回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

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今回一部独自解釈とかかなり濃いめです(特に後半)

なぜか主人公の設定話になると話が進む進む。
――さて、第一部の終わりが見えてきたかな?

2014/05/29:次回予告サブタイ変更


三十二話「ネームイズ」

 結果的に言えば後から合流した聖刃を含む後続部隊が(あやし)を捕縛した。

 魔力ダメージにより昏倒している(あやし)の顔は、何故か安心しきった顔をしていた。それがひなたにとっては、とても印象的だった。

 

 これ以上の魔力消費を抑える為、ひなた達は飛ばず最奥の間へと走っていた。

――そして、辿り付いた。

 

 

「母さん!」

 

 フェイトの、プレシアを叫び呼ぶ声。

 プレシアはゆっくりと、アリシアの体が入ったカプセルから視線の先を変える。

 

「――何をしに来たの」

「貴女と、話に」

「そんなことの為にここへ来たの? ……ほんと、愚図な人形ね」

 

 目を細め、罵る口は何も映さない。

 あとから合流したアルフが飛び出そうとするも、『なのは』に止められる。

 フェイトはそのまま言葉を続ける。

 

「何と言われようと、私は貴女と話に来ました。今までの事、そしてこれからの事。今まで話せなかったこと全部」

「何を話そうと言うの? あなたに植え付けたアリシアの記憶は偽りの記憶、あなたの存在さえ、紛い物だと言うのに」

 

 紛い物。

 それがフェイトの始まりだった。存在その物であった。

――そうだった。『あの子』たちに会うまでは。

 

「でも、私がこの地球で出会った人々、私が学んだこと、私が思ったこと。私が『フェイト・テスタロッサ』として記憶してきたことは、全部紛い物ではない――そう思うんです」

 

 たかだか始まりが違っただけ。

 そうフェイトに思わせるまでに、地球は――海鳴はそれほどに濃密な時間をくれた。

 友人を。思い出を。フェイトである証を、充分にもらった。

 

……あの子たちに会ってから、『(フェイト・テスタロッサ)』が始まっていたんだ。

 

「『アリシア・テスタロッサ』の紛い物だから『貴女の娘』という訳じゃない。私は『フェイト・テスタロッサ』で、貴女の娘です」

 

 プレシアの、僅かな変化には誰も気付かなかった。

 ただ一瞬。ほんの一瞬だけ――プレシアが悲しげな笑みを浮かべた。

 それからは、ただ、笑みを浮かべていた。

 優しげな、愛おしそうに、母のような笑みを。

 

 

「あなたは、ほんと……あの人そっくりね」

「――え……?」

「まったく、どっちも私に似ないわね。アリシアは底抜けに元気なところを、フェイトは生真面目なところを」

 

 先程とは一転して、朗らかに苦笑するプレシアに対し、なのは達も……ひなたでさえ目を見開いて驚いている。

 ついさっきまで『冷酷に狂った科学者』であった面影が一変、『ただただ苦笑する母親』としての顔を出したのだ。

 

「ああ、でも……顔立ちは私似ね。美人を約束された顔だわ。うん」

「――はっ。いやいや待て待て待て! 何が、ちょ、はぁっ!?」

「あらおかえり天然ジゴロさん」

「さらっと日野さん罵られましたァッ!?」

 

……えっと、つまり……

 

「演、技……?」

 

 ここにいるほぼ全員の思考を代弁するように、混乱する頭から冷静さを搾りだして何とか口にするクロノ。

 絞り出した声にプレシアは世間話でもするかのように簡単に答えた。

 

「まぁ、そうね。でも実際演技し始めたのはリニス――ああ、私の元飼い猫で元使い魔ね? それの契約が切れた翌日よ。ざっと……そうねぇ、一年弱かしら」

 

 一年弱。そう、一年弱の間プレシアは、誰にも気付かれず狂乱の演技をし続けていた。

 その演技力と根気に驚かされる一同だが……

 

「え? ……ええ?」

 

 誰よりも驚いているのは、フェイト自身だろう。

 ある意味一番近くにいた人間が、悪い意味ではないとはいえ騙されていたのだ。

 

