ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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追い詰められた闇派閥

 「お、おいどうすんだよ!?あいつらもう連合成立目前じゃねぇか!?」

 

 「やべぇよ。俺達ばれたら殺されちまうよ。」

 

 「マジかよ。変人のやることだと高をくくってたら………。」

 

 「もうヤバイ奴らに話が通じないのを覚悟でどうにかしてもらわないといけないんじゃねぇか?」

 

 「お、俺は嫌だぞ。あいつらのところに行くのは。殺されちまう。」

 

 「情けないことだな。闇が聞いてあきれるぜ。」

 

 そう、出ましたインフレーション。彼の名前はヴォルター。ハンニバルと同じくらいの大男だ。金髪に顔に大きな傷がある。大きな剣をしょっている。レベルは7くらいにしないと戦いになりません。

 彼は闇派閥でも一際恐れられていた。二ツ名は闇の王(キングオブダーク)。もう誰かはネーミングをまともに考える気が0である。いや、最初から0です。というよりいくらオリ敵でもこんなに好き放題してしまって構わないのだろうか?

 

 「テメエラ雑魚どもが死んでも俺には関係ないが連合を作られたらちと厄介だ。頭がアストレアなのもいただけねぇ。俺があいつらを闇へと葬ってやるよ。」

 

 つくづく闇派閥は馬鹿である。カロンも言っていたが戦力の逐次投入が愚策だという事を知らないのか?レベル7が聞いてあきれるものである。しかしーーー

 

 「ありがてぇ。これで俺達は助かるんだ!」

 

 「生き残れるぜ!」

 

 「よっしゃ!!」

 

 「これで勝つる!」

 

 「最高だぜ!」

 

 救い様のない馬鹿どもである。お前らも必死こいて戦え!!

 

 ーー馬鹿な奴らだ。これが終われば全員纏めて人体実験の材料にしてやる。

 

 ヴォルターは笑う。

 闇派閥は戦力の逐次投入だけではなくとらぬタヌキの皮算用も行うのだった………。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 レベル7?どうすんだ?オッタルさんと同格という事だろ?ほんとにどうすんだ?ノリで戦闘回を書き出すとろくなことにならんな。いや、ほんとにどうすんだ?

 誰かはもはや恒例となった戦闘回の後悔をしていた。

 

 ◇◇◇

 

 ダンジョン7階層。ここで鍛練を行うアストレア一同。彼らは連合結成を目前にして多忙になる前に皆でダンジョンで鍛練を行っていた。展開的に苦しい?ギャグの利点です。

 取り敢えず彼らは連合結成したらさらに忙しくなってしまうのでその前に皆で何とか時間を作って仲良くダンジョンに来ていたということでお願いします。

 

 ーー奴らの動向を追いはじめてから初のダンジョン探索だ。オラリオでの戦いにするとフレイヤやガネーシャ、ロキまで出てくるという話だ。ここで速攻でカタをつけるのが一番いいだろう。人数が多いのは少々ウゼェがまあ問題なかろう。厄介なのは疾風と不死身の二人だけだ。さっさとカタをつけるとするか。

 

 そう考えて物陰から現れるヴォルター。リューが真っ先にそれに気付く。

 

 「何者ですか!?そこで止まりなさい!」

 

 リューは初めて見る人物に警戒する。周りも一斉に敵を見る。即座にカロンの指示が飛ぶ。

 

 「リリルカっ、仲間を連れて上へ逃げろ!!リュー、恐らく敵だ!!警戒しろ!」

 

 即座の判断を下す。

 高レベル冒険者はある程度相手の強さを理解できる。リューとカロンが警戒したのは相手の強者の雰囲気。顔の広いカロンの知らない高レベル冒険者。最大限の警戒の対象である。カロンもリューも相手が自身より強いということを敏感に感じ取っていた。

 

 リリルカは即座に判断を下す。カロンの指示に速やかに従いレベルの低い冒険者を連れて上層へと向かう。

 しかしヴォルターに相手を逃がすつもりはない。レベルに頼った速度で弱者へと襲い来る。

 

 ーーガキャッ!!

 

 割り込むカロン。しかし敵の力に負けてそのまま壁へと突っ込むことになる。それに反応してリューは敵に突っ掛かる。しかしリューも敵にはじき飛ばされる。

 

 ーーこの状況では新人様方はリリが護るほかにありません!

