ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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月見酒

 季節は秋、今は夜半。頭上に昇る満月がとても美しい。

 俺は今日、凶狼に呼ばれてタケミカヅチ道場へと向かっていた。俺は涼しげな秋の夜風の中に考えを巡らせる。

 俺はなぜ呼ばれたのかね?特に何かした覚えもないがね?

 

 「よぅ………来たか。」

 

 凶狼は道場の縁側で月を眺めながら酒を飲んでいた。

 月見酒か、なかなか贅沢なものだ。

 

 「どうしたんだ?俺に何か用があるみたいだが?」

 

 俺はそう問い掛ける。

 

 「まあ取り合えず飲めや。」

 

 「俺は下戸だ。」

 

 「テメェに今まで散々な目に逢わされてきたんだ。これくらい付き合えや!」

 

 「仕方がないな。」

 

 凶狼に注がれた酒を飲む。もうこいつとも長い付き合いになってしまった。そろそろベートと呼ぶことにしようかな?

 ベートは俺を睨みながら話しかける。

 

 「いろいろフィンから聞いたぜ。テメェ最初の出会いは俺をロキファミリアとの繋がりを得るための当て馬にするためだったらしいじゃねぇか。」

 

 「やはり勇者は気付いていたか。ついにお前にまでばれてしまったか。すまんかったな。正直あの頃は余裕がなくてな。」

 

 これは俺の素直な気持ちだ。当時はアストレアが俺とリューの丸裸に近い状況だと俺は認識していた。俺は最後に残った家族(ファミリア)であるリューを護るためなら手段を選ぶつもりはなかった。フレイヤは同盟を結んでくれたが、相手のことをよく知らない状況でフレイヤがどこまで宛てになるのか俺には判別しきれないでいた。今になってフレイヤをある程度理解して始めてあれは純粋な厚意だったと断言できる。あれがなければリューを引き留めることができなかったかもしれないと考えると俺はもうフレイヤに二度と頭が上がらないだろう。

 ………今度からフレイヤ様と呼ぼうかな?

 

 「フィンのヤローはテメェのその腹黒さが嫌いじゃねぇみてェだが………。両方ともクソタヌキヤローだな。気付いたらわけわからねぇ道場の師範代にされてしまったし、なんか同僚に変な牛がいるし………。つくづく煮ても焼いても食えねェヤロー共だぜ。」

 

 「………不満か?」

 

 「今更不満もクソもねーよ。テメェの思惑が理解できてたら今頃こんなことにはなっちゃいねぇ。騙された俺がマヌケだったってだけだ。結局こんなわけのわからねぇことになっちまったが………まあそれでもこれはこれで悪くねぇ。」

 

 ベートは笑った。

 こいつは今は道場で最も面倒見のいい師範代だと門下生に人気者だ。人数が膨れ上がった道場はそれなりの数の信頼できる教導者を雇っていた。それに伴いタケミカヅチの給料も上がり、そろそろ貧乏神の汚名を返上できそうだった。貧乏神のもう片割れのヘスティアはやはり相変わらずだが………まあ次期大団長(ベル)を拾った功績を考えればさほどうるさくいう必要もないだろうな。

 

 「それにしてもわけのわからねぇ道場はヒドイな。お前の大好きなアイズの通う道場だぞ?」

 

 アイズは未だに道場に通っている。高レベル冒険者はさすがというか、もう学べることはさほど多くないと思うのだがな?

 

 「ハァー、それだよ。俺が怒れねぇのは。リリルカ様に聞いたぜ?テメェが俺を勝手に利用する代わりにこっそり俺の手伝いをリリルカ様に頼んでいたこと。知らねェうちにテメェが勝手に俺を共に利益のある関係に巻き込みやがったと。」

 

 「うーんリリルカは口が堅いと思っていたのだがな?」

 

 「いくら口が堅くても良心が咎めなさったんだろうよ。そろそろ言ってしまっても構わんだろうとお思いになられたのだろう。」

 

 こいつは変わったな。どんだけリリルカを信仰しとるんだ?なれない敬語まで使って。

 

 「お前はどれだけリリルカを持ち上げるんだ?」

 

 「今やリリルカ様を軽く扱えるのはお前とお前んところの副団長くらいだぜ?副団長もリリルカ様に頭があがらねぇようだし………。俺もな。アイズとの仲を取り持つのに散々手伝ってもらった上にアイズがリリルカ様大好きだからな。もうどうにもなんねぇよ。」

 

 「そうか。お前は尻に敷かれるタイプだったんだな。」

 

 俺も笑った。

 

 「チッ………否定できねェのがなんとも不愉快だぜ。」

 

 ベートもまた笑った。

 

 「せっかくだし道場で一つ立ち会っていくか?」

 

 「酒飲んでるだろーが!それにテメェはどうしようもなくしぶといから面倒なんだよ!本当にどうなってるんだ!?テメェの体は?それ絶対になんか変なスキルついてるだろ?」

 

 やはり当然ばれているか。強力なスキル無しにここまで実力差をひっくり返せるわけないしな。

 

 「ああ、付いてるよ。多分二つ。片方は耐久を底上げして状態異常をはねのけるやつ。」

 

 「テメェ平気で自分のスキルばらしやがるな………いいのかよ?それに二つってもう一つは何なんだよ?」

 

 「別にお前なら気にせんよ。それでもう一つは………わからん。」

 

 「わからんてどういうことだ?」

 

