簡単に言えばIFの話です。
夜は訪れない、地上は永遠の昼しかない。
天候の変化も、天気の変化もない。
だけどもし、地上に雨が戻ったとしたら?
実現されない
Rain
今日の地球は、土砂降りの雨だ。夜こそなくなったが、最近になって、
しかし、静かに歩み出す者がいた。長い襟が下がった黒いシルクコート、白いシャツ、ブラウンの短パンに短ブーツ。見知った格好をしていたその者は、そう遠くない過去に発見した、この地上で唯一生き残った人類だ。コートのボタンも留めず、傘も差さず、空の下に晒された広場に踏み出し、ずぶ濡れになっていく。
黒い髪が濡れていく、僅かに露出した白い肌が濡れていく、コートもシャツも、なにもかも濡れていく。なのにその瞳は、感情が篭ってなかった。口には、笑みがなかった。
「…アカネ?」
いつもと様子がまったく違う彼女を目の当たりにして、2Bは眉を顰める。普段は優しく、柔らかい雰囲気を滲み出す彼女がなぜ?それが、
繊細で、華奢で、弱々しい
雨に構わず、外へ出た彼女に走り寄って行き、アカネの肩に手を置く。ビクッと体が跳ね、ゆっくりと2Bの方に振り返る彼女の顔には、僅かな困惑が見られた。ああ、よかった、少しだけいつもの彼女に戻ってる。2Bはそっと、自分の胸を撫で下ろす。
「風邪を引くから、戻ろう?」
2Bの言葉に、彼女の唇は薄く開かれる、思考に陥って数秒、喉から這い上がりかけた言葉を飲み込むように、口を固く閉ざす。ぐるりと、隣に立つ2Bから視線を逸らし、またじっと、空を見上げる。珍しく自分の意見を主張する…ような反応をした彼女を見て、驚きを隠せない2Bだった。普段ならば、ニコリと、柔らかい微笑みを浮かべながら頷き、ゆったりとした歩幅で自分のあとについてくるのに、今日は全く逆の反応が返された。
いわば、少しだけショックを受けてる。
ぎこちない動きで、未だテントの下で雨宿りしてる9Sに救援の視線を向ける。ハッと意識が戻ったように、2Bの視線に気づいた直後、小走りで二人のところへ駆け寄った。微かに荒い息遣いを整い、頭を傾げて困ったような口調で言葉を紡ぐ。
「どうしたの、アカネさん?ひとまず、雨宿りしませんか?このままだと、病気になっちゃいますよ…」
彼女を憂う気持ちを伝えても、今度は反応などまったくなく、依然と空を眺めている。表情はなく、感情もなく、無に等しい顔。二人は、違和感を感じたのだ。雫が滴る彼女の横顔は、どこか、遠い所を見ていた。雨に濡れた彼女の横顔は、寂しそうに見えた。洗われていく彼女の横顔は、悲しく見えた。
ねえ、アカネ。あなたは、一体、なにを思ってるの?どうして、そんな風に空を眺めるの?どうして、そんな悲しい顔をするの?どうして、なにも話さないの?
じっと見つめられた彼女は、目蓋を閉じ、薄い笑みを浮かべる。嬉しいからではない、楽しいからではない、むしろ、悲しいゆえに、現れた笑みのようだ。見とれてしまった二人の疑問に答え、彼女は、今度こそ口を開いた。
「雨は、好きなの。体も、心もきれいになっていく…だって」
悲しみも、全部攫ってくれるから。
彼女らしくない発言は、二人の
「…ごめんね、変な話して。あっ、濡れちゃった、はやく戻ろう?」
「え?ああ、はい!」
「滑らないように気をつけて。それと、さきに風呂を用意する、私が服を乾かしてあげる」
「ありがとう、2B」
「じゃあ僕が髪を乾かしてあげますね!こういうの得意ですよ!」
「うん、9Sに任せるね」
何気ない会話を交わしてるが、本当は、
私たちは
少しだけ寂しがっても、おかしくないはず。
だって、他の
余談ですが、この話を書いてる時、聞いてるBGMは秦基博さんのRainです。
映画よかったです、曲も良かったです、雨好きです(小並感)