アースラ編がががが……
宇宙とは別の場所を航行する船。
聖刃は『アースラ』をそう要約した。
アースラの中は、何処となく『近未来研究所』のような印象を受けた。
艦長らしい人物に呼ばれたらしい俺たちは、アースラ艦内を歩いていたら後方から歩いてきたなのは達と合流した際に、俺たちと同じぐらいの少年がボロボロで一緒に来た。
なんでも、遅延衝撃砲とやらを放ったなのはと、
……うん、まぁ……ご愁傷様。
カンジュと聖刃が気の毒そうな顔をしていた。
後になのはから「ひなたくんも憐れんだ目でガン見してたの」とお墨付きをもらった。
うん、あれだわ。『目は口ほどにものを言う』とはこの事か。
『目は口ほどに~』が口に出ていたのか、俺とボロボロの少年以外がプルプル震えていた。
ボロボロの少年におもっくそ睨まれた。解せぬ。
【(
えっ。
俺なん? 悪いの。
【(さぁ? 私の推測なので、お気になさらず)】
さよけ。
だが気に留めておくわな。
あと衝撃事実。
ユーノは人間だった!
まぁなんでも、魔力消費を抑えて、魔力回復を優先させた結果が
そこでカンジュが「まさにケダモノ……小動物をいいことにいろいろとエロエロと見た?」と言うもんだから、言った本人となのはが絶対零度の目に。
俺たち男性陣は同情の目を差し向けた。
流石にかわいそうなので
お、着いたね。
ンじゃま、行きますかね。
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アースラ艦内の個室の一つ。
そこは一種の休憩所となっており、少し狭いながらも憩いの場となっている。
その景観は、地球生まれのなのはや聖刃に言わせれば『日本式』。
調べ癖のあるひなたから言わせれば『
その中央。
大きな番傘――野点傘の
恐らくこの女性が艦長なのだろう、と思うと同時に、
……なんでシュガーポットとミルクが一緒に?
そう思ったのはひなただけではない。
なのはも地球生まれ日本生まれの海鳴育ちだ。
緑茶は飲んだことがあっても、その傍に砂糖とミルクがある光景は見たことが無い。
――しかし、聖刃は知っている。砂糖とミルクがある意味を。
だが一つ、聖刃は非常に困惑した。
……な、何故に
その答えは、誰も知らない。
そんな驚きに満ちた三人に気付いた女性が手招きで呼んでくる。
番傘の下で座る女性の前に揃う四人を、
「ようこそ、時空航行艦船『アースラ』へ。さ、お座りになって」
「はーい、あったかいものどうぞー」
「あ、あったかいものどうも」
野点の席に座ることを促された地球組は入った順に座っていく。
なのは、ユーノ(人間態)、ひなた、聖刃の順に緑茶が渡され、四人は少しだけ気を休める。
戦いの直後であるため無理もない。
どれだけのセンスがあろうと、その体は
対し少年とカンジュは女性の両脇に座り、緑茶を渡してくれた癖っ毛の女性は少年の脇に立っていた。
「まずは自己紹介をしましょうか――私はリンディ・ハラオウン。アースラの艦長をしているわ」
「クロノ・ハラオウン。執務官だ」
「黒髪と金髪は知ってる。でも知らない人いるから自己紹介――カガミ・カンジュ。二等空尉」
「アースラ通信主任兼、執務官補佐。エイミィ・リミエッタでーす! よろしく!」
「あ、えっと、私立聖祥大学付属小学校三年生。高町なのはです!」
「同じく三年、日野ひなた」
「左に同じく三年、古城聖刃っす」
「ゆ、ユーノ・スクライアです!」
全員で自己紹介を終えて、なのはは一つ気付いた。
「ハラオウン……?」
「姉かッ!?」
「母だッ!」
ひなたの妙に力の入った声にクロノが力強く否定する。
その様子にリンディは微笑み、エイミィとカガミは吹き出し掛ける。
「ふふ……ええ、そうよ。クロノは息子なの、仲良くしてあげて?」
