ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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カロン式交渉術

 ここはバベルの塔、ヘファイストス本拠地。連合ができてそれなりに期間がたった今。ソファーで向かい合うカロンとヘファイストス。わらうカロンに苦い顔のヘファイストス。

 

 「なあ、ヘファイストス。連合に入ってくれよ。」

 

 カロンはついにヘファイストスまで呼び捨てていた。

 

 「………あなた今日もまたきたの?」

 

 「ああ、最初は対等な同盟でいいからさ。」

 

 「対等なら一考の余地があるけどあなたいずれ私のところを吸収するつもりでしょう。」

 

 「ああ、そうだが?」

 

 「私にも暖簾に誇りがあるの。無理な話よ。」

 

 無理とは言うものの実は今やヘファイストスファミリア内においても連合は一つの大きな議題。連合は日増しに参入者を増やし、今や巨大な勢力となりつつあった。参入するか否かで幹部連中で散々な話し合いが持たれている。しかし相手に内情を悟られる気はないヘファイストス。

 だが恐ろしいことにカロンとチートリリルカは相手の内情をだいたい察している。そして今彼らは新たに鍛冶師の技能を持ったサポーター軍団を育て上げようと画策していた。

 

 「そういうなよ。無理なんてことはない。誇りでメシは食えねぇぜ。ウチの本拠地で話だけでも聞いていってくれよ。」

 

 「………あなたの本拠地に行って連合加入せずに帰ってきた神はいないとオラリオ中の噂よ?」

 

 「いいじゃないか。損をさせるつもりはないぞ。俺達は連合の安全を何より大切にしているぜ?」

 

 「でも私達鍛治師よ。」

 

 「連合に入ればゴブニュより優遇できるのかな?冒険者もそれなりに多いしなぁ。」

 

 相変わらず嫌らしい交渉。

 

 「私達はお金には困っていないわ。」

 

 「なるほどな。つまり預金は十分。後はたんす預金で老後を暮らす算段か。」

 

 「ろろろ老後!?たんす預金!?」

 

 「違うのか?俺達は連合のファミリアをどんどん増やす予定だぞ?」

 

 相変わらず汚い。ただの脅迫だ。

 

 「それは脅しかしら?」

 

 当然怒るヘファイストス。

 

 「まさか、客を減らすなんか言ってないよ。ただ先に言っておくと連合内でいろいろな融通を効かせるのは当たり前だからな。じゃないと意味ないだろ?」

 

 汚い。実に汚い。

 

 「早い者勝ちだと言いたいのかしら?」

 

 「話だけでも聞きに来ればいいだろ?気に入らなければ帰ればいいさ。」

 

 本拠地では色々チート、リリルカが待ち構えている。あり地獄以外の何物でもない。

 カロンが蜘蛛のように糸を張り、リリルカが相手を逃げ出さないように引きずり込む悪夢のスタイルだ。

 

 「あのねぇ、私達に何の得があるの?」

 

 「だから言ったろ?仕事が取れるし連合が可能な限りの身の安全を保障するさ。安全が買えるなら同盟参入くらい割安と思うがね。」

 

 そう聞かされると悪くない。連合が地道に力をつけているのは明白だ。

 

 「………。」

 

 「なあ、あんたら鍛治師だってダンジョンに潜らないわけじゃないだろ?ウチの貸しだしサポーターの評判知ってるだろ?ロキ御用達のさ。あいつら喜んでくれてるぜ?初心者の育成のアテがついたって。遠征も楽になったって。本部に来ればどのくらい損耗率が低下したか明確な数字を書いた資料を提出できるぜ?俺達が大切な盟友に貸出の便宜を計ってる事くらい知っているだろ?お前らが来てくれりゃさらに可能性が広がるんだよ。」

 

 ここに来てヘファイストスは考える。

 デメリットは?暖簾?金銭?詐欺?誇り?暖簾に関してはまあ交渉次第では問題なく残せるだろう。金銭に関してはたんす預金発言を認めるのは癪だがあまり大きな利益減がなければさほど問題はない。詐欺に関していえば先に入ったファミリアから特に文句も出ていない。よほど連合の頭脳が上手く折り合いをつけているのだろう。誇りで飯が食えないというのは昔からの慣用句のようなものだ。真理であって否定のしようもない。

