ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか   作:サントン

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アストレアの苦悩

 ここは正義のファミリア、アストレアファミリア。アストレアファミリアの主神であるアストレアは今現在自室で悩んでいた。

 

 ーースキルを伝えるべきなのかしら? 

 

 もちろんカロンの黒いスキルである。

 アストレアは当初、スキルのあまりの危険性にとりあえず様子見を行った。結果、劇的なナニカは起こっていないが些細な変化が至るところで見られていた。

 具体的にはまず第一に以前よりリューが楽観思考になった。リューの性格は以前は堅苦しいと感じていたアストレアにとって悪い変化とは思えなかった。それにこれはスキルのせいかカロン自身の性格と関わる影響か判別しづらい。

 他には、ファミリアの基本的なスタンスの変更があった。以前は正義を追い求めるファミリアであったのが、より身内を優先するスタイルとなった。しかしこれはファミリアの現在の総人数を考慮すると致し方ない。これはスキルとは無関係だろう。

 さらに、他のファミリアとの関係性も変化していた。正義を追い求めるアストレアファミリアは以前は他ファミリアとさほど数多い交流はなかった。後援的なファミリアは以前は存在したが今現在は闇を恐れ手を引いている状態。そのかわり以前とはまた違う交流関係を得ていた。しかしこれは事件のせいである可能性が高いと言われるとまた判別に困る。カロン自身社交的な性格でもある。

 

 ーーそもそも本人に聞いてみないとスキルがどういうものなのかもくわしい判断がつかないのよね。

 

 アストレアのこの判断は正しい。彼女はこのスキルが戦闘にも応用できることを夢にも考えていなかった。今までの経験に照らし合わせてカロンと話し合えばカロンはそれに気づくだろう。

 

 ーーでも………。

 

 アストレアは様々なことを危惧していた。

 まずカロンにスキルを伝えた場合、最も危険なのはスキルを自覚することによって十全な効果を発揮してしまうことだ。その場合は、彼女はカロンの人格こそオラリオに混乱をもたらすものではないとは信頼しているものの、どうなるか判別がつきづらい。他人を支配することが可能なスキルの可能性は高い。そう考えるとやはりあまりにも危険なスキルだ。

 

 ーーいや、どうなのかしら………?

 

 あるいは彼が自身のスキルを嫌い口をつぐんでしまう可能性もある。彼女はカロンの少しおかしなマイペースなお喋りが好きだった。

 

 ーーしかしもうあれからランクアップもしてしまったのよね。

 

 彼女は当初、リューを説得して復讐を思い止まらせたいという思いもあった。そしてカロンも思いを同じくしていたため生まれたスキルだと考えていた。しかしリューが落ち着きつつある今、彼女はスキルと正面から向かい合う必要があるのではないかと思いはじめていたのだった。

 

 ーー本当に難しいわね。やはり伝えないほうがいいのかしら?

 

 しかし伝えないことにもマイナスポイントがある。伝えないことで知らないうちにスキルが勝手に周りを地雷源にしないとも限らないのだ。伝えれば避けられる落とし穴が伝えないことで避けられないかもしれない。相手の思考を誘導することで気付けば周りが敵だらけになっているかもしれないのだ。

 

 ーーどちらにしても大きな落とし穴が存在しうるのよね………。

 

 アストレアは悩み果てていた。カロンやリューは気づいていなかったが彼女は慢性な寝不足に陥っていた。

 

 ーーこういうとき、どうすればいいかしら?カロンならどうするかしら?そういえばカロンは話し合うのを大切にしていたわね。

 

 彼女はそう考えた。

 

 ◇◇◇

 

 「アストレア、何の用だい?今ボクは日課のトイレ掃除で忙しいんだ。後じゃ駄目なのかい?」

 

 「もちろん後でも構わないわ。どうすればいいかわからない問題の相談者になってほしいの。」

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地、応接間。ソファーに座り向かい合うヘスティアとアストレア。

 

 「それでアストレア、悩みとは一体なんなんだい?」

 

