人形、ヒト、機械   作:屍原

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どこからきて、どこへ行くのか、決めるのは誰?
できることなら、教えて欲しい。
けど、知りたくない。
ああ、矛盾極まりない……

これが私たち(ヒト)のサダメだろうか?



ヒト(アカネ)石のように重い思考(失くしたモノ)を、遠く(過去)へ投げ捨てた。


人類と特別個体の片割れ

- 真実は未だ遠く

 

  森林地帯にキャンプを設置した、というアネモネの依頼を完遂したのち、2Bと9Sは本来の任務に戻った。アネモネの依頼は、二人が地上に降り立った主な目的ではなく、一種の通過点(サブクエスト)に近い。アカネを連れて行けるのも、それが原因だ。だが確実に危険が伴う任務(メインストーリー)に、彼女に同行させるわけにはいかない。きっとバンカーにいる司令官も反対し、許可など下さない。

 

  そして現在、アカネは目覚めた直後と同じく、レジスタンスキャンプで生活している。ぼーっと空の上に漂う白い雲を眺め、キャンプの小さな広場で一人、うろうろしていた。たまに出入りするレジスタンスと会話を交わし、手を振ったりとしてるが、本当は、とてつもなく退屈していた。

 

  それはさておき(閑話休題)、まずは自分に関しての重要情報について、調べてみよう。ずっと同じ場所でうろうろしてたヒト(彼女)は、ぐるりと後ろに回り、キャンプ内の唯一の部屋へ向かっていく。そこは、2Bと9Sに与えられた、地上での安らぎの場。

  

  彼女の発見後に、所持していた所持品はすべて、2Bと9Sについて行く前にキャンプに置いていた。その所持品の中、彼女は自分が持っていたであろうケータイが入っていた。試しに起動してみても、圏外と表示され、挙句はバッテリーが切れ、ただのガラクタと化してしまった。他にも読みかけであろう小説、電子マネーのカードと、身分証明等のカードが入った革製の財布。どれも自分が持っていた物、どれも自分の存在を証明する物、なのに、自分の興味を引き出す物はいなかった。

  

  おかしいな、どれもこれも己の所有物なはずで、見覚えもあるのに、親近感がまったく湧かないなんて。アカネは、淡々とした思いを浮かべ、財布に手を伸ばした。

  

「……読めない」

  片手に財布、片手に運転免許というポーズ、視線は言われるまでもなく右手にある運転免許だが、長すぎる月日が経った影響か、文字がかすれてまともに読めない。自分の顔との距離を縮めて、加えて目を細め、じっと見つめる。呻りにも似た悩ましい声を鳴らし、努力して文字を読み取ろうとしたが、無駄だったらしく、諦めて財布に戻した。代わりに、謎のカードを発見した。財布に敷かれていたようで、視界に映らなかったらしい。

  

  気になった彼女は財布を置いて、改めてそのカードを手に取る。よほどいい素材で出来てるのか、生まれた年月はかすれてるだけで、年齢とカードの名前が刻まれてるのが分かる。

  

「氏名、霧雨(きりさめ)(アカネ)、年齢21…遺伝子存続計画、番号001…?」

  刻まれたのは、紛れもなく自分の名前と自分の年齢そのものだ。だけど、遺伝子存続計画とは、一体なんの事を示してるのか?番号まで書かれているが、それは一体なんの目的で製造され、分配されたカードなのか、さっぱり分からない。

  

  カードを裏返し、かすれた年分を確認する。そこに書かれた年は、2032年。

  

「……2032年、存続計画…」

  カードを持ったまま腕を抱え、目蓋を固く閉じて、必死でなにかを思い出そうと頭を回転させる。それも数秒しか維持されなかったらしく、彼女は「放っておけば思い出す!」と非常識な結論を下し、散らばった所有物を片付けて、部屋を後にした。

  

  

  

- 白と黄金

  

  ささやかな自分探し(荷物整理)も終え、退屈極まりない彼女はまたもや、キャンプでうろうろしていた。道具屋の商品を眺めたり、キャンプ内に鎮座するアクセスポイントを調べてみたり、広場に咲く花を眺めたり、空に浮かぶ雲を眺めたり。

 

  だが、やはり退屈だ。ずっと行動を共にしてくれた、あの二人(2Bと9S)は、任務で森の国に身を置く事になり、短期間でこちらに戻ってくるのは不可能らしい。彼女がぼーっと、なにをしようかと考えてる時、一人のレジスタンスは彼女に話しかけ、渡したいものがあると言われた。

  

