ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
「うおおぉぉぉ!!」
「俺は友が悲しむのを見過ごすつもりはないよ。」
◇◇◇
今日の俺は珍しく不機嫌だ。むしろ激昂していると言ってもいいだろう。
俺の友のガネーシャの眷属である、ハシャーナ・ドルリアがリヴィラで殺されたという話を聞いたのだ。俺も少しだけ面識があった。
彼は剛剣闘士という二ツ名を持つ、ガネーシャの眷属だ。話を聞いた俺がガネーシャに会いに行ったところ、眷属を殺されたガネーシャは酷く悲しんでいた。
俺は内々にリリルカを読んで緊急会議を行う。
「リリルカ、どう思う。」
「リリもカロン様と同じ考えですよ。」
今更考えを読まれたところで驚くに値しない。
ガネーシャとは同盟を結んでいるわけではない。しかし同盟を結んでいなければ友誼を通じていないというわけではない。
彼の眷属はダンジョンで悪意を持つ何者かによって殺された。ダンジョンはいつだって危険だが、それと殺人とはまるで別物だ。
そして彼らはよき隣人であり、共に同じ地に生きる仲間だ。彼は悲しんでいて、オラリオでも力を持つファミリアのいずれかに頼んで来るのも時間の問題だろう。俺達のところに話が来る可能性は極めて高い。
俺は友に頭を下げさせるのか?散々世話になった友に?………いやいや、あまり俺を見くびるなよ!
「盟友のフレイヤ様とロキ様への渡りはすでにミーシェ様に指示してあります。目的を共有できるガネーシャ様も問題はないでしょう。とすれば話し合うのはどうするかですね。」
さすがリリルカ、話が速い。
何度も俺が言っていることだが、戦力の逐次投入は愚策、この一言に尽きる。
俺達は相手の戦力がわかっていない。わかっているのはレベル4の拳闘士が無惨に殺されたことだけ。必要な戦力がわかっていないのに必要になる度に戦力を投入するのは貴重な人員を無駄に損耗させるだけだ。
本気でやるなら相手に反撃の隙すら与えないように無慈悲にだ。
示威行為の意味もある。あるいは武力による威嚇とでも言おうか。俺達の仲間に手を出すことがどれほどの危険な行為なのか相手に思い知らせることができるのであれば、次からの敵に対する牽制にもなる。少なくとも仲間を護ることが至上目的である連合にとっては金を湯水のように注ぎ込んででもやる価値はある。
しかし気掛かりなこともある。相手の手札だ。
「リリルカはどう思う?」
「一番警戒が必要なのは、敵が自棄になったときの行動ですね。ダンジョンは地下です。最も危険なのはたくさんの人間を巻き込んだ生き埋めです。相手方に強力な爆薬があったときが最も危険です。」
「まあ、そうだな。何か対策は?」
「土砂や岩石の崩落自体はサポーター部隊でなんとでも出来ます。しかし問題は仲間が落盤に巻き込まれる事態ですね。」
「なるほど。」
俺は考える。
友の悲しみを見過ごすわけには行かないが、仲間の命がかかっている。温い対応をするわけにはいかない。
高レベルであれば落盤にも堪えられるであろうが、敵が自爆してきたときにその規模が判明していないのに多分大丈夫だろうは通らない。
「なんか有効な案がないか?」
「逆に考えましょう。」
「逆に?」
「ええ、連合の手札にはものを作るスペシャリストがいるでしょう。逆にこちらが先に敵の周りで爆破を行い、敵を本拠からあぶり出してくれましょう。」
さすがにリリルカだ。かなりの無慈悲な案と言えるだろう。まさか自分達の懸念を逆手に取った案を出して来るとは。
「実はすでに物作りの人員に至急大量の爆薬を作る指示を出しています。敵の本拠の周りで相手が恐れ慄くほど連続的に爆破を行い、巣穴から出てきたゴキブリ共を数の暴力で叩き潰しましょう。闇派閥に連合の怒りを買うことがどれほど恐ろしいことなのか思い知らせてやりましょう。リリは他にも有効なアイテムがないかアスフィ様と話し合いを行ってきます。今回は利益など度外視です。損害はリリとカロン様の個人資産で折半しましょうか?」
俺はあんまり金がないぞ?
