ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
「オイオイオイオイ、死神共までやられちまったぜ。」
「マジどうすんだよ?」
「やっぱり放って置くべきだったんだよ。だからいったろ!」
「マジかよ。やべぇじゃねぇか。」
「誰かあいつら倒せる奴いねぇのかよ!?」
ここはオラリオ郊外。闇派閥は、ガネーシャファミリアによるリヴィラ掃討作戦によりリヴィラにさえ入れなくなっていた。
「お、俺はもう逃げるぜ!レベル5が三人もやられちまったんだ。勝ち目がねぇ!」
「おい、お前どうするよ!?」
「行く当てもねぇしなぁ。いっそガネーシャに出頭するか?」
「もうあいつらより強い奴らは話し自体が通じねぇ奴らしかいねぇしなぁ………。」
「クソッ、あの時に確殺できてれば。」
「「「「「………………。逃げるか。」」」」」
闇は逃げ腰だった。
◇◇◇
リリルカは自室にて今までのことを考えていた。
ーーリリの当初の雇用条件はレベル2への到達。しかしカロン様は予定を変えてリリを使ってくださりました。カロン様の目標は当初考えていた以上に早く進行しつつあります。ソーマ様とはすでに昵懇。ザニス様もあきらめて傍観に徹している状況です。ソーマファミリアとのよい形での協力はいつでもなしうります。そしてミアハ様も含めた四柱の神が集えばオラリオを走る闇派閥撃退の報も併せて入団希望者は劇的に増えることとなるでしょう………。
ーーではリリは?カロン様の当初の目標は、リリをある程度の能力に育て上げて練度の高いサポーターをオラリオで必要だと見せ付けることです。リリがここに来て一年半。ランクアップを考えるには短い期間です。しかしソーマ様の所にいた頃と併せて考えると?
ーーリリが目標を達成しない限りカロン様の夢は永遠に足踏みをすることになります。仮に数を集めることが可能だったとしても、それは長い時間をかけてようやくロキ様やフレイヤ様と同じ規模のファミリアに到達するだけです。必要なのはオラリオからの敬意です。あいつらがいるからオラリオは助かっている、あいつらがいねぇと困る、そういった大多数からの感情が必要でリリはそれを達成するための足がかりです。
ーーリリが足を引っ張りたくはありません!リリは拾われて一年半、短い期間ですが犬や猫でももらった恩は忘れないと聞きます。おかしなこともありましたがこの一年半は概ねリリにとって楽しい日々でした。………ステータスはすでに足りています。リリが、リリが、覚悟を決める時です!!
リリルカは覚悟を決める。
◇◇◇
ここは団長室。俺はミーシェに書類仕事をやらせていたため、これからのことを考える時間があった。
ーーリリルカはステータスがすでに足りてるんだが、、、やはり壁を越えさせないと新たなステージには立てないか。しかしリリルカを万一にでも失うことになったらそもそもが総崩れだ。リリルカは若いしそれなりの期間一緒にいたから感情的な面でも失いたくない。………連合構想を諦めるか?最初は嘘と詭弁で始めたものだがやってみて楽しかったのは事実だ。しかしリリルカには代えられないし、代えたくない。今のまま鍛練を続けていずれランクアップをする可能性もある。ファミリアもそこそこの規模にする目処はついている。やはり変わらずに様子見をして最悪諦めることも視野に入れるべきか?