 「そのままの意味だ。そもそもあるかどうかも不透明だ。多分アストレアが隠している。そうでもないと説明が付かないことが以前から多々あってな。他人に何らかの影響を及ぼすスキルだと思うが………しかしアストレアが話すべきではないと考えて黙っているんだろうから聞いたりはせんな。」

 

 「そうかよ。ハァーまた明日から仕事だ。道場の師範代も面倒な仕事なんだがな。つくづく本当にわけのわからねぇタチの悪いストーカーに掴まっちまったもんだぜ………。」

 

 遠い目をするベート。しかしお前はツンデレだろ?つまりそれは道場の仕事が好きで好きでたまらんということだな。まったく素直じゃない奴だ。

 

 「お前は面倒見がいいし向いてるよ。門下生も多くがお前を慕っとるだろ。お前が道場に来てくれたおかげで俺達は助かってるよ。」

 

 「うるせぇ。」

 

 しかししっぽが揺れて耳がピクピクするベート。こいつはあれだな。リューと同じで腹芸が壊滅的に向いていないタイプだ。リューも交渉するとき、どもるわ目が泳ぐわ………自分にも交渉の仕方を教えろと言うあいつに散々に仕込むために時間を取られたのだがな?結局まったく向いてないということがわかっただけだったな。

 こいつも連合に来ても師範代以外は冒険者の選択肢しかとれんだろうな。まあそれでも十分以上に価値があるが。

 

 「お前の評判は耳に届いてるよ。たくさんの門下生がお前を慕っている。多少やんちゃな奴らでもお前のいうことだけは聞く奴も多いと聞くし。タケミカヅチも言っとったぞ。お前を師範代に引き抜けたのは何よりの僥幸だったと。」

 

 「あのヤローもなんだかんだ言ってタヌキなんだよな。気付いたら俺の担当冒険者やサポーター増えてるし。誠実そうな顔してる癖に。あれは完璧にテメェの悪影響だろーが!」

 

 「信頼できる部下の仕事が増えるのは当然だ。あきらめろ。俺だって万能者やリリルカなんかにアホみたいな量の仕事を押し付けていた自覚はある。今はだいぶリリルカの教育が浸透してリリルカが下の者を信頼できるようになったみたいだが………やはり最初期は大変だったよ。もとからいたアストレアの人員がしっかり仕事を頑張ってくれたおかげだな。」

 

 ミーシェは連合のリリルカ補佐兼アドバイザー、バランはヘスティアファミリア元団長、ビスチェは連合の会計役、ブコルはアストレアサポーター部隊の教師、ベロニカは薬学部門補佐、ボーンズはアポロンマスメディア部門の責任者だ。みんな頑張ってくれている。リリルカは言うまでもない。そもそも彼らの今があること自体がリリルカの育成の賜物なのだ。リリルカの価値はついに天元突破してしまった。

 

 「テメェは人任せがすぎねェか?テメェが始めたもんだろうが!」

 

 「………耳が痛いな。一番最初は俺がリリルカにいろいろな仕事のやり方を教えたはずなのに、あっという間に足元にも及ばなくなってしまった………。うーん………。」

 

 俺は目を眇めて遠くを見やる。本当に誰なんだ?こんなにわけのわからない魔改造をリリルカに施してしまったのは?

 リリルカは学習意欲と学習能力が高く、未だに若くて成長しつづけている。リリルカがオラリオの支配者になる日も近い。もはやすでにそれに近い状況だ。

 

 「このダメ親父が!何でもかんでも他人に丸投げしてんじゃねーよ!」

 

 「………反省しとる。」

 

 「………テメェにはこの結末が見えていたのか?」

 

 「まさか。」

 

 「テメェは狸だからな。信用できねーよ。」

 

 「ただの幸運だよ。ソーマが現状を変えてくれる気になったのもイシュタルが俺達に付き合ってくれる気になったのもヘスティアを拾えたのも。最初から当てなんかないさ。」

 

 俺達はそれからもしばらく酒を飲んでいた。

 うーんやっぱりまずいんだよな。何でみんなこんなまずいものをうまそうに飲んどるんだ?やはり俺がおかしいのか?

 

 「そろそろ明日に響くし寝るとするか。ベートはこれからアイズとお楽しみか?」

 

 「つまんねーこと言ってんじゃねーよ。それよりテメェ何で俺のことベートとよんだんだ?今まで凶狼と呼んでただろう?」

 

 「大した理由ではないよ。身内は名前で呼ぶものだろ?それより寝坊とかしてしまうとリリルカにまた怒られるんだ。あまり威厳を落としすぎないようにしないといかんしな。」

 

 「テメェはもう手遅れだよ。」

 

 「ひどいな。お前も絶対に娘に雑に扱われたら落ち込むタイプだぞ?もしいずれその時になったとしても俺は慰めんぞ?」

 

 「………想像しちまったじゃねーか。」




オラリオ、アストレア連合内人物評価額順
一位、魔改造リリルカ【断トツ。至高のマルチタレント。】
二位、アスフィ【技術者最高峰。】
三位、ナァーザ【薬物のスペシャリスト。】
四位、カロン【連合発案者兼最高責任者。】
五位、リュー【高レベル冒険者兼求心力。】
六位、ベル【冒険者最高峰。】
七位、ミーシェ【有事の際のリリルカの後釜。】

番外、ソーマ
神酒の価値が非常に高いが人で無く神である為に評価外。人であったならナァーザより少し上に位置する。

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