ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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灰の英雄のさらに続き

あとがき

 

 皆様には信じられないような内容だったかも知れませんが、灰の英雄は実在した人物です。私たちの国では、彼に助けられて今なお絶大に彼を支持しつづける人々がたくさんいます。

 

                 ~(中略)~

 

 彼は私たちの元から去っていってしまいましたが、私たちは彼が今もなお笑顔だと信じています。灰の英雄はいつだって笑顔で私たちを助けてくれたんです。

 最後になりますが、私たち灰の英雄の支持者は彼が今もなお明るく笑いつづけていることをいつだって心より祈っています。

                                               【灰色の英雄譚、後書きより抜粋】

 

 ◆◆◆

 

 「はあ、はあ、はあ。クソッ。」

 

 ここはオラリオの路地裏。ここで今、連合()大団長のカロンは三人の敵に追われていた。

 

 「あっちに逃げたぞ!」

 

 「挟み込め!決して逃がすんじゃねぇ!」

 

 「絶対にぶっ殺してやる!」

 

 三人はカロン達によるオラリオ闇派閥掃討作戦(フリュネの逆ハーレム作戦。闇派閥撲滅!凄惨なるカロンの復讐劇参照)から辛くもひそかに逃げ延びた闇派閥の残党だった。三人の内訳はレベル2が一人とレベル1が二人。なぜ今になって襲うのか、それはカロンが大団長引退式を行っていたためカロンはもう戦えないのではという噂がオラリオでは流れていたからである。

 後のない彼ら三人は、噂を信じてなりふり構わず後先を考えずにオラリオで襲い掛かって来たのだ。

 カロンにとって敵はステータスが健在である時ならものの数にもならない相手であるが、今のカロンはステータスを持たないただの非力な一般人である。

 

 ーークソッ!やはりダメか。直に追いつかれてしまう。

 

 カロンは必死で逃げ惑う。彼は生きて家族の元へと帰るために必死であった。

 

 ーーこの先は行き止まりだったはずだ。チクショウ!

 

 カロンは行き止まりに突き当たる。それを見た闇派閥は笑いながら近寄ってくる。

 

 「どうやらてめえの命運も尽きたようだな?この薄暗い路地裏がてめえの墓場だ。」

 

 笑いながら告げる闇派閥にやはりカロンは笑いながら切り返す。

 

 「お前ら大丈夫か?俺に勝てると思ってんのか?それに俺に手を出したら連合がただじゃおかねぇぜ?今ならまだ逃げられるんじゃねぇのか?お前ら連合とロキとフレイヤを敵に回してどうするんだ?悪いことは言わねえ。今のうちに逃げ出すこった。」

 

 ステータスが消し飛ばされてスキルが消えても、カロンの培われた交渉能力は健在である。その言葉に闇派閥は心を揺さぶられる。

 

 「う、うるせぇ!テメエが逃げ出したのはもう戦えないからだろうが!俺達にはもう後がねェんだ!死ねっ!」

 

 「おいおい?後がないなんてことはねぇぜ?真っ当に罪を償って出てくりゃいいだろ?連合には更正施設もあるぜ?」

 

 「黙れっ!!」

 

 そういって闇派閥は襲い掛かってくる。真っ先にレベル2の拳を腹部に受けたカロンはくの字に体を折り曲げ、路地裏にうずくまる。

 

 「俺達にはタップリとてめえに恨みがあるからな。楽に死ねると思うんじゃねぇぞ?」

 

 そういって三人掛かりでカロンを袋だたきにする闇派閥。

 

 ーーこれは………まずいな。クソッ。

 

 カロンは幸か不幸か我慢強い。例えステータスがなかったとしても。そして我慢強いカロンは決して声を上げない。

 

 ーーリュー………リリルカ………アストレア………ヘスティア………ミーシェ………連合のみんな………

 

 カロンは生きて帰ることを強く願う。

 

 「おら、どうだ?痛いか?」

 

 カロンを殴る三人、彼らはカロンを長くいたぶるために敢えて加減をしていた。

 カロンは幾度も殴られ口から血を止めどなくはき、体の至るところを骨折していた。

 そしてカロンは決して声を上げない。声を上げていたら彼らの嗜虐心はそそられてより苛烈な攻撃を加えられていただろう。おそらくすでにカロンはやられていたはずだ。カロンはたとえステータスがなくともどこまででもしぶといのである。そしてやはりカロンは笑う。

 

 「ちっ!気持ちのワリイ奴だ。いつまでもニヤケやがって。そろそろ終わりにしてやるか。感謝しな。」

 

 そういってレベル2が剣を取り出す。トドメを刺そうとしているのが見て取れる。

 

 ーーみんな………俺は………生きて帰るんだ………

 

 カロンはボロボロになって意識を失いそうになってもなおも剣から目を離さない。

 生きて帰ることをあきらめない。

 

 誰もそれに気付かない。

 カロンの願いに呼応して、ステータスを消し飛ばされたカロンにたった一つ最後に残されたスキル【灰の英雄】が先程よりひそかに灰色に鈍く輝いていた。

 

 「じゃあな、クソ変人ヤローが!!」

 

 そういって敵は剣を振り下ろす。

 

 ーーさよならか………リュー。

 

 ーーーーーガキッッ!!

