ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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脅迫外交

 ここは女主の神娼殿。イシュタル本拠地。イシュタルは眷属の一人より報告を受けていた。

 

 「イシュタル様、アストレアファミリアより面会の話を受けています。」

 

 「面会?どういうことだ?」

 

 「わかりません。向こうは持参品として神酒を奉納する用意があるとのことです。」

 

 イシュタルは考える。

 

 ーーどういうことだ?奴らはフレイヤの盟友だ。しかし私らに突っ掛かれるほどの力は持たない。はずだ。フレイヤの策略か?この時期ということに何か意味が?わからん。どうすべきだ?危険は?魅了を使えば問題ない、か。

 

 「わかった。時間と場所の指定を伝えろ。」

 

 イシュタルは知らない。カロンの白いチートスキルを。やはりチートタグは必要だろうか?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地。会談の時間は近づいていた。

 

 「これからイシュタルと会合を行う。相手は神経を尖らせているはずだ。緊張感を持っていけ。こちらはリューとリリルカを連れていく。リリルカは最悪の時は空を飛んで逃げろ。逃走先は理解しているな?」

 

 「フレイヤ様の下ということでよろしいでしょうか?」

 

 「よし、わかってるようだな。リュー、お前はリリルカの安全確保に留意しろ。」

 

 「わかりました。アストレア様は連れていかないのですか?」

 

 「ああ。なぜだ?」

 

 「神との会合には神が必要なのでは?」

 

 今更の疑問。

 

 「俺はいつも単体で会いに行ってるぞ?」

 

 「そうでしたね。それでは参りましょうか。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは女主の神娼殿、応接間。集まったのは六人。

 

 「イシュタル様、面会を感謝する。」

 

 イシュタルはこちらを物珍しそうに見ている。向こうはイシュタル、あとは俺の知らない眷属二人。男殺しは話し合いにむかんだろうしな。

 

 「私に用事とは一体何だ?」

 

 「まあ先に取り敢えずこれが持参品だ。」

 

 神酒を渡すカロン。ソーマはアストレアの社畜化しているのではないか?

 

 「ああ、いただこう。それで話とは何だ?」

 

 切り出しに少し迷うカロン。相手を揺さぶるためにいきなり懐に入り込むことを決める。

 

 「………あなたはフレイヤを超えることを目的にしているな?もし俺達にその手段があるとしたらどうする?」

 

 「おい、何を言っている?お前は奴らの狗だろうが!」

 

 いきなり理解不能なことを言い出すカロンにイシュタルは訝しむ。

 

 「しかしあなたはこのまま突っ掛かっても死ぬだけだぞ?俺にはあなたがフレイヤを超える手段を提供できるが?」

 

 「ふざけるな!!」

 

 笑うカロン。

 

 「ふざけてないよ。」

 

 「お前何がおかしいんだ!?」

 

 ここで早くも腹をくくるカロン。さらにつっこむことを決める。

 

 「フレイヤは喉から手が出るほど俺を欲しがっているぞ?それに俺はお前に勝利の確約ができる。イシュタル、お前は勝ちたければ俺達について来い。道はここにある。」

 

 フレイヤ相手の勝利の確約。出来るわけがない!神の嘘を見破る能力を使わずともそれくらいはわかる。

 しかしイシュタルは自分の気持ちが理解ができない。怒るべきだと理性が叫ぶが勝利の甘言にわずかに心を引きずられる。

 

 ーー魅了を使うか?

 

 フレイヤがカロンを望んでいるのが事実ならここで魅了するのは一つの手だ。実行するイシュタル。

 

 ーー効いてない!?馬鹿な!?

