回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

35 / 70
お ま た せ (白目)

ほぼ三カ月ぶり。
最後辺りの表現に悩みに悩みスランプになってました。
前よりも速度は落ちるやもしれませんが、頑張って書こうと思います。

・・・。
――まりちゃんのデバイスフレームどう確保させようかな……


二十八話「装甲巫女蛍雷 蛍火編」

 アースラの艦首。

 そこではオペレーターであるエイミィと、その手伝いをするはやてと巡の姿があった。

 

「聖刃くん戦闘終了! 後方部隊の一部送って手当させとくね」

「エイミィ、あやつは勝手に全快する故、そのまま捨て置け」

『ひでーっす師匠!』

 

 映像の向こうで壁に(もた)れ掛かる聖刃が悲鳴を上げるが、当の本人()は知らん顔でオペレートを続けている。

 その一方で、はやてはβチームのオペレートをしていた。

 

「βチーム目標地点到着。βチームは装置を設置後、連絡あるまで周辺警戒、お願いします!」

『任せてよ、はやてっち~。オマエラ~! ちゃんとまわり見てろよ~!』

『『イエスマム!』』

 

 某旧便利ロボットとか某鬼畜クマのような声で隊員に指示を出していくβチームリーダーに対し、隊員たちはキビキビと持ち場へと向かっていく。

 

……流石本職さんやなー。

 

 映像を見てるだけでも、βチームの統率が見事だということは素人のはやてでも理解できた。

 エイミィ曰く、βチームの隊長は艦長であるリンディと同期で、幾多の次元犯罪者を検挙してきた大ベテランらしく、この事件を最後に前線から退くとのことらしい。

 何でも、家事に専念したい……つまり、『事件現場から家庭に転職する』と本人は冗談交じりに言っていたとのこと。

 

……結構、パワフルな人なんやなー。

 

 次元世界だ何だとごちゃごちゃ言っても、結局は人であることには変わりない。

 それこそ、フェイトの様な境遇とて、地球ではあったかもしれない例の一つ。

 本当に『魔法』がある世界も、在るのかもしれない。

 そう考えてみると、管理局に貸しを作って、平和な次元世界に友人たちと旅行に行くのも悪くないかもしれない、と考えてみるはやて。

 

……我ながら良い考え――もとい、黒い考えやな……

 

 そんな最中だった。

 モニターの向こうから、悲痛な声が聞こえてきたのは。

 

『な、なんだコイツ――堅い!?』

『ウソだろ!? 防御魔法の魔力反応すらないんだぞ!』

『魔法が――通らない!?』

「βチーム、応答を願います! どないしたんですか!?」

 

 βチームが映しだした映像には、十体の傀儡兵が次々と魔力弾が弾く姿が映し出されている。

 姿は歩兵型の傀儡兵と変わりない、そこそこ重厚な鎧姿。

 先程まで撃退できていた歩兵型傀儡兵が、同じ様子のはずの傀儡兵が、効いた筈の攻撃を弾いていく。

 

『今までと同種と思われる歩兵型に射撃魔法が通じない! さっきまで同じ奴に食らわせていた攻撃が――全然効かない!』

『各員、防御と回避に専念だよ! 攻撃が聞かないとわかった以上、装置に近付かせないように誘導するんだぁ!』

『『――イエス、マム!』』

 

 隊長の言うとおりに隊員たちは動いていく。

 しかしその他方、エイミィたち側でも同じような事態が起こっていた。

 

「が、γチームもβチームと遭遇したと思われる歩兵型と接敵!」

「αチームも同様じゃ! こやつらは一体……?」

 

 各自を襲った、謎の歩兵型傀儡兵。

 突然の事態に、はやての思考は止まってしまった。

 

……どないする、どないするんや八神はやて!

 

 必死に考える。

 撤退? ――否、逃げれば装置は野晒(のざら)し。あの装置は作戦の要である。

 現状維持? ――否、隊員たちの体力が持たない。

 援軍? ――否、そもそも援軍の攻撃が効くとは限らない。

 

 どうする。どうする。どうする。

 浮かんでは消えて、消えては浮かんで。

 頭の中は同じことの繰り返しが続く。

 

 何か。何かないのか。

 体が震える。呼吸が覚束(おぼつか)ない。瞳孔が開く。

 汗が止まらない。なんだあれは。なんなのだあれは。

 動機が治まらない。視界が揺れる。身体が竦む。

 

 倒さなくてはいけないモノ、触れさせてはならない存在。

 通常の傀儡兵とはかけ離れた最悪の存在が、彼らの目の前にいる。

 

 これでは前の焼き増しだ。初めて『敵』と遭遇した、あの時の。

 あの時と、似てしまった。……似て、しまった。

 

……――そうや。あの時も。

 

 あの時も、『彼』は諦めなかった。

 体を震わせ、顔を青褪めても尚、『彼』は諦めようとしなかった。

 

