回転割砕の魔導右腕(ライトアーム)   作:変色柘榴石

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これで終わりだと思うか?
残 念 だ っ た な !

……はい、すんません。回想部分に色々入れてたら三部構成に。


二十二話「ドッグファイト」(Part:B)

 時は戻って真夜中のバニングス邸。

 額に青筋を浮かべ、髪をメデューサの様にうねらせている幻覚を見せているのは、アリサ・バニングス。

 その正面には、芝生の上で正座させられるなのはとひなた、いつも通りに車椅子の上で苦笑するはやて、檻から出してもらえたアルフの姿があった。

 

「なるほど。要は、私たちに黙って危ないことをしていたと。へぇーそう。ふーん……」

 

『(あかんこれ。死んだわ)』

『(あ、諦め早くないかな!?)』

『(じゃあ何か言い訳できる?)』

『(ごめんなさい無理です)』

『(だしょ?)』

 

「私に聞こえない『念話』とやらをやってるんでしょうけど、そこのなのは(バカチン)の顔で丸わかりよ」

「この脳内お花畑(フラワーヘッド)! スカタン!」

「早々に諦めたひなたくんがそれを言う!?」

「Be quiet!」

「「すみませんでしたァー!」」

 

 土下座をする二人を呆れつつアリサは一匹と一人に目を向ける。

 対するはやては常時苦笑……しつつも若干視線を合わさない。

 アルフに至っては完全に目を背けている。

 

「あはは……まぁ、堪忍したって? それぞれ、ちょこっと事情が……」

「解ってる。どーせ、なのはは『巻き込みたくない』とか『知らせちゃいけない』ような事情があったんでしょ。ひなたに至っては私自身、稽古で最近顔合わさなかったし」

 

『(なのはなのは。アリサ絶対男をダメ男にする素質あるよ)』

『(へ? なんで?)』

『(何だかんだ言いつつ相手を理解して、尚且つ世話好き)』

『(うんうん)』

『(おまけにあの気丈ながらの身内への優しさだ。これは堕ちる)』

 

 あの辺ははやてとタメ張れる、と付け足すひなたに、なのははでも、と言い濁す。

 

『(身内限定だよね)』

『(身内ライン(たけ)ーからなぁ……)』

「なんかちょっと不快な電波感じたんだけど」

「なんでもないですよーう。ほうら、キチンと反省してますよーう」

「よーう」

 

 一見目が死んでるようにも見える二人を再び放置しつつ、アリサは再び一匹と一人に目を向ける。

 

「つまりはフェイトが無茶してるわけね。OK……なのは、一発引っ叩いて止めてきなさい」

「一発で即決断とかアリサマジすげぇ」

「で、でもフェイトはあたしが言うのもなんだけど、本当に強いんだ!」

「だからどうしたってのよ」

「え……?」

 

 アリサは腕を組んで不敵に笑う。

 信じる『何か』あるように。絶対の信頼を寄せる『何か』がいるから大丈夫と言うように。

 

「ウチのクラスの連中、甘く見ないで欲しいわね。私達は泣いてる子とか、辛そうな子を見て放っておけるほど非情じゃないお人好しなのよ」

 一息。

「そこの正座してる馬鹿二人なんてクラスで一二を争うお人好しよ。聖刃が入ればお人好し三馬鹿。私とすずかでお人好し戦隊。はやてが入れば追加戦士込みのお人好し戦隊よ。筋金入りのお人好しが、早々に諦めるはずないじゃない」

 

 アリサの言い分に唖然とするアルフ。

 周りを見渡せば、他の三人も「そうだ」と頷いている。

――ああ、まったく、

 

「みんな、ありがとう……!」

 

……運が悪い(良い)な、やっぱり。

 

 良し悪しの無い、こんなお人好しの集まりと知り合ったのが運の尽き(幸運)だった。

 だからこそ、あの子を……フェイトを救えるかもしれない。

 そう、アルフは確信したのだった。

 

 

<>

 

 

 そして今。

 舞台は海上の廃ビル群。

 

 一気に上空へと飛び上がり、一旦、互いに距離を取って射撃魔法を放つ。

 しかし、なのはの誘導弾に対しフェイトの直射弾の方が弾速が速く、なのはは海面に下がりつつ直射弾をプロテクションで防御。

 その勢いのまま、なのはは海面の水を割いて飛ぶ。

 しかし、飛行補助魔法があるとはいえ相手の方が速く、狙いもまた精確。なんとかしてフェイトの後方へ回りたい。

 だが、それを簡単に許すはずもないフェイト。

 

【フォトン・ランサー】

 

 フォトンランサーを四つ、狙いを定めて発射する。

 思わず苦い顔になるなのはは、何とか速度調整を繰り返して回避する。しかし目の前には直立するビル。

 だが、それを逆になのはは利用した。

 海面からビルへ沿うように上昇。上昇した勢いを殺さずそのまま反転……所謂『インメルマンターン』だ。

 