 

 効いている様子がない。

 

 「イシュタル、説明だけでも聞いてみないか?資料を用意している。」

 

 「あ、ああ。」

 

 急激に分が悪くなったのを悟る。今この場にいるのは冒険者達。最低で2レベルのリリルカだ。暴れて真っ先に死ぬのはイシュタルだ。魅了頼みのツケがまわる。

 イシュタルの眷属達は困惑するイシュタルの様子を見て自分たちの採るべき行動に迷う。

 

 ーー神威を解放するか?こんなところで?フレイヤと相対しているわけでもないのにこんなところでか?そもそも魅了のきかないこいつに効果があるのか?話し合いを聞いてからでも遅くはない、か?どうするべきだ?

 

 イシュタルが迷っている間に説明は進んでいく。

 

 「それでは説明を行う。イシュタル、お前がフレイヤを超える手段とはアストレア連合の中枢にはいりこむことだ。」

 

 ーー連合?何の話だ?

 

 「連合構想とはアストレアファミリアを中心とした複数のファミリアが強固な関係を持つことだ。参入が決定していないお前らには現時点で詳細は伝えられない。すでに四柱の神が合意しているとだけ伝えておく。お前が来れば五柱だな。俺達はいずれオラリオを支配することを目的としている。」

 

 笑うカロン。嘘は着いていない。少しだけ言い方を過激にしただけだ。

 

 「俺達がオラリオを支配したらお前らは同盟の最初期加入者だ。そうすればいずれはオラリオでフレイヤ以上の地位を得られる。みんなの敬意を得られるぜ?考える余地もないと思うが?」

 

 ここに来てカロンが取った手段、それは問題を先送りし、その間に問題の解決あるいは解消を行うことだった。

 

 ーー少し苦しいか?

 

 カロンは様子をみる。畳みかけるか時間を置くか。そしてギャグの割り込む余地は?さて反応は?

 イシュタルは黙っている。

 カロンはさらなる札をきる。カロンは笑う。

 

 「お前俺を魅了しようとしただろ。無駄だぜ?お前にできるのは連合に加入してフレイヤを超えるか集団で地獄へ向かうかだ。お前は天界には帰れなくなるかもしれないぜ?」

 

 ハッタリをかますカロン。魅了に関しては何もわからないが自分のスキルが魅了を跳ね退けることだけは知っている。カロンは先程イシュタルが動揺していたところを見ていた。

 さらに重ねるのは嘘と紙一重の妄言。帰れなくなるとは言ってない。かもだ。

 

 そしてイシュタルは精神を揺さぶられる。カロンが強力なレアスキル持ちなのは皆知っている。まさか天界に帰れなくなるものが?そんなものが存在するのか?

 イシュタル眷属達は不敬な言葉に愕然とする。

 

 カロンはさらに畳みかける。交渉という名の脅迫だ。

 

 「リリルカ、フレイヤファミリアの戦力図を出せ。」

 

 「こちらでございます。」

 

 ギルドで公表される冒険者レベル。リリルカがそれを調べてここ五年の分をデータリングしたものを渡す。イシュタルにも記憶にある名前が並んでいる。

 

 「これがフレイヤファミリア冒険者レベル分布図だ。勝てるかい?」

 

 イシュタルは現実を真っ向から突きつけられる。ここでカロンはさらなる脅迫を行う。

 

 「俺達四柱の神の所属するアストレア連合もフレイヤの同盟者だしな。お前ら俺がロキやガネーシャとも仲がいいの知ってるだろ?」

 

 カロンの恐ろしさ。だからどうするとは言わない。実際にはガネーシャもロキも動かせる目算などない。せいぜいアストレア連合くらいで、アストレア連合も現時点ではまだ成立していない。四柱いても弱小の寄せ集め。強力なのはカロンとリューくらいである。しかし仲がいいことはもちろん嘘ではない。

 

 「なぁ、イシュタル。フレイヤ悔しがるぜ。お前の立場が上になって俺とお前の仲が良くなるんだからさ。だからこいよ。勝利はここにある。手を伸ばせば掴めるんだぜ。」

 




イシュタルの眷属はアイシャとタンムズです。

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