回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

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大 難 産 ッ !

詰め込み過ぎた感は否めない。
どうしても出しておきたかったし、急展開も多かった。
でも日常回にするにはひなたくんの体調を考えるとこうせざるを得なかった。

少しばかり間が開くかもしれませぬ。


A's11「トライマジック」(Part:C)

 まず『それ』に気付いたのはヴィータだった。

 ヴォルケンリッターのオールラウンダー、その手数からメインにフロントアタッカー(前衛)で将シグナムでの二枚看板、形態変化のラケーテンによる機動力を生かし、鉄球誘導弾(シュワルベ・フリーゲン)でのガードウィング(中衛)も熟せる彼女は、高町なのはにはだいぶ劣るものの、発達した空間把握能力を有している。

 特に機敏に反応するのは自分の可動範囲内の『魔力の変動』であり、過去迎撃に回ることも多かった経験から第六感(直感)にも優れている。

 

 だからこそ。それ故に。

 自分たちが囲う中央の、闇の書が放つ安定していた魔力が一気に変動したのを真っ先に感じたのが、ヴィータだったのだ。

 

「――闇の書から離れろッ!!」

 

 叫ぶようなヴィータの声が最終防衛ラインに響く。

 考えるよりも先に動けた他の三人も同様に闇の書から飛んで離れる。

 

――――だが。だがしかし。

 

「ぐッ……!」

「ぬぅ……ッ!」

「がッ……!」

「ちィッ……!」

 

 枝。棘の様な、鋭い枝。

 分岐、枝分かれするように伸びた枝はヴォルケンリッター四人の四肢、あるいは体を貫き、その動きを完全に封じていた。

 何とか抜け出そうと力を込め――――られなかった。

 吸われている。魔力を。四人を構成する魔力さえも。

 まるで、『足りない何かを、騎士四人で補おう』としている!

 

「――嗚呼、また……始まってしまった」

 

 悲観に暮れた声。全てに対して諦めてしまったような、そんな声。

 憶えがある。今まで霞がかった記憶の中にいた、最後の騎士と言える存在。

 暗い紫色の全体色に、ショートジャケット、タイトスカートの外側で大きく広がるウエストマント(腰マント)。暗い色の中で映える白い肌、銀髪、赤い瞳。

 その眼もまた、悲観に暮れ、今にも涙を流しそうな眼の色をしていた。

 

「……久し、振りだな。こんな状態で、ぐっ……申し訳ないな」

 

 辛うじて『それ』に対し目を合わせられたのはシグナムのみ。

 太ももと腹部、左腕を枝に貫かれながらも、口の端から血を流そうとも。笑みを浮かべて『それ』を迎えた。

 それに対し『彼女』は苦しげに、そして悲痛の笑みを返す。

 

「こんな状況でも、そう返してくれるのだな。剣の将(つるぎのしょう)

「――馬鹿を、言うな。正直体中が痛い、意識が遠退く」

 

 でも、とシグナムは続ける。

 全てを思い出した彼女には理解(わか)っている。

 後始末を否応なしに押し付けてしまうこと。最大の汚れ仕事を、誰よりも優しい『彼女』に与えてしまうこと。長らく忘れていた正義感と、騎士として誇るべき矜持が今も痛みを感じる自分に責立(せめた)てる。

 

……なんと情けない事か。騎士として、将としてあるまじき姿ではないか。

 

 それが例え、闇の書の決められた手段(プロトコル)であったとしても。闇の書――(いや)、『夜天の書』が罪に塗れてしまった物であったとしても。

 

「最後の家族を、ッ! ……迎え、入れるのは……当然だろう?」

 

 家族を迎える。今の主たちに教えられたこと。

 正直、後にも先にも戦闘以外で“(かな)わない”と思ったのは初めてかもしれないな、とシグナムは心中にて『満面の笑みの主』と『無表情の同居人』に苦笑する。

 過去に苦しみを与えた者たちから、責め苦を受けるかもしれない。何故お前が。苦しみを与える騎士が平和を享受するなど、と責められるやもしれない。

 

