人形、ヒト、機械   作:屍原

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過去のことは知らない。
現在のことは知らない。
未来のことは知らない。

ならば、私はなにを知ればいいんだろう?



アンドロイド(2Bと9S)に同行したヒト(彼女)は、頭を過ぎった考えを振り払った。



連続投稿楽しい(アカン)


人形と人類は依頼を遂行する

- あなた(2B)こと(杞憂)

 

「取り乱して、ごめん…」

「一度、メンテナンスする必要があるみたいです…」

 

 しばらく彼女(アカネ)にくっ付いていた二人は、あからさまに落ち込んでいる。ヨルハ部隊の規則、『感情の所有を禁じる』という項目を、違反してしまったことに対してか、それとも自分らしからぬ行動に出たことに対してなのか。理由はどうであれ、落ち込んだわりには、心なしか非常に満足し、達成感に満ちた雰囲気を漂わせてる。

 

 そんな一変した心境になった彼らは、ようやく当初の目的(依頼)である、指定された場所へ向かえるのだった。商業施設跡、それを越えた先にある地域(エリア)こそ、2Bたちの目的地なのだ。色々あったが、今度こそ順調に依頼をこなせそうだ。橋の上で小走りして渡っていく2Bと9Sのあとについていき、アカネも落ちないように、しっかりとした足取りで歩いていく。よほど丈夫に作られているようで、ギシギシと音が鳴るが、つり橋が切れる予兆はまったくなかった。

 

 そして、橋を渡ってる間、アンドロイド(二人)はずっと彼女を気にかけていたのだ。何歩か進んだら、ちらりと、ついてくる彼女の状態を確認する。向こうの陸地につくまで、何度も何度も繰り返された。頻繫な確認、無駄になるかもしれない動作、己でも分かりきってるが、どうも、放っておけない。

 

「推測:心配性」

「…私が?」

「肯定」

 

 商業施設内に辿りついた頃、突然投げられたポッド042の推測に、思わず頭を傾げて疑問に思う2Bであった。ただ、彼女が足を滑らせて、落ちてしまわないか気になっただけ。単に彼女が怪我しないように、確認しただけ。これが、心配性だというのか?ぐるぐると考えが頭の中で処理され、結論を出せないまま目的地についてしまうのがオチだった。だが、もしかしたら、ポッドの推測は間違っていないかもしれない。

 

 アカネに関わると、なにもかも気になって仕方がないのだから。短髪のアンドロイドは、静かに結論を下し、依頼に専念する事にした。

 

 

 

- 行動原理(生きる意味)

 

 商業施設跡を越えた先に、アネモネが言っていた、キャンプを設置したいという地点に到着。アカネの安全のためにも、一度ポッドたちに敵の位置をスキャンしてもらったが…予想通り、近くに多数の機械生命体が身を潜めていた。

 

 アカネが目を覚ますまで、パスカルが言っていた、ネットワークから切り離された別の集団(機械生命体)が森林地帯にいる、という情報の確認に成功した。この前も、少しだけこのエリアでうろついていたが、それらしき機械生命体を何体か発見している。奇妙な鎧を身に着けているのが、なによりの特徴だ。

 

 身を隠してる機械生命体も、きっと森のヤツらだろう。前に交戦した時、国を守るとか、国王を守るとか、遥か昔の人類の真似事をしてるとしか聞こえない発言ばかり。人類の文明や歴史を破壊した、エイリアンの手下でしかない機械のくせに、なにをふざけた事を。考えれば考えるほど、怒りがこみ上げてくる。

 

「2B、気持ちは分かりますけど…ちょっと、抑えたほうが…」

「…!悪い、気がつかなかった」

 

 控えめに2Bの袖を引っ張り、アカネに気づかれない程度の音量で呟く9Sの話を聞き、一瞬で正気に戻り、慌てて謝った。この気配を、彼女に気づかれるわけにはいかない。どこまでも純真で、一点の曇りもない彼女を、怯えさせたくない。ヨルハ機体でも、比較的に感情豊かな9Sもそれを考慮して、持ち前の気軽さを有効利用し、出来る限り、アカネを厄介な感情(恐れ)から遠ざけていた。なのに、自分はヤツらへの怒りを向けるだけで、アカネのことを考えていなかった。

 

 人類(アカネ)を守るに相応しいとは思えない、あるまじき行為だ。

 

 ヨルハ部隊の規則、感情を禁ずる規則は、もしかしたら、本当に正しいのかもしれない。余計なモノ(感情)に振り回されるより、冷静に状況を分析した方が、よほど彼女を守れる。だけど、こう考えてもおかしくはない。時には、9Sのように感情的になり、彼女との距離を縮めることで、やがて役目を果たせる(アカネを守れる)結果に至る。

 

 前者が正しいのか、それとも後者こそ正解か、2Bには分からなかった。今は、考えても仕方ない。まずは、目の前にいる問題を解決しよう。それが、当初の目的を果たそうとしてる2Bの考えだった。

 

「今から戦闘に入る…アカネは、ここで待機して」

 