しかしまあここはやせ我慢のしどころだな。
◇◇◇
ここは連合大広間。ここには今大勢の人数が詰めかけている。決起集会だ。
連合の冒険者部隊、魔法部隊、サポーター部隊、ロキファミリア、フレイヤファミリア、ガネーシャファミリア。まあつまりはオラリオの総力だな。
俺は演説を行う。
「皆も知っている通り、俺の友のガネーシャの子供が殺された。ガネーシャは俺達のよき隣人だ。同盟を結んでいなくても、友誼を通じていないわけではない。俺達は隣人の悲しみを見過ごすのか!?俺が何のために連合を作り上げたか皆知っているだろう!俺は友に手出しをした人間を見過ごすつもりはない。そいつらを放っておけばお前らの今隣にいるやつが明日には殺されているかもしれない。俺はそれを決して許さない。敵にものを見せてくれよう!オラリオの怒りを今思い知らせる時だ!!俺達は総力を持ってして敵を撃滅してくれよう!!!」
「「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」」」」」」」」
怒声が上がる。熱気に包まれる大広間は揺れる。頑丈に造られているハズの大広間が。
笑うフィン。
「さすがになかなかの演説だね。僕も彼らはなんとしてでも敵には回したくないよ。」
◇◇◇
そして俺達はダンジョンを進んだ。ダンジョンを征くは千を優に超える精強な軍勢。
敵の本拠の大まかな位置は前もって掴んでいた。連合内のかつてダンジョンに住んでいたモンスターファミリアからの情報だ。そして細かい探索は、連合の速度特化のリューに任せた。
………凄いな。人員を増やすとあらゆる面で有利に働くんだな。
まあその分利益の分配などでリリルカに無茶な仕事をさせているのはわかってはいるが。
俺達は敵の本拠の周りに爆薬を大量にしかける。さすがに無慈悲に生き埋める気はないから崩落しないように調節した量だ。前もってダンジョンがどの程度堪えられるのかの検証も行っている。
俺達の策に穴はないように思えた。しかし予想外のことはいつだって起こるものだ。
ーーーーーードゴオオオォォオォォン、ドゴオオオォォオォォン、ドゴオオオォォオォォン
ふむ、予想より爆破音がでかい。しかも長い。これはやらかした予感がするな。
「リリルカ、どういうことだと思う?」
「これは思いつくのは一つですね。やはり敵方もいざという時に崩落させるために爆薬を仕掛けていたと言うことでしょう。おそらくリリ達の仕掛けた爆破がそれらに引火したということでしょう。」
万が一にも巻き込まれないように遠巻きから見守る俺達。崩落しないようにしたはずだが予想外のことにより無慈悲に天井が崩れているな。惨状だ。ふむ、これは完璧にやらかしたかな?まあいいか。
「な、何だ!?何事だ!?」
大慌てで出てくる闇派閥。彼ら彼女らは落盤に巻き込まれて至るところから血を流している。
俺達は落盤に巻き込まれて体を痛めている彼らを全力を持って無慈悲に袋だたきにした。
敵を捕らえて地上へと帰る俺達。
◇◇◇
「ガネーシャ、こいつらどうする?お前のところが連れていくか?」
「いや、お前のところに更正施設があっただろう。ステータスを封印してそこに一生でもほうり込んでくれ。金が必要なら俺の個人資産で賄おう。特別コースで頼む。」
無慈悲だな。やはりガネーシャも切れてるな。ステータスを封印してリュー特別教官か。
まさかこいつらもアポロンファミリアに入団を志願したりせんだろうな?
作者はやりたい放題ですね。
これ以降、闇派閥では連合に手を出したらダンジョンで生き埋めにされるという噂がまことしやかに流れます。
戦術、無慈悲。悪党にかける情けはない。
ちなみにリリルカは火計であぶり出すというさらに恐ろしい案も考えていました。