 ならば償えばいい。生きている内に、せめてもの贖罪を行おう。

 主ともう一人が受け入れてくれた、あの日に誓って。

 

「家族、か。罪に塗れた私が家族など――」

「やり直そうぜ、じゃあさ」

 

 遅れて聞こえてくるのは幼くも毅然とした声。

 それは声色に痛みと恐怖を要り混ぜながら、毅然に振舞おうとするヴィータだった。

 吊り(つり)下がるには辛い(つらい)吊られ方だろう。貫かれた右肩と腹部で吊られている姿は、正直第三者からの目でも我慢できているのが不思議なほどの吊られ方だ。

 そうでなくても、誰がどう見ても苦痛を禁じ得ない姿。

 それでも、鉄槌のヴィータは砕けない。砕くことこそが本命であるが故に。最後の力を振り絞って、『最後の家族』の悲しみを砕くために。

 

「鉄槌の……」

相変(あいッか)わらず……堅苦(かたッくる)しい、呼び方だなー、それ。ま、『いつものお前(オメー)』で、安心……したよ」

 

 伸びる枝に頭部が切れたのか、頭から顔に掛けて血が流れ、ヴィータの左目は血でもう見えない。

 

……それでも、『アイツ』の悲しむ姿が見えたから。

 

 憶えている。ヤサグレていた自分を支えてくれたのはシャマルだけじゃない。『コイツ』だって、何時だって支えてくれていた。光が手を引くんじゃない。闇が引き込むんじゃない。『コイツ』の“夜が背中を押してくれた”のはリンカーコアの奥底まで刻まれている。

 故に今度は――

 

「砕くぜ、きっと――いいや、砕いて……見せる。『お前(オメー)』の、悲しみを。『お前(オメー)』の闇を」

「何、を……!」

「伊達や、酔狂で……つッ! 『鉄槌(この名前)』背負ってないッ……からな。あたしには、叩いて、ぶっ壊すしか、ノーがねーから、な」

 

 お前(オメー)を助けるのに、他のも一緒、ってことだ。

 そう不敵に笑みを浮かべるヴィータと共に、背中全面を刺された痛みを我慢して脂汗を書いても尚、和らな笑みを浮かべるシャマルに、絡め取るように四肢に突き刺さる枝に何も感じていないような、ちうもの仏頂面のザフィーラも頷く。

 

「何故だ……どうしてそこまで諦めない。もう終わるんだ……何もかも、闇の書()自らの手でッ!!」

「わかんだよ……多分、今日で終わり(しめー)だ。闇も、夜も、哀しみも」

 

 それは……絶対に、絶対だ。

 痛々しげで、誇らしげなその笑顔には、確かな確信の色があった。

 諦めていない。何故、騎士たちは諦めていないんだ。

 

「何だかんだで、諦めが、悪い子……多いのよ、ここは」

「湖の……お前までッ!」

「確かに最初は信じられないかもしれない」

 

 でも、とシャマルは続ける。

 与えられた優しさに、日常に、『確かな“芯”』があった。

 主の少女や、同居する少年だけじゃない。その周りを囲む友人達も、自分たち顔負けの『確かな“芯”』があったのだ。同時に思ったのは――負けていられない、ということ。

 

……存外、私も負けず嫌いなのね。

 

 熱血役は他三人の役割だと思ったけど、と苦笑する。

 仮にもこちらが大人なのに、本来元気付ける立場の子たちに、逆に元気付けられるとは、召喚当初の自分では思いもよらなかっただろう。

 だけどそのかわり、『懐かしい思い出』も思い出せた。

 

「同時に、『私たち』は『貴女』に恩を返さなきゃね。『不思議な本さん』」

「――ッ!!? その呼び方、まさか……ッ!」

「……別の意味で、諦めが悪いぞ。『古書(こしょ)』よ」

「守護獣……!? まさかお前まで……」

 