 

 迫り来るヴォルターにリリルカは覚悟を即座に決める。

 

 「なっっっ!!」

 

 ヴォルターは驚く。

 狭い通路でゴライアスヘと変身するリリルカ。不動の巨人は地面に根付きレベル7の膂力をもっても剥がせない!!リリルカは殴られそれでも道を明け渡さない。大剣で斬られそれでも道を明け渡さない。リリルカはわらう。

 

 「リリルカぁぁぁーーーっっ!!」

 

 カロンとリューが追い付きヴォルターを引きはがし投げ飛ばす。リューは即座に手持ちのポーションをリリルカに飲ませ与える。リリルカの変身はすでに解けていた。

 

 「リリルカ、辛いだろうがあいつらを追って逃走をフォローしろ!!俺とリューはこの狭い通路で相手をしながらの撤退戦だ。俺がしんがりを受け持つ。リューは俺を盾にしながら相手をしろ!持久戦で有利な土俵で戦う。」

 

 リリルカはまだ痛む体に必死に鞭を打って逃げ出す。大剣を持ち襲い掛かるヴォルター。カロンは即座にスク○トをかける。大剣で斜め上から薙ぐヴォルター、盾でうまく軌道をずらしてカロンは受ける。リューはカロンの背後より相手の懐へ入る。攻撃、後の退避を狙うもーーー

 

 「リュー、ダメだ!退け!!」

 

 攻撃を取りやめるリュー。ヴォルターは膂力で返しの二撃目を放つ。前列のカロンはヴォルターが一撃目の最中にそっと手首を切り返すのを見ていた。

 盾で受けて吹き飛ばされるカロン、間一髪回避するリュー。

 

 ーーうーん、剣の扱いが上手いな。大剣は体の重心が著しく変わるはずだがな。さてどう戦うかな?

 

 相手の剣は一メートル半くらいの長さ、幅は十センチメートル弱の先細りの両刃。相当な重量があることは一目でわかる。

 

 カロンは即座に相手の剣を奪う方針を決める。

 ヴォルターはカロンへと追撃を行う。

 大剣をカロンへと突き刺しにかかる。カロンは敵の大剣を避けきれないと判断。笑いながら自分から刺さりに行く。

 大剣は鎧の上からカロンの腹部へと深々と突き刺さる。

 

 ーーどういうことだ?こいつ自分から刺さりに来やがった?馬鹿なのか?

 

 「痛いなあ。ああ、痛い。」

 

 しかしカロンは笑いやまない。口から血を流し両手で大剣とヴォルターの腕を掴む。不気味に思うヴォルター。ヴォルターを掴んでいた手を離しカロンは懐に手を入れる。

 

 ーー何だ?何をするつもりだ?切り札でも隠し持っているというのか?こいつの不死身の二ツ名………。マジだとでもいうのか?まさか自爆か?

 

 爆発物を警戒し大剣を離し即座に離れるヴォルター。腹に深々と剣を突き立てられわらいつづけるカロン。

 

 「リュー、こいつ馬鹿だぜ?こんなにいいもの俺にプレゼントしてくれたぜ?」

 

 「理解しました。カロン。」

 

 長く共に戦うリューは即座にカロンの考えを理解する。カロンの馬鹿げたタフさを知るリューは一切躊躇わない。リューは大剣をカロンの体から引き抜いて速度を頼みに逃走する。

 

 ーーし、しまったっっ!!

 

 カロンの黒い思考誘導。ヴォルターの剣と手を掴んでから手だけを離すことによってヴォルターに剣は捕まれていると意識させる。まるで手を離さなければいけないかとでもいうような誘導。高レベルの力ずくで引き抜かれていたらカロンはほぼ負けが決まると思っていた。

 

 マヌケなヴォルター。ハッタリに嵌められる。即座にハイポーションを飲んで回復するカロン、やはり笑いながら挑発する。

 

 「つくづくマヌケなヤローだなあ。俺達の戦いを知らずに突っ掛かるなんてさ。リューは速度特化だぜ?ここは狭い通路で俺もいるし高レベルのお前でももうつかまえきらんよ。お前のマヌケさでずいぶんラクになった。感謝するよマヌケの王様に。」

 

 笑いながら舌を出すカロン。うろたえるヴォルター、カロンの脇をすり抜けようと試みる。

 

