ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
「元気にしていたようだな………。」
「ああ………。」
◇◇◇
この日は俺達に三人の来客があった。俺にとってもリューにとってもアストレアにとっても思い出深い来客だ。
ーーーーーーコン、コン、コン
「入ってくれ。」
ここは大団長を引退した俺個人に与えられた私室だ。俺とリューとアストレアはソファーに座って来客を待っていた。
ずっとずっと逢いたかった。もう逢うことはないとも思っていた。ただただ切なさと寂しさと暖かさがない交ぜになった何とも言えない気持ちだった。
来客はおずおずと入室してきた。
「良く来てくれた。座ってくれないか。」
俺は着席を勧めた。しかし三人は座らない。何やら戸惑った様子だった。
「是非座ってください。私もあなたたちにいつかまた逢えることをずっと心待ちにしていました。」
彼らはあの悪夢の後にアストレアファミリアを去って行った同胞達だ。彼らは事件で一命を取り留めるも、恐怖してファミリアから去っていった。
彼らもただただ寂しかったのだろうか?俺達の面会を希望するという話をミーシェヅテに聞いた。
俺達に逢いたいと思ってくれたのか。俺は二つ返事で逢うことにした。
「どうした?座ってくれないか?」
俺が彼らに聞く。
「………座ってもいいのか?」
彼らの一人がそう応える。俺は微笑んだ。
「もちろんだ。お前らは俺達の同胞だ。以前に去るときにも何かあったらまた来いと伝えたろ?」
「アンタは俺達を恨んでいないのか?俺達は命惜しさにアンタらを見捨てて逃げたんだぞ!?アンタらは俺達を憎まないのか!?」
彼はそういって俺達に詰め寄り涙を流す。彼らは元々アストレアファミリアに入団するほど正義感の強い人間だ。苦しかったのだろう。
彼ら三人は確か比較的近い時期に入団した奴らだったな。彼は確かその中でもリーダー格だったハズだ。
彼らはなおも続ける。
「俺達は逃げたんだぞ?命惜しさに。たった二人残ったアンタとリューさんを見捨てて!主神のアストレア様を見捨てて!俺達はアンタらの命がどうなろうと自分達の命を優先したんだぞ!?入団の誓いを捨てて!」
俺は笑った。ああ、そういえばあったな。入団の誓い。命を懸けて正義を貫く、だったかな。
人の正義感に付け込んで命を対価に賭けさせるとはどういうことだよ!?詐欺師みたいなやり口だ。正義は人のためになってこそだ、人の役に立たない正義なんか捨てちまえ。まあ拾ってもらった恩があるから口にはせんけど。アストレアは少し気まずそうだ。
………イシュタルを騙した詐欺師?ああ、そうだった。どうやら俺も詐欺師だったみたいだ。
………旧アストレアファミリアは詐欺師の巣窟だったのか………。正義とは一体何だったんだろう?
「自分の命が惜しいのは誰だって同じだよ。誰だって一生懸命生きてるんだから。そんなん別に今更さ。第一お前達は俺達よりレベルが低かったから怖がって当然だろ。むしろ良く逢いに来てくれた。俺はとても嬉しいよ。」
俺はそういって笑う。
「彼の言う通りです。私もあの時は確かに苦しかった。何より辛くて寂しかった。親友もいなくなってしまいました。それでも今があるのは、生きて救えた人間が存在した事は私にとって何よりの希望だったということでしょう。復讐心に打ち勝てるほどに。私もあなたたちにはただ感謝しかありません。よく逢いに来てくれました。」
リューも優しく笑った。アストレアも優しく笑う。
三人はただひたすらに泣きつづけた。リューは彼らの手を優しく握り俺はその光景をただ眺めていた。
◇◇◇
「お前達はどうするんだ?望むなら連合に口を聞けるぞ?まあ職権濫用はできんから下っ端からになるが………。でもお前達レベル2だったハズだろうから他の奴らよりいくぶんか重宝してもらえると思うぞ?困った事があったら俺が何でも力になるつもりだし。」
彼らは時間を置いて泣き止んだ。アストレアは気を使って退出した。
大の大人の泣き顔とか誰得だ?俺は面白がって散々にからかった。彼らも今は笑っている。
「いや、俺達には俺達の今の生活があるよ。今はオラリオの片隅でひっそりと食事処を経営してるんだ。あのあと俺達は結局オラリオから出なかったんだ。結局恩恵を捨てきれなくてさ。臆病だったんだ。いつまた襲われるかと思うとさ。三人で寄り添って悩んでた所を何とか雇ってもらえた店でさ。俺達はずっと悩んでたんだよ。俺達もアンタらに逢いたかった。アンタらが闇派閥を撃退してオラリオで大きくなっていって、今更出てきても何様だとか言われたらどうしようか?恨まれていないか?って。それでこんなに逢いに来るのが遅くなっちまった。アンタらの言葉を聞けて嬉しいよ。実はアンタはファミリア内で以前は変人とこっそりみんなに呼ばれてたんだぜ?先輩だからあんまり大きい声では言えなかったけど。」
彼は笑った。俺は舌を出す。生意気な奴らだ。後輩の癖に。
「カロンはあのあとオラリオ中から変人と呼ばれていましたよ。皆見る目がありますね。彼が変人と呼ばれ出したのはローガさんのストーカーになって以降の話だというのに。」
リューが調子に乗る。俺は眉をひそめる。後でこの生意気なエルフになんか仕返しをせんといかんな。リューの個人的な飲み物に勝手にプロテインを混ぜてやる!気付かないうちにムキムキになるがいいさ!
「ああ、それは俺達も笑ったよ。元気にしてるんだなって噂だろうから俺達にとって希望だったしさ。変人とそれを諌める
その惚けたエルフという言葉にリューも眉をひそめる。ざまみろ。
「ひどい言い草だな。俺達もお前らと一緒で頑張って生きてたのに。まあお前らが食事処を経営していると言うなら是非いかんとな。今懇意にしている店は頼んでもいないエールが次々と出てきて困っとるんだ。俺は下戸だって言っとるのに。」
「ああ、是非来てくれよ。連合の前大団長通い付けとなれば店の売上も期待できるしさ。ゴブニュ謹製のカロン銅像を店の上に設置するからさ。」
「それだけは勘弁してくれ。アレは俺の人生の最大の汚点だ。」
「カロンの人生は汚点だらけでしょう。やれストーカーだの変人だの連合の恥だののあだ名をつけられています。」
「おい、最後のは初耳だぞ!?誰がそんなことを言っとるんだ?」
「リリルカさんです。彼女はカロンに散々おかしな真似に付き合わされたのでそれくらい言う権利があると言ってました。自業自得です。」
リューのその言葉に俺を除く4人は笑った。俺はただ一人やり込められてしまった。ちくしょう!
時は新しい年を迎える暖かな春、今年もいい年になることを俺達は願った。
FIN
こっちが本物のフィナーレです。本当に最終回です。
彼らは墓参りして帰っていきます。
このような拙作に最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。
そして詐欺、ダメ!!絶対!!
それとあともしもルートでスーパー鬱展開な番外編が残っております。鬱展開ですのでお気をつけ下さい。
本当に鬱展開です。ギャグではありません。三話あります。