ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
偽最終話!~英雄はいつだって笑顔で帰ってくる~
この日、オラリオに恐怖が訪れていた。蓋をしたはずのダンジョン、しかし魔物達がせきを切ったように4ヶ所から溢れ出したとの報がオラリオを駆け巡る。
人々は恐怖して逃げ惑う。混乱し右往左往する人々を救うために現れる高レベル冒険者達。人々は安堵する。
そして魔物本隊に対応するのは6人のオラリオが誇る英雄達。
北を受け持つ【オラリオの父】アストレア連合ファミリア大団長、オラリオの守護者カロン。
東を受け持つ【猛者】フレイヤファミリア団長、個人において最強と名高いオッタル。
西を受け持つ【剣姫】ロキファミリア団長、指揮者としての頭角をついに顕したアイズ・ヴァレンシュタイン。
南を受け持つ【英雄卵】アストレア連合ヘスティアファミリア団長、カロンの秘蔵っ子として名高い次代を担う英雄ベル・クラネル。
自在の遊撃を受け持つ【聖なる風】アストレア連合ファミリア副団長、オラリオお嫁さんにしたい不動のNo.1リュー・リオン。
戦局を見極め的確な指示を出す【王の助言者】アストレア連合ファミリア本部統括役、至高の教育者であり最高のサポーターでもあるリリルカ・アーデ。
オラリオは喝采する。
◇◇◇
「カロン、お疲れ様です。」
「ああ、遠征前にこういうのは勘弁してほしいな。」
「そうですね。リリも明日の準備をしなくてはいけません。」
アストレア本拠地応接間。ここにいるのはいつもの三人。
アストレアとヘスティアは遠征前の緊張を慮ってここにはいない。ミーシェも書類業務を行っていることだろう。
オリキャラのミーシェは今やリリルカと同等の有能さになり、連合にバリバリ指示を出していた。将来アスフィさんみたいになりそう。
「それでは明日に疲れを残さないようにせんとな。もう寝るとするか。」
◇◇◇
「ぐわああぁぁぁぁっ。」
「カロン!!」
「「「団長っっ!!」」」
◇◇◇
この日アストレア連合ファミリアは迷宮の深部にて紫の竜王と出会った。竜王は黒竜直系の眷属であった。竜王は死ぬ直前に魂を溶かすブレスを放つ。カロンはベルをかばい直撃する。それは汚れを禊うスキルを持ってしても防げない神々の呪いと同質のものであった。団長を落とされた連合は撤退を決心し、彼らは命からがら地上に戻ってきた。
ブレスの直撃したカロンは魂を融かされそのステータスのほとんどを吹き飛ばされることとなった。カロンは事実上引退を余儀なくされる。
黒と白のスキルは融けて混ざり合い、彼の背中には僅かに神血の残滓が遺っていた。それは誰も知らない遠い昔の幸せを願う祈りーーー
【灰の英雄】
・たとえ世界が灰色の景色でも鮮やかに色付かせることが可能な才能。
・英雄はいつだって笑顔で家族の所へ帰ってくる。
◇◇◇
今日はアストレア連合ファミリア大団長、カロンさんの引退式だ。彼が引退して次代の大団長に僕が選ばれることになってしまった。アストレア連合ファミリアもヘスティア連合ファミリアに改名をする。次の時代はヘスティア様に任せるとアストレア様も笑っておっしゃっていた。まだ戦えるはずのリューさんもいるんだけどいいのかなぁ??
「ベルか。ファミリアの未来はお前にかかっている。後は任せたぞ。」
大団長カロンさん。僕がヘスティア様に拾われてからずっと目をかけてくれた。僕なんかに務まるのかなぁ?
でもカロンさんはどこまでも明るく笑う。
「お前は幹部会議で選ばれたんだ。心配するな!リリルカのサポートもあるし大丈夫だ。あいつはありえんくらいに有能だしミーシェもいる。ヘスティアだけはいまだにしゃきっとしないが………。」
苦虫をかみつぶしたようなカロンさん。
「ヘスティア様は僕のことをいつも考えてくれますっ!」
僕は急いでフォローする。しゃきっとしないという言葉を否定できないのは辛いところだ。
「でもそれで仕事のトイレ掃除を忘れるようじゃなぁ。あいつ他に何かしとるのか?」
ヘスティア様はオラリオのトイレ掃除の神様として有名だ。確かにファミリア内では他にはステータス更新しかしていない。
「まあ俺はもうステータスないし行くぞ。老兵死なずただ去るのみか。ついに護られる側になってしまったなぁ。」
カロンさん、まだ老兵という歳でもないはずなんだけどなぁ。
◇◇◇
「引退式お疲れ様です。」
「ああ、ありがとう。」
カロンと私の二人きり。
この団長室に来るのが今日で最後と思うと物悲しい。ここ数年私達は忙しかった。楽しいことや悲しいこと等たくさんの思い出が詰まった部屋だ。
「あなたはこれからどうするんですか?大団長ならば引退しても引く手数多でしょう。」
私はカロンにそう質問をする。
「アストレアのどこかの育成施設ででも働かせてもらいたいな。アストレアの経営している孤児院なんかも悪くないな。」
「確かに悪くないですね。私もついていきます。」
「なんでだよ。お前はまだ冒険者だろう?ステータスは健在だろ?」
「以前に言ったでしょう、あなたに人生全BETしたって。」
私は笑った。
「おいおい、そこまでの面倒事は聞いてないぞ?お前こそ詐欺師じゃないか!」
「契約書を隅々まで読まないあなたがいけません。それにあなたは今やオラリオの要人なんだから護衛の一人くらいは必要でしょう。それと詐欺師とは何事ですか?今や私はオラリオで広く導きの聖女と呼ばれてるのを知らないわけないでしょう?」
「木っ端図かしいこった。それと契約書なんぞもらっとらんぞ?お前はいつの間にそんなに切り返せるようになったんだ。」
彼も笑った。
彼の目は青い色。私の空色と違い海の色。永遠を幻視させるどこまでも広がるとても優しい碧。
「私はあなたに感謝していますよ。私は誰かに触れられるようになった。あなたとの特訓のおかげです。」
私が誰かに触れられるようになったのは長い時間を経てきっと私が心から誰かと共にあるのを許せるようになったからなのでしょう。あるいは信頼なのかも知れませんね。
「アレは痛かったなぁ。お前はなかなか成長せんで困ったものだった。冒険者としては一流なのだがな。」
私は彼の手にそっと私の手を重ねる。
「あなたが苦労してたとしてもその分私に触れていい思いをしたんだから我慢してください。」
「いやいやいや無茶苦茶言うなよ。俺はずっとお前より低レベルだったんだぞ?第一に特訓はお前が言い出したんだろうが!」
「多少のお茶目を許すのは男の度量ですよ。」
「お前それシルの真似だろう!第一お前のせいで何回本拠地の壁を補修したと思ってるんだ!」 終わり?
後はしばらくおまけという形で続ける予定です。おまけが切れたら本当の完結を迎えてしまいます。
補足としてカロンの黒いスキルはカロンに成長を促されたリリルカに、白いスキルはカロンに護られたリューにひっそりと引き継がれています。二ツ名はその暗示です。
ついでの補足で主人公はいずれ灰色が発現するはずの所を必要に迫られて分離したという設定です。
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