ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

90 / 129
ギャグやほのぼの系を望む方は戻ることをオススメします。


もしも編 嫌いな方が多数いらっしゃると思いますので注意して下さい
IFルート 怪物の目覚め 鬱展開なので注意してください。アンチ・ヘイト、残酷な描写も存在します。


 「リューっっっっ!!!」

 

 地面に俯せで倒れて冷たくなっているリュー。俺の心はどこまでも冷えて行くのを感じた。

 

 ◇◇◇

 

 ここは少しだけ違う世界。ハンニバルがカロンではなく最初にリリルカを狙い、リューがレンに風の魔法を打ち込まなかった世界。

 

 リリルカはハンニバルの一撃で即死した。カロンは後に合流したベートと共に戦いハンニバルは討ち取った。

 レンとバスカルはそれぞれ炎と風を撃ち込まれるも何とか生き延びて退散し、ヴォルターを含む三人で襲い掛かってきた。

 彼らは手段を選ばずにオラリオで襲い掛かってきた。リューがレンとバスカルに襲われ、本拠地はヴォルターに襲われた。リューはどこかの路地裏で二人掛かりで襲われて敗北して死亡し、本拠地は無惨に壊滅させられていた。

 俺は、俺は、この時何をしていたんだ?記憶が無い。俺はどこにいたんだ?

 

 ◇◇◇

 

 オラリオに降る冷たい雨。日中にも関わらず分厚い雲に覆われたオラリオはその日は暗い一日だった。

 俺は路地裏で倒れて死亡しているリューを見つけた。リューの綺麗な顔は潰され、体はすでに冷たくなっていた。

 俺は何でここにいるんだろう?ああ、そうだ思い出した。本拠地が壊滅しているのを見て急いでリューを探しに来たんだった。ああ、じゃあもう手遅れじゃないか。

 

 「不死身、見つけたぜ!」

 

 茶髪の優男だ。見たことがあるな。確かこの間俺達に襲い掛かってきた男だ。

 

 「お前をさっさと殺して逃げないと私達もここに長く留まるのはまずいからな。」

 

 赤髪の女。こいつも見た覚えがあるな。こいつらがリューを殺したのか。

 憎いな。ただひたすらに憎い。こいつらが憎くてたまらない。

 

 「死ねっ!!」

 

 そう言って二人は襲い掛かってくる。俺には勝ち目が存在しないはずだが。

 しかし何が何でもこいつらを生かして帰すつもりはない。俺には何が残っている?リューはいない。リリルカはいない。アストレアはいない。ヘスティアはいない。なんだ。何も残っていないな。ならばこいつらを恐れる必要も何かを心配する必要も何もないな。

 

 「お前らを絶対に殺す。

 

 俺はそう言ってしまう。強く願ってしまう。そして俺は知らない。

 

 白いスキルは家族を護るためのスキル。しかし護るべき家族が存在しなくなりすでに消滅していた。そして黒いスキルのみがカロンの魂に前面に押し出されている。

 既にアストレアが天界に帰還して、本来ならば消え去るはずのステータスはなぜか一つのスキルを象取っている。それは無事を願うかつての神の祈りなのか?誰にもわからないこと。

 

 【黒い覇王】

 ・目的の為に手段を選ばない。

 ・発言で対象の思考を決定づける。

 

 目的とは何なのか?

 対象の思考、それは誰の思考なのか?

 

 ーー護りたい人間はもう誰もいない。俺がやるべきことはもうこいつらを消しつづけるだけだ。俺は絶対に何が何でもこいつらを根絶やしにしなければならない。

 

 発言で相手の思考を自在に決定づけるスキル。

 レンとバスカルは強力になった黒い鎖のスキルに即座に悪寒を感じ取り立ち止まる。

 カロンは自身のスキルにより憎い相手(お前ら)を何が何でも殺し続ける運命を決定づけられる。

 

 ーー憎い相手?闇派閥に決まってるだろう。関係した奴らも皆殺しだ。かつて家族を殺した盗賊も捜し出して血祭りに上げないといけないなぁ。

 

 そしてその思考にさらに手段を選ばない黒いスキルが密かに連鎖反応する。

 

 ーー盗賊を見つける?どうやって?そうだ!目に付いた奴片っ端から皆殺しにしてしまえばいつかはそいつらにぶちあたるだろう!