 ヴォルケンリッター達の意識は既に朦朧とし、それでも尚、『彼女』へと語り掛ける。

 それは単なる意地。(ナハトヴァール)にせめてもの抵抗をしようとする四人の意志だった。

 しかし、その最後はあまりにも呆気なく訪れ、一言残して消えていく。

 

「お前は知らぬかもしれないし、もしや既に出会っているやもしれんな。今代の『主』と、その相方に。その“在り方”に……なぁ? 『夜天の』」

「アタシが見てきた中でもダントツの破天荒(前人未到)だぜ。無論、はやても含めてな……だから、大丈夫さ、『古本(ふるほん)』……きっと大丈夫だ」

 

 その後には、何も残らなかった。

 主によって可愛らしくデザインされた『鉄槌』の帽子も、騎士甲冑の一変さえも。

 ただそこにあるのは、貫かれた騎士たちの血の幻覚と、騎士たちを貫いた槍のような枝(凶器)が現実である証拠。

 それだけが。ただ、それだけが残って。

 

「あ……ああ……あああああアアああアあアアアあああアあアアあああああッ!!」

 

 悲しみ()が、溢れ出した。

 私がやった。私が(ころ)した。私が()なせてしまった。

 騎士たちの、過去に『主』だった者たちの日々が浮かび、自身に対する憎しみと怒り、悲しみが際限なく溢れ出す。

 元来記録する本であったが故に、基本的に“全て憶えている”のだ。優しき日々も。忌まわしき最期も。

 際限なく追いつめて乏しめて。

――――それが、形となって現れた。

 

 黒く、淡く紫色の光る人型。

 ただ人型の形を取り、まるで泥で出来た人形の様な軟体質。動く泥が無理やりヒトの形になったような印象だった。

 その数――――約100万。

 星空を塗りつぶすかのように宙に浮く黒い泥人形の数に、管理局員を含めた全員が絶句する。

 

 ――本番はまだ、始まったばかり。

 

 

<>

 

 

――――何故。なぜ今、目覚める。

 その場にいる全員が思ったことだ。

 魔力の蒐集も、最低ラインである400(ページ)までは揃えた。

 そこまで往けば、『後は時間が解決する』と影絵の男(メルクリウス)は――

 

……待て。もしかして、まさかッ!

 

 そう。言ったのはあのメルクリウス(生粋のトラブルメイカー)だ。

 何の被害も無いなど、それこそ馬鹿の思うこと。奴の思う壺だと、ブリッツは直感した。

 ぶん殴りたくなるほどのニタついた笑みが脳裏を横切り、振り払う。

 

「――姐さんッ!」

「解ってるッ!」

 

 紫電が、(はし)る。

 ブリッツを中心に吹き出る魔力に伴って、太陽にて踊るプロミネンスの炎の如く雷電は踊る。

 

――《我が身、光となりて汚れを祓い 我が心、器となり悪辣を受け 我が魂、熱を伝える鋼となる》――

 

 紡がれる“誓いの詩”、流れ出でる渇望。

 それは今ではない過去に対する贖罪。

 

――《(はい)の光を見よ それは導く光と心得(こころえ)、この手の槌 悪魔を退ける(いかづち)を知れ》――

 

 決意を覚悟に。誓いを道標に。

 好機(光輝)(未知)に照らす光であれ、熱であれと願う。

 

――《轟く雷鳴の下、続け 我が友、我が同朋(どうほう)よ》――

 

 それは母嘗て(かつて)の願いであり、父の願いを糧とし、己が心血を表した姿。

 光であれ。熱であれ。それは“太陽”だけの役割ではない。

 己が雷も、明日へとつなぐ閃光(先行)である。

 

――《括目せよ 喝采せよ 万雷の喝采を聴け!》――

 

 

――創造――

 

――雷霆万鈞・電熱招来(トールブリッツ・ドンナーヒッツェ)――

 

 

 白亜に黄金の装飾、全体的に細身なそれは爬虫類の『それ』を彷彿とさせ、腰から伸びる細く鋭い尻尾がそれを増長させる。その中で一際目を引くのは“背中”と“足”。背面中央に突き出る四角いプレートは、人が見ればハンマーの面のようにも見えるだろう。足は爬虫類系ヒーローの全体像とは裏腹に山羊(やぎ)を模した意匠の両脚部。

