ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
物事の終わりはいつだって寂しいものだ。
私は以前にそう言った記憶がある。
時間は止めどなく流れて行き、いくつもの別れを繰り返す。
以前に本拠地に植えた木の芽は大樹となり、私が大切に想っていた人との別れも来る。
悲しいが、しかし彼は満たされていたのではないのだろうか?別れの際、私の心は考えていたよりも穏やかであった。
私たちが作り上げたものも、時間と共に変容を遂げていき、今は面影も残らない。しかしそういうものなのだろう。
彼等は去り、私は一人残された時を悠然と過ごしていた、しかし私にも終わりは来る。
命は廻るのだろうか?生まれ変わればまた彼等に逢えるだろうか?
もし命が廻るのであれば、次の生もよきものであることを私はただ願おう。
◇◇◇
という、夢を見た。私は焦って飛び起きた。
いやいやいや、ふざけないでください。
なにいい話っぽく終わらせようとしてるんですか?私はまだ結婚もしてませんよ?
誰かは本当にふざけています。喧嘩を売っていますね?私はレベル7ですよ?
私はベッドから起き上がり、鏡の前に立って髪の毛を整える。色でも変えてみましょうか?
最近、リヴェリア様もご結婚なさいました。彼女はとても幸せそうで私は羨んだ覚えがあります。
それを見た私は退路を断って彼に詰め寄りましたが、彼はまさかの逃げ切りやがりました。本当にまさかです。
ありえないでしょう?私はレベル7ですよ?どんだけ我慢強いんですか?弱くても構わないと言ったばかりだというのに!?リリルカさんにまで協力してもらったというのに!?
ああもう、思い出したらまた腹が立ってきた。こういうときは私の得意なお料理でストレスを発散するに限りますね。料理が上手な女性は重宝されると聞きますし。
◇◇◇
ここは俺の部屋、俺の名はカロン。ただの一般人だ。
俺は今ここでリリルカと対面していた。リリルカは今日はお休みらしい。
「リリルカ、お前リューになんか変な協力しただろ?この間大変だったんだぞ?勘弁してくれよ。」
「リリはむしろあの状況からカロン様が逃げきったことにびっくりです。どうやったんですか?」
「リューは案外と単純でぬけてるところがあるからな。口から出まかせを言って離してもらったよ。時間はかかったけど。んで逃げた。後は人が少ないところに行かないようにしてた。」
「うーん、それは………それにしてもどうしてそんなにカロン様は頑なに拒むのですか?」
「いやほらあれだろ。想像してみろよ。毎日リューの料理とかさ。あいつ絶対に料理したがるぞ?」
「ああ。うーん、確かにリュー様は嫁力が低いんですよね。なぜかそれでもオラリオお嫁さんにしたいNo.1に輝いているのですが。」
「それはあれだよ。どMのアポロン達の固定票だろ?」
「まあ、そうですよね。」
溜息をつく俺とリリルカ。
「とにかくもう勘弁してくれよ。一般人の俺がレベル7のリューの相手をさせられてるんだぞ?」
「うーんそれでもここまで好き放題したからには最後まで責任をとるべきなのでは?」
「別にリューはまだ時間的にだいぶ余裕があるだろ?」
「うーん、まあリリは中立でいることにします。」
◇◇◇
私は連合の厨房へと入る。私は自室にキッチンを申請したのだがなぜか会議で通らなかった。
私にはキッチンを持つ権利もないらしい。………私は以前は副団長だったはずなのだが?
厨房には当然料理人がいます。彼等は頑なに私の調理を拒みます。
しかし甘いです。レベル7で速度に自信がある私であれば、なんと彼等の目に留まらぬ速度で動きながら料理することが可能なのです!うるさく言われたくありませんしね。
しかしうっかり
さて、衝撃波を撒き散らさないように速度を調整して、っと。
今日はなにを作りましょうか?グラタンとかどうでしょうか?
◇◇◇
「カ、カ、カ、カロンさん、大変です!」
俺の部屋に大慌てで料理人が入ってくる。
俺とリリルカは顔を見合せる。どうしたと言うんだ?せわしないことだ。
「一体なにがあったんだ?」
「そ、それが、厨房の材料が気付かないうちに減ってるんです!」
「なんだと!?」
俺とリリルカは真っ青になる。
俺達は知っていた。厨房から締め出されたリューが、その高いステータスを無駄に使って料理人の目に留まらぬようにたびたび料理を行っていることを。
そして俺達はその対策として、材料の残量を確実に量ることで見極めていた。
………本当にステータスの無駄遣いだな。果たしてかつてこれほど馬鹿げたステータスの使い方をした人間は他にいただろうか?