 「無駄だよアホンダラ!」

 

 足を引っかけ敵の手を掴み床へと投げ落とすカロン。すでに盾も手放している。

 

 「おいおい、もう追いつけねぇよ。馬鹿だねお前。脳みそ腐ってんだろ?リューが帰ってくればお前がいくら強かろうと二対一だ。お前の負けだよ?」

 

 床へとたたき付けたヴォルターをカロンは踏み抜きにかかる。ヴォルターはカロンの足を掴み壁へと体当たりをする。カロンは壁に埋まる。平然と出てくるカロン。

 

 ーーこんな馬鹿げた方法で剣を失うとは………。しかしこいつは4レベルのハズだ。俺が負けるハズはないがやたら硬いという話は聞いたことがある。もう剣は戻らないと考えるべきだ。いや、ほんとにどうしよう?普通に戦うべきか?まあ戦うべきか………。切り札はどうするか?できれば疾風と合わせて巻き込みたい。まだ温存すべきだ。

 

 ヴォルターは考えを纏める。しかし笑い止まないカロンに黒い鎖を植付けられる。

 

 黒い鎖は恐ろしいスキル。戦闘に於いて幾重にも連なる選択肢のここ1番で、結果として最も肝心なところで必ず選択を誤らせるというスキルである。ヴォルターは予想外の事態で即座に逃げ出すべきなのである。

 

 実際にかつて戦ったハンニバルもレンもバスカルも十分以上の勝ち目が存在した。しぶとく長期戦で戦っていれば勝ち得たのだ。しかし黒いスキルはハンニバルを散々に迷わせ、レンの忍耐を破り、バスカルに同士討ちの選択をとらせた。

 さらに黒いスキルはカロンの戦い方と恐ろしく相性がいい。カロンの戦い方は長期戦で相手の体力を削り行くもの。体力を削られた相手は疲労感から思考に迷いを許していく。迷う思考はさらなる疲労感へとつながる負のスパイラルを引き起こす。精神の強靭さが勝敗に直結するのである。

 

 ヴォルターは突っ掛かり殴りかかる。連続の拳打、しかしそれは彼の本来の戦い方とは程遠い。カロンは笑って受けつづける。

 カロンは拳打の一つを見極め受け流す。そのまま足をかけてヴォルターを床に転ばせる。

 

 「おいおい、強そうなツラしてドジっことはどういうことだ?何勝手に転んでんだ?マヌケさを前面に売り出してんのか?」

 

 挑発するカロンはすでにレベル7の拳を受けてボロボロである。しかし彼は挑発をやめない。

 

 ーーこんなに早く武器を奪えたのはツイてるな。さて、最低限の土俵には立てたがどうするかね?やはり武器無しでも強い。まさか7あるのか?猛者以外にも頂点近くに立てる奴が?こんなマヌケがか?意味がわからんな。生きるか死ぬかの戦いでこんなに簡単に武器を離すとはな。

 あと回復薬は二本。リューも確か二本持ってたハズだな。いやさっきリリルカに一つ使っていたか。さて、この条件でなんとかしないといかんね。

 

 カロンのスキルの最大の恐ろしさ。最も肝心なところで選択を誤らせる。そう、ヴォルターは百戦錬磨の強者である。武器を手放すなどと有り得ない。しかし黒いスキルは悪魔のように相手の心の隙間にそっと忍び寄るのである。一瞬の判断で武器を手放したヴォルターはその一瞬を黒いスキルで揺さぶられていたのだ。不死身の名を持つ相手の不気味な笑顔と言動と黒いスキルにあの瞬間のヴォルターは確かに心を揺さぶられていたのだ。

 

 カロンの黒いスキルと白いスキルはいつだって共に仲間を護りたいというカロンの強い願いに呼応して猛威を振るう。

 

 ヴォルターは尚も突っ掛かる。カロンを壁へと押し付け何度も何度も殴りつける。しかしカロンは笑いやまない。一つの拳を避けてそのままヴォルターに抱き着く。そのまま懐を再びまさぐるカロン。

 

 ーーハッタリが二回も効くと思うのか?

