ。
聖刃の目にはあの日の……なのは、アリサ、すずかが仲良くなった、あの日の再現だと感じた。
あの日の平手は拳となり、変わらない意思を胸に、その拳は届いた。初めての有効打だ!
「バリアジャケット、第三形態――『バレットモード』!」
正式名称、
詳細不明のスペックを持つレイジングハートにガンナー以上の負担を掛けるとなると本機のみならず、無理やり体を動かされる術者……なのはの身にも危険が及ぶ。それに使用中は身体全体に魔力を
それでも、“高町なのは”は止まらない。
【残り60秒。お気を付けて】
「終わる前に、一発入れるよ」
ひなたのレオブロウ同様に両手両足にあるのは『バレットナックルモード』のレイジングハートだ。末端器官にデバイスフレームを出すことで魔力の循環率を上げ、武器と防具としての両立を可能としたレオブロウから流用したもの。それに呼応するかのようにバリアジャケット各所の赤い宝玉装飾が脈動し輝く。
この『バレットモード』には制限時間が設けられており、その間わずか90秒……一分半のみの活動となる。それだけに一人と一機の負担は大きく、不安定かつガンナー以上に瞬間最大出力が高いのだ。
【了解。ロードカート――ッ! マスター! 後方に生命体反応、識別は……一般人です!】
「うそ……ってマズイ!」
レイジングハートの予期せぬ報告に後ろに振り向いた瞬間、暴走態は離脱。高所から魔力を集め、魔法陣を複数展開――その数、およそ三十。
本来ならば
避ければ後方の民間人に被害。避けなければ最悪防壁展開中にバレットモードが強制解除……文字通りの八方ふさがりだが……しかし“高町なのは”は迷わない。
高速術式を発動させて民間人のいる場所へ飛ぶ。こんな状況で、『高町なのは』は過去の記憶を思い出す。『前』の闇の書事件もこんな感じの状況で親友二人が結界内に巻き込まれていたことを。
もしかしたらと焦る気持ちがなのはを加速させる。早く、速く、迅く!
そして辿り付いた先には……
「……マジでかぁー……」
「な、なのは、ちゃん……?」
顔を引き攣らせるアリサと、恐らく
<>
正直迂闊だった。
自分の幼稚な望みにこの子を巻き込むわけにはいかない。そう思い、人気のないオフィス街をひたすら走り回る。
人がいない。こういう時こそ危険な路地裏でさえ物音一つ……気配の欠片すらない感じにアリサは顔を顰める。物理的に広い範囲とはいえ、自分と親友……空で瞬く様々な光以外に人気が無いとなると、何もない箱の中をひたすら走っている感覚すらある。――正直嫌になる。
体力も気力も段々底を突き始め、何かしらの激突音が耳に入る。それも、おそらくは肉眼で目視できる距離に。
そこで出た先には、視界の向こうに広がる数多の魔法陣と、空を飛ぶ
魔法少女かアンタは! と話を聞いた時に抱いた感想だったが、目の前の魔法少女の格好はなかなかどうして、ファンタジーとSFが一緒になったような……それも結構武闘派な恰好をしている。魔法とはなんだったのか……漫画でよく聞く『気』とかいうやつなのだろうか。
【バレットモード活動限界10秒前。状況判断によりセイクリッドモードへ移行します】
なのはの姿が変わり、聖祥の制服に似通った姿になる。所々ゴテゴテしてはいるが。
姿が変わった瞬間、なのはがふらりと落ちるように降りてくる。急いで駆け寄るも、かなり疲労していて……満身創痍と言っても過言ではないほどだった。
「高町ッ! 民間人は――ゲェーーッ!? バニングスに月村!?」
「あら、随分なご挨拶じゃないかしら? ねぇ? セ ・ イ ・ バ ?」
「あばばばばっばば……」
同じように飛んできた鎧姿の聖刃に色んな意味を込めた目線を送る。
……うん。相変わらずコイツの反応は楽しい限り。
聖刃にも黙っていた制裁をし終えたので現実逃避気味に放置していた『発動直前の』数多の魔法陣を見やる。これはもしかして詰みではないかと考えていると、いつの間にか立ち直った聖刃が前へと踊り出す。
