ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
今日はリリとカロン様でダンジョンに潜っていました。普段より早く上がったため今はその帰り道です。カロン様はぼーっとした顔をしています。これはいつもの思案顔でろくでもないことを言い出す時の前兆です。悲しいことにリリはこんなことまでわかってしまうようになりました。
「カロン様、またろくでもないことを考えてらっしゃるんですか?」
「うーん、まだ考えがまとまってないから少し待ってくれ。」
困りましたね。変な考えだったら邪魔するべきなのですが………。時折よい結果を出すためそれはそれで憚られます。なんかギャンブルみたいです。カロン様は本拠地の近くの喫茶店に入っていきます。リリもそれに続きます。
「なあリリルカ、ガネーシャのテイムってあるよな?」
「ええ、ありますね。魔物の調教のことですね?」
「あれってさ、ゴライアスをテイムしたらどうなるんだ?」
「いやテイムできるわけないでしょう!」
やはりわけのわからないことを言い出しました。リリは早くも止めておくべきだったと後悔します。
「例えばさ、オラリオに何かの危機が迫って強力な部隊が必要となったとするだろ?それでさ、ゴライアスをテイムして嘆きの大壁から移動させたらまたゴライアスが生まれるのかな?ゴライアス部隊を作り上げられるのかな?」
ーーゴライアス部隊………それは地平線の彼方まで亀型陣形を組むゴライアス。その数実に1000×1000の1000000。ゴライアスは全て盾を持ち進軍していく。ゴライアスに痛打を与えることはできずゴライアス部隊に蹴散らせないものはない!
あるいはゴライアスの投石部隊はどうだろうか?ゴライアスであれば相当な飛距離を出せるはずだ。
なんらかの乗り物と組み合わせるのもいい。ゴライアスを沢山載せて突っ込ませればかなりの脅威になるはずだ!
リリはカロン様がなんかすごいアホくさいことを考えている気がします。
「いや、作り上げてどうするんですか?」
「いや、だからさ。オラリオの危機に立ち向かうのに必要だったらさ、作り上げるのが可能なのかな、って。」
「無理でしょう。そもそも階層主は移動しないから階層主ですよ?」
「ほら、そこはリリルカのアーデルアシストでさ?」
「まさかのリリ頼みですか………。しかしそんなことはオラリオが危機に陥ってから考えればいいのではないですか?」
「いや、早いうちから備えるに越したことはないだろ?アストレアファミリアでゴライアス部隊を育成したらいざという時にーーー
「カロン様はつくづくアホですね。そんなこと万が一できても入団希望者が未来永劫出ませんよ。住民も怖がりアストレアファミリアの地位は地の底どころの話ではありません。ガネーシャファミリアの憲兵が寄ってきますよ?闇派閥を打ち倒せ、って。」
リリはため息をつきます。今まででも1番の荒唐無稽なアイデアです。
「うーんしかしどうなるんだろうな?ゴライアスは二匹存在できるのかな?もしかしたら19階層から動かしたら死ぬのかな?移動させただけでは二匹目は生まれないのかな?試してみたりはーーー
「しません。ほら早く帰りますよ。」
◇◇◇
アストレア本拠地応接間。ここには俺とリューがいる。普段より早く帰った俺はリューにも相談してみることにした。
「なあ、リュー。ゴライアスを嘆きの大壁から動かしたらどうなるのかな。」
「無理でしょう。」
「いやリリルカに何でも持ち上げるスキルがあるだろ?あれで瀕死のゴライアスを無理矢理移動させてダンジョンから移動させたりしたら、やっぱり二匹目以降が生まれるのかな?」
リューは少し思案して答える。
「………わかりませんね。私は二匹目以降が生まれるんじゃないかと思いますが………。」
「そうやってゴライアスを増やしてテイムしたらさ、強力な部隊を作れないかな?恩恵を与えてタケミカヅチ道場なんかに通わせてさ。」
「あなたは今度はそんなアホなことを考えていたんですか?第一ゴライアスにはお金がないでしょう。道場の月謝は誰が払うのですか?」
うん、大幅にツッコミ所がズレてるな。
「月謝は俺が払うよ。で、どう思う?」
「どうもこうもありません。そもそもゴライアスの生態がわからないのに飼えるわけがないでしょう。」
「うーんちょっとガネーシャに聞いてくるよ。」
◇◇◇
ガネーシャ本拠地。向かい合う俺とガネーシャ。
「なぁ、ガネーシャ。ガネーシャのとこでテイムってやってるだろ?」
「ああ、それがどうかしたか?」
「テイムした魔物の世話ってどうやってるんだ?魔物は何を食うんだ?」
「ふむ。魔物の餌は普通のペットと同じだが………。どうしてそんなことを聞くんだ?」
「いや、ゴライアスをテイムできるならゴライアス部隊を作り上げられないかなって。」
「それは無理だな。」
「どうしてだ?」
「魔物の餌は体の大きさにより量が変わる。ゴライアスを何体も養うには多大な餌が必要になる。そして階層主のテイムに成功したという前例はない。」
「そうか、無理なのか。残念だ。」
「せっかく来たのだしテイムに成功した魔物でも見ていくか?」
「ああ、ありがとう。見せてもらっても構わないか?」
「お安いご用だ。」
◇◇◇
俺はそのあとテイムした魔物を見せてもらった。大きかったり生態が狂暴な魔物も多かったが、中には物静かに佇んでいる魔物や人懐っこい魔物もいた。俺にはそれらは普通のペットとの違いが分からなかった。
「ガネーシャ、今日はありがとう。俺は今日はいろいろなことに気づけたよ。魔物も生きてるんだな。」
「ああそうだ。普通のペットとは違うが。ダンジョンは悪意に満ちている。つまりダンジョンの魔物は悪意に捕われた生き物だと言うことだ。」
俺はそれを聞いて少し考える。
「そうか。ゴライアス部隊は諦めるしかないか。仕方なし、か。」
「俺達のファミリアでもテイムが必ず成功するわけではない。危険も伴う。まあ親友の俺からもオススメできない。」
「ああ、諦めるよ。変なことで時間をとらせてしまって悪かったな。お前忙しいだろうに。」
「なに、気にするな。また遊びに来い。」
◇◇◇
アストレア本拠地応接間。向き合うリリルカとカロン。
「というわけで夢のゴライアス部隊は失敗に終わった。」
「当たり前です。おかしな夢はさっさと捨ててください。」
今日は塩対応のリリルカ。
「うーん残念だがまた何か新しいアイデアはないか考えるしかないか。」
「やはりまだ考えるんですか。」
ジト目で溜息をつくリリルカ。
腕を組んで目をつぶり考え込むカロン。突然目を見開くカロン。
「なあ、リリルカ。別にゴライアスにこだわらなくても普通に強い魔物で徒党を組めば良くないか?」
ああ、ばれてしまいましたか。しかしリリは負けません。
「カロン様、普通に強い魔物で徒党を組んでも問題自体はほとんど何も解決されていませんよ?食費は?住民の恐怖は?テイムする際の危険は?」
しょんぼりするカロン様。この人こういうところが卑怯なんですよね。
「まあそんなにしょんぼりしないで下さい。そもそもリリが魔物に変身できるではありませんか?あまりたくさん魔物をテイムできてもそんなにたくさん可愛がる時間はありませんでしょう?今回は成功する目処が存在しませんのできっぱりとあきらめて下さい。」