 

 ヴォルターは気にせずそのままカロンを引きはがす。しかし懐から目は離さない。

 

 ーーチッ。

 

 微かな物音に反応し即座にしゃがむヴォルター。後ろから短刀でリューが強襲していた。先ほどの動きは注意を逸らすためのもの。失敗したカロンは舌を出す。リューは避けられると同時にひらりと身を翻しカロンの傍に立つ。

 

 ーー戻って来やがったか。どうするか?切り札をここですぐに使うべきか?しかし疾風の奴は素早い………。避けられる可能性があるのか?

 

 ヴォルターの切り札は魔法の毒。彼の魔法は毒霧で相手を痺れさせることが可能である。しかし彼は使用に迷う。

 

 「カロン、武器は上に逃げる仲間達に渡して来ました。さあ、ゴキブリ退治の続きを行いましょうか?」

 

 「ああ、そうだな。マヌケに惚けるゴキブリにこの世からのご退場を願うことにするか。」

 

 二人はそう話ながらヴォルターと今一度向き合う。ヴォルターは対応に少し迷う。

 

 ーー戦うべきか………魔法を使用するか………。

 

 少し考えたヴォルターはカロン達へと突っ掛かる。盾を拾い攻撃を受けるカロン、カロンの後ろから短刀でフォローを行うリュー、戦いは少し形を変えていた。

 

 カロンの戦いは変幻自在。先程までは格上と一対一で相対していたため盾を手放していた。盾を手にしても亀のように縮こまることしかできないからである。そうなれば格上に押し潰される。しかしリューが帰ってきたとなれば話は別だ。カロンが亀になってもリューが攻撃を担当してくれる。

 

 ヴォルターの連続の拳打、カロンはいくつかを盾で受け流すがその一つを受けて吹き飛ばされる。ヴォルターはそのままリューに詰め寄る。しかしリューはカロンの方へと退避する。格上相手に盾役無しはあまりにも無謀だ。ヴォルターはリューを追うが即座に復帰したカロンに阻まれる。カロンを攻撃するヴォルター、力ずくで吹き飛ばすがモーションが大きくなりその隙をリューに狙い打たれる。かわし損ねて胸部を浅く斬られるヴォルター、そのままリューに攻撃を仕掛けようとするもやはりリューは逃げる。

 

 ーーカロンはさすがだ。硬い。相手は明らかに格上。仮に吹っ飛ばされてもしっかりと復帰してくれる。つくづく戦い易い。

 

 拳打を行うヴォルター、盾で受けるカロンはいくつかは耐えてもしばしば吹き飛ばされる。リューは相手の隙と硬直を見極めて二本の短刀で攻撃を加える。ヴォルターはいらついてリューを攻撃しにかかる。しかしリューとカロンの思惑は一致している。

 

 ーー敵の攻撃は全部俺(カロン)が受ける。自軍の攻撃はリュー(私)が引き受ける。

 

 逃げるリューに詰め寄るヴォルター、割り込むカロンのいたちごっこ。リューとカロンの連携は巧みでヴォルターにリューを攻撃させる隙を見せない。何よりカロンは共闘がうまかった。

 

 ヴォルターはリューに詰め寄る。リューはカロンを挟んで敵と相対する。カロンは笑いながらヴォルターを掴もうとする。ヴォルターはカロンを殴る。カロンは殴られながらヴォルターの腕を掴む。リューが短刀で切り付けそれを避けようとしたヴォルターの体の動きを利用してカロンが床へと投げ落とす。追撃のリュー、しかしヴォルターは短刀を避ける。避けたヴォルターをカロンは踏み付ける。しかしダメージは通らない。

 起き上がったヴォルターは再び攻撃にかかる。しかしヴォルターは拳での戦いなぞほとんどしたことがない!リューに突っ掛かるヴォルター、やはりリューはカロンを盾にする。ヴォルターは力ずくでカロンを押しやろうとする。カロンを殴るヴォルター、カロンは盾でヴォルターの拳をすらして受ける。体勢が崩れたヴォルターを短刀で突くリュー、ヴォルターは体を引いてかわそうとする。しかしカロンがヴォルターの視線を手の平で遮る。ヴォルターはリューの突きが見えなくなりさらに大きく後ろへ逃げようとする。その動きをカロンが大外刈で押し倒す。追撃のリューの短刀がヴォルターの腕に刺さる。

 

 ーー馬鹿げているだろ!なんでこのレベル差で俺はこいつらに対して明らかな優位に立てていないんだ!?何で俺は持久戦に巻き込まれてるんだ!?一体どうしてだ!何なんだこいつは!?

