人形、ヒト、機械   作:屍原

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人形は感情を有してはいけない。
人形は人類に忠誠でなければならない。
人形は人形らしく振舞わなければならない。

もし、人形が人類に近づいたのなら…


人形達と人類は出会う

- 再会と遭遇

 

  レジスタンスキャンプの入り口付近から騒がしい足音が響き、気になった赤髪の双子(アンドロイド達)は座ってるアカネから視線を逸らし、音が鳴った方向に目を向く。視界に映ったのは、黒づくめのアンドロイドだった。ここら辺では見かけない姿を眺め、二人は脳内でレジスタンスの話を照らし合わせる。

 

  B型とS型が一機、随行支援ユニット二機、という特徴も合ってる。きっと彼らがこの地域の調査担当になったヨルハ部隊に違いない。

 

  キャンプに入った途端、ズサーッと足を止めて、辺りを見回してると思いきや…サッと素早くこちらに振り向いた。鋭さが混じった動きに思わずギョッとし、危うく身を引いてしまった。少しばかり顔が引きつったかもしれないが、この距離だと気づかないだろう。僅かに驚き、安堵を覚えた赤髪の双子は、急ぎ足で駆け寄ってきたヨルハ機体に目を向ける。

 

「アカネ!」

「アカネさーん!」

  後ろに座ってる人類の名を呼び、二人の顔には暖かい笑みが浮かんでいた。すると後ろから「2B、9S!」と応えるように名を呼ぶ彼女の声が響き、直後に前へ駆けて行く影を見た。まるで長年離れ離れになった親友かのように、三人はしっかりと抱き合ってる。後ろから見た双子からすると、ヨルハの二人はまるで犬にでもなったように、スリスリと彼女に縋ってるように見える。

 

  現に、アカネは二人の頭を撫で、あやしてるのだから。

 

  大型犬と小型犬だ…唇を動かし、同時に呟いたデボルとポポルは感心したような視線を送った。ヨルハ部隊は、誰もが冷酷なやつばかりだと思っていたが、意外な一面もあったんだな。頭に過ぎった考えを言葉に出さず、彼女らは未だ抱き合ってる三人に近付いた。

 

「よかったね、また会えて」

「お前が急に走り出したから驚いたよ!」

  隣り合わせで立ってる赤い髪のアンドロイドたちを見て、アカネをぎゅっと抱きしめた2Bと9Sはゆっくりと彼女を離し、困惑した表情を見せた。最初に疑問を口にしたのは、9Sだった。

 

「えっと、君達は…?」

  小首を傾げ、今まで見た事のない鮮明な色をした髪を見つめ、戸惑う素振りを見せた。彼が今まで探し、保有したデータベースによると、そんな珍しい髪色をしたアンドロイドはいなかった。早い段階で地上に降り立ったアンドロイド、もといレジスタンスの中でも、かなり貴重な個体だった記憶がある。

 

  疑問に思う9Sの動作を見て、察した双子はどうやら彼の素朴な疑問に答えるわけでもなく、初対面の二人に自己紹介を行なった。

 

「どうも、私はデボル」

「私はポポルよ。普段はここでメンテナンスと治療や、道具屋を営んでるわ」

  流れるように交換して話すデボルとポポルを目の当たりに、9Sと2Bは珍しそうに眺めていた。まるで、双子のようだ。ほぼ同じタイミングでボソッと呟かれたそれを聞き、穏やかに微笑むポポルだった。

 

「私とデボルは双子として生まれたの、珍しいでしょ?」

  もしかしたらおかしなことでも言ったのか?と二人は心配したが、特に嫌がる様子もなく、双子のうちの一人は淡々とした反応を流す。やはりこの疑問を思う者も多かったのか、彼女らはその対応に慣れてるようにも見えた。

 

 

 

- ヨルハ

 

  ざっと自己紹介や、双子に関しての疑問を解決したところ、新たな疑問がヨルハの二人に生まれた。なぜアカネは彼女らと一緒にいたのか?