「これを君に預けるようにと、バンカーから指示があった」

「…ああ!2Bたちが言っていた、司令部のことか!」

  一瞬だけなにを言ってるか理解できなかったが、すぐに思い出して合掌し、パァーと晴れた笑顔を浮かべて喜ぶ姿を見せる彼女だった。思わず苦笑いを零したレジスタンスは頷き、手に持っていた物体を起動させた。

  

  箱のような形、白い塗装が施されたそれは、2Bと9Sの側に浮いていたあの二人(042と153)と同じポッドだった。驚く暇もなく、静かに起動したポッドは、アカネの目前まで浮遊し、機械的な音声が流れ出す。

  

「当機は随行支援ユニット、ポッド255。本日付けで、対象、霧雨アカネのサポート、及び護衛を行うことになった」

  女性の音声が流れ、白と僅かな黄金の塗装が特徴としたポッドは、じっと、目の前にいる彼女の反応を待っていた。口をポカンと開き、合掌を維持したまま驚いて目を見開く彼女は、すぐさまキラキラとした目に変わり、これ以上にない喜びを表すように、頬まで染めていた。彼女の大げさすぎる反応を目の当たりにしたレジスタンスは、固まった。そしてポッドは、静かに浮遊していた。

  

  それぞれの反応を見せる最中、アカネはポッド255の手を、自分の両手で優しく握り、目を細めて、花を咲かせるような眩しい笑顔をしていた。

  

「これからよろしくね!ニーフィア!」

「こちらこそ、よろしく、アカネ」

  早速付けられた愛称に、ポッド255は、冷静に対応した。ポッド042や153と同じ反応を出すかと思えば、非常に落ち着いた対処だった。例の二機から、彼女に関する基礎情報(映像)を基づいて、新たなプログラムを追加したのか。どちらにせよ、ニーフィアと名付けられたポッド255は、彼女と接触して、初めて故障しなかった(固まらなかった)機体だ。

  

  しかし、その声と塗装は、まるで何者かをベースとして作られたかのような感覚だった。ずっと驚いてばかりいるレジスタンスは、考えずにはいられなかった。

  

  

  

- 共に徘徊(散策)しよう

  

  新しい仲間と知り合ったアカネは、退屈から逃れるために、ポッド255と共にレジスタンスキャンプを出て、廃墟都市をうろつくことに決めた。それを言い出したアカネは、レジスタンスたちに心配され、散々注意事項を聞かされてしまう。出かける際に、最近彼女が持ち帰った鉄パイプまで持たされてしまう事態に。ポッドがいるおかげで、持たずに背中で浮かせることができて、体力を消耗せずにいられてほっとしたアカネだが、面倒と思ったらしく、キャンプを出て早々に置いてしまった。

  

「分からなくもないけど…少し過剰だと思うよ」

「否定:アカネは重要人物であり、必要な態度と思われる。追加:あなたが居なくなると、悲しむ者が沢山いる」

「大げさだよ?でも…ニーフィアがいるから、心配ないでしょ?」

「肯定」

  考えを口にする彼女に対して、論理的思考によって反論の言葉を発し、さらに心的要素による影響を述べるポッド255は、やはり他の個体とは一味違っていた。彼女に合わせて作られたポッドゆえか、円滑なコミュニケーションが図れる。それだけじゃない、アカネが口にした『信頼』に与えする言葉を、戸惑うことなく認める点を見て、よほど改良された機種なのだろうと考えられる。

  

  持ち主に忠実で、持ち主の言動と意見を最優先とする、心強いサポート役。それは間違いなく、ポッド255に相応しい形容だろう。

  

  そんな一人(彼女)一機(ニーフィア)は、広大な廃墟都市を廻っていた。二度目になる景色、まだまだ新鮮に見える退廃した文明の跡、人類のかつての繁栄が蹂躙された、美しくも残酷に映る風景。今や、機械の楽園と化している地上の一部。

  

「動物は、残ってるのにね…」

  遠くに歩いてるイノシシやシカを眺め、彼女は非常にゆったりとした足取りで徘徊していた。高さが異なる建物(ビル)の隙間を潜り、僅かに残された平原を歩み、陥落した大穴を眺めるために、崖の付近を歩き、まだ身に染めてない(記憶にない)土地を、自らの足で覚えようとしていた。懐かしい景色などない、見知った景色もない。なにもかも記憶に刻まれて(残されて)ない景色を眺め、黒い瞳はただただ美しくも寂しい大地(廃墟)を映してるのみだった。

  

  不思議なことに、機械生命体と遭遇しても、彼らは襲ってこなかった。まるで自分の動きを観察し、目を向けるだけで、接近してくる気配もなく、攻撃する予兆もない。アカネが視界から消えるまで、立ち止まって、睨むように見つめてくるだけだった。ポッド255から破壊の推薦をされたが、彼女は嫌がるように、何度も断り、何回も素通りしてきた。