 それが彼、ブリッツ・ヴェルトルート・フォン・キルヒアイゼン、『巨人殺しの雷(ティタノクトノン・トール)』の創造。

 “人の心を凍てつかせぬ熱でありたい”と願った転生者――ただの少年の力。

 

「――形成――いくよトール……『後風(あとかぜ)』ッ!」

 

 指宿 命(いぶすき・みこと)、『荒れ狂う懐刀(ラーゼン・メッサー)』の背中には“翼”があった。

 木の葉の翼。それは普通の葉ではなく数多くの八手(やつで)の葉で形作られた羽。

 見た目に反してしなやかなその羽が、弾くように風を打つ。

 生じた突風に乗るようにブリッツは飛び出す。

 風による加速と、さらに空気中の塵に電気を纏わせて擬似的なリニアレールによる加速の上乗せ。さらに拳を前に突き出して雷電を纏わせる。

 眼前には黒人形の群れ。やることはただ一つ。

 

『――《ヒートッ、サンダー》ッ!』

 

 敵を焼き尽くす。

 黒人形の内一体にぶつかる瞬間、雷電が弾ける。

 拳の衝撃と、放たれる広範囲電圧でブリッツの周囲を黒人形の意味がぽっかりと穴を開ける。

 

『聖槍十三騎士団、黒円卓“仮”五位ッ、『巨人殺しの雷(ティタノクトノン・トール)ッ! その闇、照らさせてもらうッ!』

 

 夜明けは――まだ遠い。

 

 

<>

 

 

 男は語る――然り、と。

 漆黒に穴を開けた『稲妻』に目をやりながら影絵の男は観覧する。

 その目はまるで、舞台の山場を見るようで――――

 

「全てが優しいまま終わるなど、誰が言った。人に悪があるからこそ良き部分が輝くように、物語もまた――(絶望)があるからこそ(希望)が映える」

 

 それは物語の基本。

 男はただ提案しただけだ。手っ取り早く物語が収束する方法を。

 確かに男は全てが円満に終わるとは、そんな理想的なことは誰も言っていない。

 ただ言っただけだ。効率的に、手早く、『物語が』終息する方法を。

 だがしかし、と男は続ける。

 

「今回は初級編だ。獣殿曰く『新たな英雄(エインフェリア)への(はなむけ)』らしい。しかし――――『ヴァルキュリア』と『トバルカイン』の息子、『マキナ』と『マレウス』の息子、『バビロン』の縁者、『ザミエル』の因子持ち……そして、『ツァラトゥストラ(我が息子)』の娘達か……」

 

 やれやれと言わんばかりに肩を竦める男。

 しかし、顔に映る薄ら笑みは変わらず――――

 

「御都合主義など起きんから安心したまえ、全て、須く(うべからく)きみたちの功績、勲章、手柄である。しがない魔術師である私には、手を引く(手引き)しか能がないからな」

 

 そも、どうやら私の手は要らぬようだ、と空を見る。

 その目線――黒人形に埋め尽くされた星空の向こう。『優しげな桜色』と『強かな金色』、そして『力強き黄金色』が流れ落ちてくるのが見える。

 この男にとって『女神』が主役であれば、他は有象無象、『女神』を彩る礎である。

 ……が、しかし。裏を返せば「群像劇である」と言っている……のかもしれない。

 

「では一つ御観覧あれ」

「この物語は混沌極まりし群像劇」

「見る者総てを魅了するとは到底思えない脚本、役者達ではありますが――――」

「予想掴めぬ、と言えば道理。然りと言えましょう」

「闇の中を手探りに歩む者。横道にそれて尚、前へと歩む者。後から歩む者の為に道を照らし、闇の中の太陽たらんとする者」

「奇抜な発想であることは、私は評価しよう」

 

 

――――故に、面白くなると期待しよう。

 

 

<>

 

 

