ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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アポロン陥落

 「だから俺達はリュー君が欲しいんだと言っているだろうが!」

 

 「話になりませんね。」

 

 ◇◇◇

 

 連合成立してからしばらく後、今日は俺とリューで仲良くオラリオ街中を歩いていた。

 今日はリューの武器の新調だ。リリルカがいらん気を効かせて俺達の休みを合わせたらしい。

 そこの諸君、デートとか勘違いをしてはいけない。例によって例のごとし、若干コミュ障のきらいのあるリューがせっかくだからついて来てくれと言い出したのだ。リリルカが俺達の休みを合わせたのは多分、一人で知らない店員と交渉するのが嫌なリューに言いくるめられたのではないかと俺は睨んでいる。

 

 「どこの店舗に行くんだ?」

 

 「バベルに行きます。」

 

 「お前いつもは武器はどうしていたんだ?専属とかはいないのか?」

 

 「あの悼ましい事件から親しい鍛治師とは疎遠になっていました。」

 

 リューはそういって目を臥せる。親しい人間に冷たく扱われたくはなかったのかも知れない。俺達はそれなりの間、タチの悪い奴らに狙われた、あまり関わるべきではない相手だと見られていた。

 

 「そうか………じゃあ新しい信頼できる鍛治師を見つけないとな。今まではどうしていたんだ?」

 

 「買い置きの短刀を複数部屋に置いていました。それなりの数を置いていたのですがさすがにもうほとんどありません。」

 

 「ああ、なるほどな。」

 

 「ちょっと、そこの君!」

 

 なんかリューに変な奴が話かけてきたな。俺の記憶が正しければこいつ確かアポロンだろ?なんかよくわからんアポロンファミリアの主神だな。隣には眷属が一人控えている。確か団長の………こいつ名前何だっけ?ヒ、何とかさんだ。出てこない。

 

 「何の用ですか?」

 

 「君はアストレアファミリアのリュー君だね?君には是非俺達のアポロンファミリアに来てほしい!」

 

 ?何だこいつ?連合からの引き抜きか?別にそれ自体は構わんが………なんというアホっぽさだろう?リューは連合の副団長だぞ?なんかそれ以上のメリットがお前に提示できるのか?

 

 「お断りします。」

 

 まあだよな。うーん、こいつはリューを引き抜くためにどう交渉していくんだろう?

 

 「君は俺達のアポロンファミリアに来るべきだ!君はとても美しい。君の美は俺に相応しい。俺は君を寵愛しよう。」

 

 何を言っとるんだこいつは?リューはそんなもの望んでもいないはずだぞ?頭にウジが湧いとるのか?せめてもっとマシな交渉はできんのか?もっと明確なメリットを提示するとか連合にない利点をあげるとか。そんな可愛がってやるからこいとか初対面の相手をいきなりペット扱いか?

 

 「お話になりません。お帰り下さい。」

 

 「なぜだ!?俺が特に目をかけてやるぞ?」

 

 ナゼもクソもないな。確かに話にならない。お前は勇者辺りに頭を下げて交渉の仕方を習って出直してこい。

 

 「しつこいですね。別にあなたに目をかけていただいても何の魅力も感じません。」

 

 「馬鹿な!そんなわけないだろう!」

 

 馬鹿はお前だ。

 

 「しつこいです。カロン、面倒ですしどうにかしていただけませんか?」

 

 面倒だな。俺もせっかくのお休みなんだが………連合本部に丸投げてしまおうか?

 

 「俺も面倒だぞ?仕方ないな。アホロンとやら、連合では改宗を行いたければ規約によって本部で話し合いがもたれることになっているぞ。取り敢えず本部に戻るとするか。」

 

 ◇◇◇

 

 ここは連合本部、アポロンとその眷属一人を連れた俺とリューは、リリルカとミーシェの二人組と鉢合わせをする。

 

 「カロン様、今日はリュー様の武器の新調ではございませんでしたか?」

 

 「うんそうだったんだがなんかこの変な奴と鉢合わせてな。なんかこいつリューを引き抜きたいらしい。」

 

 「おい、貴様!変な奴とは何事だ!」

 

 アホロンの金魚のフンみたいな奴が激昂している。つくづく面倒だが?