「同い年みたいですし、時間の問題――「僕は十四だ!」なん……だと……嘘だろジョウタロウ!」
「誰がジョウタロウだ誰が」
生真面目すぎるクロノと適度に(?)ゆるいひなたの組み合わせは少し型にハマっていると聖刃は思った。
――ただ、原作を知る転生者として聖刃は一つの疑念が晴れないでいた。
リンディの隣に座り、ボロボロの外装で体と口を覆った少女……
……カガミ・カンジュ。
原作にはいなかった見知らぬ少女。
彼女が何者なのか、聖刃は知らず、思考は外へと向かっていったのだった。
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ユーノから事の経緯が話される。
経緯を話し終えた後の管理局組の親子の反応は少し険しく、通信主任は苦笑し、二等空尉は気にせず茶を飲んでいる。
「……成程。一人でそれを成そうという気概は立派だわ」
「――だが、同時に無謀でもある」
その思考こそは立派だと思うものの、たった九つの男の子が慣れている専門の部族とはいえすることではない。
そこでクロノは、
「なぜ管理局に連絡しなかった」
「したのですが――今は空きがない、と返されまして」
「待つことはできなかったのか?」
「想定していた発掘期間を過ぎると、食料の問題で滞在がきつくなる状況でしたので、仲間には先に帰ってもらって僕が受け渡しを。……ですが、食料計算に狂いが出て」
……ンで、一人で貨物船使って自分で運ぼうと。オイオイ、人手不足ってレベルじゃないだろ管理局。
クロノとユーノの問答に、聖刃は目頭を抑えたくなった。
その人手不足の理由の一つとして、管理局本局組……通称『海』の局員たちの優秀さにある。
本来、優秀であれば良いと思われがちだが、『海』は『優秀のみを集める傾向』があり、結果一定以上の優秀さを持つ者などは『海』に所属し、その他は地上本部組……通称『陸』の局員として働いている。
その『優秀のみを集める傾向』故に、選り好みの結果が人手不足となっている。
――そう、
「では……これより、ロストロギア『ジュエルシード』の回収については、私たち時空管理局が全権を持ちます」
「君たちは、今回の事は忘れて――元通りの生活に戻るべきだ」
「却下ですが何か」
「そうだ。君たち民間人の出る幕じゃ――は?」
ハラオウン親子の言葉を、真っ向から否定したのはただ一人。
――日野ひなたであった。
「君は話を聞いていたのか? 民間人には危険であって……」
「うっさい黒小豆」
「く、くろあずき……?」
ひなたの言葉にひなた以外の地球組とカガミが噴き出し掛ける。
意味が解るからこそ、笑えてしまったネタだ。
「艦長さん、一ついい?」
「ええ、いいわ」
ンじゃ、と深呼吸一つ。
無表情の瞳に、熱が灯り始めるのをリンディは感じた。
隣の聖刃となのはも、何を言い出すのか心配そうな顔をしている。
対岸のカガミは見定めるような眼差しをひなたに送っている。
そんな周囲を置いて、ひなたは話し始める。
「俺さ、幼馴染とジュエルシードの暴走態と遭遇して、危うく命落とし掛けたわけさ。――ほら、こんな感じの」
ひなたが空中にモニターを出して見せたのは、初めてであったジュエルシード憑依体『玉頭骨』。
その異様な姿に、ひなた以外の全員が息を呑む。
「そんときは魔法の『ま』の字も知らないし、なのはや聖刃が魔導師なんて知ったのはごく数週間前だ。助けの一つなんて考えもしなかった」
語るひなたの言葉が、ユーノに重く圧し掛かる。
自分の撒いた
それも、極身近な――
「そこで初めて、
玉頭骨の画像から、ひなたの魔導師覚醒から勝利までの映像が流れだす。
最後の魔法連続使用に、なのはを除く魔導師組が驚いている。
魔導師になったばかりの九つの少年が、六つの魔法を連続で使っているのだ。
驚くのも無理はない。