 彼女……は焦っていた。

 試した転移魔法が暴発。気付いた先がどこかの町の上空。

 加えて、新たな家族からは戦闘する魔力の感知。

 行ってみれば見たことがあるような内容な戦いの光景。

 

 家族の一人に命令されるまま、一人の方にキック技を叩き込んだ……のは良いものの、『元の体』の『持ち主』を知っているような連中と出会ってしまった。

 彼女……正確には“元”彼は、『この姿(リインフォースの姿)』になる前は、成人直後の男性であり、女装趣味でも変身願望も無かった、ただのフリーターであった。

 

 名を、『京西院・一(けいすいいん・はじめ)

 クール(男らしい方)系ナイスバディな()()()()美女となっているが、元男である。

 

 ――――さて、話を戻して。

 この状況をどうにかして切り抜けようとする(はじめ)

 そこで思い付いたのが、自分を本当のリインフォースとすること。

 当の本人には心苦しいが、誤魔化さないわけにもいかず……そう考えたところで、“夜天の書(闇の書)”のある方へ目を向けると――

 

「――――」

(か、覚醒してらっしゃるゥゥゥゥッ!)

【(おお、無双ゲーみたいですね)】

 

 それも声にならない声での慟哭。

 さらにその頭上には何処かで見た黒い泥人形――――なんかたくさん(数えるのは諦めた)

 背中に背負く赤い銃(炎の戦闘狂)が何か言ってるが聴きたくない。正直。

 

……あかん。アカンこれ。どのぐらいかというと虚数空間に紐無しバンジーするくらいにアカン。

 

 詰んだ。終わった。

 そんな言葉が浮かんで思わず、

 

「た、他人の空似デす!」

【ハジメんェ……】

 

 声が上ずった、かなり苦しい言い訳が出てしまった。

 右腕の碧い籠手(頭の良い馬鹿)が残念なものを見るような声を出しているが気にしない。

 ――しかし、その背後。

 大盾を潰された男、ファルカスは静かに大砲槍……『ガナーランス』に力を込め、(はじめ)はもちろん、射線上にいるカガミたち管理局員を薙ぎ払おうという算段を企んでいた。

 無論、頭上の光景には気付いていない。

 

(くっ……あの忌々しいクソアマ……骨も残さず――)

 

 最大出力。限界ギリギリまで溜め込んだ必殺の一撃。

 肉を燃やし、骨まで溶かし、魂さえも焼却させる最大核熱魔法。

 

「残滓も残さず、消えちまえェェッ!!」

 

 

――魔導・龍撃砲

 

 

 しかし。だがしかし。

 ここでファルカス最大にして最後の誤算が生じた。

 それがなければ、殺傷能力の付いた『魔導・龍撃砲』は(はじめ)を呑みこみ、管理局員や(めぐり)を含んだ多くの人間が滅却されただろう。

 

――――そう、彼女がいなければ。

 

「対象の脅威判定更新……反射変換にて即刻無力化。ジン」

【拝領――――小僧、“無垢にして苛烈”たる我、“神獣鏡(シェンショウジン)”を舐めてもらっては困るな】

 

 

――鏡筒(きょうとう)

 

 

 カガミの両足が纏うユニットの突出した部分に、腰から延びるテールウィップが接続され、円を描くように折り畳まれた集光ユニットが展開される。

 更にその周囲を小型ミラーデバイス『混沌』が並び、全体的に鏡の筒をイメージするかのような陣形を取り、カガミ自身も固有武装の一つである『屈折(先端に円鏡の付いた笏)』が扇のように展開。完全な円となって盾のように覆われる。

 

 高威力の『魔導・龍撃砲』の射線上に真っ先に位置取り、カガミの周囲を淡い紫色の光が漂う。

 そこから、鏡の集まる空間にぶつかり、反射、反射、そのまた反射を繰り返し、数百以上にも及ぶ乱反射の結末は――

 

 

――歪鏡(わいきょう)

 

 

 鏡と言う鏡からの反射……それぞれの鏡から放たれる光の一筋一筋が『龍撃砲』と同等以上の威力を誇り、『()殺傷設定』として跳ね返された。

 ファルカスはそのまま光に呑みこまれ、“一応は”無事確保された。

 

(デ、デェェェス……)

(……ゆうくん。もらしてない? もらしてないよね?)