ーーリリルカのレベルを上げないとサポーターとして連れていっても深い遠征には付き合わせられない。深い遠征には危険がつきものだが?リリルカ自体は頭が回るしいつも最善手を取れる能力を持ち得ているだろう。しかし壁を越えることは真正面から危険と相対すること………。
俺は考えがまとまらないでいた。自分がどうすべきなのか?リリルカを戦わせるべきなのか?珍しく考えが堂々巡りして同じ道筋を行ったり来たりしていた。
ーーーーーーコン、コン、コン
返事をするとリリルカが部屋に入ってきた。
「カロン様、壁を越えに来ました。付き添いをお願いいたします。」
◇◇◇
「カロン様、壁を越えに来ました。付き添いをお願いいたします。」
「………リリルカ、危険が大きいぞ。今のままでお前は十分役に立ってくれている。」
「珍しく弱気ですね。一体何があったんでしょうか?」
リリルカは笑った。
「………いや、言ったままの意味だよ。仮にここを乗り越えても、お前は危険な階層に潜ることになる。お前はリューと違って事務だけで十分な役に立てる人間だし俺達は絶対にお前を失いたくない。」
「冒険者はいつだって危険ですよ?」
俺も以前言った言葉だ。
「お前は冒険者をやめても幸せになれるはずだ。」
「おかしなことをおっしゃるのですね。リリの幸せはリリが決めますよ?」
「リリルカを行かせたくないのは俺のエゴだな。しかし同時に俺はリリルカの幸せも願っている。」
「リリはカロン様のお役に立つのが何よりの幸せです。いつも不敵に笑うあなたはどこへいってしまったんですか?」
リリルカのその言葉で俺は決定を下した。
◇◇◇
俺達はリリルカのランクアップの対象を決めた。俺とリューとリリルカ。敵はゴライアスで俺とリリルカが対峙する。リューはレベル5なので万一の際の逃走補助要員だ。俺とリューが出てしまったらリリルカの活躍の場が無くなってしまうからだ。
「………やめる気はないのか?今はさほど目標にこだわってはいないぞ?」
「カロン、あなたは過保護になっています。」
リューが答える。カロンはうろたえる。カロンは指摘された事実に始めて気づく。
「………しかし、リリルカはまだ子供だ。」
リリルカは会話をリューに任せることにする。
「あなたが始めたことです。」
「いつもだったらお前が止める立場なんじゃないか?」
「その通りです。しかし以前あなたが決めたことだ。」
「………今からやめても遅くはないだろ。」
「カロン、あなたは思い違いをしている。」
「思い違い?」
「私達はあなたの夢が楽しそうだったから私達の意志であなたに全BETをしたんです。いまさらやめたらただの詐欺師だ。賭け金を還してください。」
リューは鮮やかに笑った。
「………賭け金、ね。時間を返せとでも言うのか?」
笑いかえすカロン。
「私達はあなたに多大なる影響を受けました。賭け金はあの頃の純粋な私達だ。あなたに還せますか?」
「減らず口を叩きやがって………。」
カロンは自身の敗北を理解する。
「それでは出発です。」
リリルカが纏める。俺達はダンジョンを進んで行った。
◇◇◇
ーーグオオォォォォォォォォォォン!
灰褐色の巨人、迷宮の19階層の居住者。彼は敵意が向かって来るのを敏感に感じ取っていた。
◇◇◇
「さすがに、でかいですね。」
ダンジョン19階層、灰褐色の巨人ゴライアス。全身を分厚い筋肉の鎧に纏われた怪物。
敵を視認するリリルカ。
「しかしリュー様より弱そうだしカロン様よりひ弱そうです。」
ついにリリルカまで不敵に笑う。
灰褐色の巨人はときの声をあげる。戦いは始まった。
◇◇◇
エンペラータイガー。ここより深い階層で出現するという設定の誰かが考えたオリ敵だ。光沢がかった白色の毛並みとしなやかな筋肉を持つ、とても美しく獰猛な魔物だ。リリルカはこの日のために牙を研いでいた。
リリルカはエンペラータイガーの体、ドラゴンの羽、アルミラージの角、しっぽをポイズンスネークへと変身させた。誰かはやりたい放題である。
カロンは真正面からゴライアスへと向かう。スク〇トを重ねがけする。
リリルカがミノタウロスに変身しないのは真正面をカロンに全面的に任せることにしたからだった。リリルカの役割はカロンと協力してゴライアスの体力を削りきることである。そしてそれが前もって話し合った結果出した最善の戦術だった。そして様々な魔物の長所を掛け合わせたキメラはそのための手段であった。
ーーカロン様は信じられないくらいに硬い。ゴライアスの前面はすべて任せます。リリは天井や壁を利用しゴライアスを縦横無尽に攻め立てます。
真正面から激突するカロンとゴライアス。ゴライアスはカロンを殴りカロンはそれを平気で受け止める。掴んだ腕を引き、投げようと試みる。
ーーさすがに無理があるか、人型だから投げれそうなもんだがな?
