ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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トイレの魔術師

 「身長は、っと。伸びてませんね。むしろ縮んでませんか?体重は………やはり大幅に増えていますね。筋肉量が増えたのが明らかとはいえこれは少しへこみますね。」

 

 リリ達は今現在アストレア本拠地の鍛練場にいます。今リリ達が何をしているかと言うと連合が新たに設けた人間ドックというものの試みです。

 人間ドックとは、別に言うのも怖じ憚れるような闇派閥による人間を犬にする計画だとか、人面犬の怪談だとかではありません。いわゆる健康診断です。今日は女性のみで行われています。

 

 リュー様もさっきまで体重計に乗っていらっしゃいました。今はミーシェ様と何か話して落ち込んでいらっしゃいます。理由は察することができますが高レベル冒険者はぶっちゃけ筋肉ダルマなので仕方ないと思いますけどね?

 リリは身長が縮んだ以外はだいたい数値が増えていました。成長していると言うことでしょう。

 

 「リリ、どうだったー?」

 

 シル様です。この人は連合に関係ないのになぜかいます。お仕事はよろしいのでしょうか?

 

 「シル様、身長が縮んだ以外はだいたい予想通りでした。」

 

 「身長って縮むものなの?」

 

 リ、リリがあまり考えたくなかったことを………。まあですよね。縮んだと考えるよりは以前からこのままだったと考えた方が自然ですよね。まあいいでしょう。

 

 「………それよりシル様は如何でしたか?」

 

 「胸回りが少し大きくなったかな。」

 

 このアマがああぁぁ!なんてうらやましいことをぉぉぉ!リリは、リリは、ええ。ほとんど変わりませんでしたよ。諦める以外になさそうですね。でもおかしいですよね?胸回りも筋肉が増えているはずなのに?

 

 「シル、リリルカさん、いかがでしたか?」

 

 リュー様もこちらにいらっしゃいました。体重計ショックから立ち直られたようです。

 

 「リュー久しぶり。えいっ。」

 

 シル様がリュー様の数値表を勝手に覗き込もうとしてらっしゃいます。リュー様は疾風の名に恥じない速度で逃げました。

 

 「な、何をするんですか、シル!?」

 

 「え~女同士なんだし別にいいじゃん。」

 

 「………申し訳ないがシルは誰かに言い触らさないとも限りません。」

 

 「リュー、ひどいよ!」

 

 残念ですがリリもリュー様と同意見です。シル様がリュー様の数字を売買している様子が目に浮かびます。アポロン様が狂喜する姿が目に浮かびます。明日にはアポロンファミリア刊行の週刊リューに詳細な数値が載せられているでしょう。でもそれが連合の貴重な財政源になると考えたらそれはそれでアリなのでしょうか?ああ、ダメでした。いずれにしろ週刊リューは毎号完売御礼でした。

 

 「リリ君、どうだったかい?」

 

 おっぱいお化け(ヘスティア様)もこちらにいらっしゃいました。この神普段ゴロゴロしてる癖にいやにスタイルがいいんですよね。胸の肉をこそぎ落としてくれましょうか?

 

 「リ、リリ君。どうしたんだい?いつもより目付きが怖くないかい?」

 

 「なんでもありませんヘスティア様。」

 

 「そ、それだったらキミはなぜ検診表をぐちゃぐちゃに握り潰しているんだい?」

 

 「………気のせいです。」

 

 「で、でも今持っているそれ………。」

 

 「闇派閥に殺された人間達の怨念です。」

 

 「え、えぇ~?」

 

 「ヘスティア様が呪われたくなければこれ以上口にしないことです。」

 

 「ハイ。」

 

 ようやくお化けが黙ってくれました。その大きいのだけでも目障りなんですよね。

 

 「リリお姉様~、いかがでしたか~?」

 

 ミーシェ様です。彼女はお化けと違って標準的なスタイルです。身長がリリにとっては少しうらやましいですが。

 

 「ミーシェ様。リリは体重が少し増えていました。」

 

 「お姉様はランクアップしましたし仕方ありませんよ。」

 

 「まあそうですよね。わかってはいるんですが複雑です。」

 

 「リリルカさん、やはりそうですよね。」

 

 リュー様です。シル様を追っ払ったようです。シル様はどちらに行かれたのでしょうか?

 

 「リュー様、シル様はどちらに行かれたのでしょうか?」

 

 「シルは仕事だと言ってました。リリルカさん、参考のためにリリルカさんの体重を教えていただけませんか?」

 

 リリも恥ずかしいんですけどね?まあリュー様なら仕方ないでしょう。

 

 「〇〇Kgです。」

 

 「………そうですか。」

 

 また落ち込んでらっしゃいます。これは相当ですね。レベル5なら仕方がないのでは?

