ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
オラリオの町並み歓楽街近く。ハラリと舞い散る落葉樹。オラリオは直に冬。木々は紅葉を過ぎて土色の葉がオラリオの町並みを物悲しく染めている、そんな秋の日。
俺はこの日街中の視察を行っていた。
そう、俺はこの時あることを忘れていた。忘れていたんだ。まさかこんな街中であんな死闘を繰り広げる事になるとはーーーーーー
◇◇◇
「ゲゲゲゲゲッ、久しぶりだね不死身。アンタ相変わらずいい男だね。」
会ってしまった。うん、会いたくなかった。どうしよう。
彼女の名前はフリュネ・ジャミール。オラリオの誇る世界で最も男を捜し求めている超絶肉食系な女性だ。レベル5のアマゾネスでイシュタルファミリアに所属している。
「お互いの幸せの為に会わなかったことにしないか?」
「アンタ何ふざけたことを抜かしてんだ。アンタちょっと付き合いなよ。最近欲求不満なんだよ。」
いや、お前いつも欲求不満だろうが。非常に面倒だ。こいつどうしたらいいんだろう?ふむ。
「アンタなんか言ったらどうなんだい?アタシら連合仲間なんだろ?」
また微妙に嫌なところをついて来やがる。はていったいどうしたものか。………まあ出たとこ勝負してみるか。失敗したら逃げるしかないな。
「俺の知り合いにお前にお似合いの男がいるぞ?」
「何の話をしてるんだい?」
俺にもわからん。なんかいきなりイケニエ宣言をしてしまった。ふむ、イケニエか。誰かいい男いるかな?ベルかベートは………さすがにかわいそうだな。ヘルメスはアリ、か?アポロンとかどうだろう?カヌゥもありか?あいつらリューが苦手にしていたし。しかし自分が助かるために連合の仲間を売るのはなぁ………。まぁやはり出たとこ勝負の続きかな。
「お前にお似合いの相手が今ダンジョンにいるぞ?」
「ダンジョン?馬鹿にしてんのかい?」
出鱈目にも程があるな。よりによって俺の口はダンジョンだと吐き出してしまったか。まあオラリオの仲間に押し付けるよりはマシなのか?
「ダンジョンで男を助けたらロマンスが生まれるんじゃないか?」
「そんなもん食えねぇだろうが!」
食えねぇってやはり性的な意味なのかな?それよりどうしよう。ダンジョンのいい男か………いっそガネーシャとか紹介してしまえば楽なんだろうが絶交される予感しかしない。さすがにそれもないな。
「待て、ちょうど今ダンジョンで強くてカッコイイ男がお前の助けを待っているんだ。」
「何の話をしてるんだい?」
うん。俺にもわからん。誰だそれは?俺の出任せはどこまで持つんだ?俺の口は次は一体何を吐き出すんだ?
「それは………。」
「それは………?」
「ゴライアスだ。」
「階層主じゃねぇか!」
うん。階層主だな。しかし口から出てしまった。これで通すしかない。
「確かにゴライアスは階層主だが逞しくてなかなかハンサムだぞ?男としての貫禄もある。何よりいつもロキファミリアとかに倒されてお前の助けを求めている。あいつは強いがさすがに数の暴力には勝てない。しかも倒しても蘇るほど生命力が強い。お前はあいつと愛を育むんだ!」
いや、どうすんだこれ?本当にゴライアスと愛を育んでしまったら階層主とこいつがタッグを組んで向かって来てしまうんじゃないか?討伐可能なのか?俺はロキファミリアとかフレイヤファミリアに恨まれたりするんじゃないか?それは困るな。しかしもう後に引けない、か。
「確かにゴライアスはそこそこ逞しくていい男だな………。」
なんか考え込んでしまった。ゴライアスは男というか雄なんだがまあ………いいか。今のうちに帰って忘れてしまおう。
◇◇◇
「おい、一体どういうことだい!」
なんか来た。どうしたと言うんだ?何が問題があったんだ?お前はゴライアスとよろしくやってるんじゃなかったのか?せっかくなかったことにできたかと安心していたのに………。
「何だ?どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもねぇ!ゴライアスが生まれてこねぇじゃねぇか!」
イケニエが生まれて来ない?どういうことだ?
「どういう事だ?生まれないだと?」
「ああ、何とかものにしようとしたんだが後少しってところでなぜか自分で魔石をえぐりやがった。一体どういうことだ?」
自分で?ふむ。ゴライアスも逃げ出したか。俺はゴライアスに強烈に恨まれてしまった可能性が高いな。あるいはもう生まれて来ないのかも知れないな。
「待て、まだゴライアスより強くてカッコイイ男もいるだろ!」
「誰だいそりゃ?」
「もちろん………。」
「もちろん………?」
まあ次のイケニエはあいつ以外にいないな。
「ウダイオスだ。」
「ウダイオスだと?」
「ああ、あいつは少し骨張っているが高身長でよく見るとハンサムな気もする。タキシードが似合いそうな伊達男かも知れない!お前のような包容力のある女性が好みのタイプなはずだ!あいつとお前はきっと相思相愛になれるハズだ!」
「なるほど………。」
◇◇◇
「おい、一体どういうことだい?」
まあ展開的にそうなるよな。
「何だ?どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもねぇ!ウダイオスが生まれてこねぇじゃねぇか!」
すごいなこいつ。もうこいつ一人で階層主すべて駆逐できるんじゃないか?ウダイオスは結構強かったハズなんだが?
「そうか、しかしお前にはまだいい男がいる。」
「誰だいそりゃ?」
ここで俺の脳内に電流が走る!この男を求めてさ迷いつづける無敵のモンスターの有効的な使い道ーーー
「ああ、確か闇派閥の奴らがお前の事を綺麗だと言ってたようなそうでもなかったような………。多分あいつらなんかすげぇ強くてイケメン揃いだという噂もあるハズだ。もうこれはあいつら以外にお前と釣り合う奴はいないかもしれない!」
「何だって!!」
◇◇◇
俺は団長室でお茶を啜りながらノンビリとミーシェと話をしていた。少し肌寒いが気持ちのいい昼、オラリオで昼を告げる鐘の音が鳴り響く。そろそろストーブが必要になって来るかな?
「大団長、今朝のガネーシャ広報読みましたか?」
「いや、何の話だ?」
「何でもオラリオ中の闇派閥がガネーシャファミリアに出頭したらしいですよ?化け物に襲われて刑務所の中の方がマシだって………。何があったんですかね?」
ふむ、なんか復讐を達成してしまったな。最初からこうしてればよかったな。