 自分や9Sと一緒にしゃがみ、偵察に付き合ってくれた彼女の両手を、包み込むように、祈るような形で握った。壊さないように、割れ物を扱うような、極めて軽い力で握る。今の2Bにとっての、一種の安全装置に等しい。以前ならば難なくこなせる任務や依頼でも、アカネと短い同行を経て以来、彼女の安全を確保せねば、胸のざわめきが収まらない。

 

 特に、彼女と再会するまでの間なんて、嫌な想像ばかり演算され、稼働してる(生きてる)気がしなかった。

 

 徐々に変化を見せる2Bを目の当たりに、隣で見ていた9Sは安心したように、笑みを零す。アカネのおかげで、今まで思いつめていた2Bもようやく、生きる目的を得たようだ。長期に渡る地上での活動で、二人は様々な体験をしてきた。エイリアンを滅ぼし、機械生命体を壊し、人類に栄光をもたらすアンドロイド。それは間違いなく、自分たちのことを示してる。

 

 人類、人間、ヒトのために奔走してる僕らは、あの人たち(月面人類)と会う機会なんて、一度もなかった。なにも考えず、なにも気にせず、ただただ月面で命令を下す、あの人たちの指令に従うだけ。司令官経由で届いた命令に従い、地上(地球)というあの人たちの(故郷)に降り立ち、機械生命体と戦い、特別個体と出会い、滅ぼされたエイリアンを発見し、現在に至る。

 

 そしてもっとも奇妙な出来事は、あなた(アカネ)との出会い。月面にいるはずの、あの人たちと同じ(違う)存在。あなたはまるで、月面から降りてきたのではなく、最初から、ここ(地上)にいるかのようだった。実際、あなたは本当に地上で見つかったから、間違ってはいないけど。それでも、あなたと出会ったことが、嬉しかった。僕らの存在意義を、あなたは与えてくれた。僕らの意味を、あなたは証明してくれた。

 

 だから、あなたの命は、僕らで…僕と2Bが、守ってみせる。人類の栄光(あなた)のために。

 

「うん、分かった」

「アカネさん、役に立つかは分かりませんけど…これを」

 

 返事を返したアカネに頷き、2Bは握り締めた手を戻した直後、横にいた9Sはポッド153に目を配り、とあるものを彼女に渡してもらった。長く硬いそれは、アカネにとって非常に見慣れた物体だった。人間ならば、誰しも見た事ある物、しかし実際に手に取るのは少数のみで、職業関連(ケンカ)でなければ持たない物。それを受け取り、予想外の重さに驚く。

 

「鉄パイプって、やっぱり重いな…」

「僕たちが片付けに専念してる間、あなたの身に危険が訪れるかもしれませんので、いざという時は役に立つはずです」

 

 そう言って、9Sは自分の手を彼女に重ね、彼女がしっかりと鉄パイプを握れるように、導く。やや分厚い手袋越しに、少しだけ冷えてしまい、しかし暖かさが残った手に触れる。そう、これが、ヒト(あなた)の温もり。僕たちを包み、僕たちが守るべき(守りたい)暖かさ。だから、どうか、あなたに被害が及ばないように、傷つかないように、握り締めて欲しい。あなたの身を守る、ささやかな希望(武器)を。

 

 ちゃんと鉄パイプを手にしたのを確認し、彼女に微笑みを向けたあと、2Bと共に立ち上がり、胸の前に手を置き、ヨルハ部隊の言葉を口にする。

 

「人類に栄光あれ!」

 

 本当は、あなたのための栄光と、言いたかった。けど、自分達を奮い立たせるために、この言葉を口にするほうが、より効果的だ。自分達は、ヨルハ部隊なのだから。

 

 ああ、アカネは、なにを言い返すだろう。戸惑う?頭を傾げる?それとも、いつものように……

 

「いってらっしゃい、2B、9S」

 

 穏やかな口調で囁き、微笑みかける。二人の想像通り、彼女は、自分達を奮い立たせるマジック(笑顔)を見せてくれた。そう、これは、アカネにしかできないこと。アカネだからこそ、できることなのだ。二人(2Bと9S)をより奮い立たせる、アカネだけの力。

 

 体に染みる信頼、体の奥に沁みこむ(浸透する)激情を動力に変え、アンドロイドは駆け出す。

 

 

 

- 依頼遂行

 

「んー……丸いね」

 

 破壊され、地面に散らばる機械生命体のパーツの一つ、丸い頭部を見つめ、アカネはしゃがんでそれを指で突いた。ちょん、ちょん、と数回軽く突く。やけに冷たくて丸い頭部を食い入るように弄り、面白そうに小さく笑っていた。持ち上げようと、鉄パイプを隣に置き、両手を差し込んではみたものの、自分では到底持ち上げれない重さだったらしい。拗ねたように唇を尖らせ、頬を膨らます姿を、2Bと9Sに見られたら、また支障が出る(ときめいてしまう)だろう。幸い、彼らは戦闘に集中しており、気づかずにいる。

 

