人形、ヒト、機械   作:屍原

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贖罪、罪を償う、私たちは大罪人。
大きな事故とはなんだったのか、私たちが償うべき罪とはなんなのか。
分からないけれど、それでも私たちは、贖罪する。
私たちは、そうデザインされてるから。

大罪人である双子(人形達)は、静かに寄り添った。


贖罪の人形達とヒトは出会う

- 帰還と発覚

 

  レジスタンスキャンプは混乱した状態を迎えていた、敷地内にいる誰もが酷く焦った表情をしており、帰還してきたばかりのデボルとポポルは思わず、呆然と目の前の風景を眺めていた。丁度二人の前を通ったレジスタンスは足を止め、いかにも焦った様子を表すかのように「今すぐ捜索に出ろ!」と声を荒げてから、説明もなしにさっさと去っていった。

 

「…なんなんだ、一体?」

「さあ……でも、一大事なのは分かるわ」

  説明もなしに放置されかけた二人は、視界の隅に映るアネモネの姿を捉え、そこへと視線を向けた。普段落ち着いた様子はなく、彼女もまた、他のレジスタンス達と同じく、不安げで焦った表情を浮かべていた。近寄って来る彼女に体を向け、一体何があったのかと話を伺おうとした。

 

「帰還したばかりで悪いが、今から捜索に向かって欲しい…!」

  珍しく息を切らすアネモネを目の当たりに、もしや本当に大変な事に巻き込まれたのでは、と思い始めた二人だった。先ほど足を止めて自分たちに大声をあげていたあのレジスタンスも、捜索、と言っていたが、一体どこの誰を、何を捜索しろと言われたのか。カオスになりかけてるレジスタンスキャンプの雰囲気を感じ取り、赤い髪のアンドロイド達は、アネモネの話に耳を傾けた。

 

  自分たちがレジスタンスキャンプを離れていた間に、どうやら生き残った人類を発見したらしく、その唯一の生き残りをキャンプで保護したらしい。近頃この地域の調査担当となったヨルハ部隊の2Bと9Sと共に行動し、アネモネが渡した依頼をこなしたのはいいものの、どうやら例の人類は一人で散歩しに行ってから、行方不明になったらしい。詳しい話によれば、約一時間前に、レジスタンスキャンプに帰還した一人が、入り口近くで廃棄された鉄パイプを発見し、人類の姿がどこにも見当たらないと、初めて発覚したらしい。そこで、自分たちがタイミングよくここへ帰還した。

 

「なるほど…つまり、私たちが捜索する対象は、その人類なの?」

  アネモネの解説をまとめ、整理し終えたポポルが口に出すと、アネモネは頷いて肯定した。なるほど、通りでキャンプがこうなる訳だ。はぁーと重苦しいため息を盛大に吐きながら、呆れたように後頭部を掻くデボルの姿を見て、ポポルは注意するかのように彼女の服を軽く引っ張る。

 

「デボル、そんな態度しちゃ駄目でしょ?」

「仕方ないだろ?それくらい呆れる人間サマだから、ため息くらい出るさ」

  アネモネがどういう反応をするのかと気になり、彼女の方に顔を向くが、なぜか彼女も否定しきれないと、目を逸らしてる。どうやら、ポポルの言葉はあながち間違ってないようだ。ポポルに続き、目を逸らした彼女も盛大なため息を漏らした。アネモネ曰く、例の人類は難なくここの者達と打ち解けたのはいいが、まるで子供のように好奇心に擽られて行動を起こすのが一番困ってるらしい。

 

  ともかく、自分たちには一刻も早く、行方不明になった人類を捜索して欲しいとのことだ。

 

「帰ってきたばかりで悪いな…我々にとって一大事なんだ」

  苦い顔をするアネモネに、ポポルは微笑みながら「大丈夫」と返して、早速デボルと共にレジスタンスキャンプを離れた。

 

 

 

「……同じ過ちを、繰り返さないといいが」

  すでに遠くへ離れて行った赤髪の二人を見つめ、アネモネは不安そうな目をしていたのは、誰にも知られないのだった。

 

 

 

- 秘密を伴う別れ

 

「…さて、そろそろアンドロイドの諸君も騒ぎ始める頃だ。すまないがアカネ、君は一度帰ったほうがいい」

  遠くにあるレジスタンスキャンプに目をやり、目を細めたアダムは振り返りもせず、キョトンとした顔をしているアカネに述べた。反応が遅れるのも無理がない、なにせ彼女はさきほどまで、本人でも自覚できるほど危機に晒されていたのだから。いまいちな反応を返していたとはいえ、もしアダムが本気だったとすれば、きっと彼女はすでにここで意味もなくこの世から去っていただろう。