 縦方向U字に180度ループと180度ロールを連続して行う軌道で、第一次世界大戦当時のドイツのエースパイロットの名からその名が付いた航空軌道だ。

 さらにそこからハーフループで、なのはのいた位置を追い越すフェイトの背後を取ることに成功するなのは。

 

 今度はなのはがディバインシューターを五つ、内四発を順次発射し、フェイトの行先に回り込む形に誘導するもフェイトはバレルロールを含めつつ避ける。

 一発が炸裂するが、速度を下降させてそれを避けるフェイトだが、その為に動きが止まってしまう。

 そこを狙った残りの誘導弾三発がフェイトに飛来するも、バルディッシュをサイズフォームに切り替えて散発纏めて切り払う。

 

 フェイトは即時反転してなのはへ。

 なのはは迎撃の為に、予め手元に残しておいた残りの一発をフェイトに放つも再びバレルロールで避けられる。

 フェイトの突撃をラウンドシールドで防ぐなのは。しかし、なのはの分割思考(マルチタスク)の一つは、ある一つの行動を取っていた。

 

 最後の一発。外したディバインシューターのコントロールである。

 突撃し、魔力刃がシールドを噛んでいるフェイトの後方を誘導弾が襲う。

 それに気付いたフェイトはシールドブレイクとスタンショックを込めたサンダーバレットをなのはに放つ。

 

「ファイア!」

 

 サンダーバレットは直撃。

 フェイトは首を傾けて誘導弾を紙一重に避ける。

 サンダーバレットを受けたなのははそのままビルを貫通し、海に墜落した瞬間サンダーバレットが閃光を放って炸裂。

 水煙で海面が見えない中、フェイトは貫通されたビルの屋上の欄干に立つ。

 

 濛々(もうもう)と水煙の中、フェイトは一息つく。

 しかし、その視界の先に閃光――

 

「――ッ!」

 

 フェイトが欄干から離脱した瞬間、立っていた場所を桜色の砲撃が通り過ぎる。

 晴れつつある水煙に目を向ければ、そこには肩で息をするなのはがカノンモードのレイジングハートを構えている姿だった。

 

……やっぱり速い。ロックオンマーカー頼りのブラインドショットでも避けられちゃう。

 

【やはり、実力的にはあちらの方が上です。簡単には勝てませんね】

「そうだね。流石に経験の差って言うのを感じちゃうかも」

 

 だからこその、本気で全力全開の勝負。まだ手は出し尽くしていないから。レイジングハートと共に考えた知恵と戦術を、まだ出しきっていないのならば。

 

【ですが、大丈夫です。私とマスターならば】

「うん。その通り――負けるつもりなんて、さらさらないもん」

 

……まだ、勝てる自信は十二分にある!

 

「行こう、レイジングハート。全力全開で!」

【こういう時の為に、と日野様からある言葉を頂いてます】

「なんて?」

【『進撃せよ(アヘッド)進撃せよ(アヘッド)進撃せよだ(ゴーアヘッド)!』、とのことです】

「にゃはは……うん。でも、結構元気出てきた!」

【ええ。良い言葉です】

「では、改めて――」

 

「【進撃せよ(アヘッド)進撃せよ(アヘッド)進撃せよだ(ゴーアヘッド)(です)!】」

 

 

<>

 

 

 なるほど、とフェイトはなのはの戦いぶりを見て納得していた。

 レイジングハートそのものが、なのはの魔法特性との相性が異常なまでに一致していた。

 温泉街での戦いで片鱗を見せていた力が、今ここで開花している。

 本人が修行してきた、というのもあるのだろう。

 防御系魔法の硬さ、砲撃系魔法の威力……あれは一種の天才だろう。

 

……でも、そうであっても私は――

 

 負けるわけにはいかない。

 残り全部のジュエルシードを持ち帰れば、きっと母が笑顔になってくれる。

 きっと――否、絶対そうだ。

 

 少女は再び飛び上がる。

 ただ一つの、偽りの思い出を抱き続けて。

 

 

<>

 

 

 互いに弾き合いながら廃ビルの合間の縫っていく。

 フェイトは更に速さを生かし、なのはも十個以上の誘導弾を扱い、フェイトを狙う。

 なのはの誘導弾がフェイトの行く先々を塞ぎ、フェイト自身はループしつつ更に上空へと上昇。なのはもそれを追い掛ける。

 

 舞台は雲を抜けて雲海の上へ。

 追い掛けるなのはの前方――先を行くフェイトがエアブレーキをかけ、なのはの後方を取ることに成功する。

 直後、フォトンランサーの嵐に翻弄され、なのはは速度を落としてしまう。

 その隙を狙って、フェイトはサイズフォームでクロスレンジを仕掛ける。

 