ゴライアスは不動の巨人。地面に根を生やしたように動かない。
カロンとゴライアスはガチンコで殴り合う。ゴライアスは硬いがカロンも信じられないほどに硬い。
ーーどうやっても長期戦だな。さて。
リリルカは壁を蹴り天井を走りゴライアスに襲いかかる。リリルカはゴライアスの頭部に噛みかかる。ゴライアスは突然の強襲に驚き、腕を振り払う。リリルカは羽を使い華麗に退避する。去り際にゴライアスに角を引っかけ傷を残す。
「さすがだな、リリルカ。相手もびびってるぜ。この調子でフルボッコだ。」
返事をするように吠えるリリルカ。また壁を駆けはじめる。
ーーリリルカさん、頑張ってください。
そんなリリルカを影から応援するリュー。
彼女はこの戦いにおいて巨〇の星の〇子姉ちゃんのようなポジションだった。
◇◇◇
ーー敵の能力はミーシェ様と検討済み。リリの能力ではよほどのリスクを冒さない限り大きなダメージは通りません。そもそもの予定が長期戦です。カロン様はいつまででももたせると言ってくれています。
リリルカは壁を無尽に走りゴライアスの意識から逃げていく。
ーーリリが攻撃を受けたらさほど持ちません。ゴライアスの攻撃は受けてはいけません。奴の意識がこちらからなくなる一瞬を見極めます。
下ではカロンとゴライアスのタイマン。力はゴライアスが上である。カロンはその差をなんとかしようとタケミカヅチ道場直伝の技術を駆使する。ゴライアスはその巨人の腕で殴りつける。カロンはそれを盾で受け流し体勢を崩させる。そしてさらに逆の手で頭を押さえ付け巨人に地を舐めさせる。
ーーここだっ!!
上からリリルカが強襲する。しっぽの蛇は巨人の首に巻き付き、角で魔石をえぐろうとする。ゴライアスは軽々と体を捩り避ける。反撃の予兆を感じたリリルカは羽をうまく使い跳び壁に横向きに着地する。ヘイトを稼ぐカロンは盾で巨人を殴りつける。
ーーグオオォォォォォ!!!
巨人が吠える。カロンはわずかにぐらつくが表情を変えない。巨人は脚に力を込め体当たりする。
カロンは突進する相手の方に手を置き、闘牛士さながらに華麗にかわす。ゴライアスは壁に激突する。
「リリルカ、オッケーだ。このまま敵を焦らしてやれ!いざとなればリューもいる。敵を持久戦に引きずり込んで泥沼の底に沈めてやれ。」
それは当初の予定。逃げるのが問題なく可能なためリスクを低くした戦い。エンペラータイガーは持久力にはあまり優れないがもともと団長のカロンが完璧な持久戦仕様。リューとリリルカはそれに合わせて自身をカスタマイズさせていた。
ーーオーケーですよカロン様。
リリルカは笑う。黒いスキルによりリリルカの全身に力がみなぎる。白い虎の王の体は全身の筋肉にさらなる力を与えいっそ神々しい。
リリルカは壁に激突した敵に突進し、その背中の一部を噛みちぎる。ゴライアスが反撃を思い立ったその時にはもう敵はその場にいない。いらつくゴライアス。
虎は一迅の白い風となり、壁から壁へ、天井から地面へ、変幻自在に駆け回る。ゴライアスは反応しきれない。
カロンと正面から殴り合うゴライアス。スキを見て擦れ違いざまに角を引っかけ削るリリルカ。いつ果てるともわからぬ長期戦は続く。
ーーリリルカ、がんばって…。
リューは壁から応援する。
ギャグを挟まないとやる気が上がらない誰かの病気のせいで全くしまらないまま戦いは続いていく。
◇◇◇
ーーやはりリリルカのスタミナの消耗が予定よりも激しいなぁ。いざという時は逃げればいいんだし焦らないでくれるといいが。
