ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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IFルート 凡人の目覚め カロンが酒を飲めば悪夢は起きない

 「カロン!あなたまた寝坊しましたね!」

 

 ここはアストレアファミリア、俺の名前はカロン。俺は今、ファミリアの仲間のリューという名前のおばさんに怒られて正座をしていた。

 リューというおばさんは見た目は若い綺麗なエルフだ。でも口うるさいんだ。

 口うるさいのはおばさんだって相場が決まっているだろ?多分若作りしてるんだ。詳しい年は知らないけど。

 

 「以前は子供だと思って甘くしていましたが、あなたはもうそろそろ大人です。レベル3も近いですし後輩もたくさんいるでしょう?寝坊して治安維持活動をサボるなんてありえてはいけないことです!」

 

 うーん、やっぱりうるさいんだよな。俺のせいだけど。

 そこへ先輩が割って入る。

 

 「まあ待てよリュー、昨日は俺達が無理を言って酒を飲ませたんだよ。何とか許してやっちゃくれねぇか?」

 

 先輩達は俺に良くしてくれる。

 どこにだって悪い先輩はいるものだ。たとえ正義のアストレアファミリアでも。

 俺は酒は嫌いだと言ったのだが昨日は俺の誕生日だからって無理言って飲まされてしまった。まずかった。

 

 「あなたたちが飲ませたんですか!全く。」

 

 「まあいいじゃねぇか。こいつ昨日誕生日だぜ?たまには許してやんなよ。」

 

 「カロンは先月も先々月も寝坊してたでしょう!」

 

 先月も酒を飲まされたんだよな。先輩の誕生日だって。先々月は団長の誕生日だった。やっぱり飲まされた。

 ………来月はおばさんの誕生日のはずだがまさかおばさんにまで飲まされないよな?

 ファミリアにそこそこの人数もいるしそのたびに酒を飲まされたら寝坊だらけになっちまう。そのたびに怒ってたらおばさんの血管が切れちまうんじゃないか?

 

 「ところで朝ごはん食いたいんだけど?」

 

 「カロン!あなたは怒られている自覚はないのですか!!もっと反省してください!」

 

 「反省はしているぞ?でも反省しながら朝ごはん食べたっていいだろ?」

 

 「良くありません!あなたは治安維持活動の大切さを理解していない!」

 

 「そんなんよりファミリアの仲間の安全を優先した方が良くないか?」

 

 「あなたはまた口ごたえをして!」

 

 やっぱりうるさいんだよな。怒ると小皺がよると思うんだけどな。このエルフ、種族で得していないか?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはアストレア団長室。この日は例の彼らの決定的な事件の起こる前日。

 彼らの団長は今、高レベルのリューに相談をしていた。

 

 「リュー、どう思う?俺達はどうするべきだろう?俺達はやはり明日は行くべきだよな?」

 

 「私達は正義のファミリアです。私達は行くべきだとは思うのですが………」

 

 「どうしたんだ?」

 

 リューは少し考え込む。

 ここは少しだけ違う世界。ほんのわずかな違いが彼らの命運を決定的に分ける。

 その違いとはカロンがこの日寝坊したかどうか。

 彼女の脳内には、先ほどのカロンの仲間の安全の優先を考えた方がよいという言葉が残っていた。

 

 「やはり仲間の安全を考えると少し危険が高いようにも思えます。今回は見送るべきなのでは?」

 

 「お前はそう思うのか………」

 

 彼らの団長は考え込む。

 リューは高レベル冒険者でファミリアの重要戦力だ。ただの勘だと切り捨てるのも躊躇われる。

 それにまず仲間の安全を優先するという考えも理解できる。というよりも本来の常道だ。

 

 自分達は正義の味方のファミリアではあるが仲間を護るのも団長の役割であり立派な正義である。

 

 「わかった。俺は動くべきだと思ったが確かにきな臭い情報であるのも事実だ。今回は動くのは見送ろう。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「カロン!また寝坊しましたね!今回は理由はないはずでしょう?治安維持活動をもっと大切にしなさい!」

 

 爽やかな朝に響く怒声。何か最近こんなんばっかだな?

 

 「まあまあ、リュー、落ち着いて。」

 

 また怒られちまった。最近は俺が寝坊するとおばさんがわざわざ俺の部屋に来てたたき起こすようになっちまった。眠い。

 となりでおばさんの親友だって人がなだめてくれている。この人はあんまりうるさくいわないんだけどな?

 昨日は先輩達と後輩も連れて皆で夜遅くまで花火をしてそのままテンションが上がってカブトムシを取りに行ってたんだ。それで寝坊しちまった。

 オオクワガタが取れたんだぜ?すごいだろ!

 

 「あなたはなんでそんなに寝坊ばかりするのですか?」

 

 「まあまあ落ち着けリュー。」

 

 「団長まで!なんでそんなにカロンに甘くするんですか?」

 

 その言葉に彼らの団長は少し困った顔をする。

 

 「………こいつはもともと正義とかにはあまりこだわりがあるわけじゃないんだ。今こいつが冒険者をやってるのも特に宛てがないからなんだ。俺は何回かこいつに普通の仕事がしたいと相談されてるんだよ。でもこいつは戦いで安定感があるから俺が頼み込んで冒険者を続けてもらってるんだよ。確かに寝坊はいただけないが、まあ複雑なんだよ。」

 

 「………それは確かに複雑ですが………そうですね。戦いで彼が役に立つのは事実です。しかし普通の仕事がしたいならそれを許さないのですか?」

 

 団長はさらに困った顔をする。

 

 「こいつはお前が思っている以上に皆に信頼されているんだよ。安定していてすごくタフなんだ。こいつがいないと下の人間がガッカリするんだよ。」

 

 「………つくづく複雑なんですね。」

 

 俺の前で彼らは話し合う。

 高い評価は嬉しいが俺はいつまで冒険者をすればいいんだ?確かに皆好きだし俺が役に立つならそれも嬉しいけどさ。

 

 ◇◇◇

 

 ここは少しだけ違う世界。アストレアファミリアに特に何事も起こらなかった世界。

 英雄も怪物も聖者も目覚めなかった世界。

 

 凡人は朝に弱く、凡人の朝の目覚めはいつだって憂鬱なもの。

 

 しかし、彼にとっては一番幸せなのだろう。




変人は意外と皆に愛されていました。
それとカロンとリューは多分同じくらいの年です。
もうこれ以上の話はありません。

ところでカロンは本当に英雄の子孫なのでしょうか?
それは作者にもわかりません。

ふむ、完結しているはずなのに伸びていくUA。評価バーの力は凄いですね。

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