 

 ヴォルターの考えは切り札使用へと傾き始める。カロンは戦いながらやはり挑発を行う。

 

 「ああ、剣がないとたいしたことができないんです。僕はもう怖くて逃げ出したいんです。助けて下さい天におわしますゴキブリの神様よ。僕に逃げ出すための黒い羽を下さい。」

 

 そうしてまたペロリと舌を出すカロン、それに乗っかるリュー。

 

 「ああ、逃げたくてたまりません。相手が悪すぎました。もうすぐ叩き潰されてしまいます。今までの生を懺悔します。生まれてきてごめんなさい。」

 

 リューも一緒になってペロリと舌を出す。

 ヴォルターは敵の戦いづらさに手を焼き挑発にフラストレーションを溜め込む。

 

 ーークソが!!剣さえあれば!!

 

 戦いは未だ狭い通路。高さはカロンの身長より一メートル高いくらいしかなく横幅もせいぜい一メートル半と言ったところ。そこで三人は相変わらずクルクルクルクル動きつづける。

 ヴォルターがリューに殴りかかりカロンはそこに割り込み相手の腕を掴み背負いなげをしようとする。ヴォルターは力ずくでカロンの腕を引きはがす。しかしそこをカロンの後ろからリューが手を伸ばしヴォルターの腕を短刀で切り付ける。血を流すヴォルターしかし彼はカロンごとリューを吹き飛ばそうと体当たりをする。しかしカロンは体を自分から浮かせて体当たりを受け流す。リューはカロンを避けてヴォルターに斬りかかる。ヴォルターは頭から血を流して反撃をしようとする。しかし逃げるリュー、たいしたダメージを受けずに軽々復帰するカロン。ヴォルターはイライラが止まらない。

 

 ーーマジでこいつらやりづれぇっ!!こいつら何なんだホントに!!仕方ない、魔法を使用するしかねぇ!!

 

 即詠唱を唱えるヴォルター、毒の霧を口から吐き出す。しかしそれを見たカロンは笑いながらリューの前へと立つ。

 

 「リューっっ!!わかってるな!!」

 

 リューを護りながらカロンは毒の使用半径から遠ざかる。リューは即退避で毒から離れている。ヴォルターは先の人選が敗北した理由を悟る。

 

 ーーこのヤローマジかよ!?レアスキル持ちの噂は聞いていたがどういうことだよ!?俺の体の動きは鈍いし毒は効いてねぇ!馬鹿げている!!どうするか?ここで逃げて状況は好転するのか?こいつらまず警戒するだろ!?どうするんだ!?次の襲撃で確実に葬れるとも思えねぇ!?まだあと一枚札はある。切っちまっていいのか?こいつらの持久戦に付き合って勝ちきれねぇか?どうなんだ?相手に切り札は?相手の援軍は?なぜ俺は格下相手でこんなに追い詰められた思考をしてるんだ?クソっ!!なにもかもが剣を奪われたせいだ!

 

 その間にも戦いは続く。毒から逃げたリューに続くカロン、それをヴォルターは追いかける。

 カロンは受けの姿勢、リューも同じ、ヴォルターはカロンを力で殴りつける。正面から受けるカロン、壁へ吹き飛ばされる。リューはすでにカロンの近くに退避している。ヴォルターはリューへと向かっていく。リューはカロンの近く、ヴォルターはリューに殴りかかる。しかしヴォルターはカロンに足を捕まれる。横に気をとられヴォルターは拳をリューにかわされる。かわしたリューは短刀での反撃、カロンはヴォルターの避ける動きを利用して再びヴォルターの足に自身の足をかけて転ばせる。

 

 「そろそろ理解したかい?マヌケな坊ちゃん?どっちが狩られる側だってことを。」

 

 「そろそろ理解しましたか?マヌケな坊や?どっちが弱虫だってことを。」

 

 そろって笑うカロンとリュー、ここに来て二人の息は最高の合い方をしていた。

 

 ーー切り札を切るしかないな!!こいつらを地獄へ送ってやる!!

 

 ーーうーん体中が痛い、そろそろ撤退してくれんかなぁ?そろそろポーションが飲みたいんだがなぁ?

 

 ーー相手は格上。カロンはあとどのくらいもつのか!?