(“無垢”にして“苛烈”……言い得て妙じゃのぉ……)

(もうかえりたァい……)

 

 何処か自慢げな表情のカガミに、誰も何も言えなかった。

 

 

<>

 

 

 ミラルドを倒した常椎と黒い騎士。

 二人はとあるビルの屋上で上空の光景を目にしていた。

 

「ああ、また厄介事か」

『なんかさっきより目が死んでない?』

 

 次から次へと、と愚痴る狐巫女服の少年に同情を感じる。

 

……一難去ってまた一難は、日常茶飯事だったなー『あっち』は。

 

 脳裏に蘇る苦難の日々が主に精神的な意味で疲弊させてくる。

 態々精神的に疲れることを思い出したくも無くなったので、とりあえずはどうするか、と常椎に提案してみる。

 

『流石にあれヤバそうな気がするから、やる……俺は行くけど、君は?』

「ここまで関わってさようならできるほど精神太くできてないんで参加。ダチによろしくって頼まれたし」

『……そっか』

 

 口調こそ軽めではあるが、その目には固く強い意志が覗いて見える。

 彼も自分と同じ『馬鹿(お人好し)』の類なのだろうと直感する。

 

「とりあえず他の連中には、アンタは見方って伝えとくから」

『感謝するお……っとと。んじゃッ!』

 

 黒い騎士はボロボロの赤いマフラーをはためかせて跳躍する。そんな彼(?)の所々おかしい口調に常椎は首を傾げながらも、別方向――局員たちがいる方向へと向かうのだった。

 

 

 

(全く……くく、貴様も大変だな。――『やる夫』)

 

 胸の奥から少女の声がする。

 長いようで短い冒険をほぼ最後まで付き合った最愛の相棒の声。

 そんな彼女は黒い騎士を『やる夫』と呼ぶ。

 

(うっせーお……体感三年、実質半日の大冒険が終わって休めると思ったらこれだお……誰か休みクレー)

 

 本名、『磯田 八留夫(いそだ・はるお)

 ひなたや聖刃、なのはたちと同級生の少年その人である。

 彼はひなたたちが蜘蛛怪人『バクグモ』に襲われ、仮面ライダーブランクにより倒された際に出来た『次元の穴』に巻き込まれ異世界『サンガイア』へと落された。

 その際、さらに巻き込んだのは嘗て世界を火の海に沈めた災厄の龍、『ロードブレイザー』の封印された魂だった。

 

 ロードブレイザーによって発現した力、『アームドブレイザー』の力の一つ、『剣のブレイザー(ナイトブレイザー)』であり、その力に振り回されながらも古代遺跡の封印された、白銀の大剣……『アガートラーム』により沈静化。その剣には名無しの精霊が宿っており、後にアガートラームから取って『アトラ』と名付けられる。

 しかし強大過ぎる力を抑え付けるのには力が弱かったらしく、しかしその際にやる夫の高機能性遺伝子障害……通称『HGS』である『調和』が発現。不安定な物事に対して安定化を図る。

 

 ――それから、なんやかんやあって。

 ――暴走して抜け出したロードブレイザー(ローザ)と戦って。

 ――倒したはずの魔王の力も借りて。

 ――相討ちで死んだって嘘情報流させて。

 

 今に至る。

 ちなみにロードブレイザーことローザ、アガートラームの精霊ことアトラ、魔王ラギュ・オ・ラギュラことラギュラは各自『自称:やる夫の嫁』と言っていたりして両親を驚かせ、小学三年生にして婚約者三人と言う、(はた)から言わせれば『もげろ』と叫びたくなるような今である。

 ちなみに当の本人は満更でもないトカ。

 

(やる夫さん、そろそろババーンッと行きましょうッ!)

(アトラさん、疲れるのやる夫なんですがねェッ!?)