 

 「な、なにっ!?」

 

 突如振り下ろされた片手剣に割って入る短刀。予想外のことに闇派閥はうろたえる。

 

 「カロン、あなたはもう戦えないし今やあなたはオラリオの要人です。あれほど護衛をつけて出歩いてくださいと言ったでしょう?出かけるならちゃんと私に声をかけてください!」

 

 「リュー!!」

 

 颯爽と修羅場にあらわれ家族(カロン)を救う一陣の風。高レベルのリューの登場に闇派閥は酷く狼狽する。

 

 「テメエは俺のサンドバッグだといっただろーが。俺以外の雑魚にやられてんじゃねーよ。」

 

 「ベート!!」

 

 またも何者かがあらわれる。彼はベート、リューに続いて二人目の高レベル。闇派閥は絶望を感じる。

 

 「貴様はこの俺と引き分けた程の剛の者だ。簡単に死ぬことは許さん!」

 

 「アステリオス!!」

 

 ついにあいつまで来た。アステリオスのそのあまりの威容に固まる闇派閥。

 

 「カロンさん、オレッチ達も忘れんなよ!」

 

 「リド!!みんなも!!」

 

 モンスターファミリアまで堂々と姿を現してしまった。これはいいのか?

 数にも囲まれ震える闇派閥。

 

 「元大団長、元副団長の言うことを聞いてください。」

 

 「万能者!!」

 

 もうダメだ。俺達三人にどこまで人員を動員するつもりだ!?

 

 「はい、これ私が作ったポーション。私たちの生活にハリが出たのはあなたのおかげ。」

 

 「ナァーザ!!」

 

 また来た!?目の前が真っ白になる闇派閥。

 

 「カロン、助けに来たぜ!」

 

 「変人、貸しを返させるまでは死なせんぞ!」

 

 「ヴェルフに椿!!助かったぞ!」

 

 何なんだ!?まだ増えるのか!?どれだけ増えるんだ!?

 闇派閥はこの数分で歳をいくつもとったかのように生気がない。

 

 「貴様にはタケミカヅチを紹介してもらった借りがある。借りは返さんとな。」

 

 「ゲゲゲゲゲッ、変人。あんた相変わらずいい男だね?後でタップリと相手してもらうよ?」

 

 「イシュタル!!男殺し!!残念だがお前の相手はできん!!」

 

 またあらわれた。どうすんのコレ?他の闇派閥を葬った怪物(フリュネ)まで!!闇派閥はあまりのことに吐き気を催す。

 

 「カロンさん、ご無事ですか?」

 

 「ベル、お前は現役の大団長だろう?忙しいんじゃないのか?」

 

 「僕よりアスフィ副団長やナァーザさんの方が忙しいはずです。」

 

 連合最強まであらわれる。後ろには仲間の桜花、命、千草、春姫を引き連れている。泣きそうになる闇派閥。

 

 「大団長!!大丈夫か?」

 

 「バラン、お前脇役ではなかったのか?それに大団長はもう辞任したと言っただろう?」

 

 「俺もベルもその呼び方にまだ慣れねえんだよ。それに脇役が主役を助けちゃいけないなんて決まりはないとどこかで聞いた覚えがあるぜ?」

 

 「自分で脇役と認めてしまうのか!?」

 

 連合元ヘスティア団長のバランもあらわれる。闇派閥に特に変化はない。

 

 「「「「大団長!!」」」」

 

 「ビスチェ、ブコル、ベロニカ、ボーンズ!!」

 

 おいおい、ちょっと多過ぎないか?

 

 「「「「リュー様ぁぁっ!!」」」」

 

 暴蛮者とアポロンとカヌゥだ。

 アレ?なんで千の妖精(レフィーヤ)までおるんだ!?お前らはカメラなんぞ抱えて何しとるんだ?週刊リューの取材か?

 

 「僕達の盟友に手を出すとはずいぶん肝が据わってるね。これっぽっちも手加減するつもりはないよ?」

 

 「勇者!!アイズ!!九魔姫に怒蛇、大切断、門番達も。ロキファミリアか!!」

 

 フィンはこの時期はすでにロキファミリア団長をアイズに任せて引退していたが、カロンの危機にわざわざ出向いていた。

 フィンのその怒りを湛えた黒い笑顔に闇派閥はついに泣き出してしまう。

 

 「………フレイヤ様はお怒りだ。」

 

 「猛者!!」

 

 オラリオ最強まで。後ろには殺気立つアイン、イース、ウルド、エルザ、オーウェンを引き連れている。闇派閥は泣きながら気が遠くなりそうになる。

 もうダメ。その圧迫感だけで死にそう。俺達たった三人だぞ?

