ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
俺はこの日、ヘファイストスファミリアに自分の装備を見に来ていた。そろそろ鎧の新調を考えていたからだ。しかし全身鎧は高い。少しでも安くしたい。ゴブニュに寄って帰りにヘファイストスの鎧を見に来ていた。
ーーさすがに高いな。材質はミスリルか………。命を護る物だから高いのは当然か………。貴金属使用量も多いしな。でもこのデザインは肩の辺りがカブトムシみたいでカッコイイな。こっちの鎧は色がイイ。ピカピカで如何にも強そうに見える。こっちは手の辺りが指ぬきになっているのがとてもステキだな………。
俺はそんなことを考えていた。
「お主変な奴だな。目をキラキラさせて少年の様だな。」
話し掛けられた。胸にサラシを巻いて眼帯をした女性だ。たしか有名人なハズ。名前はーーー
「手前は椿・コルブラントと申す者だ。お主はアストレアファミリア団長のカロンだな?」
「ああ、そうだな。何か用か?」
それにしても彼女は何故サラシなのだろう?ヘスティアのような痴女なのだろうか?
「いや、たいした用ではないよ。ショーウィンドウにかじりついて目をキラキラさせていたから気になって話し掛けただけだ。まあ………客を取れないかという下心もあったがな。」
「客って娼婦なのか?」
「いや何故そうなる!?ここはヘファイストスファミリアだろうが。」
「いやだってそんな格好してるからついてっきりな。」
「噂に違わず何というか………。まあいい。鎧を探しに来ているのか?」
「まあそうだな。」
その言葉に椿はこちらをじっと見つめる。
「お主確か高レベル冒険者だったろう?専属鍛冶師はおらんのか?」
「おらんな。」
「なぜだ?」
いぶかしむ椿。高身長も相まってなかなかの男前だ。
「長時間話すなら喫茶店でも行くか?」
「いやここでいいだろ。で、理由を話してくれんのか?」
「たいした理由ではないよ。正当な価格競争の努力を信じているだけさ。専属を作ったら他の鍛冶師から購入するのも一苦労だろ?」
「ふむ、なるほど。一理あるな。つまりお主は専属を作る気はないということか。」
「そうなるな。」
「しかしそれでは金がかかるだろう?」
「命を護るものに付き合いで妥協をするのもおかしな話だろ?」
「むう………。」
何やら考え込む椿。腕を組んでただでさえ大きな物がさらに強調されている。確かこいつの二ツ名は巨眼の何とかだった気がする。うん?巨乳の何とかだったか?アレ、単眼の何とかだったか?
「しかし手前ら鍛冶師と御主ら冒険者はこれまでそうやって持ちつ持たれつやっておっただろう。それはどう考えておるのだ?」
「別にそうしたい奴はすればいいし、これまでとこれからは違うだろ?いつまでも同じとは限らんぞ。」
「ぬうう、ではどうなるというのだ。」
「さあ。」
「さあ!?」
「特に考えはないさ。必要なら自然と変わっていくだろ。変わらないままかもしれないし。ただ今の関係が俺にはしっくり来ないから専属をとらないだけだぞ。」
「金には困ってないということか?」
「金には困ってるよ。ただ俺は盾役しかできないから仲間の命は金には変えられんだろ?陳腐だけどさ。」
「陳腐でも真理ではあるな。あるいは至言か?なるほどお主の考えはよくわかった。ふむ………。」
また何やら考え込む椿。それにしても本当に大きいな。
「お主が見ていたそこのショーウィンドウにある鎧は手前の製作だ。気に入ったのであれば手前の専属になるなら安く卸せるぞ?」
「専属はとらんと言ったろ?第一お前は鍛冶師として既に名声があるだろ。なんで初対面でそんなことを急に言い出すんだ?美人局か?」
「美人局ってお前は………。まあ………。お主が今の関係に納得いっとらんのは理解したが手前は手前で気に入っとるからその意地だ。それと最近ちとスランプ気味でな。オラリオに名高い変人からなにかインスピレーションを受けれないかとな。」
「お前俺と同じくらい口が悪いな。そんなにインスピレーションが欲しけりゃいつもと違う行動でもしてみたらどうだ?」
その言葉に椿は少し暝目して考える。
「………例えばどんなものだ?」
「お前のいつもの行動を知らんからわからん。」
「何だそれは………。所詮変人もそんなものか?」
その言葉に俺は呆れる。何か相手にするのがめんどくさくなってきたな。
「いやいや、初見の人間からインスピレーションを得ようとしているお前が何を無茶なことを言ってるんだ?そんなに言うんだったら改宗でもしてみたらどうだ?」
「改宗だと?手前に鍛冶師以外をやれと申すか?」
「改宗して鍛冶師をやればいいんじゃないか?」
「ゴブニュに行けと?」
「別にそうは言わないぞ。ヘファイストスの所から道具一式を盗んで家出してしまえばいいんじゃないか?」
「お主は手前に主神様に対して不義理を行えと申すのか?」
「いや、そんくらいやんないとインスピレーションなんて湧かないんじゃないか?後は盗んだバイクで走り出してみたりさ。あんまり俺の答に期待すんなよな。」
「うーむ、確かに手前の都合の良い質問ではあったな。ふむ、あいわかった。時間をとらせて済まなかったな。」
そういって別れる俺と椿。俺は今日の晩飯のことを考えながらファミリアへの家路へ着いた。確か今日の夕飯当番はリリルカだったから期待が持てるはずだ。献立は俺の好きなキノコのシチューだったハズだな。俺は鼻歌交じりで帰宅していた。
◇◇◇
三日後、俺はヘファイストスにバベルに呼び出された。
「ヘファイストス様、なんで俺を急に呼び出したんだ?」
「なんでもへったくれもないわ!これを見てちょうだい!!」
そういって机を叩くヘファイストス。ふむ、何やら怒っているな。小皺が寄らないといいが………。
机には手紙が置いてある。
『鍛冶師としてさらなる高みを目指すためヘルメスファミリアから盗んだバイクで少し旅に出てくる。 椿』
ふむ、なぜ俺のアドバイスだとばれたんだ?
窃盗ダメ!絶対!