回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

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お ま た せ (二回目)

ついにギアナイトとの決着。
衝撃の真実デスよ!

気付けば一万字近く。ヒエー
次回少しお休みして、別小説として各登場人物のwikiっぽい設定を紹介。
次回は二月か三月か……うぬぬ。


二十七話「銀き鋼のギアナイト」(Part:B)

『ぜぇぇぇいッ!!』

 

 大声を上げて仕掛けてきたのはギアナイト。

 勢いを生かした打ち下ろし。

 その勢いと、機械とは思えぬ気迫によって降り下ろされた斬馬刀は、聖刃にとって実際の刀身よりも巨大に感じるほどの錯覚を帯びていた。

 単純明快で、純粋な威力の打ち下ろしに対し、聖刃は――刀身を立てた。

 

「っぐぅぅぅ……!」

『ぬぅっ……!』

 

 身体を僅かにずらし、二の腕の外脇に立てた刀身によって斬馬刀の刀身を滑らせる。

 火花を散らしてナイト・セイバーの刀身を過ぎていく斬馬刀を、ギアナイトは人工筋肉の出力を無理やり上げて刀身の方向を変える。

 すると突然、ガチンと言う音と共にギアナイトは上半身をぐるりと回し始めた。

 時計回りで風のように薙いでくる斬馬刀の刀身を、聖刃は右腕の装甲にシールドを張ってギャリギャリと音を立てて逸らす。

 

「なんとインチキ……!?」

(われ)が剣と機巧(からくり)だけと思ったら大間違いだぞ騎士の(わっぱ)ァ!』

 

 斬馬刀を持った右腕の後続、左腕が黒い球を伴って潜り込んでくる。

 その先は右の脇腹。右腕を上げて斬馬刀を逸らした聖刃の右脇腹は、この上なく無防備であった。

 直後、聖刃の体内を数種類の鈍い音を立て、激痛が走る。

 

「ゥガッ……!?」

『貴様に見せるのは三度目か。冥途の土産に懇切丁寧かつ簡潔に教えてやろう。これが――』

 

 

――延拳(えんけん)重黒球(じゅうこっきゅう)

 

 

 聖刃の右脇腹に拳がめり込んだと思いきや、今度は弾かれるように拳の延長線上にある壁へと激突する。

 そんな左手を開閉させながら、くっくっと笑うギアナイト。

 

『あの小悪党は性格こそ小悪党だが、技術だけは本物よ。甲鉄改組では再現しきれぬ珍妙不可思議な技が使えるのは実に僥倖(ぎょうこう)

 

 劔冑でなければできた動き。武者でなければできた動き。仕手がいないからこそできた動きを、ギアナイトは手に入れた。

 しかし、だがしかしであった。

 

『だからとて、正義を成せぬこの身を、この吾が許容できようか――(いな)ッ! 断じて否であるッ!』

 

 始まりは、正義感が強いだけの警官であった。

 己が身を(わきま)えず、私欲の(にえ)とされたのが、本当の始まり。

 始まりの記憶も無しに、幾度と繰り返したかもしれない柔肌と甲鉄の時代。

 その都度思い出す原因は相対する【赤い武者】との対峙だ。

 その度思い出すのは、学生服に赤布(マフラー)の……最後の仕手。

 

『立てぃ! 騎士の童ァ! そんな貧弱な剣で騎士を名乗れると思うなァ!』

「ンなこたァ……知っている!」

 

 粉塵を立てる壁の瓦礫の中からクラレント・セイバーを携えて飛び込んでくる聖刃。

 その様子に、ギアナイトは歓喜の声を上げる。

 斬馬刀と重厚寄りの大剣がぶつかり合って風圧を発生させる中、ギアナイトは大声をあげて笑っていた。

 

『キハーッハッハッハ! それでこそ、それでこそよ騎士の童ァ! 血を滾らせ、肉を躍らし、魂を奮い立たせよ! そうでなければ吾には届かぬゥ!』

 

 

