人形、ヒト、機械   作:屍原

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彼らに本性と呼べるものがあるとすれば、
それはきっと好奇という名の残酷だろう。
しかし、感情に理解が足りぬ彼らに、分かることだろうか?



珍しく狼狽えたヒトは、似てもに使わない考えを頭の隅に置いた。



お待たせして本当に申し訳ございません…|ω・`)


人類と依然本性を知らぬ特別個体

- 見かけによらず

 

  一人(ヒト)一人(機械)によるささやかな騒動を経過し、すでに二十分近く過ぎていた。食卓の両端に、双子(アダムとイヴ)は各々の定番位置(椅子)に座り、とこから調達してきたかも知らぬ本を齧って(読んで)いた。それが、彼らのいつも通りの風景であり、もっとも安らぎを得られるひと時だ。

 

  だが今日は、一つ違うモノが混ざっていた。それは紛れもなく、アダムの指示によって攫われてきた彼女(アカネ)のことだろう。最初の出会いで、ろくに会話できなかったアダムは密かに根に持っていたようで、アンドロイドが彼女の側にうろついてないタイミングをはかって、イヴに迎えるようにと伝え、少々『接触』をして今に至る。

 

  本から目を逸らし、向かいの椅子に座ってるイヴ…と彼女に視線を寄越す。いつもならつまらなさそうに、自分の言い伝えに従って本を読む姿が見られる。片手は食卓に置き、顔を支えながら、もう片方の手は本を持って読む姿勢だ。だが今日、イヴの膝の上には、アカネが座っていた。よく分からない単語を指すイヴに、視線を寄越して読み上げる彼女の光景は、何度か目にした。普段ならば己に聞くか、あるいはネットワークに接続して資料を探るかの二択をするイヴが、まさか第三の選択をするとは。

 

  やはり、君は思ったよりも、よほど他者を魅了する者らしいな。本から注意を逸らしたアダムは、じっと二人を見つめて考えに溺れていた。

 

  ふと視線を感じたアカネは、顔の横に落ちてきた髪を耳に搔き上げながら、俯いていた顔を上げてアダムの方を見た。続いて、彼女は眉尻を下げ、目蓋を閉じて苦笑いを見せる。

 

「ごめん、アダムさん…騒がしかった…?」

  困惑に満ちた声を耳に、聞いた本人であるアダムはただ小さな微笑みを浮かべて「いや、ただ君に懐いてるイヴが意外でな」と視線をアカネからイヴに移す。しかし注目を浴びた彼は嬉しそうな笑みを顔に、2Bや9Sと向き合ってる時の殺気が全く感じられない、むしろ子供じみたオーラを発してるように感じられる。呆れたため息を吐き、パタンと音を立てて本を閉じたアダムは、それを食卓に置き、続いて椅子を軽々と持ち上げ、イヴと彼女のほうへ歩み寄った。

 

  頭を傾げる動作をして、近寄ってくるアダムに視線を向けながら、姿を追うと共に頭を動かす。彼の行動の意図を汲み取れなかった彼女は、疑問に思い、顔はまったく分からないと教えているかのようだった。さらには、すでに二人の隣まできたアダムの顔を、穴が開くほどずっと見つめていた。椅子を置き、座った直後に足を組む姿までじっと見つめるほど。本当にアダムを見てるのか、それともただ頭は別のことに集中してるだけで、目の動きが脳の回転に追いついてないだけか。真相はどうであれ、アダムの中では、目の前にいるアカネはいつまで経っても、解明される事のない謎だろう。

 

  だからこそ、興味が湧くのだ。彼女の謎を、一つも残らず、全部暴き散らすのが、楽しみでならないのだ。好奇心旺盛(残酷)な笑みを浮かべ、知的な(歪んだ)雰囲気を放つ特別個体()は指先が赤い右手を伸ばした。

 

