ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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過保護な父親

 ここはアストレア連合本拠地の屋上、俺は連合元大団長カロン。屋上では暖かな風が緩やかに流れて行く。

 俺は今ここで腰掛け、オラリオの町並みを見つづけていた。

 

 俺はそれなりの期間、連合の大団長を勤めてきたが何かを変えることが出来たのだろうか?

 何かは良くなったのだろうか?

 俺は飽きることなく町並みを見やる。せわしく動く人々。

 

 俺の隣には大団長の銅像が飾ってある。相変わらず何度見ても解せない。何と言うアホっぽさだ。

 誰だ!こんなの作ると言い出したやつは!全く。

 

 「ここにいたのですね。」

 

 「ああ、何となくな。」

 

 リューがやってきた。リューは俺の隣に腰かける。

 

 「大丈夫ですよ。」

 

 「何がだ?」

 

 リューは笑う。俺は内心を見抜かれたことを悟る。

 はぁ、コイツにまでわかるほど俺は単純だったのか。これは結構ショックだな。

 

 「あなたもわかっているでしょう。もうあなたが心配しなくても何も問題ありませんよ。連合の人間は皆強い人間ばかりです。皆あなたの馬鹿げたタフさを見習って強くなりましたよ。もちろんリリルカさんも、私も。」

 

 うーん、これではもう俺はタヌキとは言えないだろうな。コイツにまでこうも内心を見抜かれるようでは。

 

 俺だってわかってはいるんだ。もう俺は戦えないし、出来ることは限られている。俺はもう仲間を護ることは出来ない。

 ………それでも、、、はぁ、やはり俺は過保護だったか。

 薄々予感はしていたんだ。リリルカのランクアップの時も言われたしな。

 

 ニヤつくリュー、俺をやり込めたのがそんなに嬉しいのか………。

 リューは言葉をさらに紡ぐ。

 

 「大丈夫です。あなたがいなくてもあなたのファミリアの人間は助け合い強く生きていけます。あなたが心配なのはわかりますが、もうあなたが必死にならなくともあなたの家族がいなくなることはありませんよ。あなたはもうすぐリリルカさんの監修の孤児院の院長に就くのでしょう。私とアストレア様も付いていきます。また以前のファミリアのように私達でやっていきましょう。」

 

 「………寂しくもあるな。」

 

 「物事の終わりはいつも寂しいものです。割りきって前を向きましょう。新しい職につけば、また新しい家族が出来ますよ。前の家族との縁も決して切れたりしません。」

 

 ………確かにリューは強くなったな。それに比べて俺は弱くなったのかもしれない。

 以前の俺は決してこんなに弱くなかったはずだ。

 

 しかしリューは俺に告げる。

 

 「あなたは以前から決して強くはありませんでしたよ。確かに弱くはありませんでしたが。私もずっと勘違いをしてきました。あなたは強いと。しかしあなたは強いフリをしていただけです。自分を含めた周囲を強いと騙していただけです。やせ我慢とはそういうものですよ。あなたは見事に周りを騙しきりました。詐欺師の面目躍如ですね。………ノッポの痩せこけて何も持たない子供は、辛さを騙して痛みを堪えて英雄に成り上がったんです。その姿を見た神が、ほんの少しだけの加護を与えるんです。私も灰色の英雄譚を読みました。」

 

 俺も少しだけ読んだ。連合の図書館においてある。リリルカの推薦図書になっている。

 灰色の英雄譚も、始まりは仲間を無くした主人公が必死に強くなっていく話だったな。

 胸を張るリュー。俺は昔のことを想う。

 

 「そうか、俺は弱者だったのか………。」

 

 俺は弱者であってももう赦されるのか………。

 

 「どうでしょうね。少なくともあなたが家族を護るために必死で我慢しつづけている間は誰もあなたには敵わないでしょう。そう考えれば強者です。しかし我慢する意味がないならその限りではない。そして今のあなたに我慢する意味は以前ほどではない。周りが強くなればますます意味がなくなるでしょうね。それでも別にあなたが弱者だろうとどうでもいいことです。強くなった私が護りますよ?あなたの弱さを聖女リオンの御名において赦します。」

 

 リューの笑顔。

 コイツは以前に比べてずいぶんと男前になったものだな。プロテインの力か?

