回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

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二十五話「総力戦記」(Part:B)

「なんだなんだなァ~ンですかァ~? 台本通り語ってくれないとォ、困るんだよなァ~?」

 

 怪は腕を組んで目の前の玉座に座るプレシアに詰め寄る。

 それに対しプレシアは気にもせず言葉を返す。

 

「先にペラペラと語ったのは貴方よ。勝手に語って話を進めたから、話すこともなくなったの」

「ケッ……親子揃って面白味の欠片ない奴らだ。それにさァ~……」

 

 怪の振り返った先には、暗色のマントで身を包んだギアナイトが佇んでいる。

 

「キミもだよォ~? ギーアーナーイートーくゥ~ん?」

 ギアナイトの胸部装甲をカンカンとノックする怪。

 そんな怪は、ギアナイトに対し言葉を続ける。

「なァ~ンで急所を除けて刺すのかなァ~? ボクそんな甘~ッたるい設定してないんだけどなァ~?」

『奴等を人質にし、人質同様串刺しにするという考えの下、その結果の見せしめとして四肢を串刺した。肉壁にはなろうよ』

 平坦に。淡々と。抑揚を失くした事務的なギアナイトの応答に、怪は嬉しそうに頷く。

「なるほど。それは確かに効果的ですねェ。非殺傷設定なんて使ってる甘々集団にはいい薬でしょう!」

 流石ボクのギアナイト。良い判断だなァ~、と自画自賛をする中、ギアナイトは静かに思考回路を動かしていた。

 

……ふん。少し有効な上辺だけの手を挙げればすぐこれよ。とことんつまらぬ男だ。

 

 目の前のもやし男にギアナイトの求める『正義』が無いのはギアナイト自身よく解っており、記憶回路の奥底に眠る『必要悪』の背も見えない小悪党であることも理解している。

 本当ならば、今すぐにでも攻めてくる者達の正義を見てみたいし、何より新たな機巧(からくり)の参考になるような機械をこの目で見たいというのが本音だが――

 

「(そうも行かぬのが世の常よな……そうだろう、我が仕手『  』よ)」

 

 平和とは言えない世界で、志半ばで共に死してしまった嘗ての主。

 今でも、記憶回路の向こうには正義の赤布(マフラー)がはためいている。

 

「(『我らが正義は、牙を持たぬ人の剣』。今でもそれは変わらぬぞ)」

 

 今守るべきは、ただ玉座に座る『全てを諦めている女』だ。

 昔の『ギアナイト/  』ならば、軟弱者と吐き捨てたかもしれない。

 だが、今の『ギアナイト/  /  』ならば、それができるはずもない。

 

……『お前はもう少し莫迦になれ』、か。全く――酷なことを言ってくれる。

 

 堅物は性分だと、昔は言い続けた言葉。

 いっそ吹っ切れて、莫迦になるのも悪くない。

 目の前のもやし男の知らぬ機械の顔の奥が、ニヤリと笑った(笑えた)様な気がした。

 

 

 

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 巨大な『時の庭園』の門前。

 なのはやフェイトなど、ここにはいない人間が多くいるが、問題はない。

 古城聖刃、霊峰鈴、天野まり、文兄妹、カガミ・カンジュ、クロノ・ハラオウン。他数名の武装局員で構成された突入部隊。

 管理局側は、互いの実力を理解しているものの、身内のみの模擬戦でしか戦闘をする光景を見たことが無い四人に、それなりの実力があった。

 データ上でも、その戦闘する姿でさえも。

 予想以上――否、ある意味では納得の戦闘力を秘めていた。

 

 門を背にクロノが部隊全体に声を張り上げる。

「これより我等は『時の庭園』内に突入する! 君達は自らの力量を理解しているかもしれないが、敵のテリトリーに飛び込むこととなる故。細心の注意を払いつつ、無理せず進め」

 一息。クロノは漆黒のバリアジャケットを翻して門を睨みつける。

「総員戦闘準備ッ! 今日は先方の奢りだ。食い尽くさなければ(ばち)が当たるぞ! ちなみにデバイスに登録される貢献数が一番少ない奴が事件後の奢り役だからな、気合を入れろよッ!」

「「「了解ッ!!」」」

 

「いや、誰だあれ」

 目の前の光景に準備万端な聖刃の顔は引き攣っていた。

 彼の知る限り、クロノは頭脳派で静かな熱血司令塔というイメージだったはずだが、と思っていたところに、自身の周囲を小さな鏡型のサポートプログラム『カオス』で取り囲んだカガミが声を掛ける。

「ヒント、PS2のマブラヴオルタ他」

「おーけー、理解した。ある意味頼もしくて何より」

 

