ヘビに唆され、原初の人間は知性を得ることができた。
その代償は、楽園から追放されること。
未来永劫苦しみながら生きていく彼らは、知性を得て、本当によかったんだろうか?
旧約聖書を流し読みして、
- 困惑をもたらす
「……イヴ」
「なに、にぃちゃん?」
「どういうことか、説明してもらおうか……イヴ」
「分かった、にぃちゃんがそういうなら」
飛び出して行ってから数分、弟は目標人物である『アカネ』を抱え、見知らぬ随行支援ユニットまで連れてきた。それだけではない、もっとも問題視するべきは、かの人類が、弟の腕の中で、真っ赤な顔で、ひらひらと私に手を振ってることだ。つまり、この
私は頭を抱えながら、イヴに説明を求めた。だが勿論、アカネを降ろしてもらってからだ。
- 彼女の人間論
イヴの
二回目の出会いは、最悪だった。未だ熱が下がらない頬を放っておいたアカネは、困ったような微笑みを浮かべるだけだった。
それにまったく気づく様子もなく、長髪の彼はただイヴに「彼女を降ろせ」と一言伝える。頭上でイヴがゴクっと頷く動作を感じ取り、次に彼はしゃがみこんで、すんなりと比較的に小さな彼女を地面に降ろしてくれた。従順な様子を見せるイヴに、彼女はただただ眉尻を下げ、微笑みを維持する。
「ありがとう、重いのに抱えてもらって…」
依然としゃがんでるイヴにその笑みを向け、腕を下げて、自分の指を弄りながら、申し訳なさそうに話す。だが、イヴは意味が分かってないように、頭を傾げる。重い?リンゴと同じような重さの彼女が、重いだと?それがイヴの考えてる事だ。どうやら彼にとって、アカネの重量など、普段食べてる植物と変わらないらしい。果たして事実なのか、はたまたイヴの知識がまだ足りないだけか、それは兄のアダムしか知らないことだろう。
それでも、口に出した言葉をなしにするのは不可能だ。
「全然重くないよ?リンゴみたいに軽かった」
「イヴ」
「わかったよ、にぃちゃん。いま行く」
「すまないな、アカネは少しここで待ってくれ」
イヴの言葉に反応するよりもさきに、アダムはすでに阻止し、腕を抱えながら、長い食卓のほうでイヴの接近を待っていた。感情が見られない血色の瞳を見つめ、呼ばれたイヴは淡々という風に返事して、スタスタと兄のほうへ歩いていった。大きな子供の背中を見てるかのようなアカネは、ようやくイヴがさきほど言っていたことの意味を理解した。
あれは、紛れもない、イヴの心遣いなのだ。無意識で、まだ彼の
「うん、分かった」
もちろん、思考をすると同時に、アダムへの返事は怠らない。脳の回転が遅ければ、いざという時の対応に遅れる。反応が遅れてしまえば、命取りになる。つまり両方兼ね備えなければ、待つのは死のみ。アカネは目覚めてから、今に至るまでの間に学んだ、ささやかな
イヴは兄を見るのに集中していて、アカネに気づいていない。だがアダムは始終こちらに顔を向けてるので、彼女の動きには目を留めている。慣れたようにニコッと一瞬だけ笑みを返したら、また無表情に戻り、イヴに視線を向け直した。それを目の当たりにしたアカネは、右手の人差し指を唇に当て、目を細めながら、じっと彼らを見ていた。あまりにも慣れた
「特別個体アダムの動作は完璧に習得されたもの、人としては申し分ない笑みだった」
「でも、それじゃ足りない」
「不明:アカネの定義について、説明を求める」
遠くで会話を続けるアダムとイヴを眺め、彼女は思考の深層に潜り、目蓋を閉じ、自分の見解を述べる。
人は、完璧になれない。天才でも、凡才でも、愚者でも、強者も弱者も、完璧ではない…もし、本当に完璧な人が存在していたら、この
「だって、それが人間だから」
悲しげに浮かんだその表情は、どうしようもない悲愴感に満ちた瞳は、一体どこに向けられてるのか。それは、ポッド255でも、アカネ自身でも分からないだろう。そして彼女は言う、人間は完璧でないからこそ、美しく見える。過ちがあるからこそ、人間は進化する。滅びがあるからこそ、新たに生まれる物もある。
「それに…人は、感情があるからこそ、人であり続けられるの」
たとえそれが、
「けどあの人は、まだ欠けてる。模倣だけじゃ、足りないの」