「君をここへ案内した(攫った)のは、静かに書物を読むためではない…」

  言葉の意味を理解できない(理解してる)彼女の顎を親指と人差し指で掴み、くいっと上げて、目を合わせた。一切の感情が込められてない瞳を向けられた彼女は焦ることなく、慌てることなく、ただただ静かに微笑みを浮かべた。

 

  そうだ、これこそ、私の知るキミだ。大胆不敵、冷静沈着、常に他人の調子を狂わせる、そのために存在してる人間(ヒト)であると。間違いなく、私と初めての会話を交わしたあの時のキミ。アダムは口元を歪ませながら、目を細めた。

 

「それとも君は、私との約束を忘れたなどと…言うはずがない。そうだろ?」

  ほぼ確信した口調で述べ、さらには追い打ちをかけるように、後戻りできないように疑問を投げつける姿勢は、どこからどう見て強制的に『YES』と答えさせるために、仕向けたものだった。それに対して、退路を断たれたアカネは慌てることなく、目蓋を閉じて「もちろん、覚えてるよ」と柔らかい雰囲気を放ち、目を細めてアダムを見つめた。

 

  イヴを蚊帳の外に、長髪の二人は姿勢を保ったまま、またもや見つめ合って(睨み合って)いた。外野から見たとすれば、それはなんとも言えない、無意味にも至る行動と解釈されるだろう。

 

  だが彼ら(部外者たち)はきっと知らないだろう。この二人が、心の底から相手が掴んでる情報を奪いたがろうなんて……誰も知る由はない。

 

 

 

  アダムが、心の底から、目の前にいるヒトの余裕を崩そうとしてるのも。

 

 

 

- それは無意識か、それとも(サガ)

 

  実のところを言うと、彼女は、酷く焦っていた。彼女、もといアカネというヒトは、思いもしなかったお誘い(誘拐)に驚きつつも、平静を装ったふりして、されるがままになっていた。予定違いなのは思っていたが、さらに軌道がずれていくのは、さすがに想定外だったらしい。

 

  指してるのは間違いなく、アダムの接触と探りを入れる会話の数々だ。笑みでなんとか誤魔化してはみたものの、口に出した答えは取り消せない。だけどアカネは気づいてる、もしここでかの者(アダム)の気に入らぬ答えを出してしまえば、もっとも手に入れたい情報(記憶)はおろか、最悪、己の命まで危うくなってしまう。すなわち、命の危険を冒してまで、この場に身を置いてるのだ。

 

  ともかく、彼女はアダムと会話を図るために、一度イヴに降ろしてもらい、代わりに席を譲ってくれたアダムの椅子に腰を下ろした。考える素振りを見せ、目の前に立ってる長身の男との話題について思考していた。

 

「うーん、なにから話せば…」

「君のことを話してみるのはどうだ?たとえば出身について」

「出身ならここ(日本)だよ?でも…年齢は秘密」

「ああ、それは惜しい」

  いかにも残念そうに目蓋を閉じ、悲しいと伝えるばかりの表情を露わにするアダムだが、それも数秒しか保たれなかった。なぜなら、彼はすぐにニヤリと口元を歪ませ、愉快そうな口調で話し出す。

 

「…と言いたいが、君の基礎情報は、すでに入手済みだ」

  どんな予想外の返答や動き、対応にも決して驚かず、平然とした態度を取るのは、いつものアカネ。だが、今日この時に限って、平静も、平然も、淡々とした反応もできない。イヴの誘拐、アダムの急接近と挑発(誘導)に、『いつも』を保てるわけなんてない。もっと直接的に言えば、アカネは現在、微笑みを浮かべてるとはいえ、ひっそりと、顔を青ざめてる。よく見ると、唇に流れる血もやや減り、同じく青ざめていく様子を見せた。

 

  もし、アダムの言ってることが本当なら…彼はとっくに、自分の情報を丸ごと手に入ってる。しかも、自分では到底アクセスすることも叶わぬ、彼らのみがダイブ(捜索)できるネットワークの情報網だとすれば、一体なんのために、ここまで来たというのか?欲しかったモノ(記憶)が、とっくの前に知られ、教えてもらえないとしたら。なぜ自分は、ここに身を置いてるのか?考えてるうちに、青ざめた顔が、さらに青ざめていく。

