ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

32 / 129
一周忌

 この日は俺は、団長室で執務を行っていた。俺達は闇派閥との闘いにおいて三人の強力な敵を討伐したために、オラリオで徐々に評判を回復しつつあった。あのあとで4人の入団希望者があり、俺達はそれを受け入れた。

 

 ーーまずはリリルカのランクアップだな。

 

 俺達の闘いに憧れて入団してくれた者達には悪いが、俺達は新人にサポーターを勧めて行くつもりだ。そのためにはまずはサポーターそのものの評判をあげなければならない。そしてそれはリリルカを勇者に評価させることにより少しずつ成し遂げられていくと俺は考えていた。

 

 ーーあとはフレイヤ子飼いの五人かね?

 

 あの五人の貸しだし期間満了は目前だ。彼らがフレイヤの眼鏡に叶えば俺達の関係はより良いものとなるだろう。

 同盟構想においては、定期的にリリルカとリューを貸し出しているソーマ待ちだ。彼らを首尾よくせんの………ゲフンゲフン、説得できたならソーマとよい関係を築いて行けるだろう。

 そして次は、凶狼をタケミカヅチに引き合わせてみようと考えている。彼らが互いに得るものがあると考えたとき、うまくやれれば我々はよい関係を築けるかもしれない。タケミカヅチに関していえば、連合構想がなしえたときにファミリアの人員の鍛練を任せられる神材である。

 他のファミリアは………難しいな。取り合えずソーマと懇意にすることからだろうな。

 あとはヘスティアのうまい使い道だ。彼女には、将来的にファミリアを大きくするのが可能になった際にアストレア分流ファミリアとして眷属を預けることを考えている。あるいはなんらかの専門ファミリアを頼むのもアリか?今のサポーター育成を全面的に任せてリリルカを出向させるのもアリだな。冒険者育成とサポーター育成で分けるべきか………。

 手持ちの材料はこのくらいか?他には何かよい道が存在しないか?

 

 俺は団長室でそんな絵に書いた餅を考えていた。

 

 ーーコン、コン、コン

 

 「開いてるぞ。」

 

 「カロン、やはりまだ起きていましたか。」

 

 リューがこんな時間に起きているのは珍しい。まあ理由の想像はつくが。

 

 「もう遅い時間だぞ。他の皆はもう寝ているな。」

 

 「眠れないんです。今日が何の日か私達は永遠に忘れられないでしょう。」

 

 リューは悲しそうに微笑む。

 

 「………昼間に墓参りに行ったしな。忘れられるわけがないよ。」

 

 「少し外でお話をしてくれませんか。」

 

 ◇◇◇

 

 アストレアホーム傍、比較的静かな町並み。夜更けに花壇に腰掛ける俺とリュー。

 

 「もう一年にもなりますね。知っているかはわかりませんが、あなたは前団長から目をかけられていたんですよ?マイペースだけど精神的に恐ろしくタフな男でいずれ団長を任せたい、って。大変残念な形での襲名になってしまいましたけど。」

 

 「俺はいつだって団長に怒られていた記憶しかないぞ?目を付けられていたの間違いじゃないのか?褒めるんなら生きている間に褒めてくれないと。」

 

 「まあ、そうでしょうが………。でもあなたはよく怒られていたのは自覚していたのでしょう?それは期待の裏返しですよ。多分過度の期待をかけたくなかったんでしょうね。」

 

 「そうか?俺だぞ?期待をされても好きにするつもりしかないぞ?前の団長がツンデレだっただけじゃないか?」

 

 「なんかそういうふうにいわれるとそんな気もしますね。でももう永遠にわからないことです。」

 

 「アストレアには聞いてみたか?あいつは案外知っているかも知れんぞ?」

 

 「神でも全知全能ではありませんよ。少なくとも地上にいる間は………。」

 

 「まあでも主神様にお悩み相談くらいはしてたかも知れんぞ?」

 

 「実は私はツンデレなんです。カロンがかわいくて仕方ありません。とですか?」

 

 「ないな。」

 

 「まあないですね。」

 

 「………今は復讐についてどう思っているんだ?」

 

 「以前ほどの激情はありません。しかし奴らを許すつもりはない。襲ってきたら返り討ちにしますしそうでなければあなたの下で淡々と復讐の機会を狙います。もちろんファミリアの方針に則って。」

 

 「………そうか。」

 

 「ねぇ、カロン。私は知っていましたよ。」

 

 「何をだ?」

 

 「あなたの嘘と詭弁です。」

 

 「それは………。」

 

 「知ってて乗せられてあげました。アストレアファミリアには大切な思い出がありましたし………。」

 

 「………何のことだ。」

 

 「あなたが私が闇に落ちないように必死だったってこと。嘘と詭弁とごまかしをしてでも私を昏い道から遠ざけたいと想っていたこと。道化を演じて忘れさせようとしたこと………。何をしてでも私を護りたいと願っててくれていたこと………………。」

 

 「………性格は自前だ。俺は団長から怒られていてばっかだったと言ったろう。」

 

 「それ以外はやはり思った通りなんですね。当時は私も余裕がなかった。あとから冷静に考えるとおかしなことがボロボロ出てきました。」

 

 「お前は脳筋のままの方がよかったよ。どこまでいい女になるつもりだ?」

 

 カロンは笑った。私も笑った。彼の目は青い色。私の空色に対して海の色。その青色に私は暖かみを覚えた。彼には私の目はどう映っているんだろう?

 

 「ほら、もう遅いし明日も忙しい。今日はもう寝るぞ。」

 

 「せっかくですしたまには飲みませんか?団長室で。ソーマ様のところからかっぱらってきた神酒もあります。下戸なんて言い訳は聞きませんよ?」

 

 「おま………かっぱらったって………正義はどこにいったんだ?」

 

 「今日は日曜日です。正義のヒーローも社畜なんだから日曜日くらいはお休みです。」

 

 「それ調子に乗って月曜に鬱になるやつだぞ!?」




蛇足
以前のガネーシャの話はリューの話にもつながります。かつては正義を目指し心変わりし闇派閥に落ちた冒険者達。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。