  

  以前遭遇した、特別個体『アダム』の命令によるものか、それとも、元々機械生命体はアンドロイドと戦うためだけに造られた存在だからなのか、アカネは知る由などなかった。それでも、彼女から見た機械生命体たちは、悪い存在()とは思えなかった。

  

  

- 初対面にして攫われゆく

  

  大穴の付近にある、比較的に高い建物に入ろうとしたアカネを、ポッド255は咄嗟に阻止した。パチパチと瞬きを繰り返し、彼女は戸惑いを覚えながらも「どうしたの?」と問いかける。

  

「警告:特別個体『イヴ』を探知、早急な退避を推薦する」

「…あれ?アダムとイヴって、旧約聖書の人物だっけ?」

「肯定:特別個体『アダム』および『イヴ』の名称の由来は旧約聖書『創世記』に記述された、最初の人類である。警告:特別個体『イヴ』の接近を確認、退避の猶予を喪失、アカネの防衛に入る」

  彼女の突然の悟りに答え、貴重な退避時間を逃してしまったが、焦ることなく、素早くアカネの前まで浮き、防衛体制を取った。同時に、ビルの開放式の入り口から、人影が近づく。陰から、日の光に照らされた位置まで移動した途端、足を止めた。アカネは、地面に向けた瞳を、俯いた顔を、ゆっくりと、上へと移動する。

  

  太陽によって、眩しく光る癖のある銀色の短髪。アダムと同じく血色の瞳がギラギラと光り、野生的な目付きで彼女を見下ろしていた。銀髪の彼は服を着ておらず、鍛えられた上半身が露出される。奇妙な黒い模様の刺青が刻まれた左腕は下げられ、アダムと同じデザインをした短い手袋も嵌められていた。まるで装甲のような設計をした革製のズボンに加え、それに似合った雰囲気をしたブーツを履いていた。

  

  アダムとは、また別段と違った気配を漂わせる人物を目の当たりにして、彼女は好奇心を擽られたかのように、微笑みを浮かべる。対照的に、イヴは面白くなさそうに、眉間にシワを寄せ、血のような瞳で彼女を見下ろし続ける。

  

「お前が、にぃちゃんが言ってた『アカネ』か?やっぱちっせーな、お前」

  開口一番で、極まりなく失礼な発言に対し、果たしてアカネはどんな反応を返すだろうか?やや感情的(怒りそう)になったポッド255は、イヴを射撃する衝動を抑え、後ろにいるアカネの動きを待っていた。

  

  だが、悪口に似たことを言われたアカネは、怒るどころか、ますます嬉しそうに微笑んでいたのだ。

  

「初めまして!私は霧雨アカネ、よろしくね!イヴさん!」

  悪口をスルーしたかのように、彼女はお構いなしに自己紹介をして、小走りしてイヴの前まで接近した。そして2Bや9S、アダムと初対面の時にしたかのように、右手を差し出して握手を求める。思わぬ急接近に、ずっと涼しい顔をしていたイヴは、眉を上げて、じっと、アカネの顔を見つめていた。己とは異なり、真っ黒な髪と真っ黒な瞳、柔らかそうに見える小さな手に視線を移し、右手が勝手に上げられていく。自分の意志と反して動き出すのを見て、イヴは軽く困惑していた。

  

「…まじでちっせーな。それと、柔らかい…ずっと触っていたいな」

  それは果たして手に触れた感想か、それともアカネ自身の雰囲気を述べてるだけか。ポッド255による考察だと、前者の確率が高いと思われる。根拠は、イヴの幼そうな言葉遣い。子供じみた言葉に加え、興味があるもの以外に冷ややかな態度を取る行動パターンは、子供そのものに近い。

  

  アンドロイドに対して明確な悪意を向けるイヴが、微かではあるけど、自分のシステム(意志)と反した動きをさせたアカネに、少なからず興味を持ち始めた。(アダム)がずっと気にかけ、ずっと対面を望んでいた人類、他者を魅了する(ヒト)

 

  どうして、にぃちゃんがそんなやつに深い興味を持ったのか、知りたい。そのために、わざわざこんな場所まで出迎えているのだから。

  

「なぁ、お前」

「なに?」

「この前、にぃちゃんにしたあれ…誰にでもやるのか?体を引き寄せる、あれだ」

「あぁ!ハグのこと?もっと仲良くなりたいって意味を込めてするものだから…誰彼構わずやるわけじゃないよ?たとえば、悪い人とか」

  握手を維持した状態で投げ出されたイヴの質問に、彼女はただ頭を傾げ、優しい声色で答える。最後に目蓋を閉じて、ニコッという微笑みを見せる。もっと仲良くなりたい、それは即ち、彼女が自分で選択し、己が善とみなす者のみに対して取る動き。もし言葉の意味を間違っていなければ、アカネは目の前にいるイヴを、敵として意識してなく、悪と見てるわけでもない。