 「カロンのことよ。」

 

 「カロン君か。ボクは彼が苦手だよ。」

 

 「まあ………あなたはそうでしょうね。それで相談なんだけど………彼のステータスの話なの。」

 

 「何かまずいことでもあるのかい?」

 

 「彼は………そうね。レアスキル持ちなの。本人に伝えてもそうでなくても何が起こるか判断がつかないほど危険な。」

 

 「それは………本当かい?」

 

 「ええ、少なくとも私はそう判断しているわ。それで伝えるべきかそうでないかあなたに相談をしているの。」

 

 「それは………スキル内容がわからないことにはボクには何と言ったものか判断がつかないよ。」

 

 「まあそうでしょうね。ヘスティア、あなたが他言する相手がいないと信用して話すことにするわ。」

 

 「ちょっと待っておくれよ!他言しないという信用ではなくて相手がいないという信用って、キミはカロン君に毒されてはいないかい!?だいいちボクにはへファイストスがいるよっ!?」

 

 飛び上がって抗議するヘスティア。揺れるツインテール。ついでに胸も揺れる。

 

 「ハァ、そのことなのよ。私にも彼に影響されているかどうかの判別はつかないわ。カロンのスキルは他人の思考を誘導するものなのよ。でもフォローすれば人は生きていれば多かれ少なかれ他人に影響を及ぼすわ。だから判別がつかなくて悩んでいるのよ。」

 

 「うーん、つまり要点をあげるとカロン君のスキルを伝えるべきかで悩んでいて、どちらにも問題があるということかい?」

 

 「ヘスティア、それは私が最初にまとめて伝えたことよ。あなたのオツムは大丈夫?堂々巡りになるわよ?」

 

 「ちょっとアストレア!カロン君に毒されすぎだよ!キミはだいぶ口が悪くなってるよ。」

 

 再び抗議するヘスティア。アストレアは気にも留めない。

 

 「そうなのかしら。でもどうしようかしら。あなたが相談相手にならないならどうするべきかしら?」

 

 「………キミは口の悪さだけでなくマイペースさもうつされているよ………。」

 

 ◇◇◇

 

 アストレア応接間、ソファーに座るアストレアとリリルカ。リリルカは背中からアストレアに抱かれている。微笑ましい光景だ。

 

 「リリちゃん、今日はリリちゃんに相談があるの。」

 

 「リリに相談ですか?アストレア様、どうなさったのですか?」

 

 「カロンのことよ。」

 

 「カロン様がまたおかしなことをしたんでしょうか?」

 

 「カロンには少しおかしなスキルがあるのよ。それを伝えるべきかどうか………。」

 

 「なるほど、言われてみると心当たりがあります。カロン様は周囲を巻き込むのがお上手です。」

 

 「それで伝えるべきなのかなって。」

 

 「リリは今のままでかまわないと思いますよ。」

 

 淀みなく答えるリリルカ。

 

 「でも伝えないことで危険があるかもしれないわ。」

 

 「冒険者はいつだって危険ですよ?」

 

 「リリちゃん達はカロンの影響を受けていると思うんだけど不満はないの?」

 

 「リリもリュー様も新人様達も今を楽しんでますよ。おかしな実験だけは勘弁していただきたいですが………。他のファミリアへの影響はほっといても大丈夫だと思いますよ。」

 

 「なんでそう思うの?」

 

 「カロン様は口が悪くて性格も悪いですし頭のネジもユルユルですが本質的にお人よしです。それにカロン様でしたらどうせわからないことでしたら考えすぎるのはかえって良い結果を出さないとおっしゃると思います。」

 

 「うーん、そうなのかしら。まだしばらくは様子見しかないのかしらね?」

 

 「リリはそう進言します。」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 柱の影から二人を覗くリュー。

 

 「なぜですか、アストレア様。なぜ私にも相談してくださらないのです。私は彼女たちより古株なのに………。あなたもまさか私を脳筋だとでも!?」


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