 互いの軌道が螺旋を描く。

 交わる度にぶつかり合い、またぶつかる。

 

 それはまるで――今までの戦いを顧みている様で……

 

 

<>

 

 

 時は少し戻ってアースラチーム側。

 ひなたがアースラにはやてを招き入れることにクロノ以外が賛成していることにクロノが頭痛を覚えたり、アリサにバレたことを報告してきたなのは達にクロノが頭を悩ませたりしていたが、他は概ね順調であった。

 

 フェイト・テスタロッサ関係で調べた結果、その背後にいるのは母親、『プレシア・テスタロッサ』と協力者にしてB級広域指名手配犯の『林育怪(しげなりあやし)』だということ。

 プレシア・テスタロッサは過去研究者として有名であり、魔導技術研究院の出らしい。

 

「その後はエネルギー技術開発会社の『アレクトロ社』ってところの開発部主任職に転職。新魔導炉事故発生後に離職。離職後の詳細は不明、と」

「ほー。フェイトのお母さん、優秀だったわけやな」

 エイミィの読み上げる報告に関心の声を上げるはやて。

 そこにクロノの付け足しが入る。

「過去に『条件付きSS』の魔導師ランクを取得している。魔導師としてもやり手だ」

「条件付いてもオーバーSランク。加えて優秀な研究職とか……いやーな組み合わせだなぁ」

 うんざりそうなひなたの言葉にクロノが反応する。

「どういうことだ?」

 絵空事とか架空のお話の世界なんだけど、とひなたは最初に付け足し、

「大体、こういう研究者って狂いやすいんだよ。下手に頭良かったり優秀だったり。おまけに優秀なだけじゃ開発主任にはなれないだろうから人望もあったはず」

 一息。

「それに女手一つで研究片手に女の子育ててきたんだ。フェイトとイメージすりゃ可愛かっただろうさ。それこそ、目に入れても痛くないほどに」

 心底辛そうに語るひなたの言葉を、はやてが付け足す。

「この資料やと、恐らくその娘さんは……まぁ、ご察しやな。おまけに、下手に技術力の高いのがミッドらしいやん? 例え禁止であっても『もう一人』、なんてことは可能やろ。データ計算で魔法なんて言う世界やからな」

 

 そんなはやての言葉に、リンディとクロノは口を揃えた。

 

「「クローン……ッ!?」」

「創作の世界じゃありがちなんだなぁ、これが。娘を失った科学者の父親が云々、なんてのはザラだな」

「総じてみんな失敗しよるけどな。同じ人間を作るなんて、ありえへん。必ずどこかでボロが出る。失った人間は、帰って来ないんが……世の常や」

 

 ここにいる殆どの人間が大切な人を失っている。

 ある者は両親を。ある者は愛する人を。ある者は遥か過去の友人を。

 そして、またある者は『自分自身』を。

 

「これは、なのはちゃんに伝えん方がええな。大事な戦いの前に迷い生んだらあかんやろ」

「妥当だな。今言うことでもないだろ」

「……結構冷静に言うんだな。君たちは」

 そういうクロノの言葉にはやて達は、

「――うん。解ってるよ。自分らでも冷たいこと言うとるのは」

「だからってイジけてる暇あったら、俺らは生きる。先なんてとことん長いし、簡単に死ぬ気もない」

 ひなたはむしろ、と続け、

「親父らの年齢の二倍は生きて、『ここまで生きたんだぜ俺ら』って目の前で胸張って威張り散らしてやる」

 だろ? とひなたははやてを見て、はやては静かに肯定する。

「せやな。よく言うやろ? 明けない雨はない。晴れない雲もない。日が昇らない夜もないって」

 それに、とはやては付け足す。

「今目の前にいる、生きた家族を(ないがし)ろにして亡くした家族に縋るような奴は」

「「俺(私)が一発引っ叩くッ!」」

 

 一瞬の間。

 その間から、いち早く抜け出したのは聖刃であった。

 

「はぁー……お前ら夫婦は物騒で古城さん色々不安なんですが」

「おおっと、なーにを他人ごとに言ってるのかな聖刃くぅーん」

「君も協力してくれるやろ? ま・さ・か、大船に両足ツッコんどいて放置なんてことは……せぇへんよなぁ?」

「「一緒にトゥギャザーしようぜぇ、せぇぇぇぇいぃぃぃばぁぁぁぁクぅぅぅん?」」

「あ、あはは……謹んでお受けいたしますはい」

 

 この時、聖刃は思った。

 やっぱり俺がいなくても解決するよね。無印とA's速攻で終わるよねこれ。 と。




次回いよいよみんな大好きSLB!
出来るだけ絶望的に描きますよ!

最後まであと……三、四話ぐらいかな?

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