……同時に、薄気味の悪さもあるがな。

 

 

 ギアナイトの感じた薄気味悪さ。

 それは、確実に右下側の肋骨を確実に潰したはずの相手が、平然と動いている。

 それも齢九つの男児だ。

 異様にも程がある。

 

 しかし、それには理由があった。

 腰背面の『黄金の鞘』……『全て遠き理想郷(アヴァロン)』である。

 持ち主に不老不死の効果を(もたら)すとされている鞘だが、実際機能しているのは『鞘』と『盾』、『自己回復』のみである。

 しかし通常の自己回復と違い、『確実に致命傷になる傷を治し、同様の攻撃を防ぐ』となっており、あくまで『死なない程度までしか回復されない』のである。

 

 

……発動したってことはバリアジャケットの上からでも相当ヤバいってことかよ……文字通りのチート改造じゃねぇか!

 

 

 肩を潰さないとバインドは使えない。

 ギアナイトの素の防御力は、幸いか、正宗本体ほど堅くはない。

 しかしそれを、(ギアナイト)が簡単に許すはずもない。

 ならば――

 

『ぬぅぅぅぅん!!』

「散らァ!!」

 

 再度の打ち下ろしを、今度は弾き返す。

 聖刃の手には――二本の聖剣。

 左手に、赤く煌めくクラレント・セイバー。

 右手に輝く、ナイト・セイバー。

 

「名付けて、【フォルム:コールブランド】ってな」

【抜かりなく、クラー】

【へっ、父上こそ】

 

 上に弾かれた衝撃で後ろに下がったギアナイトが体勢を立て直す。

 ふむふむと頷くギアナイトは上機嫌のようだ。

 

『面白い。実に面白いぞ。なかなかに滾る戦いだ! このまま倒れてくれるなよ、騎士の童ァッ!』

「ちょうど温まってきたんだ。てめぇこそスクラップ承知できやがれ!」

『「キ(ク)ハーッハッハッハッ!!」』

 

【おおう……!? なんかまずーいスイッチ入ってないかこれ】

【肋骨ボッキリとイってますからね。(たが)が外れたのでは?】

【人間、螺子がどこで飛ぶのかわからんものなのだな。うん】

 

 デバイス三機の声は、一人と一体の狂喜にかき消されるのであった。

 

 

 

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《やーっぱそうだったか……》

 そう言ったのは人間大で朱鉄色の天道虫……二枝であった。

 実は二枝を含む、この二体はギアナイト――否、正宗の元同類である。

 

 そう。劔冑の、だ。

 劔冑や武者同士が話す場合、金打声(きんちょうじょう・メタルエコー)という声になっている。

 鋼の体表を振動させ発する声……人間で言う鼓膜の振動で会話しているようなものだ。

 これにより仕手(劔冑の主、御堂とも)と会話したり、ある者の発想により武器に転用されたことがある。

 

 閑話休題。

 

「何がよ」

御堂(みどう)は無論、私の陰義(しのぎ)は知ってるよな?》

 

 陰義。

 真打劔冑にのみ許された超常の力。

 正宗で言えば、受けた陰義を同等の力と精度で返す【因果覿面】がそれに当たり、

 

「確か、【光量操作】だっけ。どんな光でも取り込んで、自分の熱量にする回復系で、刀にも熱を篭らせてヒートブレードにできるやつだっけ」

《概ねそんな感じだな。で、だ。私自身のみの限定だが、光を通じて情報を獲得できんだよ》

「(それで毎度毎度一根が用意周到なのか……)」

 

 霊峰家で最優侍女――まぁ、劔冑なのだけどだが――の名を誇る一根の秘密を知った鈴は思わず納得する。

 お茶が切れた瞬間に()ぎに来るとか諸々。

 

《それで、貴殿の陰義がどうしたんですか?》

 

 鉄錆色の団子虫である一根が本題を促す。

 

《ギアナイトは、嘗て劔冑だったらしいな。それも、かーなーり有名な》

 心なしか一根の声が気落ちしているようにも感じて、一根を訝しげに見る鈴。それをよそに、二枝がやや興奮するように捲し立てる。

 