……せめて二桁いってる時に見せたよな? いやそれでも良くないけどさ。

 

 BETAがトラウマになってなけりゃいいけど、と思う思考を隅に寄せて、門の中に突撃しようとする部隊の中に加わる。

 入ってきたときに、部隊の一人が口を開いた。

 

「キミらにゃ悪いが、オレはどうにも成人前の子供がこういう場所で戦うってのは苦手だなー……」

 少しばかり肩を落として言う武装局員に、聖刃ははぁ、と訳が分からず答える。

 そこへ別の一人が二人の背を叩く。

「バカ言うな。プレシア逮捕って建前貰って屑野郎のへの鬱憤晴らしができるんだ。それに、ここにいるガキ共はそろって俺らより強い。な、剣士の小僧?」

「小僧じゃなくて聖刃(セイバー)な。でも、背中任せたいから頼めるか?」

 聖刃の言葉に、目の前の武装局員二人はへっ、と笑う。

「任せとけってルーキー。俺たちベテランに任せとけよ!」

「頼られて嫌という上司になりたかないんだわ。安心しなって」

「おめーはいちいちまわりくどいんだよ!」

「うっせ!」

 軽口をたたき合う二人に、聖刃の心は自然と軽くなる。

 どうやら知らず知らずに緊張していたらしい。

「そっかそっか。なら安心。置いてっても文句言うなよおっさん!」

「「まだ二十代だっての!」」

 

 決して強くはない。しかし、不思議と安心できる暖かさ――

 それは、小さな勇気が生まれた故に。

 

 

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 門が開く。

 石を引きずるような大きな音を立てて、それは開く。

 門の先で迎えたのは大勢の傀儡兵だ。

 大柄な歩兵型から小さな飛行型までが出揃う門を境に、クロノが声を張り上げる。

「撃ち方、始めェェッ!!」

 

 

――フォトンバスター

――フォトンシューター

――ブレイズカノン

 

 

 クロノが降り下ろしたS2Uの砲撃魔法を合図に様々な色の砲撃や射撃魔法が放たれる。

 

 

――光 波 一 閃(ウェーブカリバー)

 

 

「突入ゥゥーー!」

「「「おおおーー!!」」」

 

 追い打ちを掛けるように聖刃のナイト・カリバーから光の波が押し寄せる。

 雪崩のように『時の庭園』内部に押し戻された傀儡兵を追うように武装局員たちが内部へと押し寄せる。

 その後方。文兄妹は胸元のペンダントを握った。

「あとは任せたよ。キリカ」

【キリカにどどーんとお任せデェス!】

「思いっきり暴れよう、シラベ」

【うん。頑張るよ】

 

――往く道は二刃と共に(セイウォーイガリマライゼトローン)

――歩みの阻みを断ち切る(マリアーシュルシャガナトローン)

 

 それは歌。

 願う様な、祈る様な歌が二人の口から奏でられる。

 兄、ゆうの姿は黒と緑をメインカラーとした、人形のような魔女を彷彿とさせるロック調で、両肩の刺々しいツインプレートと魔女帽を模したヘッドパーツが印象的なバリアジャケット。

 妹、ゆなの姿はアメジストカラーを基調に、猫の人形を彷彿とさせるメカニカル調で、背中の武装コンテナ(ウェポンラック)のような二枚のプレートが印象的なバリアジャケットだ。

 

「さぁ、やるデスよ~!」

「雑魚は任せて。聖刃達は先に行って」

 いつもと口調の違う双子に少しばかり戸惑うまり達に聖刃は声を掛けて先を急ぐ。

「説明は後だ! 二人とも行くぞ」

「お、おう!」

「あんたらも気を付けなさいよ~」

 こんな場所でもペースの狂わない二人にゆうはあはは、と苦笑するも、だからこそ色々な意味で助かると思った二人。

「まりの反応は初対面の時の聖刃を思い出すデスね」

「鈴は平常運転だったけど」

「そこはまぁ、いつも通りデスよ。ゆな」

 

 にこやかな二人の顔は一変。

 一気に真剣な顔に変わる。

 

「ザババの二刃、獄翠鎌(ごくすいれん)のイガリマ!」

「同じく鏖紅鋸(おうこうきょ)のシュルシャガナ……」

「「行くデェスッ! /行きます……!」」

 

 二刃、出陣。




 双子の刃が音楽を奏でる時、
 剣士たちはただ静かに互いを迎え撃つ。

二十六話「(しろ)き鋼のギアナイト」

 それは、嘗て見た姿を刃に見る。


 待て、而して希望せよ

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