食卓のほうで会話を続ける双子を見つめ、アカネとポッド255は静かに彼らを待っていた。
- 急接近
アダムとイヴの会話が終わった頃、ようやくじっとこちらを眺めているアカネに気づいたらしい。彼女の隣で浮いてるポッドも同じく、狙いを定めてると気づいてるが、攻撃の意思は見られない。ただじっと見つめてくるだけ。相変わらず行動原理が読み取れない
「なんでもない、ここで大人しく待っていろ」
弟から離れる際、彼を一瞥してから、真っ直ぐに彼女のほうへ歩み寄る。コツコツと規律正しい靴音を鳴らしながら、アダムは優雅に歩みを続けた。貴族のような姿勢を取る彼を見て、段々と距離が縮まっていく時も、アカネは目をキラキラと光らせた。恐らく、生まれてこの方、そういった動作を間近で見たことがないからだろう。
思考が終え、ようやく目の前まで近寄ったアダムを見上げて、アカネはいつもの微笑みを浮かべ、彼の言葉を待っていた。警戒心を持たない、隙だらけの彼女を視界に捉え、アダムは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「手荒な真似をしたことに対して謝罪しよう、君との再会が待ちきれなかったんだ」
そう言ってアダムは身を屈み、左腕は背中へ、残された右腕を伸ばし、降ろされていた彼女の右手をそっと取り、そのまま自分の唇へ引き寄せていく。ちゅっと音が鳴り、彼女の手の甲に口付けを落した。一点の迷いもない、流れるような動作がアカネの目に
予想通りの反応を得たからだろうか、アダムはニヤリと笑みを浮かべ、右手を己の胸に置き、屈んだ状態で目を細め、赤い瞳で彼女の真っ黒な目を見つめた。メガネ越しに映る赤に、感情は込められてない。だが、その体の内に隠された
僅かなヨロコビが、這い上がってきてる。
「それはよかった、私とて、唯一残された人類に嫌われたくないからな」
「私に嫌われるようなことでもしたの?」
「残念だが、それは君次第だ」
「たとえば?」
流暢な会話が続けられる中、知らず知らずに、アダムは愉快そうな笑みを浮かべ始めたのだ。前回では、初対面でも怯むことを知らず、押し寄せてくるような気配を漂わせるアカネに
そして
屈んでくるアダムに気づいた彼女は身を引くが、左手は握られ、いつの間にか腰に回された腕に阻まれ、まるでワルツを踊ってる最中の状態になってしまった。逃げ場を失くしたアカネを面白がるように見つめ、アダムはさらに顔を近づける。
さらりとした銀髪が、流れるように落ちる。人形たちと人間を模して造られた美しい顔は、落ちてくる髪と相まって、
相手が、
「このまま、
アダムは不敵な笑みを浮かべて、残酷な願いを口にした。だが支えられたアカネは、怯えもせず、引き上げられた左手をされるがままに、残された右手を伸ばす。その指は頭皮近くの髪を絡め、掌はアダムの頬を包むように、優しく触れていた。親指を動かし、彼のすべらかな肌を撫でて、頭を僅か右に傾げ、これ以上にない微笑みを浮かべた。
「ううん、嫌いにならないよ。君がそうしたいなら、構わない。けど…本当にいいの?」
「……」
「私を殺してしまえば、君は本当に……望む
彼女の返答をきっかけに、その場は静寂に包まれた。風の音と、鳥が鳴り響く声。運ばれた風に吹かれ、揺れる銀色と黒い髪が、摩擦によって発する音以外、静かだ。そして、睨み合う二人。異常な空気を打破したのは、アダムの笑いだった。声を振り絞って出されたそれは、まるで想定外の結果を知ったかのような、悦びに満ちた声色だった。
「どうやら君は、自分の
ご機嫌な声色で言いながら、アダムは未だ消え失せない
微妙な空気を滲み出す二人を見て、
君は私から
私も、君から
ならば、殺そうだなんて…思わないでしょ?
ポッド255より抗議:
出番が少なすぎる。
要求:出番の増加。
……それはさすがに(今回は)無理だよ、ニーフィアさん。
それとアダム、大胆しすぎません…?もし2Bと9Sに知られたらやばい事になってましたよ…セクハラに近いですよ…
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よろしくお願いします…|ω・`)
今回は『虜』に変化なし、よってデータは非表示。