ゴライアスは力強く速い。筋肉も分厚く致命の一撃は通らない。カロンはゴライアスと取っ組み合いながら考えている。
ーーリリルカは一撃でも喰らうとここまでの優勢がひっくり返るからなぁ。スタミナを切らすのは危険なんだよな。
ゴライアスの頭突き。カロンはまともに喰らう。カロンは頭から血を流しわらう。そう、この程度はいつものことだ。カロンはゴライアスの首を抱く。後ろからリリルカが角で片足を突き刺す。痛みにゴライアスは反応しカロンを振りほどく。リリルカはゴライアスの肩を蹴り天井に着地する。
振り返ったゴライアスはいるはずのリリルカを見失い困惑する。その一瞬にカロンはゴライアスの頭を引っ張りリリルカは狙いやすくなった敵の首に強襲する。角を突き刺さんと真上からの落下。ゴライアスの首に突き刺さる角。顔を掻く爪。ゴライアスは痛みを感じる。リリルカはゴライアスの体を蹴ってまた逃げる。
「リリルカ、いい調子だ。相手は何もできない。しょせんはウスノロのでかぶつだ。」
もちろん、そんなことはない。脅威だ。一見なんともないカロンだって痛みを感じているしダメージを受けている。しかし弱みを見せない。
精神的な無類のタフさ。それはいつだってカロンを支えつづけ仲間を勇気付ける。自分たちは決して負けないのだと仲間を鼓舞しつづける。
ーーカロン、がんばって…。
誰かはリューの扱いに困っていた………。
◇◇◇
ーーやはり………なかなかにハードですね。最初から覚悟はしていたつもりでしたが想像以上に………。体がどんどん重たくなっていきます。しかし他に有効な攻撃手段が思いつきません。この戦い方は前もって話し合った最善の戦い方………迷うべきではありません。しかし………
ーーリリルカの体力にだいぶ陰りが見えてきたか。体力の低下は士気の低下に直結する。さらに事故率も上昇するだろう。やはりゴライアスは厳しかったか?どうするべきだ?そろそろ撤退を視野に入れるべきか?
考える間にもゴライアスはカロンへと迫り来る。ゴライアスはカロンの頑丈さに少し鬱憤を溜めはじめていた。
カロンの土俵は持久戦である。というよりもむしろ同格以上との戦いでは、他の戦い方では相手にならない。他の戦い方はできない。
ゴライアスはカロンに掴みかかる。盾を奪われるのを嫌ったカロンは少し下がる。そのまま体ごとゴライアスは突っ込んで来る。避けるのが不可能なカロンはゴライアスの打ち噛ましを正面から受ける。吹っ飛ぶカロン、しかし笑ってすぐさま立ち上がる。さらに突っ込んで来るゴライアス、カロンは今度は受け流す。ゴライアスはそのまま壁に激突するが今度はカロンを掴んで一緒に激突する。倒れて地面で縺れるカロンとゴライアス。
リリルカは隙をみてゴライアスへと突っ掛かる。しかしゴライアスは気付いている。リリルカはそれを理解して攻撃を取りやめて遠巻きに距離を取る。ゴライアスとカロンは立ち上がり再び激突する。焦れるリリルカ、ゴライアスの視線からなかなか逃げきれない。しかしリリルカに気を取られるゴライアスにカロンの嫌らしい攻撃。ダメージは通らない、しかし相手の気を逸らすに十分な目つぶし。ゴライアスは咄嗟に目をつぶってしまう。怒ったゴライアスはカロンを正面から殴り返す。ゴライアスの気がそれたのを理解したリリルカは背面に角を引っ掛けてまた逃げ去る。ゴライアスは振り返るがやはりいない。カロンはその隙にゴライアスの頭部を掴み先ほどの仕返しとばかりに頭突きをする。ダメージは通らない。しかしやはりいらつくゴライアス。
ーーやはりゴライアスはタフなもんだな。ほんとにどうしたもんかね?