 

 三人の思惑。

 カロンは表情と内心が重なることは少ない。

 リューはカロンの内情を理解していない。

 ヴォルターはぶちギレる寸前。ヴォルターは切り札を切る。

 ヴォルターの切り札はやはり詠唱。高速詠唱であり並行詠唱でもある。無数の毒虫を召喚する魔法、しかしヴォルターも毒を受ける。早い段階でこの魔法を発現させていたヴォルターは自身を耐異常に寄せてカスタマイズしていた。

 

 ーー不死身の耐異常の高さはなんかのスキルかもしれんが疾風よりは俺の方が異常に強いハズだ。一対一になれば不死身のヤローも葬れる。先に確実に疾風を葬り去る!

 

 しかしヴォルターはここに至って未だカロンの戦術眼の高さを理解していない!

 

 「地の底でうごめく数限りない蟲の群れ、それは闇より出て黄泉へと還る宿命られた旅路の案内者。」

 

 ーー詠唱か。しかも高速詠唱で並行詠唱、さてはて?うんそうだ!!いいこと思いついた。

 

 「リューっっ、お前は退避だ。安全を確認してから戻って来い!!」

 

 これに驚いたのはヴォルターである。

 カロンは先ほどの毒が通っていない!!どうするんだ!?リューに逃げられたら最悪詠唱の意味がないだろう!?むしろマイナスじゃねぇか!!まさかこんなに早く退避させることを選択するとは!?魔法がどういうものかも理解していないはずなのに!!効果も範囲も知らんはずだろう!!

 

 ヴォルターの魔法は効果範囲が広い。故にヴォルターは発動してからでは逃げられないと思い込んでしまったのだ。しかし発動してから逃げられなくても詠唱し始めからだったら悠々と逃げられる。そしてカロンはリューを退避させる選択を取るのが恐ろしく早かった。

 

 カロンは恐ろしく用心深い。常に相手の切り札を警戒している。切り札は魔法かスキルかアイテムの可能性が高い。魔法なら詠唱、アイテムなら相手の動きに注目すればいい。スキルの多くは常時発動型であり、それ以外は後出しの対応以外は不可能だ。しかもステータス頼みの戦いを行う者はハッタリの効率的な使い方も理解していない。脳筋の相手はリューで十分にしている。

 

 カロンにとってヴォルターの魔法は効果も範囲も不明。辛うじてわかるのはもう一つの魔法が毒だったことだけ。これも毒系である確率はそこそこ高い、あくまでそれだけだ。そして敵の足止めが可能なのはカロンであり、どのような魔法でも二人巻き込まれるよりは一人で喰らう方がよい。挙げ句にどのような魔法でも喰らって生き残る確率はカロンが圧倒的に高い。敵は暴発を考えるとキャンセル不可。だったらリュー一人は逃がすのはカロンにとっては当たり前の選択である。

 

 馬鹿丸出しのヴォルター、先程から攻撃を受けるのはカロンのみである。リューに逃げられる可能性を考慮していなかった。今までの戦いの相手が逃走可能という選択肢を持っていなかったのである。短時間の足止めが可能な耐久特化と逃走に適した速度特化という組み合わせ上の理由でもある。これまで絶対強者でありつづけたツケが回る。彼がランクアップしてきた強者は知能の薄い怪物である。知恵を持つ相手でここまで持たせられることはほとんどなかった。そして今彼は詠唱をやめても暴発が待つのみである。

 

 逃げ出すリュー、詠唱しながらリューを追うヴォルター、ヴォルターを引き留めるカロン、戦いはどこへ向かうのか?誰かの見切り発車バトルはどう完結するのか?わかっているのは主人公が勝つんではないかということだけである。

 

 ーークソがっっ!!絶対に逃がすわけにはいかねぇ!

 

 場面は切り替わり行く。縋るカロンを必死で振り払いリューを追いかけるヴォルターは大広間へとたどり着く。後ろからカロンがヴォルターに掴みかかる。リューは大広間の外へさらに逃げる。

 

 ーークソっ!!もう撃たざるをえないか。

 

 「オーバーランッッ!!」

 

 ヴォルターは仕方なく魔法を放つ。地面より湧き出る無数の毒蟲、カロンは今がチャンスと笑いながらハイポーションを口に含んでいる。

 

 つくづくヴォルターは選択肢を間違えている。リューを追わずにカロンを攻撃していればカロンにポーションを飲ませる隙を与えることはなかった、それで勝ちきれるかは別問題ではあるが。しかしそれでもミスがミスを呼ぶ最悪のスパイラルである。そしてその始まりにはいつも黒いスキルが存在するのである。