「こういう時にこそ“鞘”の出番だろ!」
聖刃の胸の内から抜き出てきたのは、正しく『黄金の鞘』……比較的現実主義なアリサでさえ、その黄金の鞘は神秘に満ちており、この世のものとは思えないほどの輝きを見せていた。
――
黄金の鞘が細かく分離して数百の欠片が光の壁を作り出し、寸でギリギリのところで暴走態の一斉射が着弾。“鞘”が放つその光が包み込んでいるのは聖刃のみではあるが、着弾の衝撃すらアリサ達には届いていない。
この聖刃の持つ“鞘”の防護……正確には遮断機能と呼ばれるこの機能は『“鞘”の所有者』を“鞘”を構成する数百のパーツを壁のように展開することで『擬似的な時空断層』とし、さらに実体を持たせることで物理的な『世界の壁』を構築する。無論遮断であるため、『“鞘”の所有者』が許可しない限り念話も転移も遮断し、理論上『六次元』までの干渉をシャットアウトすると言う。
つまり文字通り壁となることでアリサ達へ干渉する風圧や衝撃波を『流せられる』大きさまで『“鞘”の壁』を広げたのだ。……実行に移したのはアークナイト・セイバーだが。
……つーか
何より聖刃の知る『世界』と比較して厄介なのは“魔力循環技能”と高いバトルセンスを持つひなたが取り込まれていると言うこと。夢に閉じ込めて技能情報を吸い出し行使するなど『今の
事実上、
――ならば、二人以上で掛かればいい。
――ガン・ボルテックス
――木行妖術式独自
――乱弾・
――α式・
打ち出されたプラズマの塊。ようやく視認できるほどの細い雷の針。緑の矢尻とピンク色の丸鋸が暴走態の上から降り注ぐ。
それを暴走態は防ぐが、途端に動きが悪くなる。『雷の針』の魔力とは違う力によるマヒ状態……解除、正確には解呪に暴走態が手間取っている隙に四人の人物が聖刃たちの目の前に降りてくる。
「ゆう、ゆな! 小玉に……
『今お前ルビでなんつった!? 今なんつったこの
「誰が
「ド
「あいっ!?」
『まむっ!?』
上空で悠然と
「――はぁ。あそこで浮いてるのはヤバい奴なんでしょ? それにセイバは私らを守る為だけじゃないからこっちに来た……違う?」
「あ、ああ。さっきの“鞘”は渡せば回復効果があるから高町に渡そうと……」
溜息を一つ。そこから続く、心でも読んだのかと言いたくなるほどに正確な状況把握を示したアリサに、聖刃も狼狽えながらも応じる。
“鞘”の回復能力は極めて強力であることを、聖刃は誰よりも良く知っている。不死と見間違うほどの驚異的な回復速度をもち、“鞘”そのものは神秘の塊であるが故に、使用魔力の代替えも可能。伝説の『聖剣エクスカリバー』の“鞘”は伊達ではないことを、聖刃は知っている。
それを知る筈もないアリサだが、事実“鞘”が見せる神秘性が確かなものであり、持ち主である聖刃の言う『回復能力』がこの状況で渡されるとなると、その回復力は高いはず。それに加えて回復速度も相応に速いのだろう、と言うことを推察し、前に出ているほとんどが知り合いである四人にアリサは迷うことなく指示を出した。
「……よし。そこのロボトカゲとゆうでオフェンス、ゆなはその援護! 狐耳はこっちに向かってきた際の迎撃を頼むわ!」
『ロ、ロボ……? って、じゃなかった。了解!』
「アラホラ」
「サッサー! 任せるデェス!」
「ああ、非才ながら守らせてもらう」
アリサが指示を出す一方で、すずかはぐったりとしているなのはが辛くないように膝枕している。自分の姉……正確には自分の家が大きく関わっている『海鳴の裏組織』の存在で自身の“異質な生まれ”の他に超常的なものがあるとは知っていたが、まさか自分の大事な友人たちのほぼ全員が同じ事柄で関わっているなど、思いもしなかった。
よく見れば全員がボロボロだ。具体的な傷はないけれども、行き過ぎたコスプレにしては痛々しい汚れが多い。それでもその眼に諦めや悲観の色はない。むしろ多種多様の、一つに向かって伸びる強い意志が感じられるほどに瞳に映る強い力は煌々と輝いている。
