ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
ここはフレイヤ本拠地、見つめ合う二人の愛らしいケモノ達。
「おい、オッタル。聞いたか?イシュタルんところが何やら怪しげな動きをしているようだぜ!?」
彼はアレン。フレイヤファミリアの高レベル冒険者。
向かい合うはオッタル。そう、みんな大好きオッタルさんである。
「………聞いている。」
「俺達はどうすんだ?」
「関係ない。いつもの通りフレイヤ様をお守りするだけだ。」
「まあそうなんだよな。ところでお前はあの不死身をどう考えてんだ?」
「………どういう意味だ?」
「わかってんだろ。フレイヤ様のことだ。フレイヤ様があいつを見る目がおかしいのは近くにいるお前も気づいてるんだろ?」
「………フレイヤ様の愛は平等だ。」
「やはりわかってんじゃねえか。俺は愛がどうこうとは言ってねぇぜ?フレイヤ様があいつを見る目には色々な感情が乗っかっている。悲しみ、怒り、切なさ………。」
「………それ以上言うべきではない。」
「………チッ。」
◇◇◇
今日はある夏の日。夏の真っ盛り。蝉がわんわん鳴いている。五月蝿い。さすがの俺も蝉にワクワクするお年頃ではない。ヒグラシだったらちょっと危ないが。
ともかくあの悼ましい事件からじきに二年が経とうとしていた。
俺達の眷属はまた少し増えそうだ。近くに面接を行うことにしている。リリルカのランクアップがいい評判を生んだのかもしれない。
リリルカはランクアップした体を馴らすための鍛練に、リューは新人の実地指導のために出かけていてた。
俺は今日はお休みだ。お休みはモチベーションを保つために必要なのだ。ホームですることのないアストレア、ヘスティア、ミーシェを連れてオラリオ散策を行っていた。ハーレム?聞こえない。
「やはりこうやって見るとバベルは大きいものだね。」
世間知らずのヘスティア。お前以前に住んでた所だろうが。
「団長、せっかく三人も女性を連れ回してるんですから何か買ってください。」
「おいおい、お前俺の金の無さを知っているだろう?むしろおごってくれよ。」
俺はあのあとも精力的にファミリア訪問を続けていた。四柱合併はいつでもゴーサインを出せるがより強力な衝撃を出すために他にも参入者がいないか模索している状況だ。
ミアハ買収、リリルカ祝賀会、他ファミリア訪問のために金が金庫にないことも合併を見送っている要因だ。なにせお披露目会を開ける予算がない。金がマジでない。俺にむしろおごれ。蝉でも捕まえて売れないかな?
俺はそんな情けないことを考えながらノンビリ町を歩いていた。
◇◇◇
夕方に三人と別れた俺は町の広場で考え事をしていた。
ーーイシュタルをどうするか?
俺は敢えてイシュタル訪問を行っていない。その理由は俺達がフレイヤと懇意にしていることだ。
ーーしかし、今なら絵に書いた餅ではない。
少なくとも以前であれば、零細でフレイヤの息がかかった俺達をイシュタルが真っ当に扱うとは思えなかった。
ーーだが今は?あるいは合併後に訪問を行うべきか?しかし何の目処も立たない。仲間は俺が歓楽街に行ったと聞けばいい気はしないだろう。しかし今は誰もいない………。相手が襲ってきたりする可能性は?フレイヤの同盟は抑止になるのか?話しもせずに諦めるべきなのか?
散々に迷った俺はイシュタルの様子見をしてみることにした。
◇◇◇
「ゲゲゲゲゲッ、不死身か。あんた物騒な二ツ名の癖にずいぶんいい男じゃねぇか。」
フリュネ・ジャミール。アマゾネスの大女、人間というには疑わしい容貌をしている。イシュタルのレベル5、二つ名は男殺し。俺より格上だ。俺は歓楽街でこいつに出くわした。下手をうったと言えるだろう。
「ただの散歩だよ。よく俺の顔を知っていたな。」
「アンタの顔を知らない奴はいないよ。アンタはこの町1番の変人で有名さ。何だい?今日は欲求不満かい?あのエルフじゃ不満なのかい?アタシが相手してやるよ。」
「ただの散歩だって言っただろ。近寄んなよ。」
男殺しは笑いながらよって来る。
ーー面倒な奴に出くわしてしまったな………。
俺はきびすを返す。しかし俺は男殺しに袖を捕まれた。
「そういうなよ。フレイヤの息がかかった人間が黙って帰れるわけねぇだろ?アタシのお相手をしてくれたら黙ってやるよ。」
「お断りだ。」
俺は袖を払う。二人の間に緊張感が漂う。
「アンタアタシより低レベルだろう?アタシとやろうってのかい?」
「ただで白旗を上げる気はないなあ。俺だって全く死線をくぐり抜けていないわけじゃないぜ?」
「団長、やめてください!」
男殺しに近づく他のイシュタル団員達。彼女たちは必死の形相で男殺しを制止する。
「………チッ。」
フリュネがきびすを返す。イシュタルファミリアは近々フレイヤを襲うつもりだったため見逃すことにした。普段は主神の言うことを聞かないフリュネだがイシュタルの厳命とフレイヤ襲撃間近による団員の制止に取り敢えず矛を収める。
戦いで負けるつもりはない。しかしカロンは実は意外と恐れられている。オラリオで顔の広いこの男は、ベートとの共闘やフィンやアイズと懇意にしていることでロキと繋がっているのではないかと疑われている。現時点でアストレアと揉めてフレイヤだけでなくロキまでもが出てくる可能性がある上に、最悪先々で気付いたらアストレアを挟んでロキとフレイヤが繋がっているなどというどうにもならない事態に陥りかねない。イシュタルが事を急いた理由だった。
アストレアファミリア自身も4と5のペアで有名だ。さらにカロン達にはレベル5を三人も返り討ちにした噂が流れている。レベル5はフリュネと同レベルだ。
フレイヤファミリアに関しては奇襲で討ち取る。それにしてもフレイヤファミリアだけでも勝ちきる保障はない。他を相手取る余裕はない。特に最悪ロキが相手に回るカロンなどは。それがイシュタルファミリア全体の考えであった。
◇◇◇
俺は団長室に入って考え事をしていた。
ーーやはりおかしい。どういうことだ?何故俺は見逃された?奴の方が高レベル、しつこさで有名なやつだ。イシュタルの団員にしても制止する理由があったのか?俺の後ろにロキがついているとでも考えているのか?しかしフリュネ個人で来ればファミリアではなく個人の話としてケリをつけられないか?男女の痴情の縺れだと。あそこは奴らの本拠地でもある。無理か?しっくりこねぇな。判断がつきづらい。
ーーーーーーコン、コン、コン
「団長、失礼します。」
「ああ、ミーシェか。」
「もうすぐお食事が出来上がります。」
「ああ、今日の当番はお前か。ところでお前に聞いてみたいことがあるんだが?」
「何でしょうか?」
「お前が相手より強いとして、お前が敵を逃がす理由にどういうものを思いつく?」
「あたしは戦いませんよ?」
「質問を変えよう。いや、待てよ………。」
質問をしようとして突如カロンの脳内に衝撃が走る。
「ミーシェ、俺は考えることができた。しばらく団長室には誰も通さないでくれ。」
今更ですがミーシェさんはオリキャラです。ミィシャさんとは別人です。名前が紛らわしいので念のため。