「最初は、こんなことをした原因をぶっ飛ばそうかと思ったけどさ……」
ひなたの言葉に、ユーノの方が跳ね上がる。
「事故じゃ怒れねぇし、数日経ちゃあ身近な友人が自分と同類。嬉しい反面、恐くなったさ。仲良かった友人が、明日からぽっつり消えてたらさ」
今度はなのはと聖刃が顔を俯かせた。
――もし、自分がいなくなられた立場なら。
そう考えてしまったから。
「どうせ、そこの脳内お花畑の砲撃馬鹿は無理やり介入するだろうし――「うっ」――三刀流剣馬鹿は考え無しに介入吶喊するだろうし――「ぐふっ」――フェレットもどきに至っては一人で抱え込み続けそうだし――「うぐっ」――……な?」
ひなた以外の地球魔導師組+αがダメージを与えられ、管理局君が気の毒そうな目を向ける。
そんな光景を気にせず、真っ直ぐリンディを見やり、言い放った。
「何より、今更『はいそうですか』って引き下がれるほど、俺らは大人じゃねェ。引き入れたそうな目ェしてるアンタには悪いが、外部協力者と言う名の中心人物とさせてもらうわ」
「俺ら地球魔導師組オンステージだ」
「馬鹿を見る? 結構」
「痛い目を見る? 百も承知」
「辛いことになる? 上等」
「アンタらには
「救難要請だ、管理局。『俺らを助けてくれ』」
リンディが見た、無表情の少年の顔は――
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地球魔導師組の処置は、『無関係』から『外部協力』となり。
ひなた達は一旦帰宅することになった。
しかし、アースラを降りてから聖刃はカガミに呼び止められる。
「ンだよカンジュ。これから帰ろうって時に――」
「話、聞いて」
ただ一言。
しかし、その一言に込められた強制力のような威圧感に、一瞬言葉を詰まらせる聖刃。
それでも、カガミの言葉は続く。
「転生者。……あってる?」
「――」
主語が足りない――否、必要が無いのだ。
聖刃がそうであるように、カガミも同じであるが故に。
――転生者。
別の世界から生まれ変わった存在。
それだけならば、そこらの人間と何ら変わりないが、唯一の違いがある。
――『前世の記憶の有無』だ。
転生者は総じて輪廻転生の話から少しズレており、別種として『憑依者』がいる。
憑依者は魂のみが乗り移った状態で、宿主の意識の有無はランダム。
共存する者もいれば、宿主の意識を消したり消されたり。
中でも、極めて特殊なのが、所謂『神様転生』である。
神と呼ばれるモノの目的は極めて謎であるが、最高三つの願いを叶えるという。
しかし、その
神様転生――それに、聖刃とカガミは該当しているのだ。
聖刃は、『型月に存在するセイバークラスのデバイス』、『SSSランク魔力の才能』、『古代ベルカ式』を。
そしてカガミは――
「私が願った願い……シンフォギア『
「……随分とあっさり言うんだな。」
自分が願った三つの願い……通称『神託』を晒すということは型月でいう『英霊の真名』を晒すような行為……つまりは『弱点』を晒すことと同等なのだ。
「害意のない証。それに、私に嘘はあってないもの」
【要するに、我がいる限りは嘘は効かぬと思え。聖剣使いよ】
カガミの静かな声の後に、渋い男性電子音声が聖刃に向けられる。
恐らく、デバイスとしての『
言ってることが訳してない事に関しては何も言わない方がいいのだろう。
「嘘の需要もないからな。俺はこのまま流れるように俺の周囲を守るさ。世界壊れるなんざごめんだしよ」
「そう。でも、覚えておいた方がいい」
――切り捨てる覚悟を持っておくように、と。
聖刃に背を向け、アースラへと転移する直前のカガミの言葉は、わけもわからないまま聖刃の耳に刻まれた。
残された聖刃は、一言呟いてその場を後にする。
「ンなの、とっくにしてるっての……ッ!」