 ………脳筋系男前ヒロインとか需要はどれほどあるのだろうか?

 今度リリルカに市場調査でも頼んでみるか?まあ、少なくとも連合では需要があるか。

 

 「俺も頭ではわかってはいるんだよ。いつまででも年寄りが心配してても何にもならないってことくらい。でもそれと気持ちは別物なんだよ。」

 

 「【オラリオの父】は子供に過保護ですね。」

 

 俺は以前ロキには見栄を張った。年寄りなりの幸せを探しに行くと。

 しかし実際は未練タラタラだな。情けない。

 俺は苦笑う。リューは笑う。

 眼下に広がる賑やかな町並みを俺は飽きることなく眺めつづけていた。

 

 

 

 「さて、と。」

 

 俺は立ち上がり移動しようとする。

 そしてそれに反応して突然何か急にそわつきだすリュー。以前も感じたおかしな空気。

 これはあれだな。やはりデジャヴュだな。

 以前にもこの態度は見た覚えがある。確か俺が以前シバかれたやつだ。なんか嫌な予感がするぞ?またシバかれる予感が。

 ………逃げるか?

 俺の直感的なサムシングは警報を鳴らしつづけている。

 

 俺は屋上を後にしようとする、しかしリューに捕まれる。

 ………捕まってしまった。

 

 「………ところで連合は大きくなりましたね。始めは連合は私を護るために作り上げたものでしょう。私のためにここまでのものを作り上げるなんて、よほど私のことが………その………」

 

 俺はステータスを持たない一般人、対してリューはもはやレベル7の超絶強者。

 リューは紫の毒竜戦でさらにランクアップしていた。

 リューより強いと予想されるのは猛者、アイズ、ベルの三人しかいないと言われている。

 どうやら俺を逃がすつもりはないらしい。捕まれた腕は微動だにしない。

 何が言いたいのかはわからないが、これは少し大人げなくないか?

 

 「………リュー、何が言いたいんだ?」

 

 「つまり、連合の人と人を繋ぐ輪は私への結婚指輪ということでよろしいのですね?」

 

 「なんでそうなるんだ!?」

 

 よろしくない!何なんだその超理論は!散々超理論を駆使しつづけた俺でも真っ青だぞ!?論理の飛躍というレベルではない!

 しかし俺を掴む腕の力は一向に衰えない。

 リューは開き直ったのかあまりにも堂々とした態度。男前にもほどがあるだろう?

 

 「よろしいのですね!!!」

 

 ………コイツマジだ。だんだん俺を掴む力が強くなって来ている。何度でも言うが俺は非力な一般人だ!おれの腕を握り潰すつもりか!?

 

 ………俺はどうすればいいんだ?頷くほかないのか?先の超理論を認めてしまうほかに道はないのか!?助けてくれ、リリルカ!

 

 「よ・ろ・し・い・の・で・す・ね・!・!・!リリルカさんは助けに来ませんよ!あなたの居場所を私に教えたのはリリルカさんです!!」

 

 マジか………。

 ああ、これはもう無理なのかも知れない。

 俺の我慢力はどれほど残っているのか?俺はリューを強くしすぎたのか?強くなったリューには勝てないのか?

 ………勝てないのだろうな。

 

 ◇◇◇

 

 英雄は無双でなくとも、無敵でなくとも、無敗。

 

 のはずなのだが、この日彼には人生初の敗北が刻まれたのだろうか?




                                     今度こそ終わり
そして補足しておきます。カロンは子供のうちから親を無くしているので恋愛よりも親愛です。
恋愛面に関しては子供のまま大きくなってしまったのです。
裏話として、なぜ話の冒頭でカロンはベートがアイズに好意を持っていることに気づいたのかは、最初にロキに同盟をお願いしにいったときに、何か有効な手立てはないかロキファミリアで周囲を必死に観察していたためです。

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