◇◇◇
ーーハァ…ハァ…ダメージは通っています。手応えはあります!しかし敵はあまりにもタフです。リリの体力を持たせられる目算がありません。
予定よりもさらなる長期戦をリリルカは感じていた。
最初からこれくらいで倒せるとは考えていない。しかし予定よりも相手のダメージが少ない!角を引っかけても手応えは薄く分厚い筋肉にリリルカの体力は削り取られていく。
持久戦にしてもある程度のダメージを与えていないと話にならない。戦いがあまりに長引きすぎるとリリルカの事故率が上昇する。リリルカはわずかに焦る。
ゴライアスは相変わらずカロンと対峙している。カロンはゴライアスの腕を取りゴライアスと縺れている。
ーーここだ!
リリルカは突進する。リリルカは相手の片腕に掴みかかる。ゴライアスの攻撃を感じ取り退避する………はずだった。
リリルカはほんの少しだけ焦っていた。リリルカ自身が気付かないほど。焦りは少しだけリリルカを深追いさせる。ゴライアスの指はリリルカを引っ掛ける。
ーーしまっ………。
退避が遅れるリリルカをゴライアスは正面から殴りつける。リリルカは吹き飛ばされて壁に激突した。
「リリルカァァァァッッ!!」
カロンがさけぶ。リューが焦る。リリルカは変身が解けて横たわる。
おそらく死んではいない。スク〇トの重ねがけのおかげだろう。リューは確保に走るーーー
◇◇◇
ーーここまでです。
リューが走る。また走ってる。
しかし想定外の力強い声。
「大丈夫です、リュー様、カロン様。」
リリルカはわらう。何でもないと。
何でもないはずはない。敵に殴られ吹き飛ばされたはずだ。至るところの服が破れ血を流している。そう、リリルカは虎状態の時も緩やかな特注のローブを着て戦っていた。決して後付けの設定じゃない!決してだ!!
リリルカはカロンの影響を受けている。リリルカはわらっている。
「カロン様、実験です。リリはいいアイデアを思いついてしまいました。」
◇◇◇
ーー撤退するべきだ。
カロンはそう考えていた。
「カロン様、リリは壁を理解しました。信じてください。今なら越えられます。」
リリルカはわらっている。
リューは一瞬固まりゴライアスのみが向かって来る。
「………カロン、リリルカさんを信じましょう!一年半前に私があなたを信じたように!!」
リューが提案する。敵が来るまで時間はない。
「わかった。俺がゴライアスを受ける。」
そしてカロンは再びゴライアスと対峙する。
◇◇◇
カロンは相変わらずゴライアスと組み合っていた。
ーーどうするつもりだ?
リリルカは今一度虎へと変身する。ゴライアスの視線を避け、白い風は自在に周囲を駆け巡る。
ゴライアスはリリルカの攻撃に深手を追うことがないことを理解していた。早く潰したいが素早くて面倒だ。ゴライアスはリリルカの攻撃をその身に受けてから反撃することを決めていた。
白い虎の王はさらに速度を上げている。
リリルカはわらう、心の中で。リリルカは、ゴライアスが今までのリリルカの攻撃を受けたことによってリリルカ自身から致命傷を与えられることはないと油断していることを理解していた。ゴライアスの視線の纏わり方が今までより弱い!
ーーダンジョンで油断したものは命を落としますよ。そこに例外など存在しません。
リリルカはわらいながらゴライアスの真上に移動する。
ーーおいおい、マジかよ………。
シンダー・エラは魂を映す鏡。虐げられたリリルカが自身の変革を願って生まれた魔法。鏡はリリルカの負けたくないという意志とカロンの黒いスキルによりリリルカの姿をより一層変貌させる。
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
ゴライアスの真上でゴライアスに変身するリリルカ。突如頭上から落ちてきた自身と同じ怪物に驚愕するゴライアス。
それはリリルカの覚悟。リリルカは自身が怪物になってでもカロンの役に立つことを願う。鏡は黒いスキルに補強されたリリルカの覚悟に呼応して怪物の十全の力を映しとる。
さらに黒い鎖はここにきて、思考能力の薄い怪物の魂すら絡めとる。動揺を敏感に感じ取ったカロンは怪物を追い詰める雄叫びをあげ攻撃を加える。怪物は混乱によりうまく動けない!!
