ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
ここはアストレア本拠地応接間。リリは今日ここで、目をキラキラさせたカロン様に捕まっていました。リリの経験上、こういうときのカロン様はろくなことを言い出しません。
「リリルカ、新しいアイデアを思いついたぞ!さっそく試してみよう!」
「え、ええ~、カロン様は今度はどんなろくでもないことを思いついてしまったのでしょうか?」
ホラきた。さっさと逃げとけば良かったです。
「ろくでもないとは失礼な!俺はいつだってリリルカの安全を考えている!」
「いやいやいや、この間実験したスライムが何の役にも立たなかったことを覚えてますよね?リリは恥ずかしいのを必死に抑えて変身したのに結局足が遅すぎて役に立たなかったじゃないですか。」
そう、リリはこの間スライムに変身させられてしまいました。曰く、物理攻撃に強くなれるのではと。横からやいやい応援するカロン様にリリはついに乗せられてしまいました。結局にゅるにゅるになったリリは何かの役に立てるか必死に行動しましたが、その動きやなめくじの如し。結局リリは自分の譲れない矜持を全力で明後日に投げ捨てただけに終わりました。リリは帰って部屋で一人泣きました。
「今度はそんなことない!」
「………この間も同じことを言ってましたが………。どうせ引きませんよね?」
「是非もない!」
この人思いついちゃったらしつこいんですよね。
「………どんなしょうもないアイデアでしょうか?」
◇◇◇
ここはアストレアファミリア鍛練場所。
「今まではリリルカの魔法はリリルカの体をイメージした種族に変えるものだった。違うか?」
「リリもそう認識しています。」
「じゃあリリルカのイメージ次第では実在しないものにも変身できるんじゃないか?」
?またわけのわからないことを言い出しましたね?どうしたものでしょうか?今度は何の超理論でしょうか?
「いやいやいや明らかにおかしいです。どうしたらそういう理屈になるのですか?」
「いやだってアレだろ?リリルカの魔法はリリルカの体をイメージした種族に変えるんだろ?架空の種族をリリルカが存在すると思い込んでしまえばリリルカは変身できるんじゃないか?UFOとか?」
「ゆゆゆUFO!?よりによって天使とか悪魔とか生物ですらなく未確認飛行物体ですか!?」
「UFOは男のロマンだぞ。後はロボとか。」
「何なんですかその少年心は!?それにちょっと待って下さい!以前に無機物はNGを出したじゃないですか!?」
「じゃあUFOやロボの中にいる人とか?」
「やめてください!UFOの中にいるのは宇宙人ですよ!?そもそも想像ができないので成功しません!」
リリは慌てます。断じてそんなわけのわからないものに変身させられるわけにはいきません!リリがNASAに捕まって解剖されてしまいます!
「そうか。昔からの夢だったのだが仕方あるまい。上空からキャトルミューティレーションとか光線銃とかで一方的に攻撃できると思ったんだが。」
この人はなんて事を考えるのでしょうか!?戦術にしても無慈悲だし経験値がはいるとも思えません。
「カロン様はリリの魔法を過大評価しすぎです!」
そう、第一不可能に決まっています。
「しかしなぁ。試してからでもーーー。」
「遅いです!嫌です!ダンジョンにUFOとかカオスにも程があります!ダンジョンにUFOがいるのは間違っています!!」
「そうか、致し方あるまい。ところでリリルカ、部分的な変身とかはできないのか?」
「部分的、ですか?」
「ああ。例えばミノタウロスの筋肉とインファントドラゴンの羽を組み合わせてみたりとか。イロイロな生物のいいとこ取りだ。」
先程までよりはよほどマシな提案です。マシなってあたりが何とも切ないです。
「………やってみないと駄目でしょうか?」
「ものは試しだ。」
「まあUFOでごねられるよりましですかね?リリは自分の価値観が狂ってきている気がします。」
◇◇◇
「ふむ、やはり試してみるものだな。リリルカがこんなにおもしろ………有能だとは思っていなかった。」
