ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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一番適応するアストレア

 「アイズ様、お待たせしました。」

 

 「ううん、待ってないよ。リリ。」

 

 ここはオラリオの賑やかな街中。ここでは今、アイズとリリルカが待ち合わせをしていた。彼女達は仲が良く、普段は共に忙しくしているがたまに一緒にお出かけしていた。今日も二人でお買い物。オラリオで探索に役立つものを見て回る約束をしていた。

 

 ーーそんな二人に忍び寄る怪しい二つの影………。

 

 そう、彼らはカロンとリュー。

 

 「対象はVのようです。特に問題ありませんね。」

 

 「そのようだな。安心したな。リリルカも嬉しそうだ。」

 

 彼らはリリルカの動向をひそかに追っていた。因みにVはヴァレンシュタインのVである。

 何を隠そう、彼らはたまに一人で出掛けるリリルカ(かわいい娘)に、変な()が寄ってないか心配してつけてきたのである。ちなみにリリルカとアイズは共にカロンが誘ったタケミカヅチ道場で親交を深めていた。

 

 「しかしリリルカがVと会っていたとなると急にやることが無くなるな。どうしようか?」

 

 「どうしましょうか?」

 

 カロンとリューは特にすることも無くなり迷っていた。そこへ聖女シル(おせっかい)が何かの意図のように現れる。

 

 「あれ、リューとカロンさんじゃない、二人で何してるの?」

 

 「何をしてると聞かれれば………ストーカーだ。」

 

 相変わらず頭のネジが足りないカロンは堂々とストーカー宣言をする。

 

 「えぇ!?」

 

 当然ドン引きのシル、焦るリュー。

 

 「ま、待ってください。事情があったんです!」

 

 「事情があってもストーカーはストーカーだな。」

 

 正論のカロン。たとえ相手が娘のような存在でもストーカーはストーカーである。

 

 「リュー………。」

 

 口元に手を当ててリューを何か怖いものを見るような目で見るシル、ますます焦るリュー。

 

 「ま、待ってください!ストーカーではありません。私は………そう、犯罪者を追っていたんです!」

 

 ついに出鱈目を言い出すリュー。正義の欠片も見当たらない。されど数少ない友人を失うわけにはいかない!

 

 「は、犯罪者?」

 

 訝しむシルに内心で笑うカロン。カロンはリューが何を言い出すか楽しみにして傍観することに決める。

 

 「そうです!私は正義のファミリアです。私は今危険な犯罪者を追ってるんです!」

 

 どこまでもドツボに嵌まる予感しかしないリュー。

 

 「犯罪者って相手は何をしたの?どこにいるの?」

 

 シルの疑問。

 

 「そ、そうですね………。」

 

 目が激しく泳ぐリュー、背中で冷や汗を流す。最初から正直に言えばいいのに。

 

 「それは………。」

 

 「それは………?」

 

 ーー闇派閥か?いや、大事になりすぎる。軽犯罪にするべきか?イケニエは?しかし誰かに濡れ衣を被せるわけには!どうすれば?都合のいい存在は?私は友達を失いたくない!どうやったらごまかせるーーー?

 

 「ヘ………。」

 

 「ヘ………?」

 

 「ヘスティア様が………万引きを………。」

 

 ついに正義の味方に濡れ衣を着せられるヘスティア、大笑いするカロン、戸惑うシル、正義もへったくれもないリュー。

 

 「………まあ待て、今のはリュー式の冗談だ。」

 

 一通り笑い終えてフォローするカロン、しかしマッチポンプである。

 

 「冗談?」

 

 「ああ、実は俺達のファミリアにリリルカという若い女性がいるだろ?俺達は心配性で変な男に引っ掛かったりしないかついついつけてきてしまったんだ。リリルカはしっかり者だと分かってても年が離れているからつい親のように心配してしまったんだ。まあ事実ストーカーなんだが二度としないから大目に見てくれないか?」

 

 「ああ、なるほど。」

 

 すんなり事を納めるカロン、へこむリュー。

 

 「なぜさっさとそう言ってくれないんですか?」

 

 「お前のコミュ力の底上げのためだ。」

 

 「ふーん、じゃあ二人は今から何するの?」

 

 シルの疑問。

 

 「特に決まっていませんよ。」

 

 答えるリュー、なんか嫌な予感を感じとるカロン。

 

 「いや、今からダンジョンに向かうところだ。鍛練する予定だ。」

 

 「?そうでしたっけ。」

 

 「忘れたのかリュー?このおとぼけさんが!」

 

 カロンは逃走を試みる。カロンはシルがあまり得意ではない。

 シルは勘良くカロンの嘘を見破る。突如ニヤニヤするシル、カロンは嫌な予感が実現しそうな事を理解する。

 

 「リューはカロンさんとデートしてたんだね。ゴメンね邪魔しちゃって。」

 

 そういいながらニヤつくシル、どこかヘ行きそうな気配はない。

 

 「シル、デートではありません。」

 

 意外と冷静に返すリュー。リューは友人に対する対応だけはしっかり出来る。さすがにそこまではこじらせていない。

 

 「俺は今から行くところがあるから。」

 

 やむなく単体で逃げを打とうとするカロン。

 

 「リュー、でもリューはダンジョンにカロンさんとよく二人で潜ってるでしょ?今更二人で出かけても大した抵抗はないんじゃないの?」

 

 「しかしデートと言われるのは抵抗があります。」

 

 カロンはしれっといなくなろうとする、しかしシルに腕を捕まれる。

 