……結果上、裏切られた……か。こんな原作回収知るかよ……

 

 思わず顔を歪め、重くなる頭を支えて溜息が出る。

 事件が始まってからと言うもの、乖離は多々在ったが大筋は外れていなかった。

 温泉の戦い、オフィス街での戦い、管理局の介入、海上の協力戦、海上の決闘、『時の庭園』突入戦。

 どれも『原作』中の大イベントで、市街大樹戦を除いたものだとしても『原作』以上に内容が濃厚過ぎると言いたくなる状況だったが……

 

 しかしその中でも、『原作』開始直前辺りから目の前の女は、プレシア・テスタロッサは狂気の演技をし続けていたという事実であったということに、聖刃他転生者達は驚きを隠せなかった。

 クロノを通し、アースラや協力者たちにモニターされた先……アースラクルーは開いた口が塞がらず、何故か(めぐり)とはやては笑い過ぎて窒息しかけていた。

 

『あああかん……ッ! い、怒り通り越してッ……腹が、腹が(よじ)ッ……フヒィッ』

『くそぅ……ッ! くっそぅ……ッ! 平成、入ってから……フフッ……ここまで、ふっと……クフゥッ……吹っ飛んだやつは、いなッ……かったな……ブフゥッ』

『頭脳組沸点低くないデスかこれー』

『ほら、二人ともスイッチ入ると箸落ちても笑うから……』

『酔っ払いじゃないデスかそれッ!?』

『そこで笑い転げてる馬鹿二人は兎も角、プレシアっつったっけ。……おっと……話はとっ捕まえてからよ。そうよね? 艦長さん』

『え、ええ。……プレシア・テスタロッサ。貴女を拘束します』

 

 余計な部分はあったものの、とりあえず事件に収拾がつく。

――そう、全員が思っていた。

 大きな振動が、『時の庭園』を襲ったのだ。

 

「うぉわっちッ! 何だなんだ!?」

「ジュエルシードの暴走が抑え切れてないんだろ多分ッ! ……くっそ、全員アースラに戻るぞ! プレシア、アンタもだ!」

 

 聖刃の焦る様な声にプレシアは、至極冷静に答えた――無理だと。

 さっきとは打って変わって、その顔には「仕方ない」という苦笑が浮かんでいた。

 

「戻っても裁判中に死ぬだろう(倒れる)し、アリシア置いて行けないし」

「でもアンタがいなきゃ……!」

「大人の言葉、聞き分けなさい。聖剣の坊や……これは――償いなのよ」

 

 誰の、とは言わない。誰も彼も、その意味を自然と察したから。

 それでも、それでもと顔を俯かせる者や苦々しく顔を歪ませる者もいた。

 そして、ある者も……

 

「――で……」

「……」

「そんな理由で別れるなんて、納得できるかよ……ッ!」

 

――日野ひなただ。

 抑えきれない感情からか、ひなたの体から赤紫色の靄が漏れ出ている。

 その理由は、協力者側の少年少女はよく知っている。

 

 日野ひなたと八神はやては似ている。

 境遇、好み、その他諸々が似通っており――自他共に認める相互依存症だ。

 

 高町なのはは知っている。

 二人との仲は一番早く、互いに最初の友達となった三人。

 だが一番酷い時期だった時は過呼吸、情緒不安定……挙げれば(きり)がないほど酷かったのを、なのはは知っている。

 友人が増えた今となっては少しずつ改善されているものの、時折思い出したかのように『あの頃の症状』に戻る時がある。

 事実、ほんの数週間前の油断した時に『なっていた』のを憶えている。

 

 原因は、双方の肉親が自らの知らぬ場所で死んだこと。

 この自覚ある双依存が休学の主な理由だと、ひなたが語っていた記憶がある。

 

 だからこそ、目の前で親に置いていかれるという状況が、誰よりも許せなかったのだろう。

 まだ間に合うはず。一定を超えれば助かる。これからもやり直せる場所にいる。

 それなのに、償いと言って別れを告げるプレシアが、許せないのだろう。

――日野ひなたと言う少年は。

 

