ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか 作:サントン
私たちは、命からがら地上へたどり着いた。全滅だけは避けられたがそこに違いがあるとは私には思えなかった。
私はホームに戻って主神であるアストレア様と話をしていた。
「リュー、お疲れ様。私があなたの助けになれなかったのが悔しいわ。」
「アストレア様、おきになさらないで下さい。私たちはあなたに助けられている。皆を助けられなかったのは私のミスだ。」
「無理に強がらないで。あなたが心を痛めていないわけが無いわ。あなたに責任は無いしあなたはベストを尽くしたはずよ。」
「たった五人だ。出発の時には何人いたかあなたは知っているはずだ。あなたは私を責めてくれないのか?」
「…………ダンジョンはいつだって危険だわ。ダンジョンには悪意が満ちている。冒険者はそれを知っているはずよ?」
「しかし………」
「この話はここまでよ。ステータス更新を行いましょう。」
◇◇◇
「皆ランクアップしていたわ。例外なく。こんなことがなければお祭りだったのだけど………。」
「ということはカロンも?」
「彼は特別よ。レアスキルが発現していたわ。内容を見るからに護りを上昇させ状態異常を跳ね退けるタイプの。彼が生き残ったのと無関係なはずが無いわ。」
「やはりそうですか。」
そうでもなければ彼が生還した理由が付かない。しかしそれでもあの状況から帰還するのは相当強烈なスキルのハズだ。
「リュー、これからは………そうね、あなたが団長を務めてくれる?」
「いえ、わたしは………わたしはファミリアを脱退しようと考えています。」
「どうして?」
「それは………あなたに言いたくない。」
私は俯く。できればアストレア様に知られたくない。
「あなたは長年私たちの元へ在籍していたわ。離れるなら明確な理由を話す義務があるはずよ。」
「わたしは………親友や仲間を殺した敵を許せない。ファミリアをぬけてでも復讐を成し遂げたい。」
「あなたたちが生き残ったことは敵にもすでに伝わっているはずよ。あなた一人で何かができるの?」
「それじゃあわたしはどうすればいい?わたしのこのどす黒い気持ちと死んだ友人の無念をどう晴らせというんだ?」
思わず叫んでしまう。
「カロンはあなたより賢明よ。彼はすでに動いているわ。」
「動いているとはどのような意味ですか?」
「彼はフレイヤファミリアとロキファミリアに話をしに行くといっていたわ。何をしてでも残った人間を守ると。ファミリアの財産を手土産に持って行くことを許可したわ。」
「それは………。」
彼には何かができるというのか………?
「あなたの憎しみは少しだけ置いて待っててみなさい。やけになるのはまだ早いわ。」
◇◇◇
カロンが帰還した。私は彼がフレイヤ様とロキ様の元に何をしに行ったのか予想はしていた。
「フレイヤファミリアとロキファミリアに行ったと聞きました。何をしに行ったのですか?」
「同盟の話をしに。結果はフレイヤの方だけ成功したよ。」
これは予想外だ。まさか片方だけでも同盟を成立させて来るとは。フレイヤ様に得があるとは思えないが?
「フレイヤ様の方だけですか。理由はわかりますか?」
「わからん。あそこの主神は行動がよめんしな。」
「それでこれから先は一体どうするつもりですか?」
「リューが団長を務めるんじゃあないのか?」
「何を今更。あなたはアストレア様だけに伝えて同盟交渉に行ったのでしょう。わたしを団長だというならなぜわたしに話を通さないんですか?」
「………お前が復讐に向かう可能性が高いと思ったんだよ。俺達が止めても敵に対する対抗力がなければお前は俺達を守るだの何だの理由をつけて復讐に向かっただろ。急いで行動する必要があった。お前に話をしたら平行線のまま暴発しかねない。」
「………否定はしません。ですが団長は受けられない。あなたが就任してください。わたしは生き残った仲間を守るより復讐を真っ先に考える人間だ。あなたは奴らを見逃すのか?」
「あいつらを何とかオラリオから追い出すよ。地道に力をつけて正当なやりかたでな。」
「あなたは憎く無いんですか?」
私は疑問だった。彼だってあの地獄を見たハズだ!
「憎くないわけはないよ。でも物事を為すには時間がかかる。リューもレベルが4まであげれたのは辛抱強く頑張ったからだろ。」
「納得はできませんし我慢もしたくない。でもわたしの正義はあなたが正しいことを言っているといっています。アストレアファミリアに未練もある。わたしは納得ができなくなったら脱退します。それまではあなたを支えましょう。」
「それで十分だ。」
◇◇◇
バベル、最上階。
「フレイヤ様、なぜあのような同盟を受けたのですか?」
「ウフフ、あなたにはわからないわよね。あの子、魂の色が変わっていたわ。」
「魂の色が、ですか?」
「以前はどこにでもある色だったわ。今わね、不思議な色。白いのに黒いの。鋼の強さと銀の神聖さが混ざることなく矛盾せずに同居しているわ。」
「………私にはわかりかねます。」
◇◇◇
神会。
「アストレア、ひさびさやな。お前んトコの子供達が全滅したのは残念やったな。」
「久しぶりねロキ。わずかだけど帰ってきてくれたこもいるわ。」
「それやそれ。こないだお前んトコの子供が来て何が何でも同盟しろっちゅうて居座って難儀したで。ウチも子供達がかわいいから気持ちはわかるんやけどあまりメイワクをかけられるのは困るっちゅうねん。」
「ごめんなさい、ロキ。うちも必死だったの。これからはこんなことないようにするわ。」
「まあええで。ところであんな状況でおまえらどうすんねん?」
「変わらないわ。今まで通りよ。まだ私たちのファミリアは死んでないわ。」
「あまりオススメできへんで。しんどいんちゃうか?」
「いいのよロキ。しんどかったとしても子供達は立ち上がってくれたわ。私たちはまだ生きている。」
「そか。まあお前がそういうんならウチが言えることはあらへん。ウチはもう行くで。」
「ええ、ロキ。またね。」
◇◇◇
ここはアストレア元団長室。カロンは正式に行き先の決まっていないファミリアで他の眷属の意思確認を行っていた。
「お前はどうするつもりだ?」
「故郷に帰ります。俺はもうたたかいたくない。殺されるのはごめんだ。」
「そうか………達者でな。俺はお前のことを家族だと思っている。何かあったらまた来て欲しい。」
最後の一人が出ていくと入れ替わりにリューが入ってくる。
「やはり誰も残りませんか。今回のことは酷かった。あなたは脱退しないのですか?」
「俺がいなくなったらお前は復讐にはしるだろ。」
「まあそうなりますね。あなたがいなくなった方が都合がいい。」
「主神様が悲しむぞ?」
「それは………。」
リューは悲しそうな顔をする。
「まあ二人だけでもしょうがないだろ。レベル3とレベル4の少数精鋭だ。」
カロンは無理をして笑う。
「これから当てはあるんですか?」
「全く何も考えてないわけじゃない。働いてもらうぞ?」