 

  そっと、アカネのほうに視線を移す。普段通り、薄い笑みを浮かべるだけで何か言おうとする気配はない。そういえば、彼女の隣で浮いてるポッドは、いつの間にいたんだろうか?じーっと白と黄金色(こがねいろ)で構成されたポッドを睨むと、気づいたポッドはぐるりと9Sのほうに向いた。

 

「当機は随行支援ユニット、ポッド255。アカネのサポート、及び支援を行うよう、司令官から命令を受け付けている」

  流れ出た音声は、とても聞き慣れた声だった。高すぎず、しかし低すぎず、女性としては威厳ある声。少し前まで、その声を聞いて行動を取っていたような…気がする。それよりも、司令官直々とは、やはりアカネは重要人物だからこそ、司令官自ら命じたのだろうか?

 

  ああ、 違う。まずはどうして彼女がデボルとポポルと一緒にいたのかを聞かないと。危うく話題をはぐらかされたが、思い出した9Sはまず、この問いかけを双子に投げた。

 

「そういえば、どうしてお二人はアカネさんと一緒にいたんですか?」

  ニコッと人懐っこい笑みを浮かべてるが、彼の本心という訳ではない。むしろ、敵意が滲み出る笑みとさえ感じられる。ずっと隣で沈黙を続いた2Bは敵意こそむき出してないが、9Sの言葉に同意を示し、頷いている。

 

  やはりそうきたか。双子の顔にはそう書いてあったように、苦い顔をした。互いを一瞥し、答えるべきかどうか悩み、続いてアカネに視線を寄越した。助けを求める視線を浴びた彼女は動じることなく、2Bと9Sに理由を述べた。

 

「2Bたちがお仕事してる間、散歩に行ってたの。それで、帰りにデボルとポポルが迎えにきたんだよ!ね?」

「コイツったら迷ってさ、探すのに随分と苦労したよ」

「でもポッドもついていたから安心したわ」

  アカネの話に合わせ、疑われない妥当な理由や流れを作った二人に微笑みを見せ、さりげなく助け舟を出したのだった。もし本当の事を言ってしまえば、きっとヨルハの二人は暴走しかねないだろうと、アカネは予想したのかもしれない。そっとココロの中で安堵のため息を吐き、助けてくれたアカネに感謝した。彼女に対する好意も、一層上がった気がする。

 

  疑う余地のない会話を見て、9Sは納得して「もう、アカネさんは本当に危なっかしいな…」と困った口調で感想を述べ、腰に手を差す。仁王立ちにも似た立ち姿をしているが、険しいオーラなどなく、単に困ったという表現をしたかったらしい。人間らしい反応を見せた9Sに対し、デボルとポポルはアカネに視線を寄越した。

 

  人類と接触したヨルハ部隊は、皆こうなるのか?

 

  レジスタンスキャンプで聞いた話によると、バンカーからきたヨルハ部隊のアンドロイドは皆、冷酷で、まるで感情のない機械だと言っていた。本当のところはどうだかは知らないが、こうして間近で2Bと9Sを見る限り、とてもそうとは思えなかった。やはりアンドロイドは人類のために動いてるからこそ、変化が起こりやすいのだろうか?

 

  ふと気づけば、9Sは再びアカネに注目していた。

 

「あの…アカネさん、もう一回してもいいですか?」

  彼女に向かって両腕を広げ、ニコニコした笑みを浮かべた。パチパチと瞬きを繰り返し、最終的に微笑みで答えたアカネはそっと9Sを抱きしめ、背中を優しく叩いた。

 

  やはり小型犬だ。

 

  ヨルハ部隊らしからぬヨルハ部隊を見て、双子は始終、珍しそうに眺めていた。

 

 

 

- 理解に苦しむモノ(感情)

 

  約10分ほどのハグ時間を堪能し、ようやくいつもの状態に戻った2Bと9Sはついでにアネモネのところに行き、補給用のミサイルを護衛する任務を受けてきた。地上にいるアンドロイドたちにとって、それを守るのは重要な役割らしい。

 