 ならば、なぜアカネは機械生命体の残骸を調べてるのか?理由は至って簡単、彼女は退屈していたからだ。果たすべき使命を持ってる二人と違い、彼女には明確な目的を持っておらず、ただ、外の景色を見るためについてきただけなのだ。崩壊した地上、荒れ果てた世界の一部、かつての自分も暮らしていた居場所。どれだけの月日が過ぎたのも知らない、世界の事情も知らない、これからの行く末さえも知らない。

 

 果たしてそれは自分の行く末か、世界の行く末か、はたまた地上(故郷)に降り立つ全ての者の行く末を知るために、今回の行動(散歩)を起こしたのか。誰も、知らない。それを考えてるアカネ自身も、答えを見つかっていない。

 

「……キミも、そう思うでしょ?」

 

 静かに転がる頭部に触れ、小さく、呟く。機能停止してる(死んだ)機械生命体に、答えを求めてるわけではない、ただ、呟いてみただけだ。意味はない、意味なんてない、意味は含まれてない。体の奥に潜ませるより、言葉に出したほうが、楽になるだけだ。これは、自分の身勝手(無意味)な行動。

 

 しゃがみ続けるヒトは、なにか(感情)を封じ込むように、目を細めながら、丸い機械を撫でていた。

 

 

 

- 依頼完了

 

 そっと遠くにいる2Bと9Sに視線を向けると、すでに周囲を確認する彼らの姿が目に入った。どうやら身を潜んでいた機械生命体の破壊を終え、依頼の大部分を完了させたようだった。それに気づいたアカネは立ち上がり、パシパシと自分の服に付いたであろう埃を叩き落し、置いていた鉄パイプを拾い上げる。それを杖代わりにして、地面に刺し、残ったほうの手を上げて左右に振る。

 

「アカネさーん、終わりましたー!」

 

 彼女の動きを見た9Sは応えるように、晴々とした笑顔で両手を頭の上にかざして振りながら、大きな声で彼女に話しかける。丁度周囲の確認を終えた2Bは、はしゃいでる9Sを見て、やれやれという風に笑みを零した。そこで、2Bはなにかを話し、9Sはハッとしたように、その後すぐに頷き、一緒にアカネの元へ帰った。

 

 はて、一体なにを話していただろうか?と不思議に思ったアカネは腕を下げて、人差し指を唇に当て、頭を傾げた。聞き出そうか?黙っていようか?帰ってから聞こうか?やはり聞かずにいようか?

 

 ……よし、聞こう。

 

「なにを話していたの?」

 

 唇に当てた指を維持し、口角を上げて、いつもの調子で聞いてみた。また新しい動作を確認できた二人は、少しだけ驚いたように数秒の沈黙に陥ってしまう。だがそれもすぐに回復し、大した事ないですよ、と9Sがさきに答える。ここでアカネは、困ったように眉尻を落す。彼女の変化に気付き、孤立させたのかと誤解されると思い、慌てて訂正する言葉を考える。だが、2Bはさきを越して答えた。

 

「早くあなたのところに帰ろうって、話しただけ」

「そう!だから、大した事じゃないですよ!ね、2B?」

「うん、そうだ」

 

 なんだ、そうだったのか!と再び笑顔に戻った彼女を見て、胸を撫で下ろす。なぜ慌てていたのかは、よく分からない。ただ、彼女に誤解でもされて、悲しませるようなことになるのが嫌だった。知りたがりの彼女は、本当に、自分たちを慌てさせる天才だ。

 

 それよりも、長い移動をしてきた彼女に、一刻も早く休ませてあげようと思い、早急にレジスタンスキャンプへ戻ろうと考えた。

 

 アカネは自分達と違い、生身の人間で、体力にも限界がある。人間には、個人によってそれぞれの限界を持ってると資料(データ)で見た事がある。彼女は体力が多いほうか、それとも少ないほうだろうか。あまりよく分からないが、ともかく、休ませたいという思いは、確かだ。

 

「依頼もこなしたから、レジスタンスキャンプに戻って報告しましょう!」

「了解。アカネ、行こう」

「うん!あ、この鉄パイプはどうする?」

「レジスタンスキャンプに戻るまで、持っていたほうがいい、せめてもの保険だ」

「そうですね、ヤツらがまた襲ってくるかもしれませんから」

「二人がそう言うなら、持ったほうがいいね!」

 

 会話を交わす三人はゆっくりとした足取りで、来た道に戻り、森林地帯の入り口から離れた。初めて人類と共にこなした依頼、2Bと9Sはこの記録(記憶)を、己のデータベースの最奥に保管した。そして、ずっと見ていたポッドたちも、抜かりなく、映像に収めた。




あの人たちと違って、あなたはここにいる。
手放せ、と命令されても、従える自信がない。
だって、僕はもう、あなたと2Bなしで生きていく自信さえ……

アンドロイドにも恐らく、個体差があるだろう。
2Bと9Sが、もっとも分かりやすい例。ある意味、特別個体とも言える存在。

彼女の心境的な文章も出せて、ほっとしてます。
ますます謎を増やしていく姿勢は…アカンやつ…
しかも話の続きが詰んでるェ…(ペッタリと地面に倒れた)

今回は『虜』に変化なし、よってデータは非表示。

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