《ほうほう、つまりは名刀ですか! で、鬼丸国綱? はたまた数珠丸ですか? いやまさか童子切や妖甲村正ではありせ……》

《正宗だ》

 

 空気が一瞬、固まった。

 

「《……はぁ?》」

 

 鈴と一根の唖然とした声が出る。

 それを気にしない風に二枝は言葉を続ける。

 

《相州正宗。正真正銘、天下一名物の乗りたくない番付一位の相州五郎入道正宗だな》

「なぁ、何で乗りたくないランキング一位なんだ? その正宗ってのは」

 

 横を走っているまりが会話に加わってくる。

 まりの問いに答えるように、一根が言葉を濁しつつ言った。

 

《簡単に言えば、文字通り『身を削るほどの正義を掲げた劔冑』です。艦首で見たあの串刺しは【穏剣・六本骨爪】……言うなれば甲鉄で覆った肋骨を使ったのでしょう。本来ならば仕手、つまり搭乗者の胸を開いて肋骨を引き摺り出す訳ですので……》

「あとは……指先を弾丸みたいに飛ばすやつとか、持ち手が炭化するまでが使用時間のヒートブレードとかだったかしら」

 

 一根の話と鈴の補足でまりの顔は心底嫌そうな顔になる。

 無理もない。まさに『身を削るほどの正義を掲げた劔冑』である証明だから。

 

《その代わり、防御の堅さと仕手の回復力は上位です。手が炭化しようが腹掻っ捌(かっさば)こうが、指先飛ばしても暫くすれば再生できるほどの回復力ですからね》

《しかしながら、その姿は威風堂々、神々しい姿であったと音に聞く。天下一名物の名に恥じぬ鎧姿、一手合わせたかったものだ》

 

 おー怖いおー怖いと口にする一根と興奮し始める二枝。

 今でこそ名を変え、霊峰家に仕える劔冑二体だが、一根は知恵を蓄えるのを趣味とし、二枝は自他とも見認める仕合好き。

 極端な二体と同様、鈴自身もまた極端な人間であることもまた一因だろうな、とまりは思った。

 

「そろそろ中継地点だ。鈴たちは作戦通りに頼む」

「解ったわ」

《《承知》》

「あいよー」

 

 クロノの指示に二人と二体の声が答える。

 地球魔導師組と管理局組の作戦が、第二段階を迎えるのだった。

 

 

 

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ZUUEE(ズゥゥェェ)EEE(エエエ)RAAAAA(ラアアアア)!!」

 

 力を左手に、追従する遠心力を右手に、身体を支点に二振りの剣を操る。

 力いっぱい左手のクラレント・セイバーを振り上げ、その勢いのまま右手のナイト・セイバーで払う。

 

 対するギアナイトは斬馬刀を巧みに操り、二振りの剣戟をいなしていく。

 

『軽い軽い! 一撃が軽いぞ騎士の童ァ!!』

 

 二刀流の利点は手数にある。

 聖刃の変則的な二刀流は長剣にて行われているが故に、刀身の長さを生かした遠心力で戦っている。

 

 しかし両手による一刀とは違い、その威力は心許ない。

 ()して右脇腹を負傷した状態だ。いくら遠心力を利用しているとはいえ、通常時の二刀流よりも非効率的になる。

 

 更に言うならば、対するギアナイトの武器は斬馬刀。

 ()して言うならば一刀(いっとう)両手持ちで、過去とはいえ武芸者(?)であり、今は機械だ。

 その威力は申し分無し。初撃を逸らした聖刃は、その威力を十二分に知っている。

 

 下手をすれば、こちらの攻撃を全てねじ伏せることも可能だということを。

――しかし、聖刃は忘れていない。自身の持つ、最大の隠し種。

 それは今、『完全』を()した。

 

騎刃想剣(きじんそうけん)流、『刃々滝(はばたき)』が崩し――」

 