 

「ふっ…ふふ、フハハハハハハッ!嗚呼、たまらない!その血の気が引いた顔ッ!最高だッ!」

  肺にあるすべての空気を絞り出し、体に内蔵された力をすべて込めてるかのように、耳障りにも達するその残酷な高笑いは、まるでアダムの本心を表してるかのようだった。残酷で、凶悪で、言葉では表しきれないほど、ヒトらしからぬ(血も心もない)特別個体は、果てしないヨロコビに溺れていた。初めから彼女の失態を予測し、感情(恐怖)に囚われる反応を期待していた。これを見て、果たして彼女は、さらなる反応を見せてくれるだろうか?横で見てるだけのイヴと、待機を命じられたポッド255は考えた。

 

  注目を浴びる彼女は、気付けばすでに元通りになり、血色が悪かった面影は一切存在せず、見えるのはただ、彼女を表すかのような微笑みだけだった。おかしい、アダムのみならず、その場にいた全員が思ったのだ。ありえないと、当事者である彼らは感じた。普通ならば、もっと狼狽えて、さらに失態を重ねるはずが、なぜ短時間で回復できたのかと。

 

「なるほど、それが……キミなんだね」

  口を開けば、すでにいつもの彼女だった。誰に対しても大胆不敵、冷静沈着、怯えることを知らぬヒトの姿がそこに。だがそれはさらに、アダムの(感情領域)に触れ、異変を与えた。心底愉快そうな笑みは未だ存在し、もう一種の昂りを漂わせていた。まるでゾクゾクしてるように、彼は堪らないという風に、瞳の奥にただならぬ狂喜を潜ませていた。

 

 

 

  これがヒト、これが人間、これが人類、これがアカネ!実に興味深い、実に愉快!今は、あの無能なエイリアンたちを感謝しなければならないようだ。我々を創造し、ここまで進化を遂げてこれるからこそ、こんなにも謎めいたヒトに出会えたのだ!ああ、感謝してやるぞ、無能で単調な創造主よ!おまえらのおかげで、私はこうやって彼女の謎を暴き、本性を引きずり出せる!

 

 

 

「感情を表してくれるのは嬉しいけど、あまり制御を外しちゃダメだよ?」

  気づけば、真っ黒な瞳はすでに血色の目を見つめた。暴発しかねない、急速にこみ上げてきた彼の感情を抑制するように見つめていた。アカネの細い腕が伸びる、小さな手がアダムの頬を包み、それに合わせて彼は屈んだ。すべては無意識、気づけば体はすでに動き出していた、と感じさせる動作に、ずっと傍観してきたポッド255はカメラを回し、映像を記録していた。

 

  これはアンドロイドにとって、貴重な情報(データ)になる、ポッド255は確信を持って、記録という行動に移したのだ。敵対する機械生命体が、意図もせずに彼女へ従順な態度を示すのは、非常に珍しい光景。ならばきっとこの記録は、アンドロイド側の彼らに有利をもたらすであろう。そう考えたポッド255はただ、危害を加えるつもりのない狂気の特別個体(アダム)と、未だ怯えを知らぬヒト(アカネ)を映像に収めるのみだった。




本性を晒し出すも、なぜあなたはちっとも意外と思わないのか?
やはりあなたは、なにか知っているのだろうか?
静かに記録を残すポッドは、人知れずにとある人物にデータを送っていた。

慌てて仕上げたものなので、誤字祭りかもしれません。
パソコンがようやくネットワークに繋げるようになりましたか、まだまだ片付けが終わっておらず、スマホで仕上げました。
文法はおかしいとか、作風違いますねって思われるかもしれません。
環境が変われば雰囲気もガラッと変わる性質です、私自身でもよく分かりません(倒れ込む)

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