 

 まぁ、しょうがない、と思っている辺り自分も毒されてきてるなとしみじみ思いつつ、右手の平から引き抜くように左手を引けば『青い光の棒』が現れる。

 名をナイトフェンサー。ナイトブレイザーの主武装の一つである。

 

(援護、つける)

『サンキュー、ラギュラ! 炎熱閃光ッ!』

(ブーステッド、ディザスター)

(えっ)

(えっ)

『――えっ』

 

 やる夫、ローザ、アトラの戸惑いの声は届かず、ラギュラの放った強化魔法はナイトフェンサーを取り巻き、逆巻き、渦を巻いて――放たれた。

 ナイトフェンサーから放たれた黒い渦は黒人形を呑みこみ、明確に渦が通った跡が分かるほどの黒人形が夜空から姿を消し、見る者すべてを圧巻させた。

 ちなみにやる夫がしようとしていたのはナイトフェンサーを前に掲げての突進だったりする。

 そんなやる夫の内心空間で自慢げに胸を張る褐色幼女(ラギュラ)を除いた三人は……

 

『……よし、地道に削るおッ!』

((お、おおー!))

(……?)

 

 目の前の事実を流すことにした。

 

 黒人形――残り約100万から98万少し(ブリッツ初撃分)。98万と少しから82万強(やる夫初撃分)

 

 

<>

 

 

「ホントに真っ黒うじゃうじゃッ!?」

「所々穴が開いてるけど、この規模は……」

「とにかくでっかいのぶっ放せってことだろッ!」

 

 アースラからの転移で海鳴市上空に躍り出た聖刃達。

 真下の光景に、黒人形がただ広がる光景に呆気にとられていた。

 今はただ浮かぶだけだが、動き出さないとは限らないし、そうなれば封時結界があるとはいえ相当な被害が及ぶだろうとなのはは内心舌を打つ。

 

 眼下の光景を見て『前』よりも状況が悪いのでは、と思う反面、色んな意味で色々ぶっ飛ばせられるのでは? と内心かなり不謹慎なことを考える。

 さらに考えるのは闇の書の闇……ナハトヴァールそのものの強さ。

 下手したら太刀打ちできないかもしれない。そこまで考えて――脳裏の自分が砲撃で消し飛ばした。

 だからどうした。そんなことなど知ったことか。この()魔法(不屈)に限りなし。

 それに、少なくない。力強い仲間がいっぱいいる今は、今ならば。

 

「――その通りだね。レイジングハート、往けるね」

【無論です。新生した私たちの力――見せてやりましょう】

 

 

 まだ助けられてばかりだ。

 まだ何も返せていない。

 全てが終わってこっちに来た時も、また助けられて。

 

 ――返し切れない『ありがとう()』が積み重なって。

 ――逆にキミの方が潰れてしまわないかとも思った。

 ――案の定……キミは無理をしていて。

 ――多分、キミはまた頑張ろうとする。

 

 だから、と相棒(バルディッシュ)を握る拳に力が入る。

 指の間から覗く相棒(バルディッシュ)は確かに輝いて。

 

【返しましょう、サー。貴女の恩を、貴女の刃で】

「――うん。返すよ……私の雷で、私の『ありがとう』を」

 

 

 正直な話、もう訳が分からない。

 前の事件から常々思っている。この離れ具合。

 格ゲーの次は無双ゲーか? とも叫びたくなった。

 だが同時に、一抹の不安が聖刃の胸をよぎる。

 

 これはもしかして、原作以上に悪い展開なのではないか。

 もしかするとこれは絶望的な状況なのでは。

 そこまで考えて、考えて――――考えるのを止めた。

 思考停止は愚かと言うなら嘲笑え。俺を笑って見せろ。

 

……ダチを助けるのに、ぐずって考えてなんかいられるかッ!