 

 「落ち着け、ヒュアキントス。俺達は優雅でなければならない。」

 

 ああそうか、ヒュアキントスか。ところで優雅だと?臍が茶を沸かすな。こいつはあんなにアホな交渉を行っといて何を言っとるんだ?

 

 「カロン様、せっかくですしリリ達にこのお客様をいただけますか?ミーシェ様に交渉のやり方を教えます。」

 

 リリルカがコソッと俺の耳元でアホロンに聞こえないようにそう囁いて来る。

 

 「そうか。じゃあリリルカに任せてみようかな。俺は念のための護衛に付き添おうか?」

 

 「カロン様はお休みなのではないですか?」

 

 「でも今本部に詰めている高レベルは万能者くらいだろ?念のためだよ。」

 

 「………そうですか。ありがとうございます。それでは会議室に向かいましょうか。」

 

 ◇◇◇

 

 連合大会議室。ソファーに座って向かい合うリリルカとミーシェ組とアホロンとヒュアキントス組、俺とリューはリリルカ達の後ろで立って見守る。今ここで戦いが始まる。

 

 やはり先制はリリルカ。

 

 「アポロン様、リュー様を引き抜きたいそうですが本人の意志確認と引き抜き条件はどのようになっていますか?」

 

 「なぜそんなことをお前に話さないといけないんだ!?」

 

 うん、やはりビックリするほどアホだな。お前は初っ端からそんなに高圧的にでて引き抜ける公算があるのか?

 

 「リュー様は連合の貴重な財産で連合との仲も非常に良好です。連合では本人の意志を無視しての改宗は行いません。そして私は連合の実務最高責任者です。私には連合に携わるすべての方々の動向に責任がございます。」

 

 ………また一人称が変わっている。挙げ句になんか交渉に貫禄が出てきているぞ?

 アホロンは幼い見た目のリリルカの豹変に困惑している。

 

 「そ、それはだな………リュー君が我々のところに来れば幸せになれるはずだからだ。」

 

 「意味がわかりませんね。連合では虚言を吐いた相手は信用できない取引先だと見なします。リュー様はすぐそこにいらっしゃいますよ?もう一度だけ聞きます。我々はリュー様の意志確認と引き抜き条件を聞いております。どのようになっていますか?」

 

 リリルカのさすがの貫禄。威圧感すら醸し出している。たじたじするアホロン。

 

 「………断られた。」

 

 「でしたらあきらめて下さい。お引き取り下さい。」

 

 「しかし、俺はリュー君が欲しいんだ!」

 

 「それでしたら連合に加入してはいかがですか?」

 

 「貴様らの下につけということか!ふざけるな!」

 

 「ふざけてはいませんよ。ふざけているのはアポロン様、あなた様の方です。これを確認していただけますか?」

 

 リリルカはそういって表を提出する。

 

 「なんだこれは!?」

 

 「連合の冒険者戦力表と全体所属人数です。連合の規模を表します。あなた様はこの規模の相手と交渉してるんですよ?自身のファミリアの規模と照らし合わせてみてください。どちらが強く出れるのか一目瞭然ですよ?それにあなたが交渉なさっているリュー様はレベル5です。オラリオでレベル5がどれほどの価値を持つかわからないとは言わせませんよ?そんな温い交渉で引き抜けるわけがないでしょう。話にならないのでお帰り下さい。」

 

 「そ、それでも俺はリュー君が欲しいんだ!俺はリュー君を愛しているんだ。」

 

 「ずいぶんと安い愛だと思いますが………まあ仮にそうだとしてアポロン様、愛とは何ですか?」

 

 「愛はすべてに勝る高潔なものだ!」

 

 「アポロン様のそれは所有欲以外の何物でもありませんよ?本当に愛しているならリュー様の幸せを願ってあきらめて下さい。リュー様になんらメリットを提示できてるとは思えません。………というよりもアポロン様、やはり連合に参入してはいかがですか?」

 

 「なんだと?なぜだ!?」

 

 「愛には歩み寄りも時には必要です。連合に参入すれば少なくともリュー様の身近にいられますよ?リュー様を陰ながら思っていればもしかしたらいつかは思いが届くかも知れませんよ?それに苦労して手に入れたら思いもひとしおですよ?」

 

 リリルカも結構えげつなくなっているな。リューを餌にしだしたか。リューは隣で複雑な表情をしている。

 

 「い、いや!しかし!」

 

