ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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大団長の鎧

 「ふむ、やはり今回もノルマに満たないか。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 連合成立してすぐ。最近カロンには一つ考えることがあった。連合冒険者の武器防具である。

 それなりに時期がたって、専属や自身のお気に入りの鍛治師を見つけたものはいい。そうでないものには連合と親しくしているヴェルフの武器防具をカロンは奨めるようにしていた。

 

 ーーしかしやはりもう少し本数がどうにかならんかな?

 

 カロンは考える。ヴェルフには自身の納得の行く出来でない武器は叩き折る癖があった。

 

 ーーしかしそれでもやはり高品質。叩き折った武器も店で買えばそれなりの金額がするはずなんだけどなぁ?しかし命を懸けるものに納得が行かない出来のものを出すわけにいかないというその言い分は理解が出来る。足りない分はやはりいつものようにへファイストスとゴブニュから買うしかないか。

 

 「おーい、リリルカ!」

 

 「何でしょうか。」

 

 よって来るリリルカ。発注書を見て用件を一目で理解するリリルカ。

 

 「その件でしたらすでにミーシェ様が向かってますよ。リュー様を連れて。」

 

 今やミーシェもオラリオの要人である。彼女も外で用事をこなす際は用心棒を連れていた。

 

 「お前のその用件を即座に理解する頭脳は相変わらずチートだな。」

 

 ◇◇◇

 

 バベルの塔へファイストス店舗フロア。カロンは何となしに足が向いていた。

 

 ーーうーん来てしまった。どうしよう。ヴェルフに久々に会いに行くかね。

 

 カロンの友人ヴェルフ・クロッゾ。今や連合お抱えとしてオラリオからそこそこの羨望の眼差しを受けていた。生活は安泰、仕事にも誇りを持って打ち込んでいる。一部の鍛治師は彼を連合の狗と呼んでいたがほとんどのものがそれをやっかみでしかないと感じていた。

 

 「変人、久々にあったな!」

 

 ーー?うーん、こいつは確か………

 

 しばし惚けるカロン。

 

 「なっっ。手前のことを忘れたと申すのか?あんなことを手前にしておいて………。」

 

 「?ああ、思い出した。でかい小学生か。元気にしてたみたいだな。」

 

 「でかい小学生だと!ぐぬぬ、お主は相変わらず失礼な奴だな!」

 

 「お前だって失礼だろ?いきなり変人呼ばわりだし。そもそも俺はお前になんかした覚えはないぞ?」

 

 彼女の名前は椿・コルブラント、へファイストスファミリアの高名な鍛治師。特に意味もなく謎のイベントを誰かが思いついてしまったためおかしなキャラになってしまった不憫枠である。

 

 「変人、お主はなぜ手前の防具を買いに来ないのだ!以前割り引くと言っただろう!」

 

 「お前の防具が高すぎるんだよ。俺には金がないんだ。」

 

 「嘘つけ!大団長とか呼ばれている癖に!!」

 

 金がないのは事実であった。タケミカヅチの為に金を貸しているのだ。連合成立からまだそこまで時間が経っていない今、カロンは立場の割には貧者であった。

 

 「いやマジだぞ。まだしばらくは遠征のことなど考えられんくらいには金がない。連合の金はまずは下のものの最低限の環境を整える為に使っている。」

 

 事実である。環境を整え入団者を増やしていくことがまずは肝要だ。そこへとヴェルフが通り掛かる。

 

 「カロン、久しぶりだな。」

 

 「おお、ヴェルフか。」

 

 「ヴェル吉か。」

 

 「何だ椿もいたのか?何してるんだ?」

 

 「この変人に手前の防具を売り付ようとしていたところだ。」

 

 「はぁ?何言ってるんだ?カロンは金を持たないぜ?お前のバカ高い防具なんか買えるわけねぇだろ?」

 

 「ぬっっ。それは真であったのか………。」

 

 考え込む椿。腕を組んでどこまでも壮大だ。

 

 「ヴェルフ、やはりノルマ達成は厳しいか。」

 

 ヴェルフと話すカロン。

 

 「以前アンタにゃ言ったろ?満足の行かないものを出す気はねぇんだ。理解してくれただろ?」

 

 「確かに立派ではあるがなぁ………。」

 

 「なぁ、ヴェル吉、お主はなぜ連合のお抱えになったのだ?」

 

 椿のふとした疑問。

 

 「以前から付き合いがあったんだよ。俺の為に先行投資だって言って一緒にダンジョンに潜ってくれた仲なんだよ。」

 

 「先行投資………。」

 

 また考え込む椿。

 

 「まあ仕方ないか。お前の武器は品質の割には安くて中級者でも十分に耐えうるものだからな。折角会ったことだし今からどこかに食事でもどうだ?」

 

 ヴェルフを誘うカロン。

 

 「ああ、いいな。行くか!」

 

 「ま、待て!手前も連れていけ!」

 

 「?まあ構わんが。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 豊穣の女主人。三人で食事をするカロン達。

 

 「いつもスマンな。助かっている。」

 

 カロンの言葉。ヴェルフは下戸のカロンの為に彼に勝手に出されているエールを飲んであげていた。

 

 「いや、いつもエールの代金お前持ちだろ?俺は得してるだろ。お前が以前に言っていた互いにいい関係というやつじゃないか?」

 

 「違いないな。この店食事は非常に美味だしな。ヴェルフもわかってるな。」

 

 カロンとヴェルフは笑う。

 

 「互いにいい関係?どういうことだ?」

 

 椿の質問。

 

 「以前に俺とカロンの間でな。カロンが俺を鍛える代わりに俺が鍛治師としてカロンの役に立つ盟約だよ。」

 

 「それが互いにいい関係か。」

 

 また考え込む椿。

 

 「なあ、それは従来の専属鍛治師とは違う形なのか?」

 

 「うーん根本はかわってねぇな。ただ以前の関係より互いに融通を効かせているとは思うが。俺はカロンの命の為ではなくカロンのファミリアを護りたいという気持ちのために仕事をしてるんだよ。だからカロンの専属というわけではないかな。」

 

 「なるほど。」

 

 どこまでも考える椿。カロンは案外サマになってるなと思った。

 

 ーー先行投資か。連合はこのまま大きくなるのかも知れんな。変人は金に困っている………そして変人とヴェル吉には確かな信頼関係があり互いによい関係を築けているらしい。手前はどうするべきか………?金も名声も特に困ってはいない。しかしこの世に何も変わらないものなどあるのか?今の自分の立場に高をくくって構わないのか?手前の専属のガレスもいつかは引退する。鍛治師と冒険者の関係が変わりうるのか?先行投資、それは相手を信じれるかというのが最も大事になって来ると言っても過言ではない。変人の手腕は見事だった。こやつを信じるのも悪くないのかも知れないな。よし、決めた!

 

 「おい変人!」

 

 「何だ小学生?」

 

 「手前の鎧を格安で卸してやる!自信作だ。見に来い!」

 

 「何だ?急にどうしたんだ?」

 

 「何、大したことではないよ。大団長の金がなくて鎧が買えないではみっともないだろう!いずれお主らが大きくなったら融通を効かせてもらおうというただの下心だ!」

 

 「なんだ?小学生の癖に悪くない提案をするじゃないか?だが俺は本当に金がないぞ?」

 

 「構わんさ。何ならただでもいい。いずれ大きな貸しとして存分に絞りとってやるさ!」

 

 ほう、ただか。こいつ人間的にも案外ビッグだったんだな。


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