 

 ――あいつは数少ない親友の一人だ。

 ――調子良くって、バシッと決める時は決めて、行動力もあって。

 ――誰かの為に体を張れて、何処にでも“いられる”お前は。

 ――俺の憧れなんだ。

 

 最初に見惚れたのが()だとすれば、最初に憧れたのは父でも、母でもなく……誰でもない親友だったのだ。

 (表情)を失くしたその日から、その顔に日も影も無くなって、それでも変わらない――否、変わらないように見えた『彼』の姿が、どうしようもなくもどかしくて。

 最初は師に頼り、『彼』の顔を戻せないかと頼み込んだ。しかし、『彼』のこの原因は、『彼自身』の心にあるという。どうしようも出来ずにいた自分が何よりも腹立たしくて、それが自惚れだと叱られて。

 失意の先で『彼』と出会い、元気付けられた。本当は、逆であるはずなのに。

 だから、俺のすることは昔から変わらない。ハーレムを望んでいた時も、今になっても。そしてこれからも。

 

「俺たち全員で、笑っていられる日常に。連れて帰るぞ、『アイツ』をッ、セイバーズッ!」

【無論ですマスター。この手に誓いをッ!】

【終わったらデバイス協同のゲーム大会だぜマスター! 剣に魂をッ!】

【宴の音頭は任せよ奏者よ! 胸に輝きをッ!】

 

「【【【唸り、輝けッ! 絢爛破邪(けんらんはじゃ)赫灼(かくしゃく)は我らが輝きと心せよッ!】】】」

 

 

 胸に不屈。その手の魔法を以って再び翼を得る少女。

 感謝を胸に。離された手を少女は再び繋ぎ直すため。

 輝きを抱き、少年は障害を切り払う剣となる。

 

「『レイジングハート・エクセリオン』ッ!」

「『バルディッシュ・アサルト』ッ!」

「『アークセイバーズ』ッ!」

 

 

――――役者は、ついに揃った。




・守護騎士たちの記憶復活
実は奇跡込みだけど大体水銀の所為。
水銀「傍にこんなん居たなーぐらいの思い出し方と思ったら全戻し(思い出し)だった。な、何を(ry」

・おのれメルクリウスッ!
ブリッツくん大当たり。

・ブリッツ・キルヒアイゼンの創造
ぶっちゃけ変身ヒーロー。
武器は己と鈍器二個。

・黒円卓の縁者たち
だーれだ?(アニメポ○モン初代風)

・メカクレリインちゃん!
お気付きかどうかはさて置き短編で書いたTSオリ主inアインス(っぽいヤツ)のゲスト参戦。この戦い終わったら彼(彼女?)は帰ります。

・ファなんとかさん
犠牲になったんだ……カガミの見せ場の為に犠牲にな……(遠い目

・やる夫参戦
正直すまんかった。彼も一応は主人公。主人公二人につるんだのが運の尽き。
ひなたを正統派主人公、聖刃は昨今の人気主人公。ブリッツが変身ヒーローだとすれば彼は異世界系主人公だったり。
ちなみにラギュラことラギュ様は褐色で額にT字模様付きの単語系幼女。

※2015/03/27:擬人化ラギュ様こと『ララ』を『ラギュラ』に変更

・主人公じゃなくて主役三人の独白。
前では魔法から始まった絆が、今では何の不思議でもない人の手で再び繋がれたなのはさん。
静かに人形になるだけだったのを、たった一人から多くへと繋がれて人になるフェイトちゃん。
目的を砕かれ、惰性に物語への道を進む中で追うべき背中、辿り付くべき後姿を持つ同世代に憧れた聖刃少年。
なんだか似てる三人です。

・ちなみに……
サブタイの「トライマジック」は
「挑戦する魔法」
「三つの魔法」
「第三者の魔法」
から。
挑戦の方は挑む意味合いで。三つは主役三人組。第三者はハジメ、やる夫、襲撃者(かませ)二人組のこと。



 舞台、役者は整いつつある。
 眠れる獅子は誓いと力、思いを胸に。
 微睡む夜は怒号と語る。

次回、回転割砕の魔導右腕A's(ライトアーム・エィス)
第十二話「日野ひなたは光と共に」

 諦めない。
 その言葉に、万感の想いを込めて。


待て、而して希望せよ

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