……それは多分、なのはちゃんも。
自分の膝で『黄金の“鞘”』を
以前、聖刃とひなたの会話の中になのはたち三人の『導き方』と言うのがあったのをすずかは思い出す。『アリサは手を
何故に何もかもが全然違う自分たちが親友になれたのかは、実を言うとよくわかっていない。――強いて言うなら、歯車が噛み合った、パズルのピースがおさまったと言うものなのかもしれない。
この親友たちが頑張る姿を見ていたい。ひなたの言うように背中を押していきたい。
――月村すずかは、関わることを決めた。
「……セイバくん、あの三人に連絡できる?」
「え? あ、できなくはないが――」
【余に任せよッ! そなたの可憐な声、余が受け取り、
困惑する聖刃を遮るように出てきたのは、白く変化した歪な大剣……アーククラウディウス・セイバー(CCC)だった。
「お、おいクラウ!?」
【我が名はアーククラウディウス・セイバー。親しみを込めてクラウと呼ぶがよい……奏者よ、この可憐な少女の目を見て止められると思うか? 主に余をッ!】
「お前かよッ! いやまぁ、無理だけど」
【見たことか。さぁスズカ! 余を握り、その言霊をッ、存分にッ!
「「
二人分のツッコミを余所に、すずかはクラウに言われた通りに『声を繋げる』
「(ゆう君、ゆなちゃん、あと、ブリッツ君、で良いんだよね。
声が届いたようで、空の向こうで飛び交う四つの光の内、三つの動きが変わる。
すずかの強みは、“異質な出自”からなる『驚異的な身体機能』だ。
アリサは光が飛び回っているようにしか見えない距離で、聖刃さえも強化魔法を使ってようやく見えるほど。
――しかし、すずかには見えていた。鮮明に、詳細に、明確に。優しげで淡雪のように柔らかなその瞳は、確かに暴走態の姿を捉えていたのだ。
二つ同時に使っているように見えるが技の終了と同時に使っているだけであること。複数、若しくは強力な技を使おうとするときは『本』を開くこと。
……見ててわかったけど、
例えどんな大容量でも、詰め過ぎれば動きは遅くなる。処理にも時間が掛かるし、動作も格段に変わってくる。それを直すために何かを削除処理しなければならない。そんな暴走態が消費したのは――演算領域の一部。フル稼働で善戦していた暴走態がその勝因の一部を『自ら』切り離したのだ。演算の最適行動が決断したのは『もっとも容量の大きいデータの一部削除』……それが演算領域の一部だった。
獣のような俊敏な動きでブリッツたち三人を翻弄するも、暴走態の新しいミスが浮き彫りになる――魔法の使用だった。獣の本能のような演算であるが故に、魔法をほとんど使わなくなっていた。使っても単発で隙の大きな直射魔法がほとんどとなっており、それがさらに大きな隙となった。
――不意に、膝が軽い事を思い出した。
直後、桜色の砲撃が隙だらけの暴走態をのみこむ。
【コンディション、オールグリーン。リンカーコア正常稼働、タンクディフェンダーも問題なく】
「――ありがとう。アリサちゃん、すずかちゃん……セイバくんや、他の皆も」
暴走態は咄嗟に
その悠然たる背中。見る者に安堵を与える
【デバイス全ユニット。『
……あの頃に比べたら、少し早いかもだけど。ひなたくんの提案は『渡りに船』……だったね。
バスターカノンモードだったレイジングハートは、より槍のような姿――『エクセリオンモード』になり、大半が白を占めていたバリアジャケットはアンダースーツを中心に黒色を織り交ぜてより重厚な印象を与え、白以外のカラーリングが青い縁取りの他なかったタンクディフェンダーも、『過去』最終調整が済まないまま壊してしまった特殊装備『CW-AEC00X Fortress』……通称『フォートレス』を模したスタイリッシュなデザインに変化している。
これがレイジングハート・エクセリオンがフルドライブ……エクセリオンモードに安定性を持たせ戦闘可能時間を向上させた形態――『エクセリオンガンナーモード』だ。