 

――抜 刀 交 閃(リバースエッジ・カリバー)

 

 

 ナイト・セイバーの『雷光一閃(ライトニングカリバー)』による剣閃加速、クラレント・カリバーの受けたダメージの二割を蓄積させて自身のエネルギーとさせる特性を生かした強化魔法『我が尊き友への協力(クラレントリンクトランスファー)』により受け、流し、脇腹へのダメージ分のエネルギーを両剣の勢いに乗せて放つ上方への両切り払い。

 それはまるで、鳥が羽を羽ばたかせたかのような動き。

 それが、騎刃想剣(きじんそうけん)流、『刃々滝(はばたき)』が崩し――抜刀交閃(リバースエッジ・カリバー)

 つまり、この動きには右脇腹が負傷していると使用できないほどの力が込められる技であるということ。

 

『貴様……! まさかもう脇腹の傷がッ!?』

「劔冑時代のお前の回復力程じゃないけどな。痛みはあれど、肋骨も治って存分に動けるから差引(さしひ)き無しだ」

 

……受けてみて解ったが、あの黒い球、『術式を割り込ませる』たァかなり厄介な……!

 

 ギアナイトの放った拳――『延拳・重黒球』は拳一つ分の射程を延ばし、魔力による(おもり)を相手に叩き込む近接魔法、というだけでなく、回復魔法や強化魔法の術式に『割り込み』を掛ける副次効果があった。

 本来、腰元にある黄金の鞘……『全て遠き理想郷(アヴァロン)』の回復力は頭や心臓を失わない限りは魔力供給で瞬時に回復できるほど。

 

 しかしその魔力源から『全て遠き理想郷(アヴァロン)』へと供給される術式(ルート)に割り込み、滞る原因となり、手の空いているクラウディウス・セイバーが別の術式(迂回ルート)へと組み替えなければ、最悪戦いが終わるまで骨折したままとなり、体内で二次被害が起きていたはずだ。

 

……事件後は三機とも精一杯メンテしてやるか。

 

 自らの愛機たちには頭が下がる思いだ。

 この事件が終わったら、たっぷりと労ってやろう、と聖刃は心に決める。

 そして今は――

 

刃騎(じんき)正宗。一身上の都合により、お前を殺す(壊す)

『――カ、キハッ、キハーッハッハッハ! 面白いッ! 吾が今から振りかざすのは『吾自身の正義そのもの』(なり)! 受け止めきれるか、()()()()ァッ!』

 

 

<>

 

 

『ぬゥえいっ!』

 

 第二幕の初撃は、再びギアナイト。

 しかし最初の打ち下ろしよりも踏み込みが深く、床を叩き割らんとばかりの勢いで斬馬刀が振り下ろされる。

 

「(受け止め――否、片手持ちじゃ力が足りない。受け流し――否、踏み込みの速度が速い! なら――)クラー! 『返す』ぞッ!」

【応さ! 今までの分も合わせて叩っ返(たたっかえ)すッ!】

 

 

――我が受けし傷跡の叛旗(クラレントダメージカウンター)

 

 

 左手で逆手に持ったクラレント・セイバーが、刀身に赤い稲光を(ほとばし)らせた直後、斬馬刀の刀身とクラレント・セイバーの刀身がぶつかり合う。

 片手――それも逆手持ちで防がれたことにギアナイトは驚きを隠せなかった。

 

『逆手だと!? それにこの力は……!』

 

 左手のクラレント・セイバーで抑えている内にナイト・セイバーの方を背面腰元の鞘に戻し、背中のクラウディウス・セイバーを抜き放つ勢いのまま振り下ろす。

 

「クラウ、残存軌跡!」

【承知! 我が切先は歴史の爪痕!】

 

 

――軌跡の剣先(ラカリット・クラウディウス)

 

 

 クラウディウス・セイバーの剣閃をなぞるように橙金色の魔力光が軌跡を描く。

 剣閃が残るという魔法に不意を突かれたギアナイトは胸の装甲に傷がつけてしまう。

 

『ぬゥ!?』

 

……厄介なものよ。この『魔法』という技は……!