 

 「何立ち止まってるんだ?お前ら俺を消しに来たんだろ?ボヤッと突っ立ってたらお前らが死ぬハメになるぜ?」

 

 カロンの言葉。続けざまに放たれたどこまでも冷たいその声音にレンとバスカルは悪寒と震えが止まらない。そして二人は理由が分からない。しかし二人はあることに気付いてしまう。

 

 ーー誰だこいつ?

 

 見た目はカロンである。しかしなぜ?違和感?どこかが違うのか?

 

 カロンの目は青い色。光を通さない深海の昏く淋しい蒼。澱んだ濁りにひっそりと佇む怪物。

 

 ーーこ、こいつっっ!!

 

 レンは即座に理解する。

 闇派閥にもごく稀に存在するさらなるアンタッチャブル。戦闘力に無関係に関わるべきではない怪物。不興を買ったものは二度と日の目を見ることがないと言われる最悪の連中。レンやバスカル、ヴォルターでさえ怯える人ではない思考を持つ人の姿を持つ怪物と呼ばれる何者か。

 そいつらの目は決まって昏い色をしていた。そしてカロンの目はレンが今まで見てきた数少ないそんな連中の目をさらに昏くした色。以前戦った時とは決定的に違う点。

 

 「なあ、お前ら何で固まってるんだ?俺に殺されるのを望んでいるのか?」

 

 そう言ってゆっくりと歩いて来るカロンに二人は死を幻視する。二人は理性もなくひたすらに逃げ出すことを望むが体が動かない。

 二人の体は格段に強力になった黒い鎖に縦横無尽に縛られて動かない。逃げ出せない。震えが止まらない。そしてゆっくりとまた一歩怪物(カロン)が嗤いながら近寄って来る。怪物が近寄る度にレンとバスカルの悪寒はどんどん強くなって行く。

 

 「く、来るなっっ!!」

 

 「おいおい、連れねぇな。そういうなよ。俺はこんなにもお前達のことだけを思ってるのに。」

 

 レンもバスカルも恐怖が最高潮だった。

 この怪物が、悪魔が、自分たちのことだけを思っている?何の悪夢だ!?自害した方がよっぽどマシじゃねぇか!!

 

 カロンはそっとレンに近寄りそっと頬に手を添える。

 

 「綺麗な肌だな。リューと同じくらい。リューの頬は直に腐り落ちるんだろうな。」

 

 カロンの昏く青い目を見たレンは悪魔が触れた自身の頬が腐って落ちて行く幻覚を視てしまう。

 

 「うわああぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 レンは錯乱して自身の鎌で自分の喉をゴッソリと削ぎ落とす。カロンは倒れて痙攣するレンを確認してレンの後方にいたバスカルへと目を向ける。

 バスカルは恐怖で叫ぼうとするが声が出ない、出せない!!誰か助けてくれ!!

 

 「オイ、テメエらどういうことだ?」

 

 そこへヴォルターが現れる。ヴォルターは状況を理解していない。

 

 「また増えたか。処分するべきゴミが。」

 

 カロンはそう言ってヴォルターを見やる。

 ヴォルターは闇の連中の中でもレンやバスカルより顔が広い。即座に事態を理解した。

 

 ーーマジかよ!?何でこんなところに!?

 

 カロンの目は昏い青い色。ヴォルターはその昏い色は悪魔の象徴だと即座に理解する。闇の中でも一際強大な実力を誇るヴォルターをもってしてもアンタッチャブルな存在。強さとか立場とか関係なくただただ危険な怪物なのだ。絶対に手出し無用の不文律、こういう奴らの危険性を理解せずに周りを巻き込み悲惨な末路を辿った人間をヴォルターは山ほども見ている。しかもこいつは今まで見てきた奴らの中でも別格だ!誰でも見ただけでその危険性がわかるほどに!!