「えー、折角アカネさんと再会したのに、またですか?」

「文句を言わない」

「はーい」

  もはやいつもの会話を繰り広げ、やや無気力になってる9Sを叱る2Bの光景も、二人にとっては日常茶飯事らしい。渋々という風に返ってきた9Sを迎え、頭を傾げて「どうしたの?」と彼を心配し、困った顔をしたアカネは彼を見つめる。

 

「実はさっき、アネモネさんに任務を任されました…」

  いかにもやりたくない、という気配を漂わせる中、2Bは呆れたため息を吐いた。ヨルハ部隊であれば、余計な感情を出してはいけない、という決まりを思い出し、注意しようとする。だが2Bはあえてやらなかった。なぜなら、彼女もまた、同じ考えを持っていたのだ。

 

  長時間会えなかったアカネとゆっくり過ごしたいのに、また任務を受けなければならないなんて。

 

  口にはしなかったが、9Sと同じ思いを抱いてる身としては、少しでも長くアカネと一緒にいたいと思ってる。たとえ、任務を遂行するのは絶対的な事だとしても、彼女と一緒にいたいと考えてしまうのは、誰にも止められない。

 

  なにせ彼女は、自分の大切な存在(ヒト)だ。

 

「警告:2Bのブラックボックスから異常な信号を捕捉。精密な検査を推薦」

  2Bにだけ聞かせるような音量で告げ、ポッド042は彼女の近くまで浮いていった。意味を理解できず、疑いの眼差しでポッドを睨んだ。異常な信号など、ありえない。ましてや、彼女を前にしてそんな事は断じてないと思えるほど、ポッドの言葉を疑った。

 

  ポッドが捉えたブラックボックス信号は、一般のヨルハ機体よりも遥かに複雑なものだった。一言では表しきれない、しかし形容に相応しい言葉もあった。膨大なデータの中でそれに該当する言葉が一つ。それは、ココロというものだ。機械仕掛けの心臓、人類を模して造られたブラックボックス(心臓)は、アカネと接触した事により、大きな変化を遂げてる最中とも言えよう。さらに言えば、彼女から人類に似た『感情』というものを感じ取ったのだ。

 

  人形でしかなく、弱き人類を守り、至高の創造主である人類に仕える人型兵器アンドロイド。決して人類には成れない、ココロのない人形。そんな彼らの中で、あるはずのない感情が芽生え始めてる。同じく機械仕掛けた人格しか持たぬポッドは、異常とも思い、しかし同時に羨ましく思った。

 

  ああ、もしも私も、彼女らと同じになれたら…そしたら……

 

『警告:当機の人格データに破綻を発見、修復作業を推薦』

  己の内部で響く警告の音声を聞き、ポッドは修復作業に入ろうとするシステムにストップを掛け、同時に規制を掛けた。これは破綻などではない、エラーでも故障でもない。誰しもが望み、手に入れようと渇望したもの。ここで取り上げられてしまえば、二度と手に入らなくなってしまう。

 

  ここでポッドは思う、きっと2Bも、無意識にそう思ったからこそ、睨んできたのだろう。ならば同じことを考えてしまった自分に、彼女を責め、検査を受けろなんて忠告をする資格などない。

 

「2Bの言葉は一理ある…故に、当機は2Bに対し謝罪を述べる」

「……こっちこそ、悪かった」

 

  彼女と9Sを除き、一人のアンドロイドと一機のポッドは、相互に対する価値観の違いを取り除いたのだった。そんな二人は思う、やはり感情は、自分らにとって理解しがたいものらしい。

 




9S「2B、ポッドとなにを話してたんですか?」
2B「なんでもない」
9S「えー、気になるじゃないですかー!」
アカネ「私も!」
2B「うっ…あ、アカネまで…」

はいそろそろ2ヶ月ほど更新してませんでしたっ!お待たせして本当に申し訳ございません!!!(スライディング土下座)
近頃は文章を書く時間すらないくらい忙しい時期に突入したので、更新がすごく、遅くなるかもしれませんぇ…
本当に申し訳ございません…

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