 

 魔法は突き詰めれば、公式を術式に、数字を構成に、回答を魔導とした一工程の技術。

かのSF作家、『アーサー・(チャールズ)・クラーク』の定義した三法則には『充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない』と書かれている。

 文字通りの『超常』とされる武者の『陰義』とは異なる、理に適った科学術式が『魔導』であり、個人の『魔法』である。

 かつての『正宗』としての生が長かった故に『陰義』という絶対基盤がある武者とは違い、術式次第で自由にできる魔導師相手には苦戦を強いられていた。

 

 ただ、唯一の救いと言えば――

 

『古城聖刃。貴様の魔法とやら……どうやら見る限りでは、条件があると見た』

「――さぁ、どうかね」

 

……おいおいおい、普通気付くかよ……!

 

 

 聖刃の魔法の条件……否、言わば『呪い』や『代償』と言っても過言ではない条件。

 

 強制魔力変換資質:斬撃。

 聖刃の放つ魔法は全て『無条件』に斬撃になる魔力変換資質。

 剣閃で遠い場所を斬り、剣戟にて防ぎ、斬撃で敵を縛る。

 

 しかしこの魔力変換には穴がある。

――そう、魔法は『斬撃』限定で発動する。

 使うとしても剣で払うスペースがない限り、魔導師……つまり聖刃自身の剣の腕が必要不可欠となる。

 ある程度デバイス達からのサポートがあるとはいえ、九歳の聖刃の体は、元武芸者のギアナイトに対しては経験面では無力に等しかった。

 

 でも。そうであったとしても。

 

……ここで負けていい訳じゃねェ!

 

 

 バック転によりギアナイトから大きく距離を取ると同時に、セイバーズ一機ずつに魔法をセットしつつギアナイトの懐へ一気に踏み込んでいく。

 

『血迷ったかッ!?』

「違うね。決起したのさッ!」

『戯言を!』

 

 

――割腹・投擲腸管

 

 

 甲鉄で覆われたコードが迫る。

 それをクラレント・セイバーで切り払う。

 弾かれたコードが動きだし、クラレント・セイバーに巻きつく。

――しかし

 

【計画通りってなァッ!!】

 

 

――我が忌まわしき者への憤怒(クラレントアンカーニードル)

 

 

 クラレント・セイバーの刀身に巻きついたコードが、刀身から生える魔力針に至るところを貫かれ、クラレント・セイバー共々動きを止める。

 聖刃はそのままクラレント・セイバーを床に突き刺し、コードをそのまま縫いとめる。

 

『ぬゥ!? 小賢しい真似を!』

【どこのコードか知らねぇが、体積に収まる分ならここが限界ラインだろ? 卑怯と笑うか? ンなもん犬にでも食わせとけ! 行けよマスター!】

「応ッ!」

『させるかァッ!!』

【それはこちらの台詞だぞ、白銀の騎士!】

 

 

――花散る天幕(ロサ・イクトゥス)

――無弦(むげん)十征矢(じゅうせいし)

――飛蛾鉄炮(ひがてつほう)弧炎錫(こえんしゃく)

 

 

 ギアナイトの両手先から十個の魔力弾と胸の中央から頭一つ分はある大き目の魔力球が放たれる。

 それをクラウディウス・セイバーで諸共一閃。

 しかし胸から放たれた魔力球が斬られた瞬間、爆発。

 爆炎が、聖刃を包んだ。

 

『今の世でこそ、鉄砲(てつはう)はよく見られるようになったが、改める気がなかったのは吾ながら不思議なものよ』

 

 ギアナイトの言う『鉄砲(てつはう)』とは、当時で言う爆弾であり、何故『鉄砲』という字になったのかは『石(土器と陶器の中間であった物)で包んだ火薬兵器』となっているとされ、『銃』が伝来してから『銃=鉄砲』という図式になったが、元々は元寇由来のグレネードであった。

 本来は威嚇目的の音響兵器と想定されていたものの、相応の殺傷能力を期待した武具であったとも考えられている。

 

――閑話休題。

 

 濛々と立つ煙幕に音沙汰なし。

 終わったと確信したギアナイトの心中には達成感は無く、ただただ虚無が広がっていた。

 

……なんと呆気なき最期よ……良い太刀筋と信念を持った男であった――!?