 怪物の怒りは今ヴォルター達に向いている。そして怪物を倒せるのは英雄だけ。ヴォルターは決して英雄などではない。

 

 「お前も、そいつらの仲間か。お前も絶対に生きて帰れないよ。」

 

 カロンのスキルの恐ろしさ。カロンのスキルはいつだってカロンの強い願いに呼応して力を発揮する。精神の強いカロンがひたすらに強く願うことで。そして今カロンの呪詛はただ敵を何が何でも消すことだけに向けられている。より強くなったスキルとともに。

 そしてカロンの呪詛は絶対に生かして帰さない。それはヴォルターとカロンの思考を決定づけるもの。

 

 「なあ、お前らを殺す前に教えてくれよ。アストレアの悪夢に関わった奴らの詳細をさ?」

 

 そう言って一歩、また一歩と怪物は嗤いながら近づいて来る。復讐のみに取り付かれたその姿は理性のない怪物以外に言い表し様がなかった。

 近づく度によりハッキリと認識できるその昏い目、歩く度に絞首台が近づくことを幻視させるその足音、しゃべる度に背筋を伝う止めどない悪寒を誘発するその声、見る度に自身が食べられることをイメージしてしまう嗤い顔を湛えたその口元。

 

 

 

 ヴォルターは百戦錬磨。ゆえに自身の終わりが今ここで悲惨なものだと理解した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 バベルの塔最上階。フレイヤは下界を覗く。

 

 「あの子の綺麗な魂はなくなってしまったわ。残ったのは光を逃がさない暗黒のような濁った黒だけ。アレはおそらく危険なものよ。」

 

 「フレイヤ様、消しますか?」

 

 「いや、やめてちょうだい。アレはあまりに危険性が高いわ。アレに手出しをするべきではないわ。人は白と黒が混ざってできているもの。それは善と悪の陰陽。どんなに非道な人間でもどんなに心優しい人間でも例外なくね。どちらか片方が欠けてしまえばそれはもう人間とは呼べないわ。黒が欠ければ聖者で白が欠ければ怪物よ。アレは怪物よ。手出しはあまりにも危険だわ。」

 

 ◇◇◇

 

 その日、オラリオに激震が走る。最後に残された正義の芽が潰えたとの話だった。カロンは変人ではあるがそのひたむきな姿勢だけは密かに好意的に解釈されていた。変人と小人とエルフ、そして彼らを優しく見守る二柱の神。彼らはオラリオから去った。彼らの本拠地には誰のものともつかない誰が建てたのかもわからないお墓だけが残されていた。

 そして代わりにオラリオに打ち捨てられた無惨な遺体が三つ。遺体は全て顔を潰されていたがおそらくは危険な闇派閥の人間なのではないかとの噂だった。

 

 ◇◇◇

 

 ダンジョンには悪意が満ちている。ダンジョンは悪意に囚われた怪物の巣窟である。

 護るべき家族の幻影と憎い相手を求めつづけて嗤いながら迷宮を彷徨う怪物。

 

 ダンジョンはこの日に生まれた新たな怪物を両手をあげて喜び迎え入れた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地跡地。そこはかつて正義の味方を目指した者達の夢の跡地。そこには傍らにかつてリューの為にひっそりと育てられていた木の芽が存在していた。

 そこにあるのは墓標。リューとリリルカとアストレアとヘスティアの為のもの。カロンの為のものは存在しないのだが今はそれを知るものはもう誰もいない。

 

 ◆◆◆

 

 通称 迷宮の悪夢

 正式名称 怪物 カロン

 公式推定レベル 測定不能(最低でも7だと推測される)

 危険度 判明している限りで最上級

 生息域 迷宮全区域 どこでも遭遇しうるため非常に危険

 