 

  一刻も早くアカネを連れて脱出しようと待機していたポッド255は、アダムの話を聞き、すぐさま彼女の元まで浮いていった。側まで寄ってきたポッド255の頭に手を伸ばし、非常に軽い手付きで撫でた。戸惑いもなく行われたそれは、恐らくではあるが、彼女の無意識の行動だったんだろう。不安を感じ取り、落ち着かせようと、慰めようとしたかは分からないが、傍観者であるアダムの目から見たとすれば、そんな風に見えた。

 

「うん、分かった」

  うんうんと頷き、軽快な足取りで未だこちらを見向きもしてくれないアダムの側まで行くと、気配を感じ取り、ようやく振り向いてくれたようだ。自分より高い彼を見上げ、今度は挨拶ではなく、お別れ代わりの微笑みを浮かべて、両手を伸ばす。僅かな交流を図っただけとはいえ、なんとなく彼女の意図を汲み取ったアダムは、渋々という風に屈み、そっと彼女を抱きしめた。つま先立ちして、腕の中でもぞもぞと動く彼女を気にせず、離す前についでに頭をポンポンと撫でてやれば、とても満足したかのように花が咲いたような笑顔を見せた。

 

  この人類は本当に、なんというか、大胆不敵でありながら、どこか抜けてる感じだな。さっきまで怯えていた様子を見せ、続いては多大な秘密を抱える様子を見せたにも関わらず、今は無防備極まりない状態を晒してる。やはりアカネは、私が想像した以上に抜けた(謎めいた)者らしい。知的な特別個体は、呆れた目で子供のような笑顔を浮かべる彼女を見つめていた。

 

  次なる狙いを定めて、とてとてとずっと横で見ていたイヴのところまで寄って行き、すでに両手を上げていた彼のところに遠慮もなしに飛びついた。衝撃を和らげるために、ぐるりと一回転した二人の顔には満開の(笑顔)が咲いており、とても楽しそうに見えた。

 

『カシャリ』

 

  不穏な音が鳴ったと思えば、アダムはぽよぽよと宙に浮かぶ白い箱に目を向け、音の正体は『カメラ』だと気づいた。もはや大きな子供と化した二人を撮影して、なんのためになるのか?と不思議に思った彼であったが、なんとなくではあるが、理解できる。言い表せない感覚が、己の中で芽生え始めてるのを感じてる。

 

  視線を感じ取ったポッドはただ、彼にだけ聞こえる音量で喋った。

 

「警告:特別個体アダム、アカネとの接触を禁ずる。その代わり、ここを拠点とする情報を記録から外す」

「ああ、ありがたいが…断る、我々はアンドロイド側の指示など受けない」

  ましてや『貴様』の指示など、受けるはずもない。その一言で、ポッド255の言葉は絶たれてしまった。人間の言葉で形容するなら、喉元に詰まった、という表現がなにより相応しいだろう。予想通りの反応を得たアダムはニヤリと笑みを浮かべ、たった一句を口にした。

 

 

 

「貴様の正体を知ってる」

 

 

 

「知られれば、さぞや困るだろ?分かってるなら大人しく黙っていろ」

  冷たく続かれた言葉は、返答を得ることなく、虚しく空気の中へと溶けるだけだった。なぜなら彼女の持ち主(主人)であるアカネはすでにお別れを済ませ、早く帰ろうとポッド255を急かしていた。素早く微笑みに切り替えたアダムを見て、なにも知らないアカネはただ、いつもの笑顔をしながら手を振って最後の別れをするだけ。

 

  あの冷たく、機械生命体に相応しい残酷な表情を、決して彼女に晒すことなく。

 

  隠されたことも知らずに、基礎情報を握られた彼女(アカネ)と、正体を握られた白い箱(ポッド255)はその場を離れようとした。アカネは構わず、ビルの最上階から大胆に跳躍すると共に右手を頭上に上げ、伸ばしてきたポッドの腕に掴まれ、まるで枯れた落ち葉のように、ゆらり、またゆらりと揺れながら降下していった。別の建物の最上階に辿り着き、またもや同じ方法で降りていく。

 

  しかし彼女はまだ知らないのだ。このゆらりと危なっかしい降下の仕方が、のちに出会う二人の者を驚かしてしまうのを。そう、彼女は、まだ知らないのだ。

 

 

 

- 贖罪の罪人(双子)と人間サマ

 