 カロンは内心で助かったと思いながら表情には決して出さないわらい顔。

 

 「俺には毒は効かんよ?お前は自分の首を絞めただけだなぁ。ここまで取っといたのはマインドと自身の耐毒の問題だろ?」

 

 カロンはえげつなく嗤う。カロンの戦術眼は恐ろしく高い。

 マインドに関しては先の毒霧を多用しないのはこちらの魔法がでかいマインドを食うからだと即座に推測していた。マインドをさほど使うとも思えない毒霧を連発しない理由が他にないからだ。カロンに効かなくてもリューには十分な効果がある。

 耐毒に関しては何もわからないが当たっているなら相手の精神を揺さぶれるしそうでなくとも別にマイナスはない。

 事実ヴォルターは毒蟲の魔法は必殺で、そちらを鍛えるよりは精神以外の基本ステータスの底上げを優先していた。切り札は一枚で必殺だと。しかしそれは今は詮無きこと。どちらにしろカロンは毒に完璧に対処を行う。魔法スロットの二枚はすでに明かされてしまっている。それがカロンを相手にする際にどれほどのマイナスとなるのかをヴォルターは理解していない!!カロンは魔法の有効半径と規模を見てこれは敵の本物の切り札の可能性が高いと判断する。

 部屋を数限りなく埋め尽くす毒蟲、カロンに掴みかかるヴォルター。

 

 「おいおい、無駄だよ。お前にできるのは逃げ出すことだけだよ?ほらほらほら?」

 

 カロンを殴るヴォルター、カロンは嗤ってその腕を掴む。

 ヴォルターはここでもまたミスを犯す。

 

 ーーこいつ本当に毒が効かないのか?退避する気配を見せねぇ!俺がやられ損だ。チッ、部屋から退避するか。

 

 退避するヴォルター、それを見たカロンはヴォルターにも毒が効くことを理解する。カロンに理解させてしまう!

 逃げ腰なヴォルターの精神に黒い鎖は密接に絡み、動きが鈍ったヴォルターをカロンは掴んで蟲の群れへと投げ落とす。

 

 ーーし、しまった!!

 

 無数の蟲はヴォルターの体をはいずり回る。当然蟲は体に触れる面積が多いほどにより多くの毒が体へと回ることになる。そしてさらに足掻くヴォルターに押さえ付けようとするカロン、動けば動くほどヴォルターの状況は悪化する。ヴォルターの体に回り行く毒。やはりカロンは嗤いつづけて毒が効いている様子はない。

 

 ーー完全に選択ミスだ。こいつがこんなにヤバいスキル持ちだったとは………!クソッコイツを襲撃で殺しきれなかったツケが回って来るとは!?先の襲撃に参加して確実に葬っておくべきだった!!

 

 ヴォルターはここに来て撤退を選択する。先行きの見通しは?暗いと言わざるを得ない。しかし今ここで戦い続けて勝てるのか?疾風がいなくても?それでもヴォルターの体には毒が回っている。そのうち疾風も戻って来る。毒が回って二対一では勝ち目どころではない!先程までの戦いでも怪しかったというのに!!

 しかしやはりヴォルターの意思とは裏腹にヴォルターの体は敗北の恐れに縛られてろくに動かない。

 

 やはりどう考えてもチートタグは必要なのではないか?誰かがノリで適当に考えたスキルは言い訳のしようもなく「僕の考えた最強のスキル。」になっている気がする。というかどう考えてもなっている。まさかこんなことになるとはーーー誰かは予想外の展開に戦慄する。ちなみにタグはこの前付けました。

 

 そんな思惑とは裏腹に止むことなく襲い来る蟲の群れ、嗤いながら幾度も敵を踏み付けるカロン、上手く体が動かないヴォルター、どちらが悪役かわからない絵面である。

 

