ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
ここはアストレア連合会議室。
今は大々的に八柱の合併を告知したすぐの時期。俺はここで万能者と二人で話をしていた。
「万能者、正直助かったよ。お前達が連合に来てくれたことは望外の幸福だ。もちろん他のファミリアもだが。お前の技能には期待しているよ。」
「まあそうでしょうね。あなたは私達が加入した理由も理解してるみたいですね。」
万能者達が連合参入した理由。ヘルメスファミリアは物を作る技能が高いファミリアだ。たくさんの魔導具を筆頭とした物を作り出している。しかしソーマ以上の酒を作れるわけではなくミアハ以上の薬を作れるわけではない。さらにデメテルよりも上手に農作物を作れる技術もない。それなら彼女達だけで物を売っていた方がよくないか?連合に加入する意味はないのか?
しかし、ソーマが酒を作る過程にヘルメスファミリアの技術を応用するとすれば話はかわる。ヘルメスファミリアは価値の高い技術者集団なのだ。
ヘルメスファミリアはソーマのよりよい酒瓶を作ることが可能で、ミアハの薬作成過程における手順短縮にアイデアを出すことが可能で、デメテルの農作物によりよい肥料を提供しうるファミリアなのだ。ヘルメスファミリアには技術があり、いくらでも可能性があり、それは様々な分野の専門家と組み合わせることで最大の効果を発揮しうると俺は考えている。連合で最も恩恵がでかくなる可能性を含んだファミリアだ。おそらく万能者も同じ意見なのだろう。
「私達だけでは机上の空論で終わるアイデアがいくらでも試しうるというのは私達にとっても非常に魅力的です。」
「まあそうだろうな。しかし現時点でのお前らの売上は十分だろ?やはりヒモ神様の御意向か?」
「ヒモ神様て………否定できないのが腹立たしいですね。」
俺達は笑った。
「ヘルメスを楽しそうと思わせた時点で俺の勝ちだったんだな。」
「まあそうなるんですかね。しかし私達にとってもデメテル様の加入は大きいです。私達が内情を調べていた時点では彼女達の名前は上がっていませんでした。彼女達の加入は噂のあの件ですか?」
「プライベートだから黙秘を貫かせてもらうよ。」
「さすがにそこまで口は軽くありませんか。」
デメテル達の噂。それは俺達がデメテル達に顔見せに行った年の話だ。彼女達のファミリアはその年三人程の眷属が闇派閥の犠牲となっていた。俺は彼女が悲しんでいることを承知の上で会いに行った。
俺の譲れない信念なんだ。いくら悲しかろうと傷をえぐる事になろうと、目の前で起こったことから目を逸らして対応を怠るとまた同じ事が繰り返されうる。俺の過去の経験談だ。だから俺はデメテルを悲しませることを承知の上で突っ込んだ話をした。その時点で俺達がデメテルに何も出来なくても俺達はいつでも待っている、暗にそういうメッセージを届けるために。そしてデメテルは闇派閥を幾人も撃退した俺達を自身のファミリアの防御策として選んでくれたのだろう。
「俺だって話すべきじゃないことは話さんさ。口が軽いのと口が悪いのは否定せんけど。」
「………正直に言うと少しだけショックでした。以前にあなたに私の英雄譚には英雄がいないと言われたことです。」
俺はその言葉の裏の万能者の思惑をさぐる。万能者は続けて語る。
「英雄譚は人々の夢の集大成のようなものだと思っています。」
「それで?」
「私はあなたたちの夢を否定しました。しかし夢を見ないのであれば人である必要があるのでしょうか?私は私の作ったものに仕事を奪われてしまうのではないでしょうか?」
「なんかそんなSF映画ありそうだな。まあそれはともかく夢は夢だ。現実を生きるので精一杯の人間もたくさんいる。夢ばかり見てたら現実に足元を掬われるだろ?」
「しかし………希望と言いましょうか。明日何をしたいという希望がないなら、いつかはこうしたいという希望がないなら、私達は何のために生きているのでしょうか?明日は良くなるのでしょうか?私達の技術はよりよいオラリオに貢献出来るのではないでしょうか?」
「前に会ったときよりずいぶんロマンチックだな?目標ではいかんのか?お前達はいつも売上
「できることをできる限りしているだけです。夢のためにめくら滅法に歩き出すことは確かに褒められないでしょう。しかし夢を持つこと自体を否定するのはどうなのか、夢と目標の明確な定義の差はどこにあるのか?私は………あの時自身が高レベル冒険者だと言うことを忘れていました。なにもかもを夢で叶うはずがないと諦めていたら冒険者はやってられません。何もダンジョンに向かうだけが冒険ではないでしょう。」
「ああ、そうか。」
俺は納得した。高レベル冒険者は幾度も死地を乗り越えて到達する。確か彼女のレベルは4だったハズだ。最低でも3回は死線を乗り越えているハズだ。叶うはずないと堅実に生きる人間に壁を乗り越える資格は与えられない。俺達の連合構想と自身のランクアップの経験を重ねて見ているのだろう。
「私がランクアップしたのは必死に戦ったからです。あなたたちも必死だったハズです。私にあなたの内心は窺い知れませんでしたが当時のアストレアが良くない状況だったのは覚えています。あなたはそれを良くするために必死だったんでしょう。出来るはずがないと諦めずに。そして必死に動いた先にあなたには道が見えていたんですね。」
「お前にはそう見えたのか?買い被りだぞ。俺はいつも行き当たりばったりだぞ?」
顔には出さなかったハズだがね。
「あなたの変人の噂に惑わされていました。あなたがただの変人ならソーマファミリアを改革したりイシュタル様を説得したり出来なかったでしょう。フレイヤ様と同盟しているあなた方がどうやってイシュタル様を説得したのかは想像つきませんが………高をくくって相手に出来るほどイシュタル様が温いとは思えません。」
ふーむまた微妙なところを突いてくるな。ソーマはリューとリリルカの手柄だし、イシュタルはまだどうするか先行きが不透明なんだがな。とりあえず口車には乗せたが。まあイシュタルはごまかしごまかし何とかするしかないんだよなぁ。相互利益についても不透明だし。リリルカと相談してやっていくしかないか。
「イシュタルはどこかの高飛車と同じで俺の魅力に惚れ込んだんだ。どっちも多分意外と尽くすタイプだな。」
「誰の話ですか。」
ジトッとした目の万能者。なるほど。ヒモ神はこの視線に快感を覚えているわけだな。悪くない。
「お前以外に誰かいるのか?」
「面倒な男ですね。ヘルメス様並に。」
「しかしお前はヘルメスと長くよろしくやってるだろう。オラリオ一のダメ男製造機を目指せばいいんじゃないか?俺だって飼われる準備は万端だぞ?」
「この男は………。ハァ、まあいいです。以前にあなたの夢を馬鹿にしたのは詫びましょう。これからよろしくお願いしますね。」
「お前には期待してるぞ、あらゆる物作りに万能なる優秀な手先よ。俺を楽にするために馬車馬の如く働くのだ!」
「なんか早くも脱退したくなってきましたね。」
「いやよいやよも好きのうち。ヘルメスを見限る気のないお前に連合は見限れんさ。」
「………………リリルカさんと話をすればよかった。」
おまけは時系列がぐちゃぐちゃです。なんかごめんなさい。
それとカロンはどこまででもタヌキです。