  その一方、レジスタンスキャンプから出て、例の人類が徘徊しているであろう廃墟都市を一通り回ったデボルとポポルであったが、捜索対象である人類はどこにも見当たらなかった。アネモネから得た情報だと、その人類は随行支援ユニット(ポッド)を所持してるらしく、そこから発信された信号を拾えるはず。おかしなことに、最後に信号を発した廃墟都市を全て回り終えても、未だに影すら掴めてない。

 

「おっかしいな、この辺りのはずなんだけど…」

  廃墟都市を数周回って、足を止めたデボルは現在、悩ましげに腕を抱え、苦悩したように顔を歪ませ、ポポルの隣に立っていた。そんなデボルを慰めようと、優しく声をかける。

 

「近くで隠れてるだけかもしれないから、焦らず探そう?」

「…そうだな、焦ってたら逆に見落とすかもしれない」

  双子として生み出された(作られた)からなのか、己の片割れがどんな気持ちでその言葉を言い出したのか、よく分かっていた。柔らかい声色で己に話しかけ、誰にでも優しく接するポポルに、仕方ないという風に、小さく笑みを浮かべた。彼女もまた、自分と同じく焦っているのに、こうして落ち着かせようとしてる。

 

  ああ、ポポル、やっぱり私はお前なしでは、やっていけないようだ。自分と同じ容姿をした、ココロ優しい片割れを見て、赤い髪の彼女(デボル)は安堵した笑みを零した。

 

  そんな苦悩を消し、穏やかなひと時へと変わる場面で、ポポルの視界の隅に、とある物体がゆらりゆらりと映りこんだ。気になって、デボルから目を逸らし、物体の方向へと向ける。ビルの最上階辺りに、人影らしきものが見える。風に揺られながら、黒いものが吹かれ、波紋を描く。それが人だと気づいた瞬間、声にならない悲鳴を上げそうになったポポルは息を呑んだ。未だ気づいてないデボルを促し、上空から降ってくるあの人影を指差す。

 

「で、デボル!あそこッ!」

  一瞬で恐怖に染め上げたポポルの顔を目の当たりに、あまりの変わりように彼女は気にする暇もなく、すかさず彼女が指した方向に顔を向く。目に映ったのは、さきほどよりも近付いてる人影と、人影の腕をしっかりと捕まってる(ポッド)の姿だった。この間も、ヨルハ機体らしきアンドロイドがそんな事をしていたのを見かけたが、もし今見えてるのが、自分たちが捜索してる例の人類だとしたら……間違いなく、大怪我を負ってしまうだろう。しかも、あんな無防備で、着地の仕方も分からなさそうな姿を見れば、誰だって不安を感じてしまう。

 

  落ちてくる人類の落下地点を予測し、二人は同時に動き出した。ほぼ全力で走ったおかげか、どうにか人類が地面に着く前に、その下に駆けつけたらしい。次の難所は、どうやってその人類を受け止めるかどうかだ。もうすぐ頭上まで到達した人類を視界にいれ、デボルはほぼ考えずに両腕を差し出した。ポッドが落下の速度と衝撃を和らげた力も加え、ふわりと、その人類を軽く抱えた。

 

「っと…ふぅー!ヒヤッとした…なぁ、大丈夫……か?」

  不自然に途切れたデボルの言葉に、後ろに控えていたポポルは目を瞬かせながら、そっと二人に近付く。だけどデボルの腕の中にいる人類の顔を見た瞬間、彼女も、固まってしまった。

 

「…初めまして」

  パチパチと目を瞬かせ、アカネは自分を受け止めてくれた、なぜか呆然としてる赤い髪の彼女に微笑みを浮かべて、いつもの一言を放った。その響きは、赤い髪の双子の驚きを得た。

 

「きみ、は……」

「あなたは…」

  記憶領域を探る、瞬時に探るも、彼女に関するデータが一切見つからない。なのに、彼女の姿、彼女の声は、たしかに記憶領域のどこかを甦らせた感覚があった。それなのに、まるで靄がかかってるみたいで、なに一つ思い出せない、頭の中にポッカリと穴が空いてるようだ。

 

「私はアカネ、霧雨(アカネ)…二人とも、よろしくね」

  二人の戸惑いも知らずに、抱えられたアカネは、やはり笑みを浮かべるだけだった。




デボル&ポポルの出番やっときた!
嬉しかろう?嬉しかろう!?
2B&9S「やめなさい」

大丈夫、彼女ならきっと優しく接してあげるから!
だから安心して虜になっていいぞデボル&ポポル!
デボル&ポポル「やめなさい」

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