  

  彼女の中では、イヴは、善の者(いい人)だ。実に単純明快で、分かりやすすぎる思考。

  

  イヴは片方の口角を上げ、歯を露出させながら、ニヤリとまるでサメのような笑みを浮かんだ。こいつ、面白いな!よわっちぃ人間だと思ったけど、案外面白そうなやつじゃないか!それが、長髪の彼(アダム)と似ても似つかない性格をした、イヴの考えだった。

  

  知りたい、もっと知りたい、にぃちゃんが書物の知識を欲しがるように、もっともっと知りたい!ああ、にぃちゃんはやっぱりいつも正しい、ぼくをここに来させたのも、やっぱり正しかった!やっぱり、にぃちゃんはすごいよ!

  

  激動するイヴの内側(気持ち)に気づいたのか、アカネは苦笑いを零し、ずっと握り締められていた手を引き戻して、両手を広げてイヴの体に回す。体を密着させ、そっと目を閉じて思考に溺れる。これで、一体何回目の抱擁になるだろうか。2Bと9Sで二回、アダムと遭遇して三回目、そのあと駆け寄ってきた9Sと四回目、直後に2Bと……ああ、これで七回目になるのか。複雑な記憶の断片(思い出)がアカネの頭の中で飛び交う最中、イヴはすでにぎゅっと彼女を抱きしめ返し、やや軽い彼女を少しだけ持ち上げていた。地面から離れた両足は、重力に従ってぶら下がった状態になり、気づいたアカネは一瞬だけびっくりした様子を見せるが、すぐさま満面の笑顔になった。

  

「イヴさんって、力持ちだね!」

  まるで子供のようで、天真爛漫な笑顔を間近で見たイヴは、それに負けないほどの力を自慢するかのように、自分にかける重力を両足に集中し、抱きしめたアカネの体を軽々しく上空に振り上げた。突然の動きに、ずっと後ろで待機していたポッド255は反応が遅れ、気付いた時に、アカネはすでに空中に浮いていた。

  

  またもや重力に従って、彼女の体が下へと墜落して行き、地面と衝突する……かと思えば、下で両腕を伸ばしたイヴにキャッチされた。ドサッという音が立ち、アカネの小さな体はすっぽりと、イヴの両腕の中に収まった。片腕は彼女の背中に回され、もう片方の腕は彼女の両膝の下に差し入れてる。俗に言う、お姫様抱っこというものだ。あら?と戸惑いの声を上げるアカネの見下ろし、イヴはあることに気づいた。

  

  にぃちゃんが言っていた、大胆不敵で、人のペースを容易く崩す(彼女)が、顔を真っ赤に染めて、胸の前で両手を握り締めているのだ。彼女の反応が理解できないイヴは、またもや眉を顰めて、頭を傾げる。

  

「警告:特別個体『イヴ』、今すぐアカネを、すぐに離せ!破廉恥な行為は禁止事項とされてる、今すぐアカネを降ろせ!」

「よくわからないけど、とりあえずにぃちゃんのところに行くぞ」

  

  ずっと怒りの声で抗議するポッド255を無視し、自分の腕の中で頬を真っ赤に染めて、顔を隠すアカネも無視し、イヴは愉快な感情を(コア)から滲み出し、ぎゅっと彼女を抱きしめながら建物内の階段を上がっていった。

  

  

  

  その間、ポッドは発言を禁止されたり、アカネがイヴの腕の中で微かに震えていたとか、なかったとか……




ポッド255は感情の機能、もしくはチップを入れてるのでは?
と思われがち。

再び未知に溢れた大地(廃墟)を駆ける彼女とポッド255。
初対面の(イヴ)に対し、初めて羞恥心を露にする。
2Bと9Sたちに見られたら、一体どうなることやら……

特別個体、イヴより疑問:
「アカネの体、俺たちと違って柔らかいし暖かかった、あれが人間の体なのか?」

ちなみに、ポッド255の数字の由来は白です。
RGB (255, 255, 255) 白
わざとらしいくらいが丁度いいんです…( ˘ω˘)

更新忘れたとか…そんな事ありません……(大嘘)

虜にされた者:アンドロイド3名(2B、9S、司令官)ポッド3名(042、153、255)
虜の予兆、統計:機械生命体2名(アダム、イヴ)

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