ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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逆襲の椿

 今はダンジョンからの帰り道。合併が成立すれば俺達は忙しくなる。

 空の色は茜色。夕暮れ時だ。今日は俺は忙しくなる前に新人達とリリルカを連れてダンジョンに潜っていた。

 

 「お前らもダンジョンにだいぶ慣れてきたな。」

 

 「はい。リリルカさんのお陰です。」

 

 ビスチェだ。明るく元気な子だ。

 

 「サポーターがこんなに奥深いとは思いませんでした。」

 

 ボーンズの返答だ。彼はサポーターに興味があるらしい。リリルカも楽しそうに教えていたのを覚えている。

 

 「そろそろ新しい階層に進んでみたいです。」

 

 お調子者ブコルの言葉だ。彼らはまだ浅い階層しか入っていない。

 

 「油断と過信はいけません!」

 

 リリルカはさすがにしっかりしている。

 

 「バランとベロニカはどこ行ったんだ?」

 

 「あいつらはバベルで安い武器を見に行くと言ってましたよ。」

 

 俺の質問にボーンズが答える。できてるのか?ちくしょう、リア充めが!

 

 「ふははははは、ついに見つけたぞ変人!」

 

 何か誰か割り込んできたな。見たことある奴だ。確か………。

 

 「お前は確かイシュタルのとこのーーー

 

 「違う!ヘファイストスファミリアの椿だ!」

 

 ああそうだ、確か椿だ。何の用だ?

 

 「お主に以前旅を進められただろう!お蔭さまでスランプを抜け出せたのでな!こうやってオラリオに舞い戻って来たのだ!」

 

 困惑するリリルカ+新人三人。

 

 「俺の所に来る前にヘファイストスに顔を見せに行ったのか?こないだヘファイストスに愚痴られたぞ?」

 

 「うむ、それが実は勝手に飛び出したてまえ主神様に顔を見せづらくてな。………ついて来てくれないか?」

 

 「小学生みたいなことを言う奴だな。どっちみち怒られるんだから一人で帰れよ。」

 

 「そういうな。他の人間より安く防具を作ってやるぞ?」

 

 「うーんでも俺が気に入って買うとは限らんだろ。」

 

 「手前はオラリオで少数のレベル5の鍛冶師ぞ!失礼な奴だな!」

 

 憤慨する椿。鍛冶師の誇りがあるらしい。

 

 「しかしレベルと鍛冶の技能に何か関係があるのか?」

 

 俺の疑問。みんなそう思わないのか?

 

 「レベルが上がれば発展技能の鍛冶を取れるようになる。他にも深い階層まで良い材料を取りに行ったりな!どうだ!」

 

 胸を張る椿。相変わらずビッグな奴だ。

 しかしどうしたものかね。別段邪険にする理由も無いが………。

 

 「しょうがない。リリルカ、変な小学生に纏われてしまったから皆を連れて先に帰っててくれるか?」

 

 「おい、待て。小学生とは手前のことか!?」

 

 「お前以外に誰がいるんだ?親が怖くて他人に付き添いを頼むのは小学生の所業だぞ?」

 

 「ぬぅ………。」

 

 言い返せない椿。お前はちゃんとヘルメスファミリアにバイクの賠償をしたのか?知り合いをガネーシャの憲兵に突き出したくはないぞ?

 

 「リリはカロン様が何をしでかすか心配ですのでリリも付き添います。」

 

 そういって三人を帰すリリルカ。

 

 「よし、じゃあバベルに向かうとするぞ。」

 

 「ま、待て。まだ心の準備ができておらんのだ。」

 

 どこまでも小学生椿。

 

 「じゃあ時間つぶしにどこかで話でもするか。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 豊穣の女主人。

 

 「お前いつまでこうしているつもりだ?時間をかけても余計気まずくなるだけだろ?」

 

 俺は呆れ返る。時間が経つにつれ勝手に頼んでもいないエールが出てくるんだぞ?これでもう三杯目だぞ?

 

 「ま、待て、もう少し。もう少しだけだ。」

 

 「リリはむしろ疑問です。カロン様は椿様に何をしたからこうなったのですか?」

 

 リリルカの疑問。

 

 「さっきも話したろ?スランプだって言うからいつもと違うことをしてみたらどうだとアドバイスしただけだぞ?」

 

 「しかしそれでしたらカロン様に付き添いを頼む理由にはなりませんよね?」

 

 「リリ、久しぶりー。カロンさんも良くいらっしゃいました。お待ちしてましたよ。」

 

 唐突に割り込んだシルの言葉だ。こいつ仕事しなくていいのか?何か勝手に席に座り込んで来たぞ?

