ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
「リュー、さようなら。」
◇◇◇
ここは少しだけ違う世界。闇派閥にアストレアファミリアが壊滅させられてリューの復讐を俺が止められなかった世界。
ちくしょう、なんでなんだ。どうせ違う世界ならアストレアファミリアが壊滅したのが間違いであったならよかったのに………。
「リュー、堪えろ!」
「嫌です!私は皆の敵を討つ!」
俺はリューを止められなかった。リューは凄惨な虐殺を行うことだろう。俺は必死になってリューを捜し回った。
「リュー………」
リューは血に塗れて倒れている。近くにはいくつもの血まみれの死体がある。
遅かった………。
「カロン………。」
「リュー………。」
倒れながらも意識のあるリュー、俺とリューの視線は交錯する。
「カロン、私を捕まえますか?」
「………ああ、さよならだ、リュー。」
「同じファミリアの私を?」
「それでもだよ。今のお前は大量殺人犯だ。お前も治安維持活動を行ってたのなら殺人鬼が街中に潜む恐怖が人々にとってはどれほどのものかわからないわけないだろ?」
「………そうですね。」
俺は倒れて力無いリューを縛り上げる。裁きを受けたらまず死刑は免れないだろう。それだけの数の人々を殺してしまっている。
俺はリューを担いでガネーシャファミリアの元へと向かう。
「リュー、さよならだ。」
リューは俺をその空色の瞳で切なそうに見つめていた。
◇◇◇
ここは冷たい檻の中。ここで私は今裁きの時を待っている。
死を想うと体が震えて来る。いつ私は死刑を宣告されるのだろうか?
私は牢屋の中で一人考え込む。
もっと良い方法があったのだろうか?彼はそれを知っていたと?私は短絡的だったのか?私は私の感情を優先するべきではなかったのか?
時は過ぎて行く。私は中々死刑にならない。なぜだろうか?
私は最初の内は不思議に想うも変わらない日々が過ぎ行くうちに思考することをやめた。
◇◇◇
「カロン、もうやめなさい。あなたは自分の幸せを考えるべきよ。」
「アストレア、知ってるだろ?家族の幸せが俺の幸せさ。」
カロンはそういって笑う。明るく笑う彼はやつれ頬はこけ、見ていて痛々しい。
「あなたは………。」
「済まないなアストレア。俺の我が儘に付き合ってもらって。」
「いえ………構わないわ。二人とも私の子供達だもの。」
◇◇◇
時は無為に過ぎていく。
五年、十年、やがてさらに時は過ぎわからないほど長く。
私は死刑にならない自身の身の上を不思議に思い幾度も刑務官に問い掛ける。しかし返される答えはいつも濁されたものだけ。
「疾風、釈放だ。」
釈放?どういうことだろうか?私は死刑囚ではなく長期刑期囚だったということか?
「どういうことですか?」
私は問い掛ける。やはり彼は黙したまま。と思いきやポツリと一言言葉が返される。
「………お前に伝言がある。」
それは私を捕らえたカロンからのものであった。
『俺はいつでもお前の幸せを願っている。』
そういえば彼はどうなったのだろうか?
◇◇◇
私は刑務署を出てファミリアの本拠地へと戻る。しかしそこはすでに別の建物に変わっていた。
私が捕まってから長い時間が経っている。それもむべなるかなといえるだろう。
しかし私は何も知らないままというわけには行かないだろう。中に入って中の人間へと問い掛ける。
「すみません、ここはアストレアファミリアの建物ではなかったのですか?」
「ああ、あんたは………。」
中にいたのは初老の男性。彼は続けてしゃべる。
「あんたはアストレアさんが捜しに来ると言ってた人だね。あんたにアストレアさんから伝言があるよ。『私達はもう会わないほうが幸せだ。』ってさ。捜さないでくれとも言っていたよ。」
「そうですか。それではカロンという人物は?あなたは彼については何かご存知ですか?」
その言葉に男性は顔を歪める。
「あんたは知らないほうがいいと思うよ。まあすぐに知ろうと思えばわかるかもしらんが。あんたはオラリオを出てどこか別の場所で暮らした方が幸せだよ。」
「知ってらっしゃるのですね。教えて下さい。」
「俺は言いたくないよ。」
彼は寂しげな目で遠くを見る。
「知りたければ自分で調べてくれ。………すぐにわかるとは思うが。」
◇◇◇
あのあと私はオラリオの町を歩いた。行く宛てなどない。
すでに時が経ちいろいろなものが変わってしまっている。ツテなど何もない。
そんな私に声がかけられる。
「お前は………。」
◇◇◇
ツテがなくても知り合いがいないわけではなかった。私はオラリオをさ迷ううちにリヴェリア様と出会う。彼女はその地位で有名人だし私は悪い意味で有名人だ。互いに知っていた。
私は彼女と話をする。
「………始めまして。」
「ああ。お前はさすがにやつれたな。」
「………リヴェリア様は忌避なさらないのですか?私は殺人犯ですよ?」
その言葉に彼女は何とも言えない表情をする。
彼女は話をする。
「………お前はこれからどうするんだ?オラリオを出ていくのか?」
「宛てがありません。迷っています。」
「お前はオラリオを出た方がいいよ。私のツテでどこかを紹介してやろう。」
「待って下さい!カロンは、カロンはどうなったんですか?」
「………知らないほうがいいよ。お前はすぐにでも出て行くべきだ。」
「どうかお教え下さい!」
その言葉にリヴェリア様は苦い顔をする。
「カロンは………死んだよ。」
「なぜですか!」
「過労だよ。あいつは今ではオラリオの聖人と呼ばれている。」
「聖人?なぜですか!」
「………私が知っている限りではお前が捕まった後あいつは何度もガネーシャファミリアの元へと通っていたよ。何度も何度も通っていたと聞いた。」
「それで!」
リヴェリア様は悲しそうな顔をする。
「あいつはオラリオの人々の役に立つから何が何でもリューを死刑にしないでくれと言っていたそうだ。俺が役に立っている間は殺すなと。それで必死になって働いて挙げ句若くして死んだよ。自分を蔑ろにして人々のためだけに働いて。タフな男のはずだったのにな。それで列聖されては意味があるとは思えんな。」
そういって私を見る。私は衝撃を受ける。
「………お前は仲間の命を食いつぶして助かったんだよ。聖人の遺言で助かったんだ。悪いがいくらお前が同胞でも私もお前にはもう会いたくない。私が今こうしているのは聖人カロンへの敬意だ。あいつがお前のことを助けたいと思っていたことへの。お前はもうここを出て行くべきだよ。」
◇◇◇
あのあと私はオラリオを出た。もちろん宛てなどない。
私の心には重たいくさびが打ち込まれている。
『お前は仲間の命を食いつぶして助かった』
何よりも重い、重過ぎる枷だ。
私は大量殺人犯だけでなく仲間殺しの罪まで背負ってしまった。
私はもう幸せになることも救われることも永遠にないのだろう。生きることは地獄だがカロンの命で助かったのなら生きるほかない。
彼は他に何かいい手段があったというのか?
私は永遠にその出口のない迷宮のような後悔と疑問に苛まれて生きていくことになるのだろう。
BAD END
カロンはリューが乗り越える強さを持っていることを信じていましたがその思いは届きませんでした。
?なんかバーが赤いですね。評価してくださった方、ありがとうございます。