――諦めない。諦めない。諦めない。

 その言葉を頭で反芻させる。

 その目で、その耳で、その心で。

 何か感じ取れるものはないか。未だ僅かに震える指でコンソールに触れる。

 

 不屈の傀儡兵。

 通常の方法では破壊不可能。

 

――ならば、

 

 

……その動きを見る。

 

 

 βチームの攻撃は、幸いにも全方位から注がれている。

 しかし、全方位からの攻撃さえも効かない——はずだった。

 

 数回ほど、後ろ向きのまま剣や斧で背負うように防いでる場面があった。

 意図的に防いでいる場所……そこには——うなじに当たる部分に、脊髄のように束ねられた、むき出しのコードの(たば)がある。

 

 

「八神はやてです! 全部隊に通達、仮称歩兵型改の弱点は首筋の複数のコードです! 首筋のコードを破壊してください!」

『『『了解ッ!』』』

 

 

 画面の向こうで誘導弾が、魔力刃が、砲撃魔法が歩兵型改の弱点を潰していく。

 弱点を砕かれ、切り裂かれた歩兵型改の動きは止まり、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

 

 間に合ってよかった。

 思わず安堵の息が漏れたのを感じた。

 

 そんなはやてに、エイミィが声を掛ける。

 するとエイミィは、はやてに向かって勢い良く親指を立て(サムズアップし)た。それもいい笑顔付きで。

 よくやったと言いたいらしい。

 はやては応えるように、精一杯の笑顔でサムズアップを返すのだった。

 

 

 

/>

 

 

 

  突如として驚異的な防御力を誇った『歩兵型改』を、はやての機転により見事撃退した突入チーム。

 トラブルに見舞われながらも、第二目的である『装置』のセットを完了するのだった。

 

『αチーム、装置の設置を完了した』

『βチームも設置完了だよ~』

『γチーム、設置完了』

 

 各チームの第二目的が完了したのを確認したエイミィは意気揚々と手や首をパキパキと鳴らす。

 

「おーっし! エイミィさん頑張っちゃうよ~!」

 

 その途端に、エイミィの周囲を複数のホログラムキーボードとホログラムウィンドウが囲う。

 普通の人間では当然処理しきれないような操作画面だが――エイミィ・リミエッタ自身は可能とさせる。

 

「オペちゃん、一丁(いっちょ)頑張るよ!」

【了解。でもオペやめい】

 

 エイミィの目元をバイザーが覆い、両腕の甲側をガントレットのような装甲が覆う。

 これが非戦闘員で唯一のエイミィ自身が持つカスタムデバイス。

 直訳で『操作司令官』の名を冠する【オペレーション・コマンダー】である。

 規格こそストレージデバイスだが、処理速度を上げるストレージコアを二つ、学習能力を持つインテリジェントコア一つを搭載した【トライコアシステムデバイス】となっており、通常のストレージデバイスよりも倍以上の処理速度を持つ。

 片方のストレージコアが新品で、もう片方のストレージコアと完全初期化したインテリジェントコアの中古二つとはいえ、デバイスコア三つの事例は少なく、コア自体も中古自身、相当な値段がする。

 貯めに貯めた貯金をほぼ全て使い、交換条件を出してもらった上でようやく手に入れたトライコアデバイスの処理速度は凄まじく、仕事効率がかなり上がったのは記憶に新しい。

 

 尚、余談だが造ってもらった後のしばらくは仕事を増やし、クロノに食事面で大きく借りを作ったのだとか。

 

――閑話休題。

 

 

 指の触れていないキーまでも動いている、実質二人以上の動きをするエイミィのタイピングスピードは想像を絶するほどの物であった。

 それ故に、装置が発するプログラムの発動は――すぐに起こった。

 

「ジャミングプログラム!」

第一起動(ファースト・スタート)

 

 起動までの所要時間。

――僅か三十秒。

 

 三か所に設置された装置から発せられる妨害波動(ジャミング)の波が傀儡兵だけでなく、事前登録外の魔力の動きを阻害していく。

 次に発せられたのははやての声。

 

「先行部隊の武装局員はそれぞれ、α2(アルファツー)β2(ベータツー)γ2(ガンマツー)と交代し、アースラ内にて待機を!」

『『『了解!』』』

「クロノ執務官、及び現地協力の(みな)は引き続き装置の一時護衛、及び内部進攻を続行してください」

『『『了解ッ!』』』

 

 事務連絡を終えたはやては、それと、と一言αチームの連絡に付け加える。

 

「『カップ麺が出来上がる頃にぶっ放す』って言伝(ことづて)来とるからクロノくんたち気を付けてなー」

『……了解だ。相手が残っていたら覚えておくと伝えてくれ』

 

 

/>

 

 

 

「180秒後に最大火力()()が投入される! 残飯処理させられるような奴らではないからな、上品に喰い散らかせ!」

「「了解ッ!」」

 

