ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
必死に戦火を生き抜いた英雄に王様は言います。[よくやった。もう一息で敵の息の根を止められる。]
百戦錬磨の英雄は答えます。[敵は追い詰められて必死だ。警戒するべきだ。]
王様はそれに答えます。[俺達の勝ちだ。お前にもう用はない。]
英雄は王様に牢屋に閉じ込められてしまいました。
王様は笑います。[以前俺に逆らった罰だ。お前は処刑だ!]
英雄は笑って答えます。[俺は罰など受ける謂われはない。]
そこへ兵士が入ってきます。[王様!我々は負けそうです!]
王様は答えます。[どういうことだ?]
兵士が答えます。[味方は笑う英雄がいないと言って士気が下がり、敵は嗤う怪物がいないと言って士気が上がっています!]
王様は兵士のその言葉にうろたえます。王様は悩みます。
王様は命令します。[英雄よ。敵を追い返したらお前の望むものをくれてやる。]
英雄は笑って答えます。[ならば俺は家族と一緒に国を出ていこう。いい加減に愛想が尽きた。]
王様は困ります。[お前の家は弱小とはいえ貴族の家系だ。出奔など許されるわけがないだろう。]
英雄はやはり笑って答えます。[俺は戦いで死んだことにすればいい。呑めないならあなたは断頭台行きだ。]
戦いは終わり、英雄は去ります。英雄の仲間もどこへ行ったかわかりません。
しかし人々は英雄の笑顔を忘れることはありませんでした。
王様は英雄は戦死したと発表しましたが誰一人信じませんでした。
英雄はきっといつまでも笑顔で家族と一緒に暮らしたことでしょう。
◆◆◆
ここはアストレア連合ファミリア大団長室。ここで私は今大団長のカロンと向かい合っていた。
「どうしたんだ?リュー。なんか話があるとか?」
「ええ、話というか聞きたいことですね。以前からずっと不思議だったのですよ。あなたが死線に際して突然強力過ぎるスキルが発現した理由です。私が思うに………あなたが前々から隠していた姓の話と何か関係があるのではないですか?」
その言葉にカロンは天井を見上げる。
「今の俺はここにいる俺だよ。」
「またそうやってごまかしますか………。もうそろそろ私にくらい教えてくれても構わないでしょう?何年一緒のファミリアにいたと思っているんですか?」
「まあそうか………。そうだな。話をするか。」
カロンはそうしてぽつりぽつりと話を始める。
「何から話したものかな?まず俺の姓は灰の英雄譚に出てくる灰の英雄と同じだな。」
「………あなたは子孫だという事ですか?」
「さあ?ウチの親父は生前一回だけそうだと俺に話していたが信憑性がある話ではないな。眉唾ものだよ。」
「どのような話か聞いても?」
「ああ、嘘臭いんだが何か親父の話によるとウチの家系は代々護国の騎士の家系だったらしい。どこぞの国内で結構有名だったらしいんだが………。」
「それがどうして今ここに?」
「親父もはっきりしたことは言わなかった。ただ親父の推測混じりの話になるがどうやら先祖が信用できない人間に使われるのが嫌になったのではないか、という話だ。」
「なるほど。」
私は考える。彼のスキルは強力過ぎる。何らかの関係があっても不思議ではない。
「それで俺達家族はずっと流れの商売人で生計を立てていたんだが金品目当ての盗賊に襲われて、な。」
「………………。」
「それで俺だけが助かってしまって行く宛てがなかったから近くにあったここに流れ着いたんだ。………前の家族との繋がりはもう名前だけだな。悪目立ちするかもしれないと思ったけど捨てられなかったよ。」
「………あなたは家族を奪われるのは二回目だったのか。………思い当たる節があります。あなたは神にでも不敬だったし誰にも物怖じするそぶりを見せなかった。そうするだけの理由がなかったということですか。」
二回も家族を失うことになったのであれば彼にとって神が救いとは思えなかったのだろう。無理に敬えというのは横暴だろう。いつだって彼の前にある問題は彼だけが解決するしかなかった。今の俺はここにいる俺、か。誰にも助けを求められなかったのだとしたら、案外その言葉には万感の思いが込められているのかも知れませんね。
………やせ我慢の英雄はそうやってできているのでしょうか?