 

 煙幕の向こう。

 自身()搭載された(感じ取った)魔力感知器(魔力の感覚)が、人工脳に警報を掻き鳴らす。

――瞬間。四肢と胸を魔力で出来た(いびつ)な剣が次々と突き立てられる。

 

……この魔法――確か、

 

 

――千の隕鉄(ミッレ・メテオリーテース)

 

 

 煙幕の晴れた先にいたのは、赤く歪な大剣(クラウディウス・セイバー)の剣先をギアナイトに向け、バリアジャケットがボロボロになっている聖刃の姿だった。

 その息は荒く、額や腕からは血が流れている。

 

「ナイトは鞘にて防御専念。クラウは自立起動で打ち払いに専念してくれ」

【し、しかしマスター! その傷は――】

【――騎士王。奏者が聞くと思うか?】

【……はぁ。ではマスター、御武運を】

「解ってくれてる愛機たちで何より――ンじゃ、吶喊(とっかん)ッ!」

『甘いわァッ!!』

 

 

――穏剣(おんけん)六本骨爪(ろっぽんこっそう)

 

 

 背面腰元で横向きになっていた鞘入りのナイト・セイバーが背中に沿うように縦になり、鞘が細かく分解され、聖刃の側面を覆うほどの光の壁となる。

 側面から来る『穏剣・六本骨爪』を光の壁が遮り、迫る『延拳・重黒球』を両手に持ったクラウディウス・セイバーで切り払い、聖刃は尚も前へと進む。

 

『その砕けぬ意思や見事! だがしかァしッ! その満身創痍の体ではもう限界だろう。ここで引導を渡してくれるッ!!』

 

 四肢を『千の隕鉄(ミッレ・メテオリーテース)』の剣で貫かれながらも、ギアナイトは斬馬刀を構える。

 斬馬刀の刀身は徐々に熱を帯びていき、ついには発火し始める。

 

 

――(おぼろ)焦屍剣(しょうしけん)

 

 

DA()AI(ァァ)EDA(ァィ)RAAA(ダラァァ)AAAHH(ァァァ)!!』

 

 ギアナイトの雄叫びと共に撃ち下ろされる炎を纏った斬馬刀。

 それを受け止めたのはクラウディウス・セイバー『のみ』。

 主無しに、クラウディウス・セイバーのみが『朧・焦屍剣』を受け止めていた。

 

【ふふん。デバイス硬度ならば、余はアームドデバイス並だからな! そこらのインテリジェントデバイスとは訳が違う! 余が余であるが故になッ! はっはっは!】

 

 クラウディウス・セイバーの笑い声を余所に、ギアナイトの人工脳の脳裏に嫌なイメージが映される。

 こいつの持ち主は。騎士の童は。古城聖刃は何処だ。

 

「騎刃想剣流、『貫掌(かんしょう)』が崩し――」

 

 真下。足下。

 両手を塞がれ、足が動かず、退くこともできず、六本骨爪が防がれた状態での、目下。

 橙金色の魔力刀身を右手の手刀に顕現させた聖刃の姿があった。

 所謂『貫手(ぬきて)』だ。――つまりは、一振りの剣であるということ。

 

――勝利貫く黄金の剣(ハンド・カリヴァーン)

 

III(イィィ)IZA(ザァァァ)AAA(ァァア)AAHH(アアア)!!」

 

 

 その(伸ばした手)は、鋼の体を切り裂いた。

 いともたやすく、容易に、豆腐に箸が刺さるように。

 

 

<>

 

 