 クロノの号令によって武装局員達が次々と傀儡兵に対峙していく。

 そしてそんな最中(さなか)、ついに参戦する者がいた。

 

一根(かずね)二枝(ふえ)。いくわよ」

《《諒解》》

 

 鈴を中央に劔冑二体が並び立つ。肩幅に足を開いた仁王立ちの鈴が胸の前で合掌し、言葉を紡ぐ。

 それは『装甲の構え』と『誓約の口上』だ。

 

「『(とも)せ照らせよ命の灯火(ともしび)(あわ)く輝け(とうと)き光。この身鋼(みはがね)は命と共に在り!』。

『雷光一閃。空を断ち、雲を裂き、(いかづち)を斬る輝きの(はがね)紫電清霜(しでんせいそう)御姿(みすがた)を括目せよ!』」

 

 鉄錆色の団子虫と朱鉄色の天道虫が互いに細かいパーツに分裂する。

 その姿は鎧武者だ。大きな装甲部分が全体像を大きく見せるが、体の造形自体はそこそこ細身に見受けられた。

 見る者が見れば、一見紅白の陰陽印にも見えただろう。

 一部の鉄錆色が光を反射して色を白くしているようにも見えるし、シンプルかつ均等に分けられた配色が尚のこと思わせる。

 

蛍連鉄(けいれんてつ)正常稼働。繋ぎ目の誤差、正負三(ぷらすまいなすさん)

《御堂。通常運用での稼働時間は五分。陰義(しのぎ)を使うなら極端に下がるからな!》

「五分でも充分。私たちの速さなら一二分(いちにふん)でも十二分(じゅうにぶん)でしょ」

 

 

 深呼吸を間に置いた鈴の顔は歓喜に満ちていた。

 二体の欠損劔冑を掛け合わせ、一体の劔冑となった鈴の劔冑……『蛍雷(けいらい)

 装甲は完全に繋がっている様にも見えるが、その実、繋ぎ合わせな空中分解しかねない脆さと(いびつ)さを持ち合わせていた。

 だがしかし、それでも劔冑二体分の恩恵はある。

 かの風魔が扱ったとされる劔冑、『月山従三位』は完全な三位一体とされている。

――そう。劔冑二体分、つまり陰義二つ分という恩恵だ。

 

 陰義二つ分に加え、主武装である腰の両脇に備えられた太刀二本を引き抜いて、背中のブースター……否、『合当理(がったり)』を吹かす。

 

《ひ ふ》

 

 上空へと飛翔した(蛍雷)の通り過ぎ様に、飛行型の傀儡兵が二体切り捨てられる。

 

《み よ い》

 

 振り向き様に放たれた三筋のレーザーによって背を追う飛行型が三体、貫かれた。

 

《む な や》

 

 本来の刀身よりも遥かに伸びた片方の太刀を手にした急降下の突きは一体の歩兵型に突き刺さり、そこから水滴が跳ぶように刺された歩兵型の破片が、すぐ近くにいた傀儡兵を蜂の巣に変えた。

 

《ここの、たり》

 

 一根の言葉(かぞえ)が終わるのと同時に、雷切の太刀が極光と言わんばかりの輝きを見せ、蛍丸の太刀からはエメラルドの淡い光が静かに放たれる。

 

《ふるべ ゆらゆらと、ふるべ》

 

 二枝の言葉に呼応するように、輝きと光は蛍火へと変化する。

 

二刀燐光(にとうりんこう)……」

 

 

――火蛍(かけい)飛狂魔(ひぐるま)

 

 

 縦の一閃を元に奔る剣閃が傀儡兵の胴を切り裂き、横払いの火の衝撃波が直線上の傀儡兵を燃やし尽くしていく。

 斬り崩れ、焼け落ちる傀儡兵を見やり、(すず)は装甲を解除する。

 

「後の事は任せるわ。残るは貴方たちの仕事だけ……気張(きィは)りなさい」

 

 今はいない――否、傀儡兵の残骸に紛れて先へと進む二つの光に、(すず)は言葉を漏らすのだった。




・某旧便利ロボットとか~
モノクマこわいでしょう・・・

・謎の歩兵型傀儡兵
イメージとしてはザクⅠがアプサラスⅡになったようなもん。

・必死に考える~
イメージは神話生物系ヒロイン(♂)と夜のロンドンを男前な主人公(♀)が走り続けるゲームから。

・オペちゃん
ひっそり魔改造その三(一はなのは、二はフェイト)
情報処理なら作中一。
何気に主人公の姉に繋がりがあったりする。

・誓約の口上
完全オリジナル。
本編よりも先に早く決まった。



クラスのムードメイカー(次点)(かっこじてん)、天野まり!
自称天才錬金術師、天野まり!!
虫とこんにゃくが嫌いな小学三年生、天野(アァマァノォ)まりッ!
その踏み込んだ世界でどう生きる、天野まりッ!!

次回、回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)
第二十九話「マリガウツ/メイガスナイト」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。