 メリットは?確かにある。サポーターの融通をしてくれるのであれば眷属のランクアップに対して非常に心強い利点だ。ヘルメスファミリアが存在することはよりよい鍛冶の炉を作り出せる可能性も示唆している。

 しかし心情的には積極的に加入したくはない。長い間彼女が誇りを持って経営していたファミリアだ。されどファミリア内部に加入の声がそこそこ以上に大きいのもまた事実。

 悩むヘファイストスにカロンは畳みかける。

 

 「なあ、ヘファイストス。お前の神友は元気にやってるぜ?お前は何が不安なんだ?やっぱり老後か?ゴブニュの動向を見てからと考えてんのか?」

 

 職人は頑固だ。カロンはヘファイストスはゴブニュよりは与しやすいとみていた。

 

 「………ええそうよ。ゴブニュがあなたのところへ行くとも思えないから。」

 

 「じゃあ誘ってみるかな。もしかしたらゴブニュも参入に条件をつけるかも知れないな。ヘスティアをもらい受けた恩もあるからあんたのところへ先にきたんだがな。」

 

 嫌らしい交渉。ゴブニュの参入の為の条件、暗にライバルであるヘファイストスへの不利益を示している。しかし今まで実際には他ファミリアの不利益になるような条件をつけた前例はない。かもしれないだ。相手の不安を煽る実に嫌らしい手口である。挙げ句の果てには恩があるではなく恩もある。嘘ではない。むしろヘファイストスに先に来た最も大きな理由は楽な方を落としてゴブニュも芋づること。相手が神であろうとどこまでも不敬に笑うカロン。

 ここでまた考えるヘファイストス。ゴブニュを誘ってないということに嘘は付いていない。ゴブニュが甘言に惑わされることは?ないと思う。

 

 「なあ、あんた俺達が詐欺師だと思ってんのか?そんなところに神友をほうり込んだのか?それとも年寄りには時代の変化に付いていけないのか?」

 

 ごりごり揺さぶりにかかるカロン。

 

 「あなたの失礼さは留まるところを知らないわね。」

 

 「なあいっとくぞ。あんたら鍛治師は自分の仕事に自信を持っているのは理解するが、デメテルのような食料ファミリアがないと生き残れないしヘルメスのようなもの作りがなければ豊かさや便利さを享受できない。魔石を取れなきゃ炉は動かないし武がなければ身を守るのも覚束ない。そもそも材料がないと何もできない。いつまでも頑固だと老害としかいえないぜ?」

 

 「あなたたちだって武器がないと戦えないわ!」

 

 思わずムキになってしまうヘファイストス。相手を怒らせてカロンは上手く引き込めると思っているのか?

 しかしやはりカロンは笑いつづける。

 

 「そうだ。その通りだ。だから今よりよい関係を互いに作りあげよう。正義の旗の下で力を合わせるんだ。手を取れよヘファイストス。オラリオを変えるさ。老害だと判断される前に時代に乗れよ。俺達がお前らの道先を必ずよいものにするからさ。」

 

 「あなたはその性格で正義の御旗を振りかざすの………?ずるくないかしら?」

 

 呆れ果てるヘファイストス。

 

 「神が頼りにならないからしょうがないだろ?言ったもん勝ちさ!気に入らないならウチを乗っ取りにくりゃいいさ。連合内でお前らが俺達に勝って新たに正義を名乗りあげればいいだろう?」




カロン式交渉術、それはソーマのような意思が薄弱なところには自分で考えさせ論議可能なところとはとことんかちあう方法。相手によって手口を変える、すなわち普通の方法です。ただしつこさは一流です。ヤ○ザの地上げ屋みたいになってきたな………。
ちなみにサポーターに関しては今や大団長と呼ばれカリスマを持つカロンが奨め超絶チートリリルカが洗脳し有能な部隊を作り上げる悪夢のコンボです。新人教導において特に高い評価を得ています。

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