ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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専属鍛冶師

 ここはダンジョン十五階層。俺の名前はヴェルフ・クロッゾ。俺は今日ここにカロンとリリ助の三人で潜っていた。このあたりが俺達の鍛練にちょうどいい階層だ。しかし最初は驚いたな。まさかリリ助の奴が魔物に変身できるとは………。

 俺には最近悩みがあった。カロンは気にせずに俺と一緒にダンジョンに潜ってくれる。しかし彼にとって俺と潜るのにメリットはない、ハズだ。俺とリリ助は彼の背中に護られて鍛練している。俺にできる恩返しは鍛冶くらいだ。しかし彼は高レベル冒険者で高品質材料の防具を求めているハズだし、専属を取る気はないらしい。今日はリューがいない。俺は少し迷ったが切り出してみることにした。

 

 「なあ、カロン。アンタは何故俺と一緒に潜ってくれるんだ?」

 

 「うん、前にも言ったろう?俺達も辛い思いをしたと。それとお前には新人の鍛練をしばしば手伝ってもらっている。持ちつ持たれつだろう?」

 

 「だが俺はそもそも一緒に潜る奴らがろくにいなかったんだ。なんか俺に返せるものはないのか?」

 

 「いっぱいあるぞ?」

 

 「本当か?それは何なんだ?」

 

 思わず俺は彼に詰め寄ってしまった。

 

 「俺はファミリアをでかくする予定だからな。お前が立派な鍛冶師になれば俺達のところに入った新人を任せるに足るツテができることになる。俺は専属をとらんがそれは別にファミリアの意向というわけではない。新人担当でなくともお前が信頼できるアストレアファミリア御用達の鍛冶師になってくれればお互いにいい関係が築けるだろ?いわば先行投資だ」

 

 俺はその言葉に考えた。

 彼は信頼に足るだろうか?彼は俺の姓を聞かない。そして俺は彼の姓を聞かない。それでもいい関係が築けるというのだろうか?俺は彼に思い切って突っ込んだ事を聞くことにした。

 

 「なあ、アンタは俺の事を聞かないだろ?俺もアンタの事を聞いてない。それでも構わないんだろうか?それでも俺達は互いにいい関係を築けるのか?」

 

 「………理由は知らんが姓を隠すには相応の理由があるという事だろう。お前が過去に何を思っているのかは知らんが変えられるのは未来だけだ。別に構わんだろ。」

 

 リリ助は俺達の会話に気を使って離れて行った。壁に傷を付けて魔物が生まれないようにしてくれている。俺はその気遣いに感謝する。

 

 「構わんて………。そんなに簡単なものなのか?」

 

 「さあ。」

 

 「さあ!?」

 

 「うーんまあお前が過去を気にしとるというのは今の会話で分かったがしかしなぁ………。まあどうでもいいかな。今ここで俺と話しているお前よりも優先するものじゃあないな。」

 

 カロンはそういって笑った。俺は衝撃を受けたように感じた。

 

 「オイ、それじゃあもし俺が犯罪者だったらどうするんだ!?」

 

 「捕まえるな。」

 

 「捕まえるのかよ!?」

 

 「まあ普通そうだろ?犯罪者なのか?」

 

 「いや、違うが………。じゃあ、じゃあもしも俺が悪名高い一族の末裔とかだったらどうするんだ?」

 

 「別に。」

 

 「別に!?軽すぎるだろ!どういうことだよ!?」

 

 「どうもこうもないよ。俺達もかつてはオラリオで悪評を立てられたアストレアファミリアだ。過去に囚われたら辛い思いをしてしまうよ。今はだいぶマシだがな。いつだってできることをやるしかないだろ?お前が家名を捨てて努力するというなら俺は応援するし、それとは無関係に俺達といい関係が築けるんじゃないか?」

 

 俺はその言葉に覚悟を決めてさらに突っ込んだ話をすることにした。

 

 「俺の名前はヴェルフ・クロッゾだ。クロッゾの一族を知っているだろう?俺はアンタのファミリアのリューに探索を手伝ってもらう度に罪悪感を感じているんだ。クロッゾがエルフに蛇蝎の如く毛嫌いされていることは知っているだろう?」

 

 俺達クロッゾ一族の造った魔剣はエルフの住む森を焼いてきた。俺達はエルフに恨まれているはずだ。それこそ殺したいと思われている程に!

 

 「うーん聞いたことはあるな。だがそれが?」

 

 「だがそれが!?どういうことだよ!!」

 

 あまりの軽さに俺は突っ込んでしまう。さっきも同じツッコミをした気がする。

 

 「しかしなぁ………。そもそも魔剣を作るのがクロッゾでも魔剣を使うのは他人だろ?そんなん言ったら鍛冶師の生計がなりたたんだろ?」

 

 「そ、それは………。それは詭弁ではないのか?」

 

 「事実だろ。俺個人の意見としては作った人間だけに責任を押し付けるのはしっくり来ないな。国全体の責任だろ?まあクロッゾの魔剣がたくさんの命を吸ったのは理解するが………。そもそも第一にお前が作った魔剣が森を焼いたのか?お前がリューを傷つけると言うなら話は別だがお前はそんな一族が嫌で名を隠してるんじゃないのか?」

 

 「………その通りだ。お前は気にしないのか?」

 

 「ふーむ、というよりお前鍛冶師実は向いてないんじゃないか?」

 

 いきなりおかしな事を言われてしまった。しかし………全く心当たりがないわけではない。

 

 「アンタは他人の命を気にしては剣を作るべきじゃないとそう言うのか!?」

 

 「うーんそうは言わんがお前が辛くないか?近々連合を立ち上げるつもりだがそこには人を護るためのサポーター部隊や人を救う薬学部門などを作り上げるつもりだ。お前が興味があるなら口利きできるぞ?そっちの方が性格的にあってるんじゃないか?」

 

 俺はその言葉に考え込む。俺は何のために剣を打っているのか?俺は剣を打ちつづけるべきなのか?

 

 「俺は鍛冶師に向いてないというのか?しかし俺が他のことをできるとは思いづらい………。」

 

 「見に来るだけ来てみてはどうだ?」

 

 「………………いや、遠慮するよ。俺はこれが技能的に自分にあってると思っている。それに剣で命が救えることがあるのも知っている。俺は鍛冶の道でアンタ達の役に立てるように努力するよ。」

 

 「そうか。いずれにしろ応援するさ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ヴェルフと別れたダンジョンからの帰り道。今日はいつもより遅くなって頭上に満天の星空が煌めいている。町は明かりを燈していて皆おそらく夕食後の団欒の時間だろう。今日の夕飯当番はアストレアだ。遅くなったし怒られてしまうかもしれない。俺とリリルカは話しながら帰っていた。

 

 「やったなリリルカ。連合を作り上げた後の新人冒険者用の鍛冶師にアテがついた。」

 

 「カロン様は、うーん何というか手前味噌ですが………今回は互いに利益のありそうないい提案になり得ますね。ヴェルフ様が立派な鍛冶師になる事を期待しましょうか。でもリュー様には伝えなくていいんですか?」

 

 「必要はないよ。今伝えてもリューもヴェルフも互いに過去の事で苦しむだけで何の得もない。長い時間を共に過ごせば過去を知ってもなお互いに信じられるようになるだろ?二人が互いを信じられるようになったと感じたら………その時は俺が知ってて黙ってたことを土下座でも何でもしてやるさ。」


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