……だからこそ、私とは違うんだと思える、のかな。

 

 過去、両親や兄姉(けいし)が居なくても『良い子』でいられるから、と心を偽った自分とは違う。

 記憶の底で眠る過去の自分と、周りにいる友人たちと比べて。

 

 

――閑話休題――

 

 

 ひなたの様子に、プレシアは目を閉じてやれやれといったように優しく諌める。

 

「我儘な男の子は嫌われるわよ」

「取り替えしのならない事よりはマシだ」

 

 しかしひなたは聞かない。

 このまま何もしなかったら、フェイトに悲しい別れをさせてしまう。

 誰かが悲しい顔をして、自分の心まで痛むことになるのは、もう嫌だと思うから。

 

「あんたがいなきゃだめだろう! あんたが頑張っていたからフェイトは頑張れた。あんたに笑ってほしいからフェイトは戦った! あんたがいたからフェイトはここまで来れたんだッ!!」

 

 例え対立した相手でも、知り合ったあの日から日の空いた友達であっても。

――否。あの日あの時に『友達』になったからこそ、放っておけるはずがなかった。

 

……俺たちが見てきたフェイト(少女)は、間違いなく本物(フェイト・テスタロッサ)だと思いたい……いや――

 

――そうだと伝えたいから。

 どこかで見てたかもしれない。でも、それでも。

 今から伝えるのは、伝えたいと思うのは……『自分たちから見て、感じたフェイト・テスタロッサそのもの』だから

 ついでに伝えてやろう。どんな状況、どんな環境、どんな時であっても――

 

「俺たちがいるから大丈夫だと? フェイトなら大丈夫だと思ってんなら大間違いだッ! どんだけ心が強くても、どんだけ魔力が高くても、どんなに体が強くても……」

 

――俺たち(子ども)は、何処までいっても親といてぇんだよ……ッ!

 優しく育ててくれた親と別れることなど、『本当は』寿命以外在ってはいけないんだ、と。

 

「それは、いつだって同じ結果(こと)だ」

 

 

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 目の前の少年は、そう、確か『ヒノ』だっただろうか。

 ……なるほど、確かにあの人たちの子だと、そう確信した。

 

 父親譲りの力強い瞳に、母親譲りの不屈の精神。

 どれほどまでの愛情が注がれたか、容易に想像ができる性格をしている。

 

 いわゆる『置き土産』というものだろうか。

 会えなくなってから二十年そこらだが、まさしくあの人たちの子だと思えるのは私もあの人たちが好きだったのだろう。

 ……それも、私が狂う理由の一つだったのかもしれない。

 

 科学者が言うには似合わないだろう『運命』という言葉。

 母親としてなら言ってもいいのだろうかと思うが、思うことにしておこう。

 

……フェイト(私の子)ひなたくん(ヒノの子)が出会うことは、ある意味運命だった、と。

 

 

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「――そうね、でも」

 

 小さな肯定の言葉。

 しかしそれの続きは残酷なものだった。

 

「さよならよ」

 

 亀裂が走り崩れる床。

 その直下は――虚数空間。全ての魔法を使用不可能にし、重力の底へと限りなく落ちていく魔導師の墓場。

 

 ひなたの視界には、ゆっくりと苦笑したまま虚数空間へと落ちていくプレシアとアリシアの体が入ったカプセル。

 一度目は見届けることもできなかった。今度は、手が届くのに――届くと、思ったのに。

 僅かに届かない手が、虚しく空を切る。

 

――救えなかった。小さくて大きな事実が、ひなたに圧し掛かる。

 

 

 

 

 ……はずだった。

 

 

 

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 落ちる。落ちる。落ちる。

 下へ、下へと落ちていく。

 傍らには、ただ眠り続ける娘の体が入ったカプセルのみ。

 

……このまま死ぬ、かぁー……

 

 死ぬ直前に、良い物が見れたと思う。

 目を見開くぐらいでしかなかった無表情の少年の顔が、額が、確かに歪んだのを。

 フェイト誑かした罰だばーかと思う親ばか(馬鹿親?)の心に反して、ごめんね、と思う伯母としての謝罪の心がある。

 