「別にもう面白いと言ってしまって構いませんよ。リリも面白いです。」
やはりというか何というか普通にできてしまいました。おでこから角を生やしたり背中から羽を出したり、リリは誰かの悪意を感じます。
「それで実際どうなんだ?」
「実在しない生物だからでしょうか?通常の変身より集中がいりますし魔力の消費も激しいようです。」
「そういえばランクアップはまだかかるのか?」
良かった。まともな会話に移行してリリは一安心です。
「もう少しですね。ランクアップしたらどうなさいますか?」
「とりあえず勇者に話をしてみようかと思っている。」
「ロキファミリアの団長様ですか。」
「ああ。あいつは強いし良識もありそうだ。お前と仲の良い剣姫もいることだしな。」
「アイズ様ですね。以前だったら仲良くなるのは夢物語だったはずなんですがね。」
「ふむ、また唐突に閃いた。リリルカはアイズには変身できないのか?」
「カロン様の頭の中はどうなってるんですか!」
まともな会話に移行して安心してたら唐突にこの会話。カロン様はつくづく油断なりません。
「まあ待て。リリルカの魔法の本質を見極めるいいチャンスだぞ。イロイロなことを試してみればリリルカの魔法の本質がわかる。何ができて何ができないかわかれば戦いにきわめて有利だ。それにアイズに変身できるなら戦力の大幅増だ。」
「………やらないといけないんですね。」
このくらいならリリはもう諦めた方が良さそうです。
◇◇◇
「やはり脳のイメージに依存しているんだろうな。」
「そうみたいですね。」
「残念だ。凶狼を悩殺させようかとーー
「そんなことを考えていたんですか!?」
アイズ様の変身をリリが行った結果、なんか微妙に違うアイズ様になりました。リリっぽいアイズ様というかアイズ様っぽいリリというべきか………。とりあえず遠目であってはごまかせるかもしませんがあまり通用しないでしょう。
「ところでステータスの方はどんな感じだった?」
「間違いなく本物のアイズ様より下です。具体的には普段のリリ程度と思われます。」
「なるほど。人間に変身するのはほとんど使い道がなさそうだな。せいぜい変装くらいか。」
「そうですね。あとはせいぜいいたずら程度が関の山です。」
「だいぶリリルカの魔法がわかってきたな。あまり大きさは変わらない。イメージに依存する。大幅な変身ほどマインドを多量に使う。変身後の能力は相手が同程度の大きさの種族であればその初期平均と言ったところか。そこから体を動かして練度をあげていく感じか。」
「大体そんな感じですね。」
「大きさが変わらないのは面白いな。ヘスティアの寝床で人間大のゴキブリにでも変身してみるか?」
「やめてください。リリもヘスティア様も精神的なダメージが甚大です。」
ホラまた来た。ただの嫌がらせ以外の何物でもないじゃないですか。この人好奇心で言ってるからタチが悪いんですよね。
「ふむ、ところで二人に変身したりはできないのか?」
「それはさすがにやらなくても無理だとわかります。リリはプラナリアではありません。」
「そうか、残念だ。差し当たっては有用性の高い自在の羽の出し入れを行えるように練習するか。」
◇◇◇
アストレアホーム、応接間のソファーにて向かい合うリリルカとリュー。
「リュー様、リリはまともでしょうか?」
「いかがなさったのですか?」
「最近リリはカロン様の実験への抵抗が薄れてきた気がします。この間の実験はカロン様がアーデルアシストとの組み合わせを考えなかったことに安堵するリリがいました。リリはカロン様がダンジョン内でロボに化けて人を乗せろと言い出さなくてよかったと………。やはりリリはおかしくなってきているのでしょうか?」
「なんとも判別に困りますね。そもそも残念ですがいろいろなものを受け入れないとこのファミリアではやっていけないような気がします。」
「奇遇ですね。リリもです。一刻も早くカロン様以外の人を団長に据えないとこのファミリアはまずいのではないでしょうか?」
誰か書いてくれないかな、ダンジョンにUFOがいるのは間違っているだろうか。うんまあ無理ですね。