 「カロンさん、帰らないで下さい。」

 

 「行くところがあるから離してくれ。」

 

 「嫌です。無理に帰ろうとしたら叫びます。」

 

 「うーんお前はなんでいつでもそんなに面倒な人間なんだ?」

 

 「カロンさんは分かってませんね。女は面倒を楽しむのが定説ですよ?リューはあまりそういうところがないからカロンさんと合ってるのかも知れませんね。」

 

 「俺が無理に付き合わされる義理はないだろう?」

 

 「いい男は女の我が儘をある程度許容する義務があります。諦めて下さい。」

 

 「別にそういうのはいらんから離してくれ。」

 

 公衆で引っ張り合うカロンとシル、リューはおいて行かれ何となく切ない。

 

 「離せ!」

 

 「諦めてください!」

 

 目的もへったくれもない意地の張り合い、何となく嫌な予感がするカロンと何となく逃がしたくないシルの謎の戦いが始まる。

 

 「はーなーせ!」

 

 「あっ、カロンさん!高レベル冒険者が一般人に力ずくですか?」

 

 大声で人聞きの悪いことを言い出すシル、脅されるカロン、なんだか切ないリュー、戦いは新たなる局面を迎える。

 

 「待て、わかったから大声を出すな!逃げないから!」

 

 しかしシルは信用しない。腕を捕まれたまま脅される。ここは大勢の人前であり、シルは彼らを味方につけにかかる。

 

 「逃げたらカロンさんに暴力を振るわれたことを言い触らしますよ!」

 

 「いや、振るっとらんだろう?」

 

 「ほら、ここ見てください!赤くなってる!」

 

 「それどう見ても虫刺されだろうが!」

 

 「あの………。」

 

 「うん、どうしたリュー?」

 

 「どうしたのリュー?」

 

 「私はどうすればいいのでしょうか?」

 

 「リュー、カロンさんと今日はデートすればいいんだよ。」

 

 「デートですか?」

 

 「脈絡がないだろう!」

 

 「リューはカロンさんと長く一緒にダンジョン探索してきたんでしょ?たまには町で二人でもいいんじゃない?」

 

 「町で………ですか?」

 

 「無理に断るもんでもないがそれより他にしたいことがある。」

 

 「「な゛っっ!!」」

 

 真正面から女の沽券を切り捨てるようなことを言うカロンに二人は絶句する。他にしたいこと?どう考えても言い訳である。

 

 「カ、カロンさん大丈夫ですか?リューですよ?男だったら誰でもデートしたくなるほど美人ですよ?男として大丈夫ですか?」

 

 心配するシル。

 

 「わ、私には女の魅力がないとでもーーー

 

 落ち込む面倒なリュー。あくまでカロンにとってはの話である。

 

 「なあ、帰してはくれんのか?」

 

 ぶれないカロン。

 

 「いやいや、カロンさん?男として大丈夫ですか?」

 

 シルの再びの質問。

 

 「大丈夫だな。もう帰してくれないか?」

 

 「なぜそんなに帰りたがるんですか?」

 

 「お前が苦手だからだよ。お前といるとろくなことにならない気がするからだ。」

 

 真正面から暴言を吐くカロン。

 

 「ひ、ひどいです。」

 

 泣きまねのシル。誰でも一目で見破るクオリティーの低さ。

 

 「私には魅力が………。」

 

 未だに衝撃を受けるリュー。

 

 「シル、何やってんだい?」

 

 なぜか突然登場するミア。

 

 「母さんか、どうしたんだ?」

 

 カロンはミアのことを母さんと呼んでいた。

 シルはみるみる縮こまる。

 

 「いやね、シルに仕事中の買い出しを頼んだんだけど帰って来ないからさ、様子を見に来たんだよ。というわけでアンタ、迷惑かけたね。」

 

 「助かったよ。連れ帰ってくれ。というかお前は仕事中に何しとるんだ?」

 

 嵐が去り一息つくカロン、首根っこをミアに捕まれ連れていかれるシル、未だに落ち込むリュー。

 

 「さて、面倒は去ったしもう帰るか?」

 

 「カロン、私には魅力がないとでも言うのですか?」

 

 「いや、そうは言わない。お前はそれはもう魅力に溢れてるよ。それよりもう帰ってもいいか?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地アストレア私室。アストレアとリューがいる。アストレアお悩み相談室である。

 

 「アストレア様、私には女性としての魅力がないのでしょうか?」

 

 「どうしたのリュー、突然?」

 

 「今日カロンに雑に扱われてしまったんです。」

 

 「あなた本当に変わったわね。以前なら女性の魅力とかあまり気にする人間じゃなかったわ。」

 

 「そうでしたか?」

 

 「ええそうよ。」

 

 「私は………成長しているということでしょうか?」

 

 「私にはわからないわ。もしかしたら適応しているのかも知れない。」

 

 「適応ですか?」

 

 「環境が変わったと言うことなんじゃないかしら?生き物は適応するものよ。」

 

 「なるほど。」

 

 「でもカロンは皆に変人と呼ばれていたわね。リューは変人に適応したと言うことなのかしら?やはりリューも変人になってしまったということなのかしら?なんか思い当たる節もあるわね。」

 

 「アストレア様!あなたは最近毒を吐きすぎです!あなたが一番カロンに適応していませんか!?」




カロンがこんなに冷淡なのは普段そこそこ一緒に居るためデート等と言われても今更感があるからです。

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