回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

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サブタイは「じごくのえとらんぜ」と読む。
今回は短編二本。短め。


後三十五話「時黒のエトランゼ」

『・――世界は巨大な樹木である』

 

「そういえばさ」

 

 喫茶翠屋。

 人はそこそこに集まり、試験期間で昼近くに下校した学生がちらほらと見える中に双子を除いた地球魔導師組(はやて、ひなた、なのは、聖刃、ユーノ)と令嬢二人は室外席で寛いでいる。

 そこでひなたは話を切り出した。

 

「アルフって『狗狼(マティスム)』なのかね」

「違うって。たしか、狼素体の使い魔だったはず」

「ほほう」

 

 ひなたとユーノの会話の一部に疑問を持った聖刃が問いを投げる。

 

「日野、なんだその……『狗狼(マティスム)』って」

「異世界産のケモミミ」

「簡単にまとめ過ぎだよはやてちゃん……聖刃くん、北極海に『巨大な穴』が数百年以上前からあるのは知ってるよね?」

「ああ、昔のことを掘り返す番組で騒いでたアレか」

 

 巨大な穴。

 北極海にて開いているという、巨大な穴。

 その先は見えず、発見当時その穴に飛び込んだ冒険家は数知れず――同時に戻ってこなかった。

 その中で有名な冒険家……の子孫『アマンダ・コロンブス』という女性が五年の時を経て生還し、その日を境に地球に蒸気技術が広まっていくこととなる。

 

「アマンダの忠告を無視した世界は、蒸気技術で発展していくものの青空が消え始めるの。今でこそ『スチームパンク』なんて架空話に出来るけど、その時代はまさにそう。北極海寄りの国を中心に、どんどん蒸気技術が発展していったのよ」

「無論日本もそうやな。でも扱い辛かったからか、ちょいとしたミスで火災が多発……近年になって明かされた『江戸大火』の真相や」

「そこからまぁ、巻き返していくわけだが……それはまた別の話か」

 

「話を戻すと、『巨大な穴』の向こうは『蒸気機関で成り立つ世界』と『未開の自然世界』でなりたってるらしいのよ」

「……随分曖昧だな」

「仕方ないねぇな。なんでも向こうさんは世界地図を作りたくないとか。他は向こうの冒険家が残した日記とかで明らかになってるようなもんだな」

「はいはい脱線脱線。その蒸気技術の発展した中で、排気煙によって肉体の形質そのものを変化させられたんが、さっき言った『狗狼(マティスム)』、犬っぽい人や『猫虎(プセール)』、猫っぽい人などの『幻想人種』が生まれたんや」

 

 幻想人種。

 今でこそ、そこそこ聞く名前。

 曰く、猫の腕と耳を有する身軽に動く者。

 曰くケンタウロスやらリザードマンやら、ゲームでよく見るような人種もいる。

 事実、日本の何処かに幻想人種の学園があるとか。

 

……海洋学園都市があるってだけでもこの前驚いたのに……今度は嘘屋のスチパンかよっ!

 

 海洋学園都市。

 そこには曰く魔法だとか超能力だとかがあるという。

 フランスの海洋学園都市とは姉妹校らしいが……

 

「まぁ、こっちから見た感じは……『観光目当てで日本に来る外国人』みたいな見方してるからな。主に地球側は」

「あ、その例えスゲェ納得」

「治安とか住み易さとかで来るようなもんやなー」

 

 

 

 

 

「――この世界、何個クロスしてんだよコレ」

 

 聖刃の呟きは再び増える客の喧騒に呑み込まれていくのであった。

 

 

 

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『・――(ひかり)、光源氏を企てる』

 

 海鳴にはいくつかの剣道場がある。

 その中の一つ、『吉野御流合戦礼法(よしのおんりゅうかっせんれいほう)』を学ぶ道場がある。

 かつて一子相伝から血族の男児……今の時代に置いては男女隔てなく学ぶことができるものの、習う技術の数は格段に少なくなり、泳法体術甲冑刀法の中で人間として学べる技のみを伝授させることとなった。

 そんな道場の長女、湊斗光(みなとひかり)……過去において『最大級の親子兄妹喧嘩』をした『湊斗光(みなとひかる)』が縁側で首を捻らせていた。

 

「んむむ……んん~むむむぅ……」

【……何を難しい顔をしているのだ? 御堂よ】

 

 とある友人に造ってもらったインテリジェントデバイス『二世村正』の声が胸元から響いてくる。

 その呼び掛けに(ひかり)は、いやな? と答える。

 

「この時代に転生したはいいが、昔のように『ぱわー・いず・じゃすてぃす』ではないだろう? いくらこの『(ひかる)』が丸くなったとはいえ、修練(たたかう)以外に暇を潰せるものが無いなと思ってな」

【学び舎はどうした御堂】

「学生の本分故、それは暇潰しとは言わないだろう。宿題はその場で終えてしまうし、私が相手できるのは『両親』かあの『ぐーたら巫女』ぐらいだろ? ――んぁぁぁあああ! 暇だぁぁぁ!」

 

 寝転がりジタバタ暴れる(ひかり)に対し二世村正は溜息一つ。

 

【弟はどうした弟は。御堂を慕っているだろうが】

 

――その時、(ひかり)に電流走る。

 

「待てよ……? 影明なら、オレの理想の影明になれるのか……なんで悪鬼スマイルを受け継いでるのかは知らんが、影明をオレの望むように――ぐへへへへ! これは名案だ! 何が法律か《自主規制》バンザーイ!!」

【ま、待て御堂! お主なにかよからぬことを――というかここ外だぞ!? 変なことを口走るな!】

「かっげあきぃー! まってろよぉ~! お姉ちゃんがお前を愛しにイクぞ~!」

【に、逃げろ御堂の弟ー! 超逃げろー! 間に合わなくなっても知らんぞーッ!】

 

 

 ……数分後、虎っぽい後輩と糸目の先輩、赤マフラーの似合う同級生を連れた弟に姉が襲いかかり、道場が半壊するのを巫女は目撃する。




・短編一
聖刃の言う通り嘘屋スチパン込み。
この作品は何個クロスしているのかな(棒)
ちなみになのはさんは一回もしゃべってない。
真剣に聞いていたご様子。

・短編二
まさかの原作転生ツルギひかる。
悪鬼時代とかが日誌として実家に残ってて「流石オレの景明だな!」という面と「郷に入っては郷に従え」精神が働いて丸くなってると思ってください(震え声)

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