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!」
リリルカ・ゴライアスの背中のアーデルアシストが力を発揮する。怪物に組み付いたリリルカは地面に根をはっているはずのゴライアスを力ずくで剥がし、あらん限りの力で床にたたき付ける。
たたき付けられたゴライアスは恐怖と痛みで動けない。リリルカはゴライアスを幾度も幾度も殴りつけ、投げ飛ばす。
恐怖と危機を感じたゴライアスは痛みを堪えてなんとか立ち上がる。しかし後ろからカロンがゴライアスの脚を掴む。ゴライアスはカロンを見る。カロンはわらう。ゴライアスはさらに恐怖する。笑顔が威嚇なのはあまりに有名だ。カロンを力ずくで剥がそうとしたゴライアスはリリルカに殴られる。ゴライアスはリリルカを見る。リリルカもわらっている。天井知らずの恐怖にゴライアスに逃走の意志が芽生える。
逃走、どこに?ゴライアスは階層主、決して逃げられない!!ついに黒い鎖は弱気を越えて芽生えた絶望と一体化する。
固まるゴライアス、迫り来る恐怖。絶望に慄くゴライアス。嗤いながら止めどなく襲い来るリリルカとカロン。
もうダメだ、俺は勝てない。俺はどこにも逃げられないーーーーーー
勝負は決着した。
◇◇◇
ダンジョン内の帰り道です。
「カロン様、めちゃくちゃ痛いです。こんな状況でいつも笑ってられるなんてカロン様は馬鹿なんですか?馬鹿なんですね?馬鹿なのでした。」
「おいおい、ひどいなリリルカ。お前だって笑ってただろう。」
「リリはあなたほど四六時中は笑いません!」
「五十歩百歩だな。」
カロン様は笑いました。リリも笑います。リリはカロン様の背中に乗って地上に向かっています。帰りの敵はリュー様が片付けてくれています。
「カロン様の背中は固くてあまり乗り心地が良くありません。リリのように変身してください。」
「おいおい、無茶苦茶言うなよ。変身なんてできる変態はリリルカだけだぞ?」
「あれだけ死ぬ気になれば何でもできるなんて言ってリリを変身させたくせに。」
リリはカロン様を冷たい目で見ます。カロン様は知らんぷりです。
「カロン、早く帰りましょう。アストレア様にリリルカさんの更新をしてもらってみましょう。」
「ああ、そうだな。」
◇◇◇
「リリちゃん、ランクアップおめでとう。」
優しい微笑みのアストレア様です。
「リリ君、ボクは信じていたよ!」
ヘスティア様です。相変わらずお調子乗りです。
「リリ助、やるじゃねぇか!先を越されたな!」
ヴェルフ様です。聞き付けてわざわざファミリアまで駆けつけてくれました。
「「「「「リリルカさん、ランクアップおめでとうございます!」」」」」
新人様達です。リリで構わないといつも言ってるのに。
「リリルカさん、あなたは有能過ぎる。私の価値がどんどん下がっています。」
悲しそうなリュー様。今回はあまり出番がありませんでした。
「リリルカ、おめでとう。祝賀会を開かないとな。金はいくらあってもたりんなぁ。」
とカロン様。
「リリお姉様、とてもお素敵です。」
ミーシェ様。誰かの気分で変なキャラにさせられようとしています。リリの方が年下なんですけどね?
「皆様、ありがとうございます。リリはこれからも頑張ります。」
リューさんが一人で復讐可能ということは闇派閥はフツーに考えればこうなりますよねぇ………。
あと帰りにリリルカがポーションを使用していないのはわざとです。父親にいい記憶がなくまだそういう年頃でもあるということです。