 店主のミアを見ると特に問題無い様子。

 

 「シル様、お久しぶりです。」

 

 「リリ達は今日はどうしたの?新しい人もいるけどアストレアファミリアの新人さん?」

 

 「そうだ。」

 

 「おい、待て!」

 

 椿の待ったがかかる。リリルカはいつものことだと我関せず。

 

 「手前がいつアストレアファミリアに入団したというのだ!?」

 

 「うん、そういえば勧誘してなかったんだよな。入るか?」

 

 「入らん!」

 

 「何の話?」

 

 シルは首を傾げる。相変わらずぶりっ子ぶる奴だ。ついに四杯目のエールが出てきてしまった。まだ前のやつに口をつけてすらいないんだが?

 

 「椿様が理由があってファミリアに帰りづらいとおっしゃられているのですよ。」

 

 まともなリリルカ。

 

 「だからもういっそアストレアに改宗してしまえばいいんじゃないか?そしたらヘファイストスに怒られずに済むぞ。」

 

 俺のその言葉に衝撃を受けたように考え込む椿。

 

 「椿様、きちんと考えて下さい。ヘファイストス様が悲しまれますよ?」

 

 裏切り者リリルカ。

 

 「大丈夫ですよ。ヘファイストス様はきっと椿さんのことを待ってらっしゃいますよ。」

 

 根拠のない妄言を吐くシル。

 

 「いいや、きっとヘファイストスは今頃椿のことを忘れているのではないか?諦めてアストレアに来るべきだな。」

 

 揺さぶってみる俺。ヴェルフと別にしても優秀な鍛冶師はファミリアに欲しい人材だ。道具がなくて鍛冶ができなかったとしてもレベル5らしいし。

 

 「カロン様!やめてください!」

 

 「そうですよ、言っていいことと悪いことがありますよ!」

 

 ファミリアの良心と聖女に非難されてしまった。

 

 「ウグ、ヒック、主神様ぁ………。」

 

 泣き出す椿。豆腐メンタルだ。やはり小学生みたいだな。つくづく仕方の無い奴だ。

 

 「ほら、しっかりしろ。しょうがない奴だな。取り敢えずバベルに行ってみるぞ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 バベル、ヘファイストス入居階層。

 

 「ほら、いつまでウジウジしてるんだ。早く行くぞ!」

 

 「だ、だってぇ………。」

 

 いつまでもウジウジして柱にしがみつく椿。ヘファイストスの部屋は目の前だ。もう俺はさっさと帰りたいんだが?今日の分の書類仕事終わってないし。ミーシェ代わりにやっててくれないかな?

 

 ーーーーーーガチャッ!

 

 突然開く扉にうろたえる椿。中から物悲しそうなヘファイストスが出てきた。柱の陰に隠れる椿。

 

 「ヘファイストス様か。久々だな。」

 

 「ヘファイストス様、初めまして。リリはアストレアファミリアのリリルカ・アーデです。」

 

 「あら、あなたたちこんな時間にどうしたの?」

 

 「野暮用だよ。それよりどうしたんだ?そんなに悲しそうな顔して。ますますシワが寄るぞ?」

 

 「あなたねぇ………。はぁ、まあいいわ。椿がまだ帰ってこないのよ。あの子いつになったら帰って来るのかしら?」

 

 遠い目をするヘファイストス。

 

 「ふむ、もしかしたら他のファミリアで幸せになっとるかもしれんぞ?例えばアストレアファミリアとか。」

 

 「カロン様、適当をおっしゃらないで下さい!」

 

 「あの子は私の子よ。今は外で遊んでるけどもうすぐきっと帰ってくるわ。」

 

 「そうですよ。すぐにでも帰ってきますよ。」

 

 そういって柱の陰を見やるリリルカ。未だ出てくる気配の無い椿。仕方の無い奴だ。

 

 「ヘファイストス様、椿が帰ってきたらどうするんだ?叱るのか?あいつはもしかしたら気まずいのかも知れないぞ?」

 

 「椿が弱メンタルなのは知っているわ。そうそう何度も勝手に出ていくとも思えないし鍛冶に真剣なだけよ。それに子供達が遊びに出かけるのは当然のことよ。たまたま一回門限に遅れたくらいで怒ったりはしないわ。」

 

 「し、主神様ぁ………。」

 

 柱の陰から涙目で出てくる椿。感動したのか怒られずに済むことにホッとしたのか判別に迷うところだな。

 

 「椿!」

 

 「主神様ぁっ!」

 

 かけより抱き着く二人。ふむ、引き抜きは失敗か。

 

 「リリ達も帰りましょうか?」

 

 「そうだな、帰ったらたまにはアストレアにも孝行を考えるか?」

 

 「皆で考えましょう。ヘスティア様はどうしますか?」

 

 「あいつ多分何かすると調子に乗るだろ?あいつはスルーでいいだろ。」


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