短く感じると思う 俺もそう思う
――家族に迷惑を掛けてはいけない。
友人に心配は駆けられない。
でも、そんな迷惑を共有しているのは――
・配点(仲間)
後半の憂鬱を隠しながら帰ってきた温泉旅行から数日。
心ここに非ずの状態をアリサに見透かされ、そのことが原因で口論してしまったなのはの足は、自然とある場所へと向かっていた。
「あれ……? ここって、鈴ちゃんの――」
「お、なのはじゃないか」
少し長めの石段を知らず知らずに登り切っていたなのはに声を掛けたのは、賽銭箱の上で甘栗を食べている天野まりであった。
「ま、まりちゃん?」
「応、今日もいい天気だ甘栗がうまいまり様だぜ」
ぽりぽりと甘栗を食べながらまりが、食うか? と誘うと、なのはは戸惑いがちにいただきますと、受け取る。
しばらく賽銭箱の上と前で甘栗をポリポリと食べる二人。
少しの時間を置いて、まりがさらりと口を開いた。
「どーせお前、なんか溜め込んでアリサに指摘された、んで喧嘩したか」
「――ふぇ!? ど、どうしてそれを……」
「おまえ、かおに、でてる」
ニッカリと擬音が付きそうな笑顔(三日月口)で指摘するまりに、わたわたと慌て、やり場のない手を彷徨わせるなのは。
ここまでわかりやすい奴もいないがな、と思うまりは、僅かな微笑みに顔を変え、話を続ける。
「そうだな、まずは話をしようか――」
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その昔、カッコいい父親と、すンごい綺麗な母親の背中を見て育った少女がいた。
母親はとっても万能で、まさに『母親の鑑』って感じで。
父親は不思議な力を持っていて、父親はそれを「科学の一種だ」と自慢げに語っていた。
少女は思った。
万能な母親に、凄い力を持つ父親の娘であるならば、二人のようにならなくては、そうでなくては、そうならなくては、と思い始めていた。
――だが、その思いは段々エスカレートして、いつしか脅迫概念……強く、「そうならなくてはいけない」と思い始めたんだ。
親に隠れて料理の練習をしたり、勝手に父親の力に関する資料を読み漁ったり。
そして、あることは起こった。
(ある事……?)
まぁ、聞いてろって。
母親のやること以上に、父の力に興味を示していた少女は、少しばかり背伸びをしてしまったんだ。
父親の持っている材料の一つを使って、『父親のように実験』しようとしたんだ。
いつも父親の着ている白衣を着て、いつも父親の使っている器具を使って。
『さぁ、実験だ』と言ったところに、父親が怒鳴り込んできた。
少女はもちろん驚くわけだ。
驚いた拍子に、頭上から降り注ごうとする危険な薬品も、気付かなかったわけだ。
無論、入り口から入ってきた父親はその光景を見ていたわけだ。
――次の瞬間には、肉の焼ける臭いと、
怒りもしないでさ、ただ一言だけ……「大丈夫か」ってさ。
言った本人はすっげー痛苦しそうなのにさ……自分の心配しないで娘の心配だぜ?
そこから
気付いたら、
そのあとで、めいいっぱい叱られて……
(……え?)
まぁそんな反応だよな。普通は。
誰だってそうなる。私もそうなる。
あとに続いた言葉が「子供が良し悪し学んで、同じように親は子供が育つ様を『学ぶ』んだ。ガキが迷惑なんて気にしてんじゃねぇよ!」って。
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「――んで、その更に学び進んだ少女は、今ではめでたく天才に……」
「それってまるっきりあんたじゃない」
英雄譚でも語るかのような様子のまりにツッコミを入れたのは竹箒を持った鈴であった。
鈴の言葉に油の切れた機械のように鈴へと振り返るまり。
その状況についていけないなのはが、どういうことなのか聞いてみると、
「あんたはホント鈍いわね……あの話、全部
「ナナナ、ナニヲイッテイルンダゼ!?」
「ほらこの通り」
まるでさっきとは逆で、使い回しのような光景。
まりが慌て、鈴がニヤニヤと笑い、なのはが苦笑している。
冷静を取り戻しつつあるまりが、わざと大きめに咳払いをする。
「と、とにかくだ! なのはは、他人に頼ることを覚えろッ!
家族に迷惑がかかることを考えるな、友人に心配をかけさせるなとは言わないさ。
ただ、秘密を知るやつらを頼れっての!」
まだ少しだけ顔の赤いまりの言葉は、確かになのはの心に響いた。
今まで「良い子でなくてはならない」と、いつの間にか脅迫概念染みたものになっていたのだろうか。
――ああ、そうだ。
……私は昔から、嘘を吐くのが苦手で、何より嫌いだったなぁ……うん。
エイプリルフールに軽い冗談を姉に言っても、顔に出てて全然冗談にすらならなかったじゃないか。
ああ、このままでは良い子どころじゃないかもしれないかも、と知らず知らず笑みを浮かべるなのは。
それを見た鈴とまりは、
「お、元気出たみたいだな!」
「お花畑みたいに明るくないなのはなんて、塩分の無い海みたいなものだもの」
「はいッ! 高町なのは、元気になりました! ……って鈴ちゃん、お花畑って何? 褒めてるの? それって褒めてるの!?」
「サーテネー?」
「うにゃぁぁぁああぁぁ!」
「あっはっはっは! 何はともあれ元気が出てよかったぜ」
まったくもー、と膨れるなのはに大きな魔力反応と共に、ユーノから念話が入る。
ジュエルシードだと。
「――行ってきます」
「あいよ、気を付けてな」
「ま、期待せずにいるわ」
「にゃはは……それでは、高町なのは、行ってまいります!」
なのはは石段を最後まで降りた後、習いたての認識阻害魔法と、うまくなり始めた飛行魔法を使って大きな魔力の方へと飛び去る。
「――珍しいわね。あんたが過去話するなんて」
「解説王のようにおせっかいなもので――なんでスマホ片手だったんだ?」
「実況だけど?」
「ま、まさかスレの……?」
「オフコース スレ民大洪水よ」
「――」
「てへぺろ(真顔)」
「すぅぅぅずぅぅぅうぅぅッ!!」
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「高町なのは、遅れました!」
「っせーぞ脳みそお花畑。午後茶買ってこいや」
「ひなたくんが辛辣!?」
「キツネもふもふしてる最中に呼び出されて機嫌悪いんだと」
「……あれ? ユーノくんは?」
【ユーノ? ああ、いいやつだったよ】
【惜しい美少年をなくした……】
【死んではいませんが戦意喪失中です】
【ユーノはマスターのモフモフの餌食になりました】
「ゆ、ユーノくぅぅぅん!」
災厄の波動は閃光と杖を破壊するも時が過ぎれば元通り。
けれども黒と白の距離は未だ詰まらなくて。
ようやく交えた赤色の下。
十四話「黒色のクロノ」
別白の次は別黒に阻まれて。
その黒の上の奥、見えない鈍色の黒があるとしても。
新たな転機は、止まることを知らないから。