ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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どこまでも魔改造リリルカ

 ここはロキファミリア応接室。今日の訪問はいつものようなアポなしではない正式なものだ。俺はここで勇者と対面していた。

 

 「久々だな勇者。そっちの調子はどうだい?」

 

 「なかなかだよ。キミのせいでベートに少し迷いが見られるけどね。」

 

 睨む勇者。カロン怖くない!

 

 「そういうなよ。最近は積極的な接触を控えてるんだからさ。」

 

 「相変わらずキミは腹芸が得意だな。控えてるんじゃなくて時間が取れないだけだろ?だいたいのことは知ってるよ。」

 

 「まあ、ようやくというべきか、光陰矢のごとしか………。最近はダンジョンに行く時間はなかなか取れないしリューは交渉が上達しないしで困ってるよ。」

 

 「だろうね。でも本格的に忙しくなるのは結成してからだよ。」

 

 「言うな………。はあぁ、今のところ対外交渉に使えそうなのリリルカとミーシェくらいなんだよな。一刻も早くミーシェをリリルカ並に育てないとな。リリルカに仕事を任せすぎてるな。リューは護衛かな。ああそうだ、本題を思い出した。」

 

 「忘れてたのかい?」

 

 「ああ、リリルカで思い出したよ。高練度サポーターの話だ。お試しでロキで使って見てくれないか?初回無料だ。」

 

 「ああ、それが本題か。前から言ってたね。」

 

 「どの程度の階層まで堪えられるのかの検証は行っている。お前らの反応とオラリオの反響次第で価格設定を行うつもりだ。」

 

 「しょうがないな。付き合いもあるしオラリオを席巻する予定の大団長に恩を売って損はないし、ね。」

 

 フィンはウィンクする。

 

 「男がやっても気持ち悪いぞ。そういうのはウチのリューやそっちのアイズとかがやらないと。」

 

 「違いないな。」

 

 俺達は笑った。 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ビスカ様、右側からの敵に注意してください。敵は膂力に優れています。受けたあとの衝撃に気をつけて下さい。ライナー様、敵をうまく引き連れてサラ様と連携して下さい。サラ様は時間稼ぎに専念して三匹を相手にして先にライナー様が一匹ずつ落として下さい。敵の尻尾には気をつけて下さい。」

 

 彼女はリリルカさん。魔改造リリルカ。アレ?今なんか変な電波が………。

 コホン。僕はフィン。僕たちはカロンに紹介されたリリルカさんの使用感レポートを行っていた。高練度サポーターのウリの項目には戦闘指示というものがあった。ダンジョン9階層で僕たちは今それを試していた。戦うのはまだ比較的時間の経っていないファミリアの仲間達。

 

 「リリルカさん、レベル2だという話を聞いたよ。戦闘に関して問題はなさそうだ。兼業サポーターをやらないのかい?」

 

 「リリとお呼び下さい勇者様。リリ達の指示出しは緊急時のみにしております。」

 

 「じゃあフィンと呼んでおくれよ。冒険者の矜持と成長を慮ってかい?」

 

 「………機密事項となっております。フィン様。」

 

 フィンは内心で感服していた。遠距離攻撃、近接戦闘サポート、状況判断、戦闘指示、冒険者の休憩補助、逃走補助、新人育成、通常のサポーター業務等カロンに渡されたレポートに記載された様々な見所の項目を試してみた結果、リリルカは全ての面に関して高評価な対応をして見せた。サポーターとして非常に魅力的で特に新人育成に関して全面的に任せられそうな有能さ。ラウルに爪の垢を煎じて飲ませるか本気で検討している。沈黙が金だと理解しているところも高ポイント。何が何でもファミリアに欲しい逸材だ。挙げ句にカロンに内密に聞き出した話だとなんらかの切り札も持っているらしい。目をキラキラさせて言ってた。口が軽い。リリルカを見習え。

 

 ーーこれなら間違いなく金が取れる。彼女が育てて責任を持つ人材であればそちらも期待が持てる。新人育成を見るからに彼女は教育者としての適性が非常に高い。おそらく彼女自身が弱者だったのだろう。あらゆる苦労した経験を糧としているのか………。あるいはそうしなければ生きていけなかったのか。しかしそれは考えても詮無いことか。確実なのはステータスとは別の、他者をサポートする能力が彼女は抜きん出ているということ。彼女自身が遠征の部隊にいなくとも、戦力が高くなおかつ彼女の薫陶を受けたサポーターが存在するのであればそれは強力なプラス材料となりうる。

 

 ーーその他にも後々は連合ファミリア内で異動を行い複数の薬師等の特別な技能を持ったスペシャルなサポーターを作り上げる計画らしい。成功したらまさしく革命だ。ロキファミリアにおいても稀有で価値の高いリーネのような薬師技能を持つサポーターが数多く居るとなれば非常な価値がある。さらにレベル2以上のサポーターを免許制度にして市場で貸しだし業務を行うとなればロキファミリアにとっても遠征の大きなプラス材料になりうる。そこからさらにレベルを上げて遠征のメインサポーターに使うとなるとまだ時間がかかるだろうが………。二軍のサポーターで使うにはすぐにでも可能だろう。