 相手はもうすでに数えきれないほどに膨れ上がっている。

 

 「俺達の友に手を出そうとか、なあ、どう思う?ガネーシャ?」

 

 「俺がガネーシャだ!俺は友に手を出す奴は決して許さん!!!!」

 

 「タケミカヅチ!!ガネーシャ!!ガネーシャ、お前は中立なんじゃなかったのか?」

 

 「友の危機にそんなつまらんことを言うな!」

 

 「ああ、そうだな。済まなかった。」

 

 武神とさらには同盟を結んでいないはずの民衆の王まであらわれる。彼らはそれぞれ後ろに改名したヘスティア連合の冒険者及びサポーターとガネーシャ憲兵を引き連れている。あまりのことに闇派閥の顔は見事なまでに真っ白になっている。

 

 「リリ達の敬愛するカロン様に手を出そうとはずいぶんですね。連合は今やオラリオを掌握する巨人です。連合の怒りはオラリオの怒りです。オラリオは今心底怒り狂っています。お望みのようですし、タップリと生き地獄を味わわせて差し上げましょうか?」

 

 「リリルカ!!」

 

 リリルカまでもがあらわれる。気のせいか背後にどす黒いオーラを纏っているように見える。幻覚か?威圧感も凄まじい。

 ………フム、これはもしやアレか?ラスボスは最後に出てくる的な。

 

 三人の闇派閥はリリルカのその言葉に失禁して白目を剥いて泡を吹いて気絶している。

 

 「情けないですね。この程度で気絶するなんて。今のうちにガネーシャ様方に引き渡してしまいましょう。」

 

 この程度?むしろオラリオの冒険者の総力に近くないか?

 しかしリリルカは笑う。

 

 「この程度はリリやカロン様だったら笑っていなしますよ?」

 

 ………それは俺を買い被り過ぎだ。これなら俺だって気絶しかねんぞ。

 リリルカ、おそろしすぎるだろう。

 

 ◇◇◇

 

 ところ変わってここは連合内医務室。ベッドで寝込み手当をされる俺。側にはリューとリリルカがいる。

 

 「お前達どうやって俺が襲われているのを知ったんだ?」

 

 それにリューが答える。

 

 「元イケロスファミリアヅテに闇派閥の生き残りがひそかにカロン抹殺をたくらんでいるのではないかという情報が入りまして………それで勝手に出かけたあなたを大慌てでみんなで捜していたわけです。」

 

 「リリルカのそのイケロスファミリアまでも役に立たせる手腕は相変わらずすごいな。でもどうやって俺を見つけたんだ?」

 

 「それが………灰色の光に呼ばれているような感覚がありましてそれに従って捜していたら見つけました。」

 

 カロンは知らない。彼に最後に残されたスキル、灰の英雄を。カロンは笑う。

 

 「そうか。いずれにしろ助かったよ。悪人でも少しやり過ぎかとも思ったが。」

 

 あのあと敵は気の済まないリューがたたき起こしてボコボコにしていた。カロンがやられた分だと言っていた。かわいそうに。ガネーシャさえも腹に据えかねたのか黙認していた。

 普通の鍛練でナイトメアなリューの逆鱗だ。内容は察してほしい。

 

 「私の仲間は奴らに殺されました。その恨みを時の流れに流してあげてるんだから十分過ぎる温情です。」

 

 まあ、そうだな。まあこれくらいは黙っておくか。

 

 「しかしどうしてあなたの居場所に気づけたのでしょう?リリルカさんはわかりますか?」

 

 「灰の英雄は窮地に陥っても仲間が必ず駆けつけて逆転していたと聞きます。まああまり考えないほうがいいのでは?」

 

 リリルカには珍しい思考放棄。それはリューの特権のはずだぞ?

 

 

 

 

 灰の英雄、強力なはずの黒いスキルと白いスキルさえも足元にも及ばない至高のスキル。

 人々の敬意を束ねて心を一つにまとめる英雄(カロン)を象徴する(スキル)

 灰の英雄スキルは死ぬべき運命すら捩曲げて、いつだって保持者を笑顔で家族の元へと帰らせる。

 

 英雄はいつだって笑顔なのである。




イシュタルはタケミカヅチとの幸せな日々にフレイヤへの恨みを忘れています。そしてある日そのことに気づいて自身の恨みはその程度のものだったのかと思い、綺麗さっぱりあきらめます。
そして連合の更正施設には特別教官としてあなたのリュー様が………
それとアスフィさんをリュー様の後釜にしてみました。

カロンの敬意はオラリオに対して住みよい環境という明確なメリットを提示することで得られます。ここでもまたカロンとオラリオの間で互いに利益のある関係が出来上がるのです。

評価をつけてくださった方、高評価ありがとうございます。

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