「どうなさいますか!?」
「………そうだな………逃げるか?」
いまさら厨房に行ってもステータスのない俺には手のうちようがない。なにしろリューは速すぎて見えないのだ。
万一轢かれでもしたらステータスのない俺は挽き肉になってしまう。
ベルだったら見えるだろうが、ベルはあまり強く言えんしな。
「そ、そんな………見捨てないでください。」
悲壮な表情をした料理人。
しかしなあ、ステータス持ちの時でさえひどい目にあったというのに今の俺にはなんにもないぞ?………間違いなく第一標的は俺だぞ?
「………リリルカ、なにかいいアイデアはないか?」
「………リュー様はご自身の料理の味見をなさらないのでしょうか?」
「………考えたことなかったな。自分の料理の出来が分かれば料理する気が失せるかもしれんが………。」
俺とリリルカは再び顔を見合せる。
「試してみるか?」
◇◇◇
ここは厨房。傍目には複数人の料理人が調理を行っている。
………そこに混じる目にも留まらぬ速さで料理するリューか………。非情にシュールだ………。
「リュー、そこにいるのか?」
「なんですか?」
俺の前に瞬時に現れるリュー。
やはりいた。怖いよ。
「やはり料理していたか。もう料理は出来上がるのか?」
「後は焼き上げるだけです。」
「………味見はしたのか?」
「愛を込めているので大丈夫です!」
胸を張るリュー。うん間違いなくアウトだ。
なんだよ愛って?具体的に何を入れてるのか名称をあげろよ。
「………味見をしてみてくれ。」
「でも大丈夫のはずです!」
「味見しなさい。」
「でも………」
「しろ!」
その言葉に渋々味見をするリュー、口に含んだ瞬間、みるみる顔が真っ青になる。まあそうだよな。
間違いなく食えないものを混ぜている。………壁を越える前にキチンと料理の常識を理解してくれ。
そのまま泡を吹いてバッタリと仰向けに倒れるリュー。
俺とリリルカは三度顔を見合せる。
「リューには悪いが今回は被害を最小限に抑えられたな。」
「これに懲りてくれるとリリ達も助かりますけどね。」
◇◇◇
ここはリューの部屋。リューはベッドに横になり上半身を起こす。
あのあと倒れたリューを医務室に俺は運ぼうとした。
途中でリューが目覚めたため、行き先がリューの部屋に変更になった。
それにしてもレベル7を気絶させる料理って一体何なんだ?猛者でも倒せるんじゃないか?
一応材料を調べてみたらわかっているだけでもダンジョンに生える毒キノコとか漂白剤とか入ってたらしい。
………殺す気か?
「リュー、懲りたか?俺達はいつもそれを食わされてたんだ。もう本当に勘弁してくれ。」
その言葉にリューは俯く。少し言い過ぎたかな?でも被害を考えるとなぁ。
「………料理が作れないと。作れないと………。」
悲しそうな顔をするリュー、そんなにコンプレックスなのか?
「別にかまわんだろう?人には向き不向きがあるよ。」
「………私は不向きばっかりです。」
「そんなことないよ。お前は強いし、みんな一生懸命なお前に癒されてるよ。」
その言葉に俺を見るリュー。縋るような目つき。
「私は今のままで構わないのでしょうか?」
「ああ。」
「ということは今のままでも結婚できるということでしょうか?」
「………それはしらん。」
さすがに嘘はつけない。まあアポロン達はいるが………。
その言葉に真剣な顔をするリュー。
「………やはり私は料理が出来るようにならなくては!」
俺はその言葉にめまいを覚える。また厨房に無断侵入する気か?無駄にかつての俺以上にしぶとい。
自滅したのに懲りてない。つくづくリューを強くしたのは間違いだったのだろうか?
「………なあ、頼むよ、お願いだよ。お前は一体どうやったら懲りてくれるんだ?」
わかりきってたことですがやはりリューさんもキャラ崩壊を起こしていますね………。