――しかし、と思う。

 あの瞳。悲しくて悔しそうな感情を込めた目が、夫を思い出した。

 最後に見せたのは、実験中に失敗して、髪色とかが変質して体に異常がないか検査入院した時だったか。

 

……俺がいながら、とか、俺がもっと近くにいればとか……そんなこと言ってたわね。あなたは。

 

 自分の単なるイージーミスだと言うのに、心の底から心配してくれたあなた。

 まだ赤ん坊だったアリシアにも心配されて、ようやく落ち着いて……

 そこまで思い出して、やはり彼はセイジくんの息子なんだと、改めて再確認した。

 

 ……せめて。

 せめて、フェイトのウェディング姿は見たかったと、今更叶わない願いが浮かぶ。

 だったら、アリシアも一緒に、その姿を眺めていたいと思う。

 新しく生まれた『妹』として受け入れたフェイトを、一緒に。

 

 

「それも、今更ね」

 

 落ちる。落ちる。

 下へ、下へと落ちていく。

 

「――ほんっと……私は、気付くのが遅すぎる」

 

 

 

『本当ね。馬鹿みたいに遅いわね……今の状況に気付かないのも』

 

 声が聞こえた。

 自分以外の、アリシアと自分以外の少女の声。

 

 それも、金属でできた空洞の中から響くような声。

 周囲を見回すと、赤と白の、ギアナイトと意匠が似た鋼の人型。

 彼らの仲間の一人だ。

 

『自己紹介も何でここにいるかは……あー、後者は言うわ。ぶっちゃけ武者は魔導師とかじゃないし、使ってるエネルギーもリンカーコアとかヘンテコでもないわ。そうね、あんたたちにとっちゃ鎧型の質量兵器とでも言えばいいかしら』

 

……はい?

 

 つまり、この目の前にいる人型(少女)の動力は魔法ではないものだからここを……

「飛 ん で る ッ !?」

『そういうことよ。見ればわかるじゃない』

 

 腕を組み、恐らく溜息を吐いているだろう目の前の人型(少女)。

――なぜだか……いや、確実に魔導師としての常識を砂になるまで壊された感覚がした。

 

『ま、そういう訳だから。あんたと、そのでっかいの……回収するわよー』

《《御意》》

「えっ、ちょっと、ええっ!? あれー!?」

 

 

――ぶっちゃけた話、あんな別れ方しといて平気な顔して戻れなかった。

 

 

(※数分後、真っ赤になった顔を手で隠したプレシアが(蛍雷)に担がれて虚数空間から引き揚げられた)




・天然ジゴロ
副作用で鈍感と言うバッドステータス(回復不可)が付く特殊称号。
例外もいる模様――が、かなり希少であるか、若しくは天然ジゴロではなく計算づく。

・原作回収
決め(最低限)られた(原作への)運命(作者の)道標(礼儀)とも。
誰が言ったか謎だが、「隠された(未知)を辿る既知の道」と言われていたりする。

・少年少女の依存症
頼れる人がいない。しかし迷惑も掛けられない。
自然と形成された『歪んで隠された』関係。
治る日は来るか否か――

・夫(アリシアの父)
性格は違うがあの人(ヒント:ひなたの父(一撃必殺)の兄弟)
プレシアとひなたの母が取り合い、プレシアが勝ち取り、慰めたひなたの父が母に喰われた(性的な意味で)

・対虚数空間=物理(武者)
伏線でもなかったものが伏線になった瞬間である。
実質彼女がいなかったら原作通りの「さようなら」になっていた。

・赤面で帰ってくる母(伯母)
この終わり方こそ魔導右腕!(眼逸らし)




 戦いは終わった。
 しかし、世の中には別れがあると言うもの。
 だが心配ない。

次回、回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)
第三十三話「高町なのはと日野ひなたとの、フェイトテスタロッサの約束」

 この別れは、決して永遠ではない。
 また、きっと、すぐに会えるから。
 今は「またね」と言い合おう。

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