 ーー命はまだあるが………。やはり予想以上に毒を喰らってしまった。撤退しようとすると体が縛られたように動かなくなる。撤退を制限するスキルなのか………?しかし他のタイミングでも体の動きが悪くなりやがる………。まさか相手の精神に呼応して相手の行動を縛るスキルか?そんなものが存在するのか?毒が効かねぇことといいなんて強力なスキルを持ってやがるんだ!?コイツに手を出したのは間違いだった!!いや、そもそもアストレアを襲撃したこと自体が間違っていたのか?もう勝ち目はねぇ。こいつは悪魔だ。俺達は寝てる悪魔を起こしちまったんだ。ダンジョンで油断した奴は命を落とすことは定説だが………殺せる奴を殺せるときに殺しておかないとこうなるということかーーー

 

 体の動きが鈍いヴォルター、無傷で戻ってきたリュー。残りの万一の切り札を警戒して戦う二人。当然紛れは起きずヴォルターは自身の敗北を理解した。

 あっさり勝負は決着したーーー。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「カロン、大変だったな。あいつレベル7だったぞ。闇派閥でも特にタチが悪いことで知られている男だと思う。確認はまだ終わってないが。お前達はよく生きて帰って来てくれたな。」

 

 笑うガネーシャ。ここは当然のガネーシャ本拠地。カロンは瀕死のヴォルターを捕らえてガネーシャに引き渡す。いつもの結末だ。

 

 「7だったのか。しかしそいつ馬鹿だぞ?いきなり最初から武器を手放したぞ?アレがなければ俺達多分負けていたぞ。」

 

 「ええ、つくづくマヌケな男でした。戦いもその男が終始自滅した感じでしたし。」

 

 ついにリューも死体蹴りを行うようになる。

 

 「そうなのか?しかし連合成立も間近だろう?早く帰って休むといい。友の体の心配をあまりさせてくれるな。祝いの席が突然葬儀になるようなことになって欲しくない。」

 

 「ああそうだなガネーシャ。お前の言う通りだ。帰るか、リュー。夕飯が待っている。」

 

 「あなたはいつもお夕飯のことばかりですね。」

 

 「いいじゃないか。帰ってゆっくりしようか。」

 

 「ええ、そうですね。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「団長、お疲れ様でした。」

 

 これはブコル。彼らはあのあと急いでガネーシャの援軍を呼んでくれていた。

 

 「レベル7だと聞きましたよ!!よく勝てましたね!!」

 

 ミーシェだ。

 

 「相手がマヌケだっただけだよ。それより晩飯はできてるのか?」

 

 「いえ、それが………今日の当番のリリルカさんは怪我でものすごい疲労をしていて………まだできていません。先程ヘスティア様が買い出しに向かわれました。」

 

 これはベロニカだ。リリルカは部屋で寝かされていた。

 

 「ああそうか、当然致し方無しか。お前らはロキのところにたかりに行くか?俺の名前を出せば多分飯くらい出してくれると思うぞ?」

 

 俺は笑う。リリルカの看病は俺とリューとアストレアで行う。今は先にアストレアが看病を行っていた。命に別状がないのは心から安心をしていた。

 

 「いえ、さすがに団長ほど図々しくはなれません。それにリリルカさんに助けられた俺達もリリルカさんを置いていけるわけがありません。」

 

 バランのセリフ。失礼な奴だ。

 

 「じゃあリリルカが元気になったら豊穣の女主人だな。カンパ金から少しくらいの祝勝会流用はかまわんだろ?」

 

 「リリルカさんに聞いてもらわないと………。」

 

 ビスチェの言葉。

 

 「やはりリリルカか。リリルカ待ちか。ところでボーンズ、なんか一言しゃべるかい?」

 

 「俺はリリルカさんにたいしたことがなくて団長と副団長も無事に帰ってきてくれた事が何よりうれしいよ。」

 

 ボーンズはそう言う。

 

 「やはり今回もMVPはリリルカさんですね。つくづく素晴らしい人材を引き抜いたものです。」

 

 リューの金言。

 

 「違いないな。リリルカは俺達にとっての幸運の女神だな。買い出しに行くまで部屋で寝そべってお菓子を食ってたどっかの駄女神と違ってな。」




うんやはりチートですね。流れに沿って書いてみたらこうなってしまいました。
それと都合のいいようですが大火力魔法は自分も巻き込まれるため前衛の切り札にはなり得なそうだったので闇のイメージと併せて毒の切り札にしました。
ハイポーションはこれから長く共にやっていく予定のミアハファミリアからのプレゼントです。金をもらって薬を薄める必要のないナァーザは可能な限りよいものを作りプレゼントしました。リリルカが表のMVPでナァーザが影のMVPです。

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