 

 ーー二軍のサポーターに使えると言うことは遠征のメインサポーターである二軍の損耗率が下がりうると言うこと。さらに二軍に彼女たちの仕事を見せれば二軍の人員のサポーター能力自体の向上にもつながりうる。レベル2以上は育てるのに時間がかかりその分価格はあげるらしいが………。しかし時間がかかっても彼女が教育するのであればいずれは………。そこまで育て上げきれなくても新人育成だけでも僕達の助けになりうる。彼女の育成の手腕を見せればロキファミリアの二軍の新人育成の底上げにも繋がる。

 

 ーーあるいはサポート能力に長けているということは自者と他者の能力の分析に長じているということか?他者の足りない点やサポートが欲しい点を理解するということは他者の長所と短所を見抜く慧眼から生みだされているということか?他者の分析が正確に可能ならばどうすればより効率よく成長させるかも理解しているということなのだろうか?ある意味で僕たちとは真逆の発想だ。使える人間を選別するのではなくどのような相手でも使える人間に育て上げる、ということか。それが彼女の真価か。いずれにしろ彼女達にはこちらから金を出してでも検証を行っていく価値は十分以上にある。

 

 フィンはカロンとリリルカの手腕に舌を巻いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 オラリオの夕暮れ。ダンジョンからの帰り道。今日はサポーター部隊に新人を任せうるのかの検証を行った帰り。

 

 「今日はありがとうリリさん。助かったよ。」

 

 「ご冗談を。いつもよりずっと浅い階層でしたよね。」

 

 「それに関しては否定しないよ。でも普段より疲労感が少なかったのは紛れのない事実だ。」

 

 「それがリリ達の仕事です。」

 

 僕は考えた。切り出すべきか。カロンは怒ったりはしないだろう。僕は喉から手が出るほど彼女が欲しかった。

 

 「………リリさん、キミは改宗を考えてみる気はないかい?」

 

 「ありませんよ。」

 

 「僕たちのファミリアに来れば僕たちはキミを重宝する。」

 

 「リリは今のファミリアでも重宝してもらってますよ?」

 

 「しかし、キミ達はことがなせれば忙しくなる。貸出のサポーターではトラブルだって起きかねない。君は若くして責任を負う立場になるはずだ!」

 

 「リリはすでに覚悟を済ませています。カロン様より対処に困る人間はいません。世界で一番疲れます。ぶっちぎりです。他に見たこと有りません。」

 

 「危険だ!」

 

 僕は思わず少し感情的になってしまう。

 

 「冒険者はいつだって危険ですよ?」

 

 「それは……それはそうだね。そうだ、僕がキミにロキファミリアに来てほしいんだ!」

 

 リリルカは笑う。切なくて、でも穏やかな笑顔。

 

 「フィン様、フィン様はオラリオで勇者と呼ばれていらっしゃいます。オラリオでたくさんの方をお守りになったのかもしれません。しかしリリは守られた人の中でいつだって虐げられてきました。リリを掬い上げたのはカロン様です。フィン様は皆様が知る英雄でいらっしゃるかも知れませんがカロン様は家族(ファミリア)です。カロン様は囚われの(リリ)を助けに来た家族を愛する英雄なんです。」

 

 リリルカはとても美しく笑った。

 

 「………そうか。」

 

 フィンは敗北を理解した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレアファミリア応接間。リリルカはミーシェに捕まっていた。リリルカはミーシェがあまり得意ではなかった。

 

 「リリお姉様、今日の探索はいかがでしたか?」

 

 「ミーシェ様、良い感触でした。それとリリのことは呼び捨てて下さい。」

 

 彼女らは互いを様付けしていた。

 

 「そんな、それではあたしのことも呼び捨てて下さい!あたしはいつだってリリお姉様をおしたいしております。」

 

 紅顔してリリルカに詰め寄るミーシェ。リリルカはそれを見てげんなりする。

 

 「ミーシェ様の相手はカロン様と同じくらい疲れます。フィン様に嘘をついてしまいました。」

 

 「嘘?何の話ですか?」

 

 「カロン様がぶっちぎりで世界で一番疲れると言ってしまいました。」

 

 「まあ、ですよね。でもなぜそんな話に?」

 

 「ロキ様のファミリアに勧誘されました。」

 

 「何ですって!!おのれ、私とお姉様の仲を引き裂く邪悪なファミリアめが!!ロキファミリアの本拠地を今から燃やしてきます!」




リリルカが教育者として適性が高いのには生まれ持ったもの以外にも実は一つの理由があります。
カロンに成長を促されつづけたリリルカに密かに黒いスキルが受け継がれているからです。黒いスキルには他者を成長させる効果もあるというあまりにもチートスキルです。

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