 「アポロン様、あなたにとれる選択肢は二つです。リュー様をきっぱりと諦めるか連合に参入していつかは振り向いてくれることを願って近くでしぶとくアプローチを続けるか。」

 

 ミーシェがものすごいウットリとした顔でリリルカを見ている。リリルカは追撃をかける。

 

 「さて、これから連合の参入規約をご確認いただきます。利点等も書いた紙を読み上げますので理解が難しいところ等は随時お聞き下さい。」

 

 ◇◇◇

 

 あのあと、アホロンはあっさりと連合に参入することを決めていた。リリルカのやり方は俺と同等以上にえげつない。

 

 アポロンはアホのくせにプライドが高い。アポロンの人となりを即座に見抜いたリリルカは説明の際にわざとわかりにくいように説明を行った。理解が難しいのだがアポロンはプライドが高くて、わかりませんなどとは言えない。特にリリルカは見た目が若く、眷属の前で口が裂けてもわからないとは言えなかったのだろう。

 

 そして一通り説明した後で、これだけあなた様に得があるのに参入しないわけはありませんよね、とこうきたもんだ。

 

 結果アポロンは全く理解していないにも関わらず、わかっているフリをするために頷いてしまったわけだ。挙げ句の果てには即座に契約書類を作り上げ、やっぱりあれは無しでは通じない状況へと仕立て上げた。アポロンはよくわからないうちに連合参入の書類にサインをしていた。ヒュアキントスは止めようとしていたがプライドの高いアポロンは問題ないの一点張り。眷属に見栄を張ってしまっていた。やはりあいつはアホロン呼ばわりで十分だな。

 

 「おいおい、リリルカ。お前の交渉俺よりえげつないな?」

 

 「カロン様がおっしゃってましたよ?時間をもらえるなら互いにいい落としどころを見つけると。連合は大きくなるしアポロン様はリュー様の近くにいれるしいいことづくめですよ?」

 

 ………リリルカに俺の超理論が移ってしまった。

 そして今までは黙っていたリューが顔をあげる。

 

 「カロン、私にも交渉の仕方を教えてください。」

 

 「おいおい、何言ってるんだ?今からヘファイストスのところに武器を買いに行くんじゃなかったのか?」

 

 「ああ、そういえばそうでした。」

 

 リューは顔をあげて頷く。忘れていたのか。しっかりしろよ?

 

 「そうですよ?せっかくリリがお休みを合わせて差し上げたのですから。」

 

 やはりリリルカの仕業だったか………

 

 「じゃあバベルに行くとするか。」

 

 そういって俺達は連合を出て二人でバベルへと向かう。そしてその道すがら。

 

 「買い物が終わったら交渉の仕方を教えてくださいね。」

 

 リューは期待に満ちた目で俺を見る。お前なぁ、交渉にもたくさんの苦労があるんだぞ?

 

 「お前に向いてるとは思えんが………」

 

 俺はジト目をリューにやる。

 

 「いいじゃないですか。私だってやればできるところを見せつけてあげます!」

 

 ………こいつは絶対に向いてない。

 

 「………人には向き不向きがあるぞ?」

 

 「それでもです。話し合いで味方を増やせるならよりスムーズに正義を為せることを私は学びました。私だって正義を目指してるんです。私もリリルカさんみたいになりたい!」

 

 「………リリルカはチートだぞ?アポロンは確かに温い相手で簡単に口説き落としていたが、普段の交渉はこんなに温くはないんだぞ?イザとなっても筋肉ではカタがつかんのだぞ?」

 

 「筋肉呼ばわりは止してください。」

 

 「お前には多分向いてないよ。取り敢えず教えるのは構わんが………まあお前は力わざで役に立ってるから別にいいだろ?」

 

 リューは俺を睨む。睨んでも現実は変わらんぞ?

 

 「お前分かってるのか?リリルカを見ただろう?連合ほどのお抱え交渉者は内心を表情に出してしまうような温い交渉では話にならんのだぞ?ムカついたら俺をすぐに睨んでいるようじゃとても無理だぞ?」

 

 俺がそういうとリューは慌てて平静を取り繕う。ふむ、こういう反応はかわいいな。こいつは腹黒い交渉者より皆のアイドルの方が向いてるんじゃないか?




連合の冒険者戦力表はイシュタルファミリアが大きく力を底上げしています。見せ札です。

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