ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
ここはダンジョンの十五階層。ここでは今、二頭のミノタウロスが睨み合っていた。
高まる緊張感、今にも躍動しそうな筋肉、片方は普通のミノタウロスだがもう片方は細身に翼が生えていた。
ーーリリは今日、限界を超えます。
そう、片方はリリルカである。リリルカは今まで、カロンかリューのサポートを受けながらこの階層で敵を倒していた。しかしランクアップが近くなってきた今、彼女は危険を冒してでも可能な限り一人で戦うことにしていた。
リリルカはいきなり羽を使い空を飛ぶ。高く舞ったリリルカは急降下でミノタウロスに襲いかかる。手に持つメイスを上空から重力をかけて力いっぱいに奮うーーー。
「カロン様、やりました。ついにリリはにっくきあいつを倒しました!」
そう、にっくきあいつとはミノタウロス。リリルカがギャグキャラになってしまった原因である。いや、ミノタウロスのせいにするのはおかしいな。ゴメンナサイ。
「ああ、流石だなリリルカ。今日は歓迎会と送別会もあるからここまでにしておくか。」
そう、今日は新人歓迎会であり五人のお別れ会でありおいでませリリルカ一周年記念でもある。今日はファミリアの金庫から大量の札束を持ち出して、豊穣の女主人を貸しきっていた。
二人はダンジョンの帰路へ着く。
◇◇◇
豊穣の女主人。アストレア歓送迎兼記念会。
「あんたらがアストレア御一行様だね。まってたよ。」
店主のドワーフのミア。
「「ニャー達もよろしくにゃ。」」
ここぞとばかりに割り込み売り込むクロエとアーニャ。猫人だ。
「皆さん、お待ちしていました。」
アストレアファミリアの顧問相談役として日々女性の癒しとなっている聖女シル。
会は始まった。
◇◇◇
「バランだ。」
「ビスチェよ。」
「ブコルだ。」
「ベロニカよ。」
「ボーンズだ。」
ネーミングを面倒がる誰か。
「カロンさん、お久しぶりですね。頻繁に来てくださると嬉しいのですが、、、。」
ここぞとばかりに売り込むシル。カロンは魔法を覚えて以来ここに来るのは初めてだ。
「んなこと言ってもお前ら俺が下戸だと言ってるのに勝手に酒を出して来たろうが。」
微妙に憤慨するカロン。食事は美味だったのだがいくら頼んでも烏龍茶が出てこずにエールばかりが出てきたのが彼の足を遠退かせた最大の原因だった。
「それは………申し訳ありません。次からはきちんとしますから是非来てください。」
悪びれずに言うシル。ニコリとわらう姿はまるで明るく咲くひまわりのようだ。しかし俺は騙されない。お前が今勝手に持ってきているそのジョッキは何なんだ!既に三杯目だ!本当に仕方の無い奴だ。
「うーん余裕があったらな。」
「またおごってくれるんですか、団長?」
割り込むリュー、普段は団長とは呼ばないはず。ニヤニヤ笑っている。キャラ変わっとるがな。カロンが金が無いのは知っている。日頃の仕返しだ!
新人は新人同士で懇親を深めている。フレイヤの所の五人が先輩風を吹かせているのが微笑ましい。しれっとヴェルフも来ている。彼にツテができるのはいいことだとカロンは笑う。
「俺がたいして金ないの知ってるだろ。全身鎧は高いし。自分で出せよ。」
甲斐性のないカロン、堂々たる情けない発言。むしろおごれと言い出さない分マシなのか?しかしないものはない。
アストレアとヘスティアは遠巻きに皆を楽しそうに眺めている。
「リリは自分で出しますので一緒に今度来ましょう。」
「リリルカさん、カロンは雑に扱わないと調子に乗ります。」
「リュー様はそろそろリリをリリと呼んでいただけないのですか?」
「それより店員をファミリアに引き抜けんかなぁ、皆強そうなんだよなぁ。」
ざわざわと楽しく緩やかに過ぎ行く時間。宴もたけなわで夜は更けて行くのだった………。
◇◇◇
「「「「「フレイヤ様、ただいま戻りました。」」」」」
「お帰りなさい。ご苦労だったわね。」
今日は五人の帰還日。カロンは付き添いとしてついて来ていた。フレイヤの両脇にはアレンとオッタルが控えている。
「フレイヤ、世話になった。これはつまらんものだがもらってくれるか?」
フレイヤを呼び捨てるカロンに仰天する五人とアレン。
「あら、ありがとう。こういうのは気が利くわね。」
開けるフレイヤ。中には神酒が入っている。
「すまんな。あなたが何が好きかよくわからんでな。神に奉納するものは神酒が間違いないだろうと思ってそれにしてしまった。まずかったか?」
神酒は万能。最強チート。俺tueeeである。
「あら、嬉しいわ。ありがとう。」
「いや、こちらも世話になった。あなたへの恩は当面返しきれないなぁ。」
苦く笑うカロン。
「別にいいのよ。好きでやってるからあなたと行動原理は同じよ。あなたたち五人は休んできていいわ。後で褒美を出すわ。」
前に出るアイン。
「フレイヤ様、最後に彼に感謝を伝えることを許してくれますか?」
「あら、いいわよ。」
フレイヤは優しく笑う。
「アストレアファミリア団長カロン殿、一年間の短い間でしたがお世話になりました。」
五人は頭を下げた。
◇◇◇
「1年前よりはずいぶん良くなりましたね。」
リリルカの一言。
俺はあのあと本拠地に戻り今はリリルカとアストレアと俺の三人で応接間のソファーに座っていた。リューはこないだの醜態(二日酔い参照)によりしばらくは自主的にトイレ掃除の罰を受けることにしていた。ヘスティアはトイレ掃除の先輩として監修係だ。必要ないと伝えたが、トイレ掃除を繰り返すうちに何やら何らかのこだわりができたようだった。なんかいやに偉そうにリューに指示出ししていた。
「そうね。あの頃は解散するものだとばかり思っていたのだけれどね。」
「おいおい、解散したらコミュ障のリューが路頭に迷うだろう。」
地味に急所を突くカロン。二人は否定しきれない。
「ま、まあリュー様のことは置いときましてカロン様、最近はいかがですか?」
話題を変えるリリルカ。
「そうだな、どうと言われても………いつも通りだな。急にはどうもならんな。」
「まあそうね。特に急ぎの案件もないしね。」
「とりあえずリリルカの頑張りを辛抱強く待ちつつ人脈を広げるかね。」
「カロン様は唐突におかしなことを思いつくので油断できませんけどね。」
「ソーマの件はびっくりしたわね。アポ無しにいきなり押しかけて。結局上手くは行ったけど………。」
「まあ迷ったら動くことに決めてしまったからなぁ。」
「リューの影響ね。」
「どういうことでしょうか?」
首を傾げるリリルカ。
「迷ったら動かないとネガティブに考える人がいた、ってだけよ。だからカロンはこんなマグロのような生態になっちゃったの。元々の性格もあるだろうけど。」
「おいおい、マグロかよ!?」
「ああ、わかりました。」
頷くリリルカ。甚だ遺憾だ。
「リリちゃんは二人の猪達の手綱取りをしっかりお願いね。」
「リリの責任は重大ですね。何かの手当はつくのでしょうか?」
蛇足
当然アストレアの残党のなんらかのアクションを闇派閥は警戒していたのですが、思っていたのとは全く違うあさっての行動に闇派閥はしばらく呆気にとられ困惑していた時期がありました。