「俺が不敬なのはあまり関係ないな。俺自身の性格だよ。まあそんなわけで強力なスキルはもしかしたら俺の家系と関係あるのかも知れないしそうでないのかも知れないし………。死んだ家族が俺を護ってくれたとかだったらロマンチックだな。」
そういってカロンは薄く笑う。寂しい笑顔だ。
「しかし思い当たる節があります。あなたはいつも笑顔でいつも仲間を鼓舞し続けていた。灰の英雄と同じです。仲間と共にあるのも同じです。」
「それは関係ないんじゃないか?彼には彼の笑う理由があったんだろうし俺にも俺の笑う理由があるんだろ?」
「灰の英雄は家族を護る為に内心の恐怖を必死に押し殺して笑いつづける英雄です。あなたもそうなのではないのですか?」
「………それはうがち過ぎだよ。俺はいつだって楽観的さ。いつだって明日はいい日だと信じつづけて笑ってるんだよ。仮に俺が灰の英雄と似たような道行きを辿ったとしてもなにもかもが同じじゃないさ。俺はいつだってここにいる俺なんだ。」
彼はそういって笑った。
「………ふむ。確かにそうなのかも知れませんね。英雄譚に語られる灰の英雄があなたのように口が悪いとも思いづらい。彼は仮にも英雄だ。」
「よりによってそこかよ………。口が悪いのは認めるがもっといっぱい違いがあるだろう?」
「例えば?」
「うーん例えば………何だろう?」
「思いつかないんじゃないですか。」
私は笑ってしまう。
「………もしかしたら灰の英雄は俺と違って………。」
「違って………?」
「チビだったかも知れないだろ?」
「いえ、リリルカさんが英雄譚に大男だったと書いてあるといってましたね。」
「マジかよ………。ああそういえば以前にリリルカが灰の英雄を推していたな。」
「ええ、その通りです。彼女はその時からあなたと似ていると気付いていたんでしょう。だからあんなにも強情だった。」
「内心複雑だったよ。関係あるかは結局わからんけどな。」
「そういえばあなたはなぜアストレアファミリア入団を決意したんですか?あなたは正義とかにこだわりがあったとは思いづらいですが?」
「何だったかな?もう結構前の話しだしな。たいした理由ではなかったような………いやそうではないな。そうだ。思い出した!俺があまり金を持ってなかったんだ。盗賊に襲われて必死に逃げててさ。それでたまたま薄汚れた俺を見かけたアストレアの先輩が飯をおごってくれたんだ。俺達は正義の味方だから、って。それでお前はガタイがいいからアテがないなら入団を考えてみたらどうだ、一緒に正義を目指さないかって。それで俺は行く宛てがなかったからそのままアストレアの入団試験を受けたんだった。」
「なるほど。それでその盗賊はどうなったんですか?」
「もうわからないことだな。あのあとオラリオに逃げ込んだからさ。あの頃はまだ子供といって差し支えのないような年頃だったしさ。もう知る由もないな。」
「………しかし私たちが全滅したときには二度目の家族を失う辛さを味合わせてしまった。」
そして彼はその時真っ先に復讐ではなく残った家族を護ることを選んだ。
「いや、それでも皆良くしてくれたし俺は楽しかったぞ?もちろんいなくなったときは悲しかったけど。それに悲しかったのはお前も同じだろ?」
彼は事実どうしようもなく悲しかったのだろう。それでも彼は笑っていた。これがやせ我慢でなくてなんだというのか?私達はずっと彼の大きくて温かな背中に護られ続けていたのか。しかし明るく笑うその裏では彼はいつも悲しくて泣いていたというのか?
「私はずっとあなたの恐るべき精神的な強靭さに助けられてきました。あなたはあんな事があっても笑いつづけていた。あなたはやはり灰の英雄なのでしょう。」
彼は舌を出した。彼のよくやる癖だ。大男だし全然似合ってない。爪の先程の可愛いげもない。しかし目の色は嫌いではない。
「仮に同じだったとしてもたまたまだよ。ただの偶然さ。俺はいつだって笑いたいから笑っていただけだ。」
しかし私は知っている。彼が内心必死だった事を。私は先程の会話で彼が一瞬詰まったのを覚えている。
そして必死にも関わらず彼が笑いつづけていたというのなら、英雄譚の家族の役割はきっと私だったのだろう。リリルカさんやアストレア様やミーシェさんもか。おまけでヘスティア様も入れてあげようか?
「それにしてもあなたは灰の英雄の縁者だったんですか。」
「わからんといってるだろ?」
私は彼の真似をして舌を出す。私にそれを聞く義理はない。
仲間を殺されて絶望に囚われ、灰色だった私の世界を必死に鮮やかに彩ってくれたのは彼だ!他の誰でもない、カロンなんだ!
彼が私を何が何でも護るというのなら私も何が何でも彼に報いましょう。
「灰の英雄は護る家族がいなくなると最終的に怪物になってしまうハズです。あなたは変人でほっとくと何をしでかすかわかりませんし、仕方がないから長い間同じファミリアのよしみで私が責任を取ってずっと付き添ってあげましょう。」
なんかティオナさんと少し似た境遇になってしまったと今頃気づいてしまいました。
お遊びバタフライエフェクト
カロンがリリルカに教育を行う→必死に一人で生きる学習意欲の高いリリルカが成長する→リリルカと関わるアイズが成長する→アイズが次期団長になる→本来の次期団長だったラウルさんが完璧な脇役になってしまう というわけでラウルさんは出て来ません。