ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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ナァーザとの盟約

 俺はカロン、ここはアストレア団長室だ。俺はここで今日の会合の収穫と失う予定のものを天秤にかけていた。

 

 ーー失う予定の物は都合二億五千万ヴァリス。ファミリアの現時点での全財産に近い。前任が残してくれた物も含めてカラッ欠だ。対して入る予定の者は薬を司る一柱、有能な一人の眷属。

 ………割高ではある。次の交渉次第ではもう少し値切れないか?あるいはこちら側が喉から手が出るほど欲しがっているのは向こうも織り込みずみ。やはり無理か。本来ならば非売品のはずだし多少割高でも何が何でも欲しい。連合に薬学部門は必須だ。眷属の選択幅が広がるのも非常に魅力的だ。ソーマで人生の先に悩んでいる人材を回せれば薬学部門の発展の見通しも立てられる可能性がある。人材の育成もサポーターと組合わせられれば問題ない。やはりあらゆる点で必要という結論しか出ない。やむなしか。

 

 

 ◇◇◇

 

 一週間後、ここはミアハ本拠地。ソファーにて向かい合う俺とナァーザ。

 

 「………こんにちわ。」

 

 「ああ、久々だな。こちらとしては正式にお前達の以前出した条件をのもうかと考えている。」

 

 以前出した条件。ミアハファミリアを二億五千万ヴァリスで買収するというものだった。

 

 「商談成立。ミアハ様は説得してある。私達にとっては悪くない話し。すぐに向かえばいい?」

 

 俺が行ったのは悪くいえば人身売買だ。しかし正当な雇用とも言える。

 幾度かにわたる交渉の末、ナァーザはミアハファミリアが俺達のファミリアに参入する条件として前述した額を提示した。ミアハファミリアには借金があるのだ。欠けたナァーザの右腕、その義腕をディアンケヒトファミリアから大金を借りて買受けた為だ。

 俺はその額を出し、尚且つそれなりの貯蓄ができる額を呈示した。ナァーザは少しでも多い金額を引きだそうと幾度にも渡る交渉が行われた。俺は長い間リリルカと話し合い、金額と条件を折り合わせた提案をミアハファミリアに幾度も呈示した。つい先日、ようやく互いに納得できる落としどころが見つかったところだ。

 

 ファミリア内の資金流用については、俺が薬学部門の重要性と利便性を説いた。仲間達は、新規参入のミーシェを除いてすんなりと理解を示してくれた。日頃の根回しは大切だ。ミーシェだけはそのあまりの額と会計補佐として唖然としていた。

 

 「いや、来るのは少し待ってくれないか?」

 

 「どうして?」

 

 「もう少しだけソーマの様子を見たい。もうほぼ説得ができている状況だ。一気に四柱の神が所属するファミリアが出来上がったとなれば衝撃もでかいだろう。勝負処だ。」

 

 「四柱って?」

 

 「サポーターを育成するアストレアを中心として、薬のミアハ、酒のソーマ、後は通常冒険者育成兼トイレを司るヘスティアだ。欲をいえばここに武を司るタケミカヅチも欲しい。ガネーシャに頼んでオラリオ中に知らせるつもりだ。」

 

 「なるほど、それができたらそこそこな求心力。面白い。」

 

 「そのまま勢いで眷属をどんどん増やして行きたい。お前達はまず一歩目だな。」

 

 「お互いに損のない交渉。素晴らしい。」

 

 「そうだな。まあ少し割高で俺達は当分極貧生活だ。もう少しお手柔らかにしてくれてよかったのに。」

 

 その言葉にナァーザが面白そうに笑う。

 

 「お金は大切。稼げるときに稼ぐに限る。」

 

 「そうだな。差し当たっては借用書はお前らが来るまで手元に持っておくが構わんな?」

 

 「うん、それでいい。そっちにいったらちゃんと渡してね。」

 

 「ああ、もちろんだ。連合ファミリアができたらお前達も含めて大々的な祝いの席を設けねばならんな。今からまた金を貯めんといかん。」

 

 カロンも笑う。

 

 「そしたら大団長。ロキもびっくり。」

 

 「フレイヤは楽しそうに笑うだろうな。一刻も早くタケミカヅチを口説かんとな。」

 

 「勝算は?」

 

 「まあタケミカヅチは真っ当な神だからな。眷属をその気にさせる何かがあればなぁ。」

 

 「将を得んとすればまずは馬から。」

 

 「まあそうなるかなぁ。それよりナァーザ。ウチにはリリルカという超がつく有能な団員がいる。ぼうっとするとお前の価値はどんどん下がっていくことになるぞ?」

 

 「望むところ。」

 

 俺達は笑顔で握手をして別れた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 カロンが帰った後のミアハファミリア。

 

 「俺は、身売りしてしまったんじゃないか?これでよかったのか?」

 

 奥から何やら思案顔で出てくるミアハ。

 

 「売上のマージンはとられるけど借金帳消しにそこそこの蓄え。加えて連合内での人材の斡旋に材料の融通。最高の条件。これ以上は望めない。」

 

 「しかし、神が金のために身を売るなど!」

 

 「ミアハ様、霞を食べて生きているつもり?私達眷属は生きるために金がいる。私の為の借金だったのは理解するけどここが私達の分水嶺。先行きの勝算は十分にある。それに身売りじゃなくて私たちの技能を買い取る正当な交渉。」

 

 「そうか、そうだな………。」

 

 「大丈夫。情報は精査した。ディアンケヒトに売るより遥かに好条件だし将来的な展望もある。ソーマファミリアの件に関しても裏が取れている。」

 

 ナァーザは笑う。心配はいらないと。

 

 「生きていくのは世知辛いものだな。」

 

 ミアハがぼやいた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「今日の会合はいかがでしたか?」

 

 ミーシェ。アストレアファミリア団長秘書兼アドバイザー。将来は連合を顎で使う人材だ。団長室に自由な出入りを許している。

 

 「当初の予定通りだな。まあ皆には少し貧しい思いをさせることになるけど何とか許してくれ。頑張って働くよ。」

 

 「あたしは決められたお給料さえいただけるのであれば本拠地が多少苦しくても関係ありません。」

 

 笑うミーシェに笑いかえすカロン。

 

 「まあそうだな。冒険者の皆には少々貧しい思いをさせるかもしれないがな。」

 

 「連合構想がなればあたしも忙しくなってしまいますね。」

 

 「その時は給料はその分出すさ。俺はナァーザに成功したら大団長だと言われたよ。お前の役職は何とするかな?」

 

 「リューさんは大副団長でリリお姉様は超顧問弁護士ですね。」

 

 「少し語呂が悪いなぁ。何か新しい名称を考えんといかんくなるなぁ。」

 

 不意に扉がノックされる。部屋に入るリュー。

 

 「カロン、ミーシェ、夕飯が出来上がりました。一緒に食事をしましょう。」

 

 「おいおいマジか。今日の夕飯当番はリューだったか。」

 

 当初はリューを当番から無くそうと皆で画策していたが、リューは夕飯当番にしがみついた。いわくこれ以上ファミリア内での地位を落としてしまえばヘスティア様になってしまうとのこと。そのスタンスは嬉しいが勘弁して欲しい。ヘスティアは相変わらずトイレ掃除以外は何もしなかった。しかしリューの食事を食わされるくらいならヘスティアが二人いた方がマシな気もする。

 

 「さあ、早く行きましょう。今日の食事は自信作だ。」

 

 「おいおい、リュー。こないだお前がそれ言ったときヘスティアの仕事を増やしてたじゃねぇか!」




作者には時系列という概念が存在しません!



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