 

 「リュー様、高レベルならあまり気にすることはないのでは?」

 

 「そ、それが………。」

 

 リュー様は辺りの人を見回します。内密な話と言うことでしょう。リリは気を利かせて隅へ行きます。

 

 「それが………同じレベルのはずのヴァレンシュタインさんやヒリュテさん姉妹よりずっと重かったんです。なぜでしょうか?」

 

 ああ、それはさすがにショックですね。でもなぜなんでしょうか?見た目は彼女たちとあまり変わらない細さなのに?もしかして種族が何か関係していたりするのでしょうか?

 

 「思い至る節はないのですか?」

 

 「………ないわけではありません。」

 

 「といいますと?」

 

 「ここ最近は食事の量が増えていた気がします。なぜかはわかりませんが。やはり減らすべきでしょうか?」

 

 食事量増加ですか。

 

 「しかしあまり気にする必要はないのでは?無理にダイエットしようとしなくてもリュー様はお綺麗ですよ?」

 

 「そうでしょうか?」

 

 「そうですよ。」

 

 ええ、あまり気にする必要はありません。

 

 「リュー君、どうだったかい?」

 

 来ました。空気が読めるとは思えないおっぱいお化けが。混ぜくらないといいんですが………。

 

 「へ、ヘスティア様。ヘスティア様の胸回りはどのくらいでしたか?」

 

 「うん?ボクは×××Cmだったよ。」

 

 「×××Cm………。体重はいかほどでしたか?」

 

 「恥ずかしいな。まあリュー君だしいいかな。△△Kgさ。」

 

 「さ、△△Kg!?私の☆分の一だ………。」

 

 リュー様が凄まじい落ち込み方をしてしまいました。やはりこのお化けは………。

 

 「リューさん、リリお姉様、どうしたんですか?」

 

 ミーシェ様まで来てしまいましたか。

 

 「リュー、リリちゃん、ミーシェちゃん、どうだった?」

 

 アストレア様です。この神一見普通ですが唐突に毒を吐くんですよね。今のリュー様にはあまりよろしくありませんね。

 

 「………今日はもうすぐお夕飯のお時間です。あとはお夕飯食べながらお話をしましょう。」

 

 カロン様のようないいわけです。しかしこれを通せれば会話に男共も混ざることになります。そうすれば何とかごまかしきれるでしょう。 

 

 「あら、確かにもうそんな時間ね。食堂に皆で向かいましょうか?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは食堂です。リリ達は今お夕飯をいただいてます。リュー様の食事量が少なく見えるのは気のせいということにしておきましょう。

 

 「お前達も夕飯か?」

 

 リリは失敗したのかも知れません。ここで一番会うべきではない、デリカシーをごみ箱に捨ててしまったとしか言えない変人(カロン)様に出会ってしまいました。カロン様は言動が読めません。しばしば笑いながら地雷源に突っ込んで行くような方です。どうにかリリにできるのでしょうか?

 

 「リューは今日は食べる量少ないな。」

 

 来ました。やはりというか何というかいきなりぶっこんできました。リュー様は固まってらっしゃいます。

 

 「………………そんなことはありません。」

 

 「いやいつもの半分以下だろう?」

 

 「………………気のせいです。」

 

 「いやどう見てもーーー

 

 「気のせいです。」

 

 「いやーーー

 

 「目の錯覚です。」

 

 「でーーー

 

 「闇派閥の仕業です。」

 

 カロン様はため息をつきます。

 

 「なあ、リュー。お前は連合の主力なんだから真面目に気をつけてくれよ。それとお前の体型は非常に美しい。なぜ食事量を減らしてるのかは知らんがあまり細かいことを気にしてくれるなよ?」

 

 おお!リリは感動しました。カロン様もご成長なさっているのですね!

 

 「………………減らしてません。」

 

 今日はリュー様の方が駄々っ子ですね。しかしこれ以上言っても意固地になるだけの気もしますね。

 

 「そうか、体調管理だけには気をつけてくれよ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 うう、お腹減った。無理に我慢するべきではなかったのか………?今から食堂に行っても何かあるとは思えない。私が間違っていたというのか?私が嘘をついてしまったのがいけなかったのかーーー?

 

 ーーーーーーコン、コン、コン

 

 「どうぞ。」

 

 こんな時間に私の部屋に誰が来たのでしょうか?

 

 「やあ、リュー君。」

 

 ヘスティア様です。何用でしょうか?私はほんの少しだけいらいらしています。

 

 「何ですか?」

 

 冷たい言い方になってしまいました。

 

 「ボクがこっそり隠し持っているお菓子を持ってきたよ。リュー君お腹空いてるんじゃないかと思ってさ。」

 

 私が全面的に悪かった。穀潰神とかおっぱいお化けとか言ってしまって申し訳ありませんでした。

 

 「女神様、あなたのお慈悲に感謝します。」

 

 「ボクはいつもキミ達のことを見てきたからね。これをあげるよ。」

 

 「ありがとうございます。でもヘスティア様の部屋は以前お菓子の屑を散らかしたときに隠し持たないように家捜しされたはずでは?」

 

 「こんなこともあろうとね。トイレに隠して置いたんだよ。」

 

 トイレに?お菓子を?この駄女神には常識とか衛生観念とか清潔感とかそういうものが存在しないのだろうか?


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