『やれやれ。負けた負けた! 吾の大負けだ!』

「上半身だけになってボロボロでなんでそんな元気なんだよ。お前……」

 

 上半身だけになったギアナイトと、聖刃は隣り合わせに座り込んでいた。

 互いに甲鉄やバリアジャケットはボロボロで原形を留めておらず、僅かながらに面影がある程度にしか残っていなかった。

 

 そんな状態でも、ギアナイトの声色は明るい。

 

『いやなに。正宗であった頃よりも力は失っているものの、全力が出せたことに不満はない。寧ろ、あの小悪党もどきの顔を見ずに済むのは僥倖と考えているのだ』

「小悪党もどき……ああ、あいつか」

 

 林育怪。

 ギアナイトの開発者にして、歪んだ英雄願望の持ち主。

 本来はいるはずのない、この事件の黒幕。

 

『これでも吾は、元々人であったのだ。この世界でな』

「はぁっ!? マジかよ……」

『とは言っても、今よりも昔の話だ。奇しくも、正宗として死した日と同じ時、同じ場所であったな』

 

 これも奇運よなぁ! と笑うギアナイトに、聖刃は驚きを隠せずにいた。

 てっきり、機械の体に憑依したものかと思っていたのだ。

 

『遺品に付いた血から採取したDNAでその人物の能力を機械に転用したのが遺伝子(ジーン・)挿入型(インプット・)強化兵(アメイジング・ソルジャー)試作一号機――GIAS(ガイアス)Type:(タイプ:)(マサムネ)。それが吾のことよ』

 

 尤も、試作一号機と謳っているが吾以外いないがなァ! 、と笑い事のように話すギアナイト。

 隣にいる聖刃からは、言葉はない。

 

『――とは言っても。吾自身は『吾』ではない』

「……? どういうことなんだ」

『あくまで吾は、遺伝子から再現された過去の人物のクローン、ということだな』

 

 遺伝子から再現された過去の人物のクローン。

 この世界でそういう生まれの人物を、一人――大まかに言えば二人、その存在を、聖刃は知っている。

 フェイト・テスタロッサ。そして、『ヴィヴィオ』だ。

 方やアリシア・テスタロッサから。

 方や聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトから。

 

 目の前の元人間の機械が、今いる現状はフェイトやヴィヴィオと同じような人物となっている。

 どちらかと言えば、ヴィヴィオの方が境遇は近いのかもしれない。

 

『そして、小悪党もどきは技術力は認めざるを得ないほどに高いヤツだ。戦うときは心して掛かれ』

「――ふー。それは無表情の方に言ってくれんかなー」

『ならば、お主が伝えればよかろう』

「ご尤もだこって」

 

 薄く笑う一人と一体。

 気付けば、ギアナイトの声にノイズが入り始めた。

 

『古城……ぃ刃よ……』

「――なんだ」

『……ェイトぉ……よ……くたの……』

「おお。よろしくしてやる」

『あぁ……御どぉ……共ぃ……正義ぉ……つぁ……ぬ……――』

 

 何かが落ちる音がした。

 果たしてそれは、ギアナイトの動力が落ちた音か。

 又は、頬を伝って落ちた(しずく)の音か。

 答えるものは、ここにはいない。




NGシーン:朧・焦屍剣をクラウが防いで笑った部分に入れようとしてたシリアルシーン

【ふふん。デバイス硬度ならば、余はアームドデバイス並だからな! そこらのインテリジェントデバイスとは訳が違う! 余が余であるが故になッ! はっはっは! でも(あっつ)いな!? ちょっとどころかかなり熱いぞ奏者よ!】
「クラウのー、ちょっといいとこ見てみたいー」
【そーれ、がーまん。がーまん】
【うぬぬぬ……クラーめ後で覚えておれ! うおおおお! 奏者よ大好きだァッーー!】
【(いい感じにシリアスが続いていたのに……)】

シリアス復帰が難しくなったので没。



次回、第二十八話
「装甲巫女蛍雷 剣銃編」

待て、而して希望せよ

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