 特徴 今現在迷宮で最も恐れられている新種の人の形をとった怪物。容姿はかつて、正義のファミリア、アストレアファミリアに所属していたカロン氏に酷似している。怪物の名称の由縁である。なお、同氏は既に死亡しているとされているため関連性は不明。迷宮でどこからともなく聞こえて来るその足音を聞いてしまうと恐怖が止まらなくなる。その言葉を聞くと精神が発狂する。生命力と精神力が異常に強い。声を聞いてしまうと逃走はほぼ不可能。そのあまりの危険性と犠牲者多数の為にダンジョン封鎖の話も持ち上がっている。

 

 主な犠牲者一覧

 ロキファミリア リヴェリア・リヨス・アールヴ、アイズ・ヴァレンシュタイン、ベート・ローガ等

 フレイヤファミリア オッタル、アレン・フローメル等

 その他ファミリア多数

 

 備考 初めての遭遇はロキファミリアの深層遠征時。ロキファミリアと穢れた精霊の交戦時にどこからともなく現れる。対象が何かをぼそぼそと呟くと穢れた精霊は発狂して自害した。ロキファミリアは即時に危険性を最上級と判断、撤退を指示するも多数が犠牲となる。先のヴァレンシュタイン氏やアールヴ氏、ローガ氏等はこの際に犠牲となる。僅かに地上へと逃げ延びた者達の話によると対象は【お前は家族ではない。】と呟いていたとのこと。それを語ったロキファミリア団長フィン・ディムナ氏は青い顔をして終始震えが止まっていなかった。一般的な見解では、ディムナ氏は英雄としての適性が高かったため辛うじて逃走が可能だったのではないかとされている。なお、現在に至るも未だロキファミリア再建の見通しは立っていない。その後、たびたび浅い階層にも出没する怪物に業を煮やしたギルドの依頼を受けたフレイヤファミリアを中心とした掃討作戦が組まれるも、遭遇したフレイヤファミリアは一名を残して全滅した。その際に、当時最高レベルであったオッタル氏の全力の一撃が対象の腹部を貫くも、怪物はなおも嗤いつづけていたと唯一生き残った同所属のクラネル氏は証言している。なお、これを語るクラネル氏の様子も先述のディムナ氏と似た様子であった。この異常事態を受けて、発狂した主神であるフレイヤ様がダンジョンへと向かい神の権能を使用するも、怪物に効く素振りは一切見られなかった。この時にフレイヤ様は、怪物の手にかかり天界にご帰還なされた。神々はその様子を遠見水晶で見てらっしゃったが、彼らはフレイヤ様のご帰還に甚だ懐疑的である。彼らは怪物がフレイヤ様に向かって【地上(ここ)にお前らの居場所はないしお前は天界にも帰れないよ。】と呟くのを見たと震えながらおっしゃっていた。怪物の呪詛は神々すら捕えて離さないという事なのだろうか?

 もし対象が地上に出てくるようだとしたらこれはもはやオラリオの歴史上最高の存亡の危機だと言えるだろう。

                                           【ギルド資料より、一部抜粋】

                                                         BAD END




書いてて嫌になりました。今は後悔だけをしています。ホラーです。これではタグ詐欺です。
ちなみにカロンはフレイヤファミリアに寄った帰りです。この世界ではレンとバスカルを捕らえ損ねたために新しい入団者があらわれませんでした。フレイヤの五人の帰還日で送った帰りです。ヘスティアがいないためベルはフレイヤに拾われます。
闇派閥は怪物を恐れてどんどん迷宮の深くまで逃げていきます。深層でようやく全ての復讐を果たした怪物は盗賊を探して入口を求めてさ迷います。しかしダンジョンは怪物を愛して捕えて離しません。オラリオは怪物がダンジョンから出てくることを何より恐れています。

さらに補足しますと、作者の原作様の捉え方では通常のランクアップは魂が肉体の強さに見合わないためになかなかレベルが上がらないと理解しています。カロンの場合は逆で、既に十分に魂の強さがあるため肉体さえ強くなれば即座にランクアップするという設定です。怪物の強さの由縁です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。