必然的に活動時間が短くなるバレットモード、通常形態であるセイクリッド……もといエクセリオンモードよりも高い安定性、重装甲、高出力の姿。しかし多少なりとも負担が軽減されているとはいえ、なのはとレイジングハートに負担が無いわけではない。『活動時間内の安全圏での全力』……それが、今から始まる最終決戦での最終目標だ。――『過去』に“とっておき”を使って無傷だったのが悔しくて根に持っているわけではない。決して、ないのだ。
「ここからは、ちょっとリベンジ。……いいかな? セイバくん」
「――はぁ。止めて効くような奴か? お前は」
「にゃはは……その節はどうも」
照れくさそうに頬をかき、すぐに顔を引き締める。
その鋭い視線の先には、砲撃されたその場所から動かずにいる
その状況を、自然と察したのだろう……暴走態を相手取っていた文兄妹、ブリッツは離れ、近くに降り立つ
「セイバくん。二人を頼めるかな」
「――はっ……ったりめェーだ」
聖刃の返事に満足したのか、なのはは笑みを浮かべて……流星が飛んだ。
――音でわかる。一直線に加速したのだ。障害無視の最短コースである『真正面』を!
ブースターとしての機能を追加させたタンクディフェンダー……『エクセリオンディフェンダー』が魔力残滓を吸い上げ、タンク内で循環させ、噴かす。――推進力の強化。予想以上に重くなったエクセリオンガンナーの“要”が一つ。小回りが効き辛いものの、ガンナーモード提案時にあった『迫る城壁』というひなたの冗談が現実となってしまい、そのままぶつかっても良し。戦陣突破で切り開くも良しと、心と身体で相手に全力全開でぶつかっていくなのは自身の体現でもあった。
――尚、後日「誰が物理的にぶつかって来いと言った」と赤紫の少年に呆れられ、若草の少年に
迫る暴走態。流れる夜景。縮む距離。接触……せず!
瞬間的に展開したジャンプフローターで暴走態をくるりと跳び越え、視界が反転したまま
一回に付き二十発の高密度散弾。一発撃つ度にカートリッジが一つ、また一つと排出される。一つのマガジンに六発装填のなのはのカートリッジマガジンには少々痛手だが、それに見合うだけの威力はある。――まず一発目で咄嗟に展開された
暴走態のフィールド防壁と高密度散弾がぶつかり合い爆発。その隙になのはは海上へと
煙幕の中から暴走態が飛び出し、槍射砲から黒い射撃魔法を撃ち出し、なのはを追ってくる。思い通りの行動に思わずなのはは口角を上げるも、すぐさま引き締め直す。
フェイトとの決着以来、久しぶりのドッグファイトが始まったのだった。
・A's最終戦難易度
TV:ハード
劇場:ベリーハード
今作:MMD(魔導師・マスト・ダイ)
・『
プログラミングは苦手だけど手数は豊富というあなたにオススメ!
どうしても機械の扱いだけは苦手、そんなあなたにご紹介するのが……(以下省略)
・……暴走してるはずなのに、
つ『偽無窮の練武:A』(過去に存在した主、吸収した者の魔力を読み取り組み上げた立ち回り)
・ブレードフォーム
※(一応)中の人ネタではないし首飛ばしの風なんて使いません。
・バレットモード
イメージはフリッケライ・ガイスト+量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ改タイプG(2OG)
格闘監修にひなた、ザフィーラがいる。
・アリサ(魔法とはなんだったのか)
リリなのじゃよくある話。
・“異常な出自”
読者にお分かりの人も多いと思うが、今作では(能力的な意味で)エグイことになってます。
影響:「あやかしびと」「血界戦線」「HELLSING」
・エクセリオンガンナー
空飛ぶ列車砲。小回りの利くバリスタ。突撃槍&ブースター付き戦車。F2Wキャノン&ツイン・ビームカノン装備のアルトアイゼン・リーゼ。